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【9699】 |
メルカトル (2017年03月13日 21時45分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『満願』 米澤穂信 ミステリと文学の境界線を行ったり来たりしている風合い。捉え方によって、或いは読者によってもそのどちらをより強く感じるかは変わってくるだろう。その意味でも、私は本作を連城三紀彦を彷彿とさせる作風だと強く感じた。無論、個人的な感想で、みなさんが実際どのように受け止めるかは想像の域を出ないが。 本作、敢えて言えば70点台の短編がずらりと並んでいるように思う。だが、それぞれが佳作と呼べるような作品ばかりで、じっくりと味わいながら噛みしめるように読むべきではないだろうか。それでも、各ランキングの1位を独占しているのはいかがかと私は思う。確かにベスト10入りするのは間違いではないが、これを上回る作品が年間を通して出てこなかったというのは淋しい限りだ。 それぞれ横一線の印象を受けるが、好みとしては『関守』が一番かな。『夜警』も良かった。まあしかし、これだけ平均して及第点を超えている作品集も珍しいだろう。それだけは大したものだと思う。 |
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【9698】 |
メルカトル (2017年03月13日 21時43分) |
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『いつか、虹の向こうへ』 伊岡瞬 第25回横溝正史賞受賞作。どことなくロマンチックなタイトルに惹かれて購入。ハードボイルドだが、乾いた描写ばかりでもなく、人情味溢れた繊細な人物描写も随所にみられる。 主人公の尾木はアルコール依存症の中年警備員。元刑事でもある。彼は擬似家族のごとく、居候を三人も抱えて共同生活をしている。そこに新たな同居人となる若い女性、早希を新たに加えるが、そこから事件が始まり、彼はとんでもない災厄に巻き込まれることに・・・。 尾木は何度も殴る蹴るの暴力を受け、満身創痍となるまで痛めつけられるし、同居人も二人までがいたぶられる辺りは、さすがにハードボイルドの香りがする。しかし陰湿な雰囲気はなく、あくまで乾いた描写が多いので、読んでいて疲れるようなことはない。 途中挿入される、虹の種という絵本の話がとても印象深い。タイトルもここからきているので、意外と重要な挿話なのではないかと個人的に感じている。また、各人物の過去を描いたパートが生き生きしており、逆に現在進行形の物語がややつまらないのは残念だ。 それにしても本作が横溝正史賞とは、やや首を傾げたくなる。ほかに候補がなかったのだろうが、作風としてはあまり相応しくないのではないかと思う。まあ出来としてはそれなりな気はするが、なんといってもデビュー作なので、作品の完成度という点ではあまり高くない、もっとプロットなどに工夫の余地があったと思う。 |
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【9697】 |
メルカトル (2017年03月13日 21時40分) |
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『閃光』 永瀬隼介 硬質な文章で描かれた社会派推理、或いは警察小説か。 主人公の二人の凸凹刑事コンビ、三億円事件の犯人たちの現在、そして過去、謎のホームレス老人。これらが入り乱れてストーリーは展開し、やがて一点に収束していく。主要登場人物だけでも十人を超え、目まぐるしく場面が変わるので、物語を追いかけるのに集中力を要する。コンディション不良もあり、正直疲れた。よって、本来ならこれは力作だとか、素晴らしいプロットだとか思わなければいけないところだろうが、どうも今一つピンと来なかったのは否めない。 謎に包まれた犯人たちの行動は、実際の容疑者のそれをなぞったもののようだし、要するに本書はそれを軸に組み立てられた、半ノンフィクション小説と言っても良いと思う。作者は、目の前の三億円事件と言う材料を上手く料理したに過ぎず、さして称賛されるべき作品とは思えない。まあ、私の趣味ではなかっただけの話で、こういった社会性の強い、ドキュメンタリータッチの小説が好みの方には、これ以上ない逸材となっているのかもしれないが。 |
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【9696】 |
メルカトル (2017年03月13日 21時38分) |
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『消失グラデーション』 長沢樹 主人公の康は女に見境なく手を出して、全く鼻持ちならない存在である。さらには多数の女子高生たちが登場するのだが、どれもこれも可愛げがなく、感情移入する余地がない。青春小説の一面を持つ本作だが、その意味で面白味がないと感じるのは個人的な印象なのだろうか。 事件はなかなか発生しない。それまで延々といわゆる青春群像劇を読まされるわけだが、少々退屈である。主人公の「僕」はなんとなく覇気がなく、相方の真由はやや生意気で、ダラダラした感じが否めない。 メインとなる転落、消失事件は至って単純で、特段魅力的な謎ではない。さらには、この事件を追う前述の二人の素人探偵ぶりもなんだかもたついていて、パッとしない印象だ。しかも真相は虫暮部さんがおっしゃっているように、いかにもご都合主義が過ぎる気がする。 この作品の肝となる仕掛けは、二重三重に張り巡らされており、その意味では目新しくはあるのだが、驚かされたのは最初だけで、なんだかアンフェアな気分にさせられるため、損をしているのではないだろうか。素直に騙されたという感慨が感じられない。 |
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【9695】 |
メルカトル (2017年03月13日 21時37分) |
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『絶叫』 葉真中顕 なんだろう、やはりジャンルとしてはイヤミスだろうな。鈴木陽子という平凡な名前の平凡な女性が、少しずつ少しずつ人生の落とし穴にはまり込んでいく過程を描いた、嫌悪感溢れるミステリ。 大作だが、比較的肩の力の抜けた書きっぷりで、サラッと読める。しかし、年間ベストテンに名を連ねるような作品ではないと思う。それなりの面白さで、それなりの内容だが、特別これと言って特筆すべき点もないし、あっと驚くようなトリックもない。よって、帯にあるような驚愕は味わえないだろう。 それと、詳述は避けるがこの犯罪にはかなり無理があると思う。どう考えても、どこかで真相の一端が発覚するはずだ。そこまで警察も○○もボンクラではないだろう。 全体的にやや冗長で、緊張感に欠けるきらいがあるし、もう少しコンパクトにまとめられなかったものかと思う。どれを取っても、いま一歩な感じで、言ってしまえば残念な作品なのだ。 |
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【9694】 |
メルカトル (2017年03月13日 21時35分) |
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『静おばあちゃんにおまかせ』 中山七里 孫娘円(まどか)が持ち込んでくる日常の謎を、静おばあちゃんが安楽椅子探偵よろしく解明していく物語、ではない。 基本的には真っ当な本格ミステリで、れっきとした殺人事件を扱った短編集である。しかも、不可能趣味が加味されており、トリックなどに新味はないものの、どことなく引き込まれる筆力はさすがだと思う。 流れとしては全話を通して共通しており、刑事の葛城が奇妙な殺人事件を担当する→円に協力を求める→円が静おばあちゃんに事件の概要を伝える→静おばあちゃんがあっという間に真相を暴く→円が葛城にそれを教え、事件解決というもの。 最終話では意外すぎる真実が明らかになり、口あんぐりとなること間違いなし。続編を期待するも・・・な感じに。 個人的には第一話が特に印象深い。最終話では涙を誘うシーンもあり、粒揃いの短編集と言えるだろう。 |
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【9693】 |
メルカトル (2017年03月13日 21時34分) |
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『まどろみ消去』 森博嗣 想像していたよりも砕けた印象の短編集だった。もっとこう、堅苦しいのかと思っていたが、意外とふんわりと柔らかい感じの作品が多く、正直拍子抜け。と同時に、森博嗣もこんなのが書けるのだという認識を新たにした感じ。 まともなミステリと呼べるものは一作としてなく、中には意味不明なのも混じっており、一般受けはしないだろうなと思う。だが、それぞれが味のあるものであり、それなりに面白かった。 個人的に一番好みなのは『やさしい恋人へ僕から』。これと言って特徴のある作品ではないが、何と言うか読んでいてとにかく楽しかった。独特の語り口調も心地よく、特に大阪に関する描写はなるほどと感心した。じっくり読めばミエミエなんだけど、オチもちょっと意外だった。 他は楽屋落ち的なものが多く、まああまり感心はしないが、肩ひじ張らずに楽しんで書いている作者の姿が見え隠れしており、微笑ましく思う。 |
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【9692】 |
メルカトル (2017年03月13日 21時32分) |
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『からくり探偵・百栗柿三郎』 加古屋圭市 大正ミステリ第二弾。発明家にして名探偵の、百栗柿三郎と、最初の依頼人でありその後助手となる千代、さらに招き猫型ロボットのお玉さんの二人と一匹の活躍を描く、連作短編集。 4篇からなる短編集だが、どれもなかなかよく練られており、面白い。特に第二話は二つのバラバラ死体を扱ったものだが、これまでのこのジャンルになかったからくりが用意されていて、かなりの高評価。 各作品の間に幕間として、大震災後の様子が差し挟まれているが、これが連作と有機的に繋がってきて、最後に見事に着地を決めている。まあ使い古された手だが、最終章でそれまでの違和感や謎が明らかになり、しかも後味の良い結末を迎えるようにうまくまとめられている。文章も手慣れたもので、軽妙な作風なりに印象深い作品となっていると思う。 |
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【9691】 |
メルカトル (2017年03月13日 21時30分) |
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『七色の毒』 中山七里 異なる社会問題をテーマやテイストにした、中山氏らしい本格ミステリの連作短編集。主役となる刑事は犬養隼人で、前作『切り裂きジャックの告白』でも活躍している。シリーズ第二弾ということになる。 それぞれの短編が標準を超えており、お得意のどんでん返しが味わえるが、世界が反転するような派手なものではなく、ちょっと気の利いた切り返しと言えるだろう。中でも驚かされるのは『白い原稿』で、これはなんとあの出来レースと噂されたポ○○社が有名俳優に新人賞を与えて話題となった、あの作品をモチーフにしている。しかも、鋭く出版業界の内幕を暴いて、相当な問題作と思われる。 他の作品も、色合いがすべて異なっており、読者に飽きさせない努力が認められ、好印象である。 それにしても、この人の刊行ペースは驚くべきものがあるが、その割には質が落ちないのが素晴らしいところだと思う。すでに独自のワールドと呼んでも差し支えないような、登場人物の系図を展開しているのも、ポイントが高い。 |
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【9690】 |
メルカトル (2017年03月12日 22時06分) |
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『明治断頭台』 山田風太郎 明治時代ならではの大胆なトリックと仕掛けが炸裂する、連作短編集。と言うか、長編として捉えるべきなのかもしれない。 主役は復活した弾正台の大巡察の二人、香月経四郎と川路利良。弾正台とは現在でいう警察機関のようなもので、勿論その頃は組織立っているとはお世辞にも言えず、個人プレーに走る者が多かったようだ。彼らも独自のやり方で正義のために悪を駆逐してく。 この作品には探偵役は存在しない。大巡察の二人も奇妙奇天烈な事件に振り回されるだけで、捜査も推理もしない。事件が一段落すると、巫女姿をしたフランス人エスメラルダが死者の霊をおのれに憑依させ、事件の顛末を明らかにするという、一風変わった解決法を取っている。そのどれもが驚くべきもので、明治時代でしかあり得ないような真相となっている。 この奇想は素晴らしく、初出が三十数年前にもかかわらず、現在に至ってもその輝きを失わない。そして、最終話のとんでもない仕掛け、それこそ開いた口が塞がらないというところだろう。 |
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