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【9849】 |
メルカトル (2017年03月31日 21時39分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『『アリスミラー城』殺人事件』 北山猛邦 素直に面白かった、いかにも本格ミステリらしい作品。えっ、それじゃダメ?そうね、例のトリックが問題なんだよね。確かに伏線が少ないし、手掛かりがほとんどないので、我々読者が真相を看破するのは相当難しいだろう。つまり、ずばり誰が○○なのかを推理するのに支障はあるのかどうか。フェアかどうか問われれば、どちらとも言えない。少なくともアンフェアではないと思うが、やや勿体付けて隠蔽しすぎのきらいはある。 もっと大胆に伏線を張れば、平均点は上がっただろう。しかし前例があるので、その辺りは評価が分かれるところだ。 一方、物理的トリックに関しては、個人的には分かりやすくて明快で、これは好印象である。勿論、机上の空論的な感じは否めないが、それを承知の上でもう一段上を行く推理を披露しているので、全く問題ない。 動機に関しては、残念ながら問題外。これだけの労力を使って大量殺人をおこなうくらいなら、他にいくらでも方法があろうと言うもの。まあしかし、探偵ばかりを孤島に集めるというアイディアは面白いし、読み応えも十分で、私としてはかなり満足している。 |
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【9848】 |
メルカトル (2017年03月31日 21時38分) |
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『赤い柩』 奥田哲也 まず最初に言っておきたいことがある。帯にデカデカと「ためらい傷の名探偵登場」と謳っているが、これが気に食わない。謳い文句は小説の常套手段だから仕方ないにしても、ならばなぜそれに対しての期待を裏切る。そんな惹句を掲げられたら、当然読者はその名探偵の過去に何があったのかが気になるはずだ。だから、作者はそれに対する回答を作品の中で示さねばならない、或いは編集者が気を回して作家にその旨を通達し、そこのところを詳らかにするよう指示すべきだろう。 これまで惹句に何度も裏切られていた私は慣れているとは言え、やはり読後、ためらい傷に関してほとんど触れられていないのがどうしても業腹であった。無論それは初読の際にも気になっていたことで、再読してその感を一層強めた結果に終わってしまった。 その名探偵だが、ほとんど頭から最後まで露出しているのだが、どうにも特徴がないと言うのか、個性が感じられない。敢えて言えば、聞き上手で、相手が思わず本音を漏らしてしまうような、或いは心の内をぶつけたくなる様な性格のようである。よく言えば金田一耕助型なのだろうか。 さて事件は、連続殺人で3人の被害者のうち2人が血液を体内から吸い取られているという猟奇的なものではあるが、捜査の段階的説明もなされず、どうでもいいような描写が続いたりして、正直ダレる。ただし、その血が抜き取られた理由に関してだけは、それなりに驚ける。特筆すべき点はそれだけで、後は大した伏線もないのに、探偵がしたり顔で真相を語るだけ。何故そこに至ったかの説明もないまま、真相が披露されて終わる。かなりの虚脱感。 まあとにかく、どこまでも平凡な作品であったとしか言いようがない。 |
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【9847】 |
メルカトル (2017年03月31日 21時36分) |
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『だれもがポオを愛していた』 平石貴樹 なるほど、これは玄人受けする作品に違いない。だから私のようなど素人には、あまり心に響いてこなかった。しかも元来頭の出来が悪いので、理解が及ばない部分も多々あったのは隠しようのない事実だ。 本書を読むに当たっては、出来ればポオの『アッシャー家の崩壊』『べレニス』『黒猫』を事前に読まれることをお勧めする。少なくとも『アッシャー家』だけはじっくり読んでおいた方がより楽しめるのは間違いないと思う。だからと言って、読んでなくても、腰を据えて読み込むことによって、自分が探偵になった気分を味わいながら、作者の挑戦に応えることも可能である。 それにしても、舞台がアメリカというだけで、なぜこのような翻訳調の文体になってしまうのか。おそらく、この人は普通の文章を書こうと思えば書けるはずなのに、わざわざ読み難い文を書いてどうする。もっとスラリと書いてサクサク読めるようにしてもらえれば、バカな私にもそれなりに理解できたと思うと残念ではある。 決して万人受けするとは思わないが、やはりマニアは必読の書だと考えられるので、少々の読み難さは我慢して一読してみるのもいいだろう。 |
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【9846】 |
メルカトル (2017年03月31日 21時34分) |
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『ユリ迷宮』 二階堂黎人 二階堂蘭子シリーズは、出来不出来にかかわらず、なんというかそこはかとない本格の芳ばしい香りが漂っていて、個人的に好感が持てるんだよね。時代背景もなんとなく雰囲気が伝わってくるし。 探偵の二階堂蘭子は確かに気が強そうだけど、そんなに個性的に描かれているとは思えないので、もう少しディテールに拘ったほうがより一層作品が際立って見えると思うけどね。 本作は二編の短編と、一編の中編からなる作品集で、どれが頭抜けて素晴らしいというわけでもなく、まずまず面白い作品が並んでいる。 『ロシア館の謎』はいわゆる家屋消失もので、一見とんでもない不可能現象を、いとも簡単に蘭子が解き明かしている。アイディアはそれなりに納得できるが、驚きは控えめな感じ。 『密室のユリ』は単純な密室もの。蘭子は事件の概要を聞いただけで密室の謎を解いてしまうが、この作品には大きな欠陥がある。それは読んでいただければお分かりになるかと思う。トリックもごくごく簡単なもので、評価は低くならざるを得ない。ただしストーリーの流れ的にはスムースで分かりやすい。 『劇薬』はトランプゲームの、コントラクト・ブリッジのルールが詳しく紹介されているが、正直わけが分からない。まあ、そんなことは横へ置いて、本格ミステリとして面白い。大体殺人事件でも毒殺は地味な印象で、なんとなくモヤモヤするのが一般的だが、本作は解決編が二転三転し、捻りが結構効いているので飽きずに最後まで読める。登場人物もそれなりの人数だが、うまく描き分けられていて混乱することなく読み進められる。さすがの描写力ではないだろうか。 |
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【9845】 |
メルカトル (2017年03月31日 21時33分) |
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『バラ迷宮』 二階堂黎人 二階堂蘭子シリーズ、6篇からなる短編集。どれもそこそこ及第点を上回っている作品ばかりだと思うが、個人的にベストは『サーカスの怪人』。語り口調がさながら蘇った乱歩といった感じで、大時代的な雰囲気を醸し出している。事件の謎はとても魅力的で、引き付けられるものがあるが、トリックはまあなんというかちょっと無理がある気もする。そんなマイナス点を差し引いてもこれは近年では、二階堂氏の他には島荘くらいしか書けないのではないかと思う。 次点は『火炎の魔』で、完璧な密室の中、被害者は突然発火し凄まじい勢いの炎に包まれて焼け死ぬというもの。この作品は、ガムテープで目張りまでしてある密室が逆にこのトリックを可能にしているという、他に類を見ない異色の密室殺人事件となっているところに注目したい。 他の作品もそうだが、全般におどろおどろしい雰囲気を盛り上げるためか、過剰な表現が目立つのが気になる。「私は、頭を鋼鉄のハンマーで殴られた気がした」とか、それは作者自体が言葉で言い表すものではなく、読者が自然と心の中で感じるべきことだと思うので、そんな恥ずかしい一人称表現は控えめにしてほしいものである。 |
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【9844】 |
メルカトル (2017年03月31日 21時31分) |
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『仔羊の巣』 坂木司 流れるような文体が好ましい、記述者の坂木とひきこもり探偵の鳥井が活躍する連作短編集第二弾。 なのだが、私は明らかにミスを犯していた。当然、シリーズ初作の『青空の卵』から読み直すべきだったのに、何気なく、本当に何気なく本書を手に取ってしまい、行きがかり上最後まで読まざるを得なかった。なぜ鳥井がひきこもりになったのかが、途中から気になって仕方なかった。本作ではその辺りに全く触れられておらず、前作で明らかにされているため重複を避けたと記憶している。まあ仕方あるまい、明日から前作をじっくり読むことにしよう。 さて本作はいわゆる日常の謎を扱った連作短編であるが、ややこのジャンルの他の作品とは一線を画していると思われる。それは、やはり鳥井がひきこもりなのに、他人に対してやけに強気な態度に出たり、或いは鳥井と坂木の妙な関係が影響しているのではないだろうか。詳しくは読んでいただくしかあるまい。 内容は、第一話は坂木の同僚の女性のおかしな挙動を、第二話は地下鉄のホームで一時間も風船を片手に立ち尽くす少年の謎を、最終話は坂木を付け狙う複数の女子高生の謎を、探偵役の鳥井が暴くというもの。 一話ごとに登場人物が増えていき、最後には一堂に会すという、創元社ではお馴染みのスタイルを踏襲している。派手さはないが、じんわりと心に沁み込んでくる感じの、なかなか味のある作品であった。教訓めいた会話もかなり多いが、押しつけがましさがない分、読んでいて苦痛を感じないように作り込まれている気がして、その意味では好感が持てる。 |
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【9843】 |
メルカトル (2017年03月31日 21時30分) |
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『青空の卵』 坂木司 本作は趣向を変えて、どうでもいいことを書き連ねていこうと思う。なあに、心配はいらないよ、長々書くつもりはないから。 では早速いってみよう。まず最初に『仔羊の巣』の書評に書いた鳥井がひきこもった原因に関しては、第一話でやはり明らかにされていて、一応納得は出来た。だけどこの青年の性格から言って、ひきこもるようには思えないけどね。ついでに書くと、鳥井は二重人格か、でなければ分裂症なのではないかと勘繰りたくなるような、いきなりの豹変ぶりを見せることがある。これがどうにも不思議でならない。どういう精神構造をしているのだろうか。ただ、探偵としては相当優秀で、文句のつけようがない。 一方、実質的な主役のぼくこと坂木は、あまりにも涙腺が緩すぎるだろう。いい大人なのに毎回泣いているじゃないか。こんな純粋な人間などまあいないって。 他の登場人物に関しては、それぞれ個性があってよく描けていると思う。だから面白いわけだが、人物の造形はさりげない言動に非常によく表れているので、飽きが来ない一つの要因となっている気がする。特に、盲目の美青年、塚田、警官で鳥井たちの同級生である滝本、木工教室の先生で、粋な江戸っ子じいさんの木村。この人たちは主役でも張れそうな個性派ぞろいである。 あと一つ、それぞれの短編のタイトルに季節が入っているが、残念ながら季節感がイマイチ出ていないね。 おっと、ちょっと長くなってしまった、失礼。 |
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【9842】 |
メルカトル (2017年03月31日 21時28分) |
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『倒立する塔の殺人』 皆川博子 タイトルからはガチガチの本格かと思わせておいて、ほぼ文学作品、ミステリの要素は構成が作中作というだけで、極薄である。かと言って、作者お得意の幻想小説的な感じでもない。本作は、太平洋戦争末期の日本の女学生たちはこんな言葉遣いをしていたのか、とか、こんなものを食べていたのか、といった日常生活に感心していればいい作品であって、ミステリ的な謎や解決を期待してはいけない。しかも、一度読んだだけではストーリーがはっきりと見えてこない、みたいなかなり難解な小説となっている。だからと言って、決して読みづらいわけではなく、むしろこの作者にしては読みやすい部類だと思われる。 まあしかし、文学作品としてはある程度評価できるのではないだろうか。ただ個人的にはあまり好みの範疇ではなかった。プロットなどは見るべきものはあるが、全体的にまとまりに欠けるきらいがある。巻末の、作品中に登場する画家の作品が何点か掲載されているのは、ちょっと変わった趣向でいいんじゃないかな。 |
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【9841】 |
メルカトル (2017年03月31日 21時27分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『鼓笛隊の襲来』 三崎亜記 奇想天外な設定が楽しい9編からなる短編集。どの作品もごく普通の日常の中に、突如現れる奇怪な現象や現実離れした白昼夢のような出来事を描いたファンタジーである。さらには必ず人と人との様々な繋がり方を情感豊かに描写しており、心温まる、印象深い作品集となっている。 中でも個人的に気に入っているのは、過去最大級の鼓笛隊が日本列島を縦断しようとしているため、多くの住民が避難しているさなか、祖母を中心に家族が結束して難を逃れようと家に立てこもる表題作『鼓笛隊の襲来』。 実物の象がすべり台として公園に設置され、その象を巡っての人情味溢れる感動のストーリー、『象さんすべり台のある街』。 私の落涙ポイントを直撃した、突然の「事故」で大事な人を失った女性の切ない恋物語、最終話の『おなじ夜空を見上げて』。いずれもごく普通の人が主人公であるところが重要ポイントである。 他にも、ちょっといい話や少しだけ感動できる話などが目白押しで、お薦めである。 |
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【9840】 |
メルカトル (2017年03月29日 22時05分) |
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『京極夏彦読本 超絶ミステリの世界』 ガイドブック 『姑獲鳥の夏』から『塗仏の宴』までの全7作品を、様々な角度からああでもないこうでもないと検証し、論説をぶちかましている。 非常に鋭く的を射た論評を披露しているところもあれば、やや首を傾げたくなるような部分もあるにはある。が、全体的には相当深く掘り下げられており、仮説の上に仮説を塗り重ねたような面もなくはないが、個人的にはなるほどと感心させられるガイドブックに仕上がっていると思う。 特に「京極堂はノイローゼ状態の文豪、関口は自閉症の猿、榎木津はギリシャ彫刻の美貌・・・」などと断じている点。 「『館シリーズ』は『京極堂シリーズ』に引き継がれていった」といった大胆な仮説。 「京極夏彦は自らの<女性性>を露骨にさらしたくなかったのである」などの様々な名言は大変ユニークな発想であろう。 やはり野崎氏はミステリ作家としてよりも、評論家としてのほうが一枚も二枚も上手であるのは本ガイドを読むまでもあるまい。 ところで余談だが、『鵺の碑』は一体いつになったら刊行されるのであろうか。京極と文藝春秋の間で何があったかは知らないが、首を長くして待っているファンが大勢いることは忘れないでほしいものである。もうとうの昔に完成しているはずだと思うのだが、どなたか情報を持っている方がおられたら是非ご教示願いたい。 |
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