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【9759】 |
メルカトル (2017年03月19日 21時53分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『夜までに帰宅』 二宮敦人 特異な設定でのサバイバル・ホラーの傑作。 日本はエネルギー政策により、19年前から「夜」制度を導入。日没から日の出までの夜間は、すべての電力が停止し、警察も病院もその他公共機関すべて閉鎖され、外出も禁止された。 主人公である高校一年生のアキラとその仲間たちは、中間試験ののち、好奇心から夜の吉祥寺へと冒険に出かける。しかし、「夜」の街にはとんでもない危険が待ち構えていた。 やや無理のある設定だが、それなくしてはこの物語は成立しないため、この際リアリティは無視して、心を無にして楽しみたい作品である。屁理屈を捏ねずに無心で読めば必ず応えてくれる、そんなホラーの傑作だと思う。この先にどんな展開が待っているのか、気になってページを捲る手が止まらない、得難い経験をさせてくれる。 そしてオチもいい感じである。決して後味がいいとは言えないが、まさかの反転が読者を襲う。 全体としてコンパクトにまとまっていると思うし、緊迫感が若干不足している感はあるが、闇夜の中でのサバイバルゲームというイマジネーションを掻き立てる、的確な描写も秀逸であろう。 |
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【9758】 |
メルカトル (2017年03月19日 21時51分) |
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『退出ゲーム』 初野晴 部活に賭ける高校生たちを生き生きと描いた連作短編集。ジャンルとしては日常の謎の範疇に収まるのだと思うが、一般的に言えば青春ミステリか。 どの作品も平均して良く出来ているが、好みから言うと『クロスキューブ』が一番のお気に入り。これが最もスッキリまとまっていて好感が持てる。表題作もいいんだが、トリックがやや安易な気がする。さすがに騙されたけれど。まあしかし、演劇部対吹奏楽部の自由すぎる対決はなかなか読ませてくれる。 全体的に若干文章が読みづらい部分があった。勿論、難解な文章とかではなく、表現の仕方がやや気になるところがあった程度だが。ただ、チカの内面を描写する文章はユーモアが適度に効いていて面白かった。<吹奏楽。素敵だと思う>などのフレーズは短くても、どこか私の琴線に触れるものがあり、印象深い。 なので、主人公のチカにはかなり感情移入できるが、一方のハルタの人物像がどこか不透明な感じで、インパクトが足りない気がする。単純に格好いいだけのような存在で探偵役としては、アクの強さがなさすぎる。草壁先生への想いはどうなっているんだと、そればかり気になってしまう。 取り敢えず、青春物として合格点をあげてもよいのではないだろうか。 |
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【9757】 |
メルカトル (2017年03月19日 21時49分) |
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『初恋ソムリエ』 初野晴 ハルチカシリーズ第二弾、連作短編集。 噂通り、前作よりもミステリ度が低くなったように感じられる。それでも、それぞれのキャラ、特にチカの元気な姿に、つい引っ張られてしまう。そう、これはラノベさながらのキャラ萌え青春小説としての側面のほうが色濃く押し出されており、最早ミステリとは呼べないのかもしれない。 その中でも、なぜ一学期中に3度も席替えが行われたのか、という日常の謎を扱った『アスモデウスの視線』が出色の出来だと思う。やや悲しい結末で、ハルタも事件を解決したことに対して疑問を抱いてしまうが、こういった切なさもまた青春ミステリの良さだろう。 解説でも触れられているが、表題作には疑問が残る。一体初恋ソムリエへの依頼者が語る寓話は何だったのか。まるで島荘のような幻想味を論理的に解明していくのか?と思いきや、中途半端な解決で終わってしまっているではないか。なんだかちょっとがっかりである。 まあしかし、前作同様、事件が解決するごとに吹奏楽部のメンバーが増えていく形式は変わっておらず、各短編もそこそこ粒ぞろいで楽しめたと思う。 |
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【9756】 |
メルカトル (2017年03月19日 21時47分) |
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『僕が七不思議になったわけ』 小川春央 ごく普通の高校生が出会った奇跡のような体験とほのかな恋を描いた、若年層向けのファンタジー小説。 卒業式の夜、高校三年になる俺中崎夕也は学校に携帯を忘れたことに気づく。心配性の彼は急いで学校に向かう。携帯は見つかったが、その帰りしな、校庭で母校の七不思議を司るという自称テンコと名乗る少女の姿をした精霊に出会う。彼は選ばれたのだ、新しい七不思議に。そこから、中崎の日常と非日常が交錯する日々が始まる。 終盤まではまるで中学生が書いたような、平板な文章が並び、おっさんの私としては、やや辟易としながら読み進むのであったが、終盤突如としてその恐るべきたくらみが明かされるにあたって、内心驚きの声を上げずにはいられなかった。 それはまるで本格ミステリのトリックそのものではないか。騙された、見事なまでに。だからと言って、その一点だけで高得点を与えるわけにはいかない。が、この緩急の使い分けはなかなかのものだと思う。 最終章は多くの読者に静かな感動を与えるものと想像する。単なるファンタジーではなく、ミステリの要素も含有しているし、恋愛小説、青春小説としても勿論ツボは抑えている。ただ、一般読者にはお薦めできても、本サイトの鬼たちには当然却下されるべき作品であろう。 |
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【9755】 |
メルカトル (2017年03月19日 21時45分) |
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『鏡の中は日曜日』 殊能将之 錯誤トリックを多用し、そちらに重点を置いているのに対して、肝心の殺人事件のほうがいかにもショボい。さらに、その動機にいたってはどう考えても無理があるとしか思えない。そんな理由で殺人を犯しますか?って感じでね。確かにそのための伏線は張られているが、正直そのくだりは退屈だったし。 石動は一応主役だと思うけど、なんか水城のほうが格好良くて、探偵としての格の違いを感じてしまう。まあ今回は狂言回し的な役どころに敢えてされているので、致し方ないのかもしれないが。 と、どうでもいいような、個人的に気になる点をあげつらったわけだけど、作風は私好みだ。最後まで読み終わったら、第一章をもう一度読み直すと、最初は霞がかかったように見えてこなかった部分が、スッキリとして納得できるので、試してみると面白い。 それにしてもエピローグに当たるエンドロール的な結末は、凄くいい味わいだと思う。年月を経ることの残酷さが、悲哀となって身に染みてくる。ある人物の言動がやけに痛々しくもあり、またいたいけにも感じる。 本作は本格でありながら、異色のミステリであり、また二人の探偵物語とでもいった趣がある。面白かったし、心に残る逸品じゃないだろうか。 |
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【9754】 |
メルカトル (2017年03月19日 21時44分) |
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『樒/榁』 殊能将之 やけに書評が多いと思ったら、『鏡の中は日曜日』の文庫版に併せて載せられていたのね。それにしてはあまりお得感を得られなかったのは気のせいだろうか。元ネタは密室本の一冊として、講談社ノベルズから出版されており、その薄さの割には値段はそこそこだったため、あまり売れなかったようだが、こうして収まるべきところに収まったのは喜ばしいことだとは思う。 さて本作、敢えて二部構成と言わせていただく。勿論、短編が二作という捉え方もできるが、その有機的な繋がりはやはり前半を第一部、後半を第二部と呼んだ方が据わりがいいのではないか。 まあしかし、いずれも小ぢんまりとまとまって、トリックもやや脱力系であり、天狗の正体なんかもなんだかバカバカしいとすら思えてしまう。第一部で幻の名探偵、水城優臣を読めるのは本書限りなので、その意味では貴重な作品なのだろうか。とは言うものの、作品そのものの出来はやはりあまりよろしくはない。付録的に引っ付いてきただけって感じが否めない。 |
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【9753】 |
メルカトル (2017年03月19日 21時42分) |
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『眠りの牢獄』 浦賀和宏 二つのまったく関連性のないごときストーリーが並走する構成は、好きな部類だし、面白いと思う。それらが一体どうつながっていくのか、興味深く最後まで読める。そして、いくつも驚愕ポイントが用意されているが、いちいちテンションが上がらない理由が、淡々とした文章にあるのではないかと思う。それが残念でならない。この作品は料理の仕方によっては、大傑作になった可能性が高いはずである。もっとこう、ねちっこい文体で書かれていたなら、或いはもっと上手い作家の手になったとしたら、それこそミステリマニアも大絶賛のヒット作となっていたかもしれないのだ。 だがまあ、そんなことを言っても詮無いことなので、諦めるしかあるまい。どこか既視感のあるメインストーリーではあるし、そして正直またかと思わざるを得ないトリックが用いられているが、全体として実に緻密に練られたプロットであり、隅々まで整合性が取れている点は評価されるべきであろう。 個人的には繰り返しになるが、もう少しこってりと描き込んでほしかったし、もっとボリュームがあってもよかったと思う。氏にしては小さくまとまり過ぎていたのではないだろうか。 |
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【9752】 |
メルカトル (2017年03月19日 21時41分) |
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『ルピナス探偵団の当惑』 津原泰水 この程度か、というのが率直な感想。そもそも作者が津原氏だというんで、一抹の不安があったんだよね。その嫌な予感が当たってしまった。文章は読み難いわ、面白みはないわで、言っちゃ悪いが時間の無駄だった。解説にはチェスタートンの血族とか書かれているが、正直チェスタートンも好きじゃないし。 大体において、どの短編もロジックに偏り過ぎて、肝心のストーリー性がおろそかになってはいないだろうか。だから、ああでもないこうでもないと理屈っぽくて、物語の起伏がほとんど感じられないのは大きなマイナス点だと思う。さらには、各キャラは個性的ではあるものの、もう一歩踏み込めていないのである。これなら、昨今流行の易しい系ミステリやラノベ風ミステリのほうが余程キャラが立っている、早々比べるべくもない。 最大の問題は、それぞれメインとなるホワイダニットの真相がいかにも弱い。別にそんなことしなくてもいいんじゃないの?と素朴な疑問を抱いてしまうのである。そこにいたるまでのダミーの推理にいたってはまさに噴飯ものであろう。 最終話のラスト一行だけはちょっぴり良かったがそれだけ。他に見るべきところはない。とまあ素人が得手勝手な感想を述べているが、あくまで個人の感想なので、無視されても一向に構わない。 |
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【9751】 |
メルカトル (2017年03月19日 21時38分) |
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『向日葵の咲かない夏』 道尾秀介 面白かった。しかし、拒否される訳もなんとなく理解できた気がした。本格志向が高い人ほど「許せない」のではないかな。そうでない人でも生理的に受け付けないという理由で、自分には向かないと感じているのではないかと思う。 だが、私は圧倒的にとは言えないが、大方支持する立ち位置でいたい。なぜなら、まず小説としての完成度が高いから。ミステリとしても、しっかりと伏線が張られているし、真相も過不足なく明らかにされており、設定が特異なだけで決してホラーなどではないと個人的には信じているのである。 確かに、非常に際どい描写があるのは認める。しかしながら、必ずしもアンフェアとは言えない。 やや気になるのはS君の生まれ変わりの早さで、蜘蛛に生まれ変わるのはいいが、たったの7日間でというのはいかにも早いのではないだろうか。私の少ない知識では人間が生まれ変わるのには400年前後かかるはずだけど。まあ、仏教にはそのような教えもあるのかもしれないので、あまり偉そうなことは言えないね。 それと、同じトリックの多用が気に入らない人も多いんじゃないかな。またかって感じで、感覚が麻痺してしまい、驚きが次第に目減りするのはやむを得ないと思う。 蛇足だが、冒頭のプロローグに当たる部分は最後に持ってきた方が良かったのではなかろうか。或いは、同じ文章を最後に繰り返すのも一つの手だったのではないか。そのほうが余韻がいい感じで残ると思うのだが。 |
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【9750】 |
メルカトル (2017年03月18日 22時22分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『カラスの親指』 道尾秀介 我が人生最大の激動の前後に読んだという事実だけは、生涯忘れないかもしれない作品となった。 他の多くの方が絶賛されているほど、面白いとは思えなかった。特に種明かしの部分を、半分上の空で読んだが、それを差し引いてもさして楽しめなかったのは間違いない。だからと言って、その理由をくどくどと並べ立てるような心境にはなれないので、簡単ではあるが終わりたいと思う。 多分、本当に立ち直るのは、少なくとも一カ月先かもっと時間が掛かるだろう。それまでは、読書のペースもかなり落ちるはずだし、書評もあまり長々とは書けないだろう。 |
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