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【9809】 |
メルカトル (2017年03月25日 22時01分) |
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『喜嶋先生の静かな世界』 森博嗣 本作は、森博嗣をこよなく愛する人に捧げられるべき作品であって、私のように大学生活をパチンコと麻雀に明け暮れていた下衆が読む小説ではないね。まあ真面目で真っ当な学生生活を過ごしている人、或いは過ごした人にとっては有意義な読書体験になるかもしれないけれど。特に理系の人間にはね。要するにこれは内容こそ難解ではないが、それだけ私にとって敷居の高い作品なのだ。 そして敢えて苦言を呈するならば、森博嗣という作家は執筆作業から得られる代償を単なる労働の対価と考えており、それを公言してはばからない人だ。ならば尚のこと、読者を裏切るような作品を書いてはいけないだろう。また、私はすべての小説は広義でのエンターテインメントでなければならないという持論ももっていて、その意味で本作は全くその条件を満たしていないのも不満の一つである。これを読まれた多くの方は「何を寝ぼけたことを言っているんだ」と憤慨されるかもしれないが、あくまで個人の意見なので大目に見てもらいたい。 ただ、終盤の数ページだけは少しばかり意外性もあり、考えさせられるものではあった。 蛇足だが、中学生の頃、近所の女子大だか女子短大だかの学園祭に、友人に誘われて遊びに行ったことがあるが、招いてくれた女子大生たちは一様に楽しそうだった。大学というのはそんなに楽しいところなのかとその時思ったものだが、それが幻想だと気付くのにはまだ数年の時を必要とするのであった。 |
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【9808】 |
メルカトル (2017年03月25日 21時59分) |
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『白ゆき姫殺人事件』 湊かなえ どことなくダサいタイトルだけど、意外に面白かったりします。全編、証言と独白、そして巻末にドーンと控える参考資料から成り立っている、独特の構成。湊女史ならではのアイディアが光っているとは思うが、ミステリとしてどうだろう。一応、フーダニットとホワイダニットが興味の中心だが、一級品の文章とテクニックにはぐらかされた感じで、正直ミステリとしての評価は低い。 しかし、ほぼ証言だけで構成されているにしては、ぶつ切り感もないし、スムースなストーリー展開になっているのは、この作者にしかできない芸当かも知れない。 また、近日映画公開されるわけだが、確かに映像化には向いている作品だと思う。観に行く予定はないけれど、かなり難しい役柄を井上真央ならやってくれそうな気がする。 それにしても、ほとんど伏線らしきものが見当たらないまま、いきなり犯人が明らかになる辺りは、やはり本作がミステリとしての体裁を有していないことを物語るものである気がしてならない。私は湊女史をミステリ作家とは思っていないので、それは当然なのかもしれないけれど。だからこの人に本格ミステリを望んでも土台無理な相談なのだろう。 |
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【9807】 |
メルカトル (2017年03月25日 21時58分) |
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『灰色の仮面』 折原一 初期の作品だけに、活きの良さが際立っている。勿論叙述トリックも然りだし、プロットもらしくていいんじゃないかな。私はノベルズを読んだので、改訂版ということになるらしいが、単行本とは違った結末というか構成になっているとのこと。そちらの方は知らないが、改訂版はスッキリして分かりやすいので、その辺りに筆を入れ直したということだろうか。 また、本作は折原流のラブ・ストーリーとも言えると思う。それもあまり恋愛に免疫がない若者同士の感じがよく出ていて、初々しさがなかなか微笑ましい。そんなにうまくいくものか、という気がしないでもないが、気の合った二人ならまあアリなのかもね。 突出したものがないだけに高得点とはならなかったが、いかにも折原氏らしさが出ていて、初期の代表作の一つと言ってもいいかもしれない。 |
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【9806】 |
メルカトル (2017年03月25日 21時57分) |
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『白い部屋で月の歌を』 朱川湊人 第10回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品の表題作と、中編の『鉄柱』を併録する朱川氏初期の代表作。 表題作はいわゆるゴーストバスターズの3人組の話で、霊能者である中年女性が悪霊を封じ込め、その依代として車椅子の「ぼく」が悪霊を憑依させる。もう一人霊能者の弟は、営業マン的な役目をしている。どこにでも転がっていそうな話ではあるが、朱川氏の腕にかかると、これがなんとも言えない独特の世界観を醸し出す。 ホラーなのに、叙述トリックまで仕掛けられていて、いかにも選考委員受けしそうな作風である。直木賞受賞者の実力を遺憾なく発揮した傑作であろう。 個人的に表題作よりも気に入っているのが『鉄柱』(クロガネノミハシラ)である。 女性関係の失敗(妻は事情を知らない)で小さな町に左遷になった主人公の雅彦とその妻は、引っ越し先の小高い丘の上にある広場で逆L字型の鉄柱を見つけるが、一体何の目的でそれが建っているのかが分からない。 町の人達はみな一様にいい人ばかりで、夫妻は内心喜んでいたのだが、次第にその町にしかない異様な慣習が明らかになっていくにつれ、じわじわと精神的に追い詰められていき、最後にはとんでもない破局を迎えることになるというストーリー。 死という概念を逆説的に捉えた、普通の感覚では発想すら難しい怪異を、流麗な文体で描いた佳作である。 |
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【9805】 |
メルカトル (2017年03月25日 21時54分) |
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『異説 夢見館』 霞田志郎 太田忠司が自作のキャラ霞田志郎名義で書き上げた、幻想的なミステリ作品。 主人公の純はひきこもりの高校生。毎日自分の部屋でゲームばかりしているのだが、あることからそのゲーム『真説・夢見館』(セガ・サターンから実際に発売された)にそっくりのアネモネ荘に迷い込み、その後も頻繁に訪れるようになる。そして、その後自分と一人の住人を残して、管理人を含むアネモネ荘の住人が皆殺しにされてしまう、というストーリー。 全般にごくごく薄味、というより薄っぺらで、微塵も奥深さが感じられない。最後に実は叙述トリックもありました的なのも明かされ、やや意外性があるものの、まあ評価に値しない駄作と言ってもいいんじゃないだろうか。 結局最後は夢オチのようで、正直よく分からないが、作者は何を書きたかったのかも私には理解できなかった。 賢明なる本サイトの書評家達は、まさか本作を読まれてはいないとは思うが、今後ももし古書店で見かけられても本書を手に取らないように。良い子のみんなは決して読まないでください、ってことですね。ごめんなさい、太田さん。でもいいよね、もう絶版だから。 |
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【9804】 |
メルカトル (2017年03月25日 21時52分) |
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『暗黒童話』 乙一 帯に惹かれて読んでみたのが約十年前だろうか。 あまりピンと来なかったが、今回読み直してみても似たようなものだった。無駄な描写が目立つので、どうしても冗長になりがちだし、テンポもあまりよくない。面白いのは面白いのだが、やや文章が読みづらいところや稚拙な表現があるため、手放しで喜んでもいられない感じである。 グロイとの評価が多いようだが、決してグロくはないと私は思う。この程度なら大したことはない、もっとエグイのがホラー小説にはいくらでもある。 個人的にはメイン・ストーリーよりも、このグロイと評される挿話のほうが作者が生き生きしているというか、輝いている気がしてならない。 瞳がソファで腹筋を使って体を弾ませて遊んでいるシーンや、真一と幸恵が瞳の体を撫でて森へ去っていくシーンなどが印象深い。このように心に残っているシーンがいくつかあるということは、やはり良作なのだなと思う |
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【9803】 |
メルカトル (2017年03月25日 21時50分) |
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『歪んだ創世記』 積木鏡介 これはいけません。読むほうも読むほうだけど、書くほうも書くほうだよね。メフィスト賞の選考委員は何を見て選んだんだろう。それにしてもこんな作品再読するなんて、最低。 出だしはまあまあ面白い感じがしないでもないが、途中からメタな展開になり、その辺りからもう目茶苦茶というかボロボロ。こんなのがありなら、どんな不可能犯罪でも可能になるわ。 細かいことを言うと、当て字が多すぎ。動悸(どきっ)としたとか、獅噛みつく(しがみつく)とか、いちいち目障りなのだ。それとユニットバスやクロゼットなどわざわざ日本語にしなくてもいいんじゃないかな。 もうね、最後の方なんか読んでいて眠くて仕方なかった、正直どうでもよくなってしまってね。それでも意地で最後まで読んだけど、読む価値なしってのが本音。 |
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【9802】 |
メルカトル (2017年03月25日 21時48分) |
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『地獄のババぬき』 上甲宜之 前作の主要メンバー総出演の上、さらにアクの強い新キャラ達が登場し、にぎやかな作品に仕上がっている。 名神高速を走るバスがジャックされ、トランプのババ抜きで生き残る人質を順番に決めていくという、犯人の意味不明な要求に加え、それをTVで全国放送の生中継をするという前代未聞の事態に突入する。果たして犯人の真の目的は何か、という一見単純なストーリーのように思われるが、実はそこに至るまでにホラーやミステリの要素を盛り込んで、読者を飽きさせない工夫がなされている。 しかも、スピード感やスリルが効いているので、物語が盛り上がるのは間違いない。だが、残念ながら、肝心のババぬきの試合の模様が、やや冗長になってしまっているため、手に汗握るというわけにはいかない。ただ、マジックの技や心理戦、裏ワザなど様々な仕掛けが施されており、読み応えは十分である。単純なゲームだからこそ、読者を引き込む力を持っているのではないだろうか。 勿論、漫画のような設定に馬鹿馬鹿しさが先に立ってしまう読者にとっては許容できないかもしれない。私のような悪食、面白ければ何でもOKな読者には格好の暇つぶしになるであろう。 |
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【9801】 |
メルカトル (2017年03月25日 21時45分) |
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『消えた探偵』 秋月涼介 様々な神経系の病状を持った患者たちが集まる診療所が舞台。主人公のスティーヴは、例えば部屋の入り口から入って窓から出るといったように、入口と出口が違うとパラレルワールドに陥ってしまうという、強迫観念を持っている。実際過去に、二度それを経験していると自分では信じている。 他の患者たちの症状は様々で、あらゆる強迫観念を持つ者、ほぼ5分で過去の記憶を失くしてしまう者、多重人格、自分がエクソシストで悪魔と戦っていると信じる少女など。 そんな中でスティーヴは死体らしきものを目撃し、誰かに3階から突き落とされるが、九死に一生を得る。しかし、例のパターンでパラレルワールドに落とし込まれてしまい、死体は勿論、犯人も有耶無耶になってしまう。そこで自ら探偵として行動するという、かなり風変わりなミステリである。 正直、ラスト10ページ余りの真相の為に、実に地味な聞き込みや張り込みといった捜査活動を延々と読まされ、いささか退屈を覚える。確かに、その真相は首肯させられるものではあるのだが、そこにいたるまでがあまりにも長かったため、さしたるカタルシスも得られず。 今まで誰も書評を書かなかったのも分かる気がする。というより、誰も読んでないんだろうな。 |
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【9800】 |
メルカトル (2017年03月24日 22時06分) |
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『衣更津家の一族』 深木章子 最初、短編集かと思いました。あれ?でもプロローグから始まっているから、そんなわけないかって具合で最初から躓いた感じでした。 それぞれの事件がそれなりに面白い、特に「楠原家の殺人」の発端となる宝くじの三億円が当選してしまうというくだりが、偶然過ぎるとはいえ、いかにも作り物めいていて逆にこれもアリかと思ってしまいました。作者の遊び心というか、意外な盲点を突かれたような気分ですね。 ただ、探偵の榊原が真相を暴いていくわけですが、どうにもすっきりしないです。そうだったのかっというような、思わず膝を打つみたいな衝撃がないんですよ。よく練られたプロットとトリックだとは思いますが、唸るほどではなかったと言いますか、そんなに上手くいくのかねえ、というのが正直なところです。 ですが、三件の殺人事件の関連性が全く無関係に見えるあたりの作者の手腕は認めざるを得ないでしょうね。 |
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