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【9769】 |
メルカトル (2017年03月20日 22時07分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『霧塚タワー』 福谷修 こういう言葉が当てはまるかどうかわからないが、正統派のホラー小説。正統派だけに、ごくごく普通の、特筆すべき点もないが出来もそれほど悪くないという、言ってみれば平凡な作品である。 女子中学生の瑞菜は父親の単身赴任をきっかけに、家族と共に格安物件の霧塚マンションへ引っ越すことになった。だが、このマンションには怪しい噂があったのだ。そこはかつての廃病院の跡地に建てられており、その病院は廃業へと追い込まれるだけの理由があった。そして引っ越してしばらくすると、瑞菜の周りでクラスメートが自殺したり事故にあったりという、怪しげな事件が立て続けに起こり始める。 ホラーとしてはよくありがちな展開で、これといって秀でたものは見当たらないが、それなりにまとめられているとは思う。主人公の瑞菜がとんでもない状況に追い込まれるにもかかわらず、随分落ち着いていて、その分怖さも抑え気味な感じを受ける。まあ迫力不足とも言えるだろう、尺が短いのでやや急ぎ足の感は否めない。だからどうしても、盛り上がりに欠けインパクトも薄いのである。 文章も?が多すぎるし、あまりこなれた感じがしないので、その意味でも損をしているように思われる。それと、誤字脱字が多すぎる。 |
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【9768】 |
メルカトル (2017年03月20日 22時05分) |
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『帝都探偵 謎解け乙女』 加古屋圭市 序章、終章と5篇の短編からなる連作短編集。 時は大正、良家の令嬢である菜富は何の前触れもなく、唐突に「あたくし、名探偵になることに決めましたの」と宣言し、それを聞いた車夫の俺こと寛太は内心やれやれと思いながらも、何とかその望みが叶うように尽力する。それを待っていたように依頼が舞い込むのだが、結局探偵はお嬢様でも、陰で推理するのは寛太の仕事となるのであった。 あの有名な大ヒットミステリ以来定番となった、ユーモアを全編に纏った、易しい系ミステリの系譜を踏襲する作品と見せかけて、とんでもない仕掛けを施した、凝りに凝った構成となっており、「それ以降」の作品群とは一線を画する、意外なほど玄人受けしそうな逸品となっている。 じっくり読めば、そこここに伏線が張られており、少なくともラストの衝撃は予測できる作りになっている。ある程度予想はしていたものの、やはり実際に現実を目の当たりにするとショックを受ける。しかし、決して暗い結末ではなく、辛くとも希望がわずかでも覗けるラストシーンであり、心温まる余韻を残す。 このような良作が埋もれているのだから、まだまだミステリ・シーンも捨てたものではない。「本格は死んだ」と人は言うが、新しい才能も生まれて、まだまだ本格は死なず、今後も本格に限らずあらゆる分野のミステリに期待したいものである。 |
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【9767】 |
メルカトル (2017年03月20日 22時03分) |
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『公開処刑板 鬼女まつり』 堀内公太郎 ネットでブログを公開することや、掲示板の悪い意味での結束などによる恐怖を描いた異色のサスペンス。 私もあるサイトの掲示板が荒れるのを幾度も目撃しているが、これは実際個人攻撃されている側にとっては、とても辛いものだと思う。ある意味公共の場でのイジメのようなものであり、放っておけばいくらでもエスカレートしていくので、人間の醜い面がむき出しになってしまう。しかも、それぞれが匿名であり、顔が見えないので頭に血が上り、本性が表れるのが恐ろしい部分であろう。 そんなネット社会の様々な問題を抉り出しているのだが、どうもいまひとつ絵空事のように思えてしまうのである。どこかリアルさが感じられず、掘り下げ方もいかにも浅い気がする。 謎らしい謎も見当たらないし、追いつめられる主人公の元女教師もなんだか平然とし過ぎており、肝心のサスペンスが効いていない。 一つの焦点であろう、鬼子母神の正体も最初こそ分からなかったものの、途中で気づいてしまってからは、先が見えて興味を失ってしまった。序盤はそれなりに面白かったが、中盤から終盤はイマイチの感が否めない。 |
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【9766】 |
メルカトル (2017年03月20日 22時02分) |
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『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』 櫛木理宇 最初に言っておきたいことがある。本の帯にAKB兼任、HKTの誰それの推薦文が載っていたから買ってみた、というほど私はミーハーではない。勿論、選抜総選挙も大島優子の卒業公演も最後までTVで観ていたのは言うまでもないが。 そんな事はどうでも良くて、本作であるが、そこそこ面白い。雪国の雪越大学オカルト研究会には様々な超自然現象や心霊体験が持ち込まれ、それを男女5人のメンバーが解決しようとするのが本筋である。そこに、主人公の森司の片思いが絡んできて、ほんわかとした雰囲気のいかにもなキャンパス・ライフが描かれていて好感が持てる。 第一作では、オカルト・ミステリと銘打たれているが、決してミステリではないので、必ずしも合理的な解決がなされるわけではない。本作はシリーズ第二弾で5篇の短編から構成された連作だが、どれも特にオカルト研のメンバーが大活躍して事件を解決するというものではなく、なんとなく相手の話を聞き、なんとなく流れで落ち着くところに落ち着く感じのゆるいホラーだ。だが、しっかりツボは抑えているので、結構怖いだろうと思われるシーンもある。私は一向に怖くなかったけれど。 季節は年末からバレンタイン辺りで、北国の冬の季節感がよく描かれていて、個人的には非常に好ましく思っている。 ただ、森司の片思いの相手でオカ研のメンバーでもある、こよみの出番が少なめなのがやや不満ではある。無論、これは彼女をより神秘的な存在にしておこうという、作者の企みなのかもしれないので、まあ仕方ないかなとは思う。噂によると、この二人の恋がなかなか発展しないのが歯がゆいという意見が多いようである。それもまたいいんじゃないかという気もするけどね。 |
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【9765】 |
メルカトル (2017年03月20日 21時59分) |
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『長い腕』 川崎草志 第一部は主人公の汐路を通して、ゲーム・メーカーの実態を詳らかにしている。これは作者のキャリアを生かした、氏ならではの描写ということだろう。興味のある人には楽しく読めるのではないかと思うが、そうでない人にとってはやや退屈かも知れない。事件は一応起こるのだが、大した扱いは受けていないので、ほとんどミステリから乖離した形になっている。 第二部は汐路が閉鎖的な村に帰省するところから始まる。ここでは彼女が事件を追い始めるが、手を広げ過ぎて読む側からしてみれば、一体どの事件に焦点を当てているのかがイマイチ分からない。そしてやや冗長な印象を受ける。が、盗聴器を排除するシーンなど興味深い場面もあったりする。 終盤は一気にヒートアップし、それまでの平板さを挽回するがごとくスピード感も出て、盛り上がりを見せる。ホラーっぽく、ねっとりとした描写から、一転論理的なミステリ的解決に向かって収束していく過程は非常に読み応えがある。 最初から終盤のような読ませる作品に仕上がっていれば、文句なく横溝正史賞受賞作に相応しい本格ミステリとして、後世に残る名作となったであろう。残念ながら、現段階ではそこまでの領域には達していない。 |
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【9764】 |
メルカトル (2017年03月20日 21時57分) |
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『ハルさん』 藤野恵美 ささやかな日常の謎を扱った、5篇からなる連作短編集。 ハルさんの愛称で呼ばれている春日部晴彦は娘のふうちゃんの結婚式の日の朝、若くして亡くなった妻の瑠璃子さんの墓前に娘の結婚の報告をしてから、タクシーで式場に向かっていた。そのタクシーで思い出すのは、幼稚園児の頃のふうちゃんや、彼女が次第に成長していく過程で起こった数々の小さな事件であった。 いずれの短編も本当に誰の身にも起こり得るような、日常の謎を解き明かしていくものであり、探偵役はなんと亡き妻の瑠璃子さんなのである。ハルさんがピンチの時に夢の中や回想で瑠璃子さんが現れ、彼にヒントを与え、夫婦で謎を解いていく。 正直、ミステリに慣れ親しんでいる読者には物足りないはずだが、悪人が一切出てこないほのぼのとした連作短編集であり、児童文学出身の藤野女史らしい、実に丁寧な文章で綴られた佳作であるのは間違いないと思う。各短編の間に、タクシーの中での花嫁の父としての心境を、ラストシーンではひそやかな涙を誘う別れと新郎新婦の新たな出発を描いており、心温まる読後感を残す締めくくりとなっている。 やや不満なのは、ふうちゃんが長じるにつれて、次第に生意気になっていくところだろう。だが、彼女は頼りないハルさんと違ってしっかり者で、その辺りの人物造形もしっかり描き込まれているし、ミステリとしても文芸作品としても、もっと高い評価をされて然るべきなのかもしれない。 |
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【9763】 |
メルカトル (2017年03月20日 21時55分) |
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『セイギのチカラ』 上村佑 5人の異能者の男たちと一人の美女が正義のために活躍するサイキック・アクション。 ネットカフェで少女がバラバラ死体となって発見された。その事件を追う刑事は「赤い月連続殺人」との関連を疑い始める。一方、「異能者の館」というサイトのオフ会に集まった異能者たちは、それぞれの能力を語り、その場は解散するが、のちに参加者で唯一の女性がある事件に巻き込まれる。さらには、その女性の心療内科の担当医とその異母兄弟と名乗る男が細菌によるテロを実行しようとしていた。 5人の異能者の男たちと1人の女性、「赤い月連続殺人」を捜査する刑事、たった二人で大規模なテロをおこなおうとしている兄弟が三つ巴となり、ストーリーは足早に展開していく。圧倒的なスピード感と映像的なシーンの連続に酔いしれること間違いない。 異能者の超能力はいずれもしょぼいものばかりで、それらを披露するオフ会は大爆笑もの、これだけ笑える小説は初めてであった。だが最後にはその能力を増幅し、何千人というやくざや無数のカラスたちの力も借りて、テロを阻止しようとする彼らの姿には知らず涙をこらえきれぬほど感動してしまった。 ラストシーンも心温まるもので、後味も素晴らしく良い。滅多に読み返さない私が、ついクライマックスから最後まで2回ほど読み直してしまったほどである。 無名の小説なのでどうかとも思うが、これは是非とも映画化していただきたいものである。幾分映像化を意識しているような場面もあるが、それはご愛嬌ということで、あまり責めないでほしいと思う。まあ、細かい部分でツッコミどころもあるだろうが、それ程の瑕にはなっていない。というわけで、一読の価値は十分あると私は断言したい。 |
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【9762】 |
メルカトル (2017年03月20日 21時53分) |
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『誘拐』 五十嵐貴久 これだけの長尺なのに長さを感じさせない、緊迫感を持続する圧巻のサスペンス巨編。勿論、警察小説や社会派としての側面も持ち合わせている。 日韓友好条約締結のために来日する韓国の大統領警護のために、厳戒態勢を敷く最中、現総理大臣の孫娘が誘拐される。警察側は北の工作員の仕業と断定するが、実は犯人は最初から読者に明らかにされている。では何のためにとてつもないリスクを冒してまで、総理の肉親を誘拐したのか、という命題がこの物語を引っ張っていくことになる。やがて犯人からの要求が、一般市民から警察に電話で連絡されるが。 登場人物が多く、頭を整理するのが大変だが、無駄な描写は一切なく、微塵も冗長さを感じさせないのは素晴らしい。犯人の孝介は勿論だが、主要人物の中で唯一ノンキャリアの星野警部の存在感が光っている。低い物腰ながら、自らの主張ははっきりとするという、叩き上げならではの老練ぶりを発揮していて、彼の言動には惹かれるものがあると感じる。結局、孝介対星野という構図がうっすらと見えてくる。 途中から小骨のように引っ掛かっていた疑問が、まさかの形で・・・っとここからはネタバレしてしまいそうなので、割愛する。 とにかく、私が今まで読んだ誘拐ものの中でも、そのスケールの大きさや捻り具合などは抜きん出ていると思う。数ある誘拐ものではあるが、本作はどの作品にも負けていないくらいのポテンシャルを持った傑作ではないだろうか。 |
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【9761】 |
メルカトル (2017年03月20日 21時52分) |
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『レイカ 警視庁刑事部捜査零課』 樹のえる 暗く重いトーンの、3篇からなる連作短編集。 警視庁刑事部捜査零課とは、行き場を失った4人の刑事達で編成された、いわば窓際族の集まりである。そこへ新人刑事の大和が配属されるが、そこの刑事達はよく言えば個性的だが、自分勝手だったりやる気がなかったりで、彼は身の置き場を失ってしまう。取り敢えず主人公のレイカに張り付いているように命じられるが、彼女の身勝手なやり方になかなかついていけない。だが、彼女には常識では考えられない特殊能力があったのだ。 レーベルがレーベルだけに、ライトノベルかと思われるかもしれないが、決してそうではない。いたって常識的な警察小説であり、悪く言えば、どこと言って突出したところのない平凡な作品と言える。決して面白くないわけではないが、取り立てて印象に残らない、第一話以外はすぐに忘れてしまいそうな短編が2作である。尚、それぞれのキャラは一応個性的だし定まってはいるが、今一つ描き込みが足りない感じを受ける。 第一話は途中までややだれ気味だが、終盤はレイカの能力もお目見えしたり、彼女の過去が語られるなど、かなり興味を持って読むことができた。被害者の顔が焼かれた理由などもふるっていて、後続作品に期待がもたれたが、やや期待外れに終わった。 |
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【9760】 |
メルカトル (2017年03月19日 21時55分) |
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『櫻子さんの足下には死体が埋まっている 蝶は十一月に消えた』 太田紫織 シリーズ第4弾の3篇からなる連作短編集。 櫻子さんの変人ぶりと魅力は相変わらずだが、そこはかとなくネタ切れの雰囲気が漂い始めている。刊行スピードが速すぎて、じっくりプロットやストーリーを練ることができていないのでは、と邪推してしまう。 そんな中でも櫻子さんの過去が徐々に明らかにされていったり、エピローグでは彼女の家族の誰かの誕生祝い?を当人なしで行ったりと、本筋とは関係ないところで思わせぶりなシーンが展開されて、まだまだシリーズは続くよ、みたいなものを匂わせている。 さらには、各短編で実に美味しそうな食事のシーンがお約束のように配されて、食べ物が出てくると単純に嬉しくなる私としては、非常に喜ばしいものがある。ただ、先にも述べたように、内容としては前3作にはやや及ばないと思われる。確かにキャラ萌えとしては素晴らしい作品と言うかシリーズではあるが、本作に関しては中身が薄く、心に残るシーンや感動が少ないような気がする。その意味で、若干残念な出来となっているようだ。 |
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