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【9609】 |
メルカトル (2017年03月04日 22時08分) |
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『神社姫の森』 春日みかげ いろんな意味でネタバレになるので多くは語れないが、久保竣公の記憶を持つ作家久保竣皇はいったい誰なのか、というテーマでストーリーは進行していく。構成はいたって単純で、本筋は全体の半分ほどしかない。その他は京極堂の蘊蓄が大部分を占め、いささか退屈ではあるが、京極夏彦作品の雰囲気はある程度楽しめる。 前半は鳥口や木場らが本シリーズよりも妙に賢くなっている気がしてやや違和感を覚える。そしていよいよ榎木津の登場でにわかに面白くなるのかと思えばさにあらず、いつもの勢いがいまひとつ感じられず、やや格好悪いのが不満といえば不満。 だが結局拝み屋の憑き物落としと最終章には妙に納得なのであった。 尚、久保竣皇の正体は誰にでもすぐわかってしまうはずだから、そこは期待しないでいただきたい。しかし、本家京極堂シリーズの刊行が絶望的な今、こうした作品でも読んで昔を懐かしむのも悪くはないだろう。 |
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【9608】 |
メルカトル (2017年03月04日 22時06分) |
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『アトロシティー』 前川裕 冒頭から序盤にかけては、母娘餓死事件や悪質な訪問販売を迫力ある筆致で描き読者を飽きさせない。いわゆる掴みはOK、である。そんな私もかなりのめり込むことができた。 その後、主人公のジャーナリストである田島が事件を追うごとに、様々な人物に遭遇し、或いは自身が事件に巻き込まれるなど、なかなかいいテンポでストーリーは進行していく。現在進行形の事件や過去の事件が入り乱れる一方、登場人物も多彩なため、煩雑になりそうな危険性をキッチリと整理された文章で回避しており、その意味では腕は確かなものを感じる。 がしかし、一方でやや面白みには欠けるきらいがあり、さしたるサプライズもないのは個人的に物足りなかった。 サスペンスでありながら社会問題を扱っているため、社会派と捉えることもできる。解説には「エグミス」などと銘打たれているが、それほどえぐくはないと私は思うのだが。 |
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【9607】 |
メルカトル (2017年03月04日 22時04分) |
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『ケムール・ミステリー』 谺健二 タイトルから推測するに、多くの方がイロモノ的な作品を想像されると思うが、決してそうではない。異色というか奇書と呼ぶべきなのか判然としないが、れっきとした本格ミステリであるのは間違いないのでご安心を。 六甲山中の赤屋敷と呼ばれる大邸宅のはなれで、奇妙な「自殺」事件が連続する。現場の状況はいずれも密室で、一見自殺に違いないと思われるのだが、事情を関係者から聴取した探偵役の鴉原はこの一連の自殺の事案に疑問を抱き、友人の多磨津と共に赤屋敷に乗り込む。 ケムール人とはウルトラQやウルトラマンシリーズに幾度も登場した、一度見たら忘れられない容姿をした宇宙人である。本作はこのケムール人が至る所に登場し、まさにケムール尽くしとも呼べる作品となっている。この怪人の生みの親である成田亨の残した遺産なども紹介され、その孤高の芸術家ぶりも記されている。残念ながらこの本ではケムール人の静止画などは記載されていない。個人的には著作権や肖像権が複雑な模様で難しいのかもしれないが、表紙に堂々とこの怪人を載せてほしかった。 鴉原の暴く真相は、様々な手がかりをもとに緻密な推理を重ねたというものではなく、その点でやや不満の声も聞こえるかもしれないが、物語の雰囲気を含めて私はこの作品が好きである。少々の瑕疵には目をつむりたいと思う。 |
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【9606】 |
メルカトル (2017年03月04日 22時02分) |
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『白光』 連城三紀彦 一見平和に見える、どこにでもありそうな親族たち。だが、姉妹とその夫、子供と舅、それぞれが嫌らしいほどの思惑を胸に抱いており、善人は一人もいない。これだけドロドロした思念を持った人々を描いているのならば、普通は嫌悪感は拭いきれない作品になるはずだが、連城氏の手によるとそうはならない。殺人事件がまるで夢想の中で起こったかのような錯覚さえ覚える。 結局実行犯は明らかになるが、主犯は誰なのか。もしかすると一族全員の想いが殺人事件に発展させたとも言えそうであり、プロバビリティの犯罪の変形とも言えるかもしれない。 いずれにしても、本格好きな読者には不向きだと思う。どうにももやもやした消化不良な感じが心の中にしこりとなって、いつまでも残るからである。それもまたこの作品の持ち味なのであろう。 |
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【9605】 |
メルカトル (2017年03月04日 22時01分) |
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『鬼畜の家』 深木章子 明快で分かりやすい文章でグイグイ読ませる。イヤミスと本格ミステリの融合というか、イヤミスと見せかけて実は本格だったというのが本当のところか。 ほとんどが事件の関係者の証言により構成されているが、実はこれがメイントリックを支えている大きな要因となっている。そのトリックだが、意外性はあるものの、いささか強引と言えるのではないだろうか。島田荘司氏による解説にもあるように、決して目新しいものではないが、作者なりに咀嚼し、しっかりと自分のものにしているのは褒められてもよいとは思う。が、やはり無理がある。警察が本格的に関与すれば即座に暴かれるトリックというのはどうなんだろうか。 そうは言っても、面白い小説であるのは間違いないし、私などがケチをつけてもその輝きが失われるものではあるまい。ただ、後味が良いとは言えないねえ。 |
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【9604】 |
メルカトル (2017年03月04日 22時00分) |
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『人形家族』 木下半太 警視庁行動分析課の刑事赤羽健吾が主役である。行動分析課とは容疑者の言動を分析し、心理面やこの先何を起こそうとしているのかなどを予測する特殊なチームだ。 このチームは他に、課長の八重樫育子、後輩の栞、ベテラン刑事のヤナさんらがいる。いずれも個性的なメンバーではあるが、ガチガチの警察小説とは違い、その底辺にはうっすらとユーモアが漂っている。 事件は数体のマネキンとともに、食卓の椅子に縛り付けられた死体が発見されるというもので、連続殺人事件となる。ホワイダニットが謎の中心で、伝説の刑事と呼ばれた健吾の祖父が絡む過去の事件もカットインされ、次第にその全貌を現すのだが。 警察小説としてお世辞にもよく出来ているとは言い難いが、所々に読者サービスらしき描写が挿入されており、飽きることはないだろう。どこをどう取ってもまずまずとしか言いようがない。 |
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【9603】 |
メルカトル (2017年03月04日 21時58分) |
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『虚構推理』 城平京 これほど特異な設定の「本格」ミステリはほかに見当たらないのではないだろうか。 人ならざる存在が現実のものとして現れるミステリなど、あってはならないとは思わないが、異端であることは間違いない。主要登場人物からして普通の人間ではないのだから、何をかいわんやである。 しかし、クライマックスの虚構のでっちあげよりも、それまでのキャラ同士の絡みのほうが面白いのだから、やはりラノベに近いのかもしれない。いかにも漫画的で、文章が絵として浮かび上がる辺りは、本作の真骨頂といえるだろう。 これほど異様な世界観を描いた物語は、のちのちまで記憶に残りそうな気はする。それだけでも読んだ価値はあったのではないかと思ってしまうのだが。 |
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【9602】 |
メルカトル (2017年03月04日 21時56分) |
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『天啓の殺意』 中町信 なるほどそう来たか、とは思う。確かに叙述トリックには違いないが、それほど騙された感は覚えなかった。30年前なら手を叩いて喜んだかもしれないが、もっと鮮やかな叙述ものを沢山経験してしまったため、この程度では大したカタルシスは得られない。そんな体質になってしまった自分が恨めしい。 それにしても原題の『散歩する死者』の意味がいまいち読めない。作者がお気に入りのタイトルだったらしいが、死者が散歩するとは一体どういう・・・。 平均点が高いのでもっと期待していたが、やや裏切られた感は否めない。しかし、意外に読みやすかったし、プロットの妙というのか、その辺りはよく練られていたと思う。 |
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【9601】 |
メルカトル (2017年03月04日 21時55分) |
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『ユリゴコロ』 沼田まほかる 「ユリゴコロ」と題された殺人者の手記をめぐる謎、記述者は誰なのか、主人公が感じている母親の入れ替わりは本当にあったのか。など興味をそそられること請け合いで、さらにここではイヤミスの本領を発揮している。 また、現在進行形のストーリーにおいても謎めいた出来事が起こり、こちらも目が離せない。そしてまさかの形で過去と現在がリンクする。確かに勘のいい読者ならこのからくりに気づくことも可能だと思うが、当然私のごときぼんくらには無理な話。まんまと騙されたのである。 ある人物の変容ぶりには首を傾げたくなるが、よく読むとそのヒントはしっかり描かれているし、最終的にはハートフルな物語だと気づかされ、前半とのギャップには驚かされるばかりだ。 |
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【9600】 |
メルカトル (2017年03月03日 21時56分) |
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『殺しの双曲線』 西村京太郎 冒頭の双子トリックをやりますよという宣言が、逆に真のトリックを隠ぺいするという騙しのテクニックに。これはなかなか心憎い演出だと思う。 二つの異なるストーリーがどう考えても繋がりそうにないが、結局うまく一つに収束する辺りはプロットのうまみを味わえる。しかし、肝心の吹雪の山荘というクローズド・サークルのパートに緊迫感と迫力が不足しているように感じる。さらに文体が軽い分、全体的に希薄さが拭いきれないきらいがある。はっきり言ってしまえば、薄っぺらな感じがして仕方ない。重厚さに欠けるのである。 ラストは余韻を残す感じで、個人的には好みの範疇。 |
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