■ 9,999件の投稿があります。 |
【9779】 |
メルカトル (2017年03月21日 21時56分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『18禁日記』 二宮敦人 ブログや遺書を含む、15の日記から構成されているホラー短編集?と言っていいのだろうか。日記の中身は蚊に刺されやすい体質の男、初体験を待ちわびる少女、絶対音感に取り付かれた女、あらゆる生物の眼球に異常な興味を持つ子供など、どれもこれもある事柄に執着するあまり、悲劇的な結末を迎えてしまう、人間の悲しいさがを描いたものである。 形式が日記だけに、それ程心理描写が深く抉られているわけではないが、着実に人間が狂気に取り付かれていく過程を見せつけられる形になっており、読者自身もそれぞれの擬似体験を強制的にさせられるような静かな圧力を掛けられる。まさにこれまで味わったことのないような奇妙な魅力を持った小説であり、ある意味奇書と考えてもらっても差し支えないと思う。 それぞれのオチは驚くほどのものではないが、全体としてはなかなか良く考えられた着地が待ち受けている。まあそれ以外に落としどころがないとも言えるが。 取り敢えず、私としては十分楽しめたし、読み返すのも楽でいいのではないかと思う。いわゆる「コロンブスの卵」的な作品とも言えるだろう。 |
|||
【9778】 |
メルカトル (2017年03月21日 21時55分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『コスプレ幽霊 紅蓮女』 上甲宣之 冴えない小学校の女教師、辺倉史代はネットで紅蓮女の噂を流し、自らコスプレや特殊メイクを施して紅蓮女として夜な夜な怪奇スポットを徘徊する。それが彼女の生き甲斐であり、アイデンティティでもある。人を傷つけない、殺さないというのが信条で、もっぱら人を脅すことに喜びを見出しているのだ。というのも、彼女は友達も恋人もいない孤独な人生を送っており、そんな度を越した趣味に悦楽を感じているわけである。そして、各スポットで様々な都市伝説上の怪人どもと対決するという、連作短編集である。 まあアイディアは面白いとは思うのだが、いかんせん中途半端な感が否めない。サスペンスとしてもホラーとしても、アクションとしても、どうにも煮え切らないもどかしさを覚えるのである。主人公の史代の孤独な心情はなんとなく伝わっては来るものの、それもあまりストレートに響いてこない。 トータルすれば、一種のエンターテインメント作品なのだろうが、私には爽快感や満足感が得られず、半端な読後感が残るのみであった。Amazonでの評価はかなり高いのだが、私の評価がそれより低いのは私に読解力がないのか、感受性がすり減ってしまっているせいなのかもしれない。或いは、ミステリの読みすぎか。 蛇足だが、史代は魚座である。近年の魚座の女性有名人は篠田麻里子、松井珠理奈ら女傑のイメージが強いが、内面はとてもナイーブで心根の優しい女性が多いようである。 |
|||
【9777】 |
メルカトル (2017年03月21日 21時52分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『守護天使』 上村佑 第2回日本ラブストーリー大賞受賞作。 主人公はうだつの上がらない妻子持ちでデブ、ハゲ、メガネと三拍子そろった啓一50歳。彼は電車の中で出会った少女に初恋をする。そしてその瞬間から彼女を、全身全霊で守ることを心に誓うのであった。 やがて彼女はある事件の渦中に巻き込まれる。それを知った啓一は、元やくざの村岡と元ひきこもりの少年ヤマトを仲間に引き込み、事件現場を探り出し、三人で乗り込む・・・ えっ、なぜ恋愛小説を登録するのかって?これは恋愛小説ではないからです。私に言わせればれっきとしたミステリなので、取り敢えず書評を書かせてもらうことにした次第。 これは最初から最後まで面白い。なかなか経験できない、読むのではなく読まされる感覚。字を追えば勝手に頭の中に情景が浮かんでくる、そんな小説である。 さらには、それぞれのキャラが凄くいい味を出している。むしろ主人公の啓一よりも、鬼嫁の勝子や村岡のほうが個性的で印象深い。恋の相手の涼子も出番は多くはないが、今どき珍しい清楚な女子高生として控えめな輝きを放っており、穢しがたい少女の儚さを描くことに成功している。 本作は映画化されており、主演はカンニング竹山だそうな。なるほど。 |
|||
【9776】 |
メルカトル (2017年03月21日 21時50分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『盤上の夜』 宮内悠介 ボードゲームをモチーフにした6篇からなる連作短編集。テーマとして用いられるのは、囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋でそれぞれの対局が「わたし」を通じて回顧録のように語られる。 表題作もいいが、何と言っても第三話の『清められた卓』が素晴らしい。この作品は、タイトルから分かるように麻雀を題材としており、白鳳位戦の決勝戦の模様が綴られている。4人の決勝進出者がまた個性的で、一人がプロ、他の三人はアマチュアであり、一人はある新興宗教の教祖である若い女性、一人は天才と呼ばれる少年、最後の一人はギリギリで勝ち抜いた最も平凡な男性。だがこの平凡な彼はかつての恋人であった教祖を追いかけてここまで上り詰めた経緯がある。それぞれの思惑を秘めて戦う彼らだが、かつてない異様な決勝戦となる。特に最終戦はある意味無茶苦茶な打ち筋の応酬で、常識では考えられない闘牌になっている。 とにかくこの第三話だけでも読む価値は十分にあると言えるだろう。勿論、麻雀に関する知識がないと面白さは半減するかもしれないので、その点は注意が必要だ。 最終話は再び囲碁がテーマになっているのだが、参考文献の最後に『あぶれもん』の記載がある。これは知る人ぞ知る麻雀劇画の名作なのだが、なぜこれが載っているのか気になるところではある。 畢竟、本作はSFでもファンタジーでもないと思う。それぞれが勝負の道を究めた者同士の心理戦を描いた、本格対局小説とでも言うべき作品集であろう。 |
|||
【9775】 |
メルカトル (2017年03月21日 21時48分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『三日間の幸福』 三秋縋 一風変わった青春ファンタジーとでもいうべき作品。 主人公のクスノキは20歳の大学生で、極貧にあえいでいた。毎日アルバイト漬けの毎日で、過去を振り返ってもこれといって恵まれた出来事には巡り会っていない。ただただ、これからの人生において、これまでの不運を帳消しにするような幸運が待っているのではないかとの思いだけで生きているようなものであった。 ある日彼は大事にしていた本を売り払った書店で、お金に困っているのなら、寿命を買ってくれるところがあるがと聞かされる。取り敢えず行ってみると、若い女性が受付をしており、30分の査定で知らされた寿命の代価はたったの30万円だった。つまり、今後生きていてもいいことは全くないということになる。その場で彼は3ヵ月を残して寿命を売り払うことを決断する。 あくる日、彼のもとにミヤギと名乗る若い女性が監視員として派遣されてきたが、彼女は最初に査定の受付にいたその人だった。クスノキは残りの3ヵ月をどう生きるのか、次第にミヤギに惹かれていくほのかな恋心は果たして実るのか。 クスノキの斜に構えたような言動に引っ掛かりを覚えながら、なんとなく居心地のよくない気分で読み進めたが、終盤になってようやく馴染めた感じである。ハッピーエンドというわけでもないが、なかなか爽やかな余韻を残す読後感になっており、その辺りが世評の高さに繋がっているのではないかと思われる。そんなに面白いのかと問われると、それ程でもないがと言わざるを得ないのは事実であるけれど。 ただ、クスノキは自分を失敗作と評しているが、私は己を人間の出来損ないと思っているので、どこか通底する部分がある気もする。多くの読者が、そういったクスノキの懊悩に共感してこの作品は評価されているのかもしれない。 |
|||
【9774】 |
メルカトル (2017年03月21日 21時45分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『ボランティアバスで行こう!』 友井羊 東日本大震災をモチーフに、被災地へ向かうボランティアバスツアーに参加した幾人かが各章ごとに語る、日常の謎を扱った佳作。 被災した人たちの現実と支援活動をおこなう側の現実が赤裸々に描かれており、思わず深く頷いてしまうシーンが目白押し。無論ミステリとして、第一章から最終章、エピローグに至るまで、ささやかではあるがちょっとした日常の謎を解き明かしながら、微妙な人情の機微までをも繊細な文章で描写することに成功している。それだけではない、何気ない構成の中にとんでもない大仕掛けが仕込まれており、そのトリックが明かされた瞬間は「なるほど」程度にしか思えないものが、しばらく経ってから二度目の衝撃が襲ってくるようになっている。優れた読者は、一度の衝撃ですべてを悟るがゆえに、その大きさは計り知れないものに違いない。 いずれにしても、ほぼ騙されるのは確実だろう。しかもあからさまな伏線も張られているし、実にフェアな作りになっているのが良心的とも言える。 私の場合、そういった騙しのテクニックを抜きにしても、第一章でハートを鷲掴みにされたわけで、その後も同レベルを保っていたなら間違いなく8点以上付けていただろう。地味と言えば地味だが、これ程真正面から未曾有の大災害のその後を描いた作品は他にないと思う。 |
|||
【9773】 |
メルカトル (2017年03月21日 21時44分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『うなぎ鬼』 高田侑 全然そそらないタイトルとイケてない表紙、これは誰しもが敬遠したくなる小説と言える。しかも冒頭からなんとなくシャキッとしない感じの筆運びで、面白いのかどうなのかも判然としない。ホラーなのにちっとも怖くない、その代わり終始不気味な雰囲気は漂っているという、なんとも言えない作品である。 主人公の勝は少なくない借金を抱えてところを、やくざまがいの商売をしている千脇に拾われる。仕事の内容は主に借金の取り立てで、その巨体を生かしてそれなりの成績を上げていた。そんな時、別の仕事も任されるようになる。同僚の富田と共に社長の弟が経営するウナギの養殖場に厳重に梱包された、重さ50から60kgほどの品物を運び込むというものであった。東京の下町の入り組んだ場所にある黒牟という土地には、怪しい噂が色々立っており、勝たちはその渦に巻き込まれることになる。 都市伝説を用いて終始読者に不信感、或いは疑惑を持たせ、どうにもすわりの悪い気分を抱かせる文章は、ある意味で作者の思惑通りであるのかもしれない。果たして多くの読者が想像するような忌まわしい現実が目の前に現出するのか、そしてあることからとんでもない災厄に見舞われる主人公の運命やいかに、といったところか。 終盤はなかなかの緊迫感で、本領を発揮している感じだし、エピローグも気が利いていて余韻を残す、らしい締めくくりでいいんじゃないだろうか。 |
|||
【9772】 |
メルカトル (2017年03月21日 21時42分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『櫻子さんの足下には死体が埋まっている 骨と石榴と夏休み』 太田紫織 九条櫻子シリーズ第二弾、3篇からなる連作短編集。 全体的に小ぢんまりとまとまり過ぎている気がしないでもないが、相変わらず櫻子さんの変人ぶりには楽しませてもらえる。彼女に寄り添うように子守役をしている正太郎はいたって常識的で、その対比が実に面白い。しかし、さすがに探偵役の櫻子さんはいざと言う時には頼りになる。それが如実に表れているのが第二話であろう。 私は変態ではないが、男女を問わず幼児が出てくる小説が好きである。本作第二話には、真夜中の町中を裸足で彷徨う幼女が登場するので、楽しく読むことができた。それだけではなく、櫻子さんの普段は見ることのできない意外な一面を垣間見ることができて、とても印象深い作品になっている。はっきり言おう、これはシリーズ中最も面白い一篇ではないかと私は思っている。 他の作品もそこそこ面白く、やはり本シリーズにはハズレはないのだなと確信した。既に第三弾も読み始めているが、こちらも期待大である。興味のある方は是非読まれることをお勧めする。 |
|||
【9771】 |
メルカトル (2017年03月21日 21時40分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『櫻子さんの足下には死体が埋まっている 雨と九月と君の嘘』 太田紫織 やはり本シリーズはしっかりとした安定感を保っている。この第三弾も三篇からなる連作短編集である。第一作でサブキャラに触れたが、これまでのところ、どうやら巡査の内海とばあや、それにもう一匹加わった模様。とは言え、あくまで脇役であって、主役は櫻子さんと正太郎の二人であるのは間違いない。 本作は短いが何と言っても第二話がいい。これは泣ける。確かに泣ける。珍しくばあやが正太郎の過去にまつわる、ささやかな秘密を暴くのだが、彼の想いが実によく伝わってきて、心揺さぶる逸品となっている。 第三話はちょっとばかりややこしいが、後半はいつもワトソン役の正太郎が櫻子さんの嘘を告発するという、これまでにない構図が描かれていて、意外な展開になっている。 エピローグもなかなかいい味わいだ。櫻子さんの苦渋の決断と、それを敢えて全否定する少年の強い決意が物語全体を引き締まったものにしているのである。 尚、ジャンルは本格にしてあるが、これは若干無理があるかもしれない。どちらかというと日常の謎に近い気もするが、一応死体が絡む話が多いので本格に設定したまでである。異論のある方は無論他に投票されても一向に構わない。 |
|||
【9770】 |
メルカトル (2017年03月20日 22時09分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『ハンマーヘッド』 飯野文彦 単行本刊行時には「超Z級スプラッターホラー」というキャッチ・コピーでごく一部のマニアの間で話題になったらしい、迷作『ザ・ハンマー』の文庫化。 とある閉鎖的な田舎町で、ハンマー様の凶器で撲殺され、全身ミンチ状となった悲惨な死体が発見されるという猟奇事件が起こる。その後も連続して同じような殺人事件が続く。一体誰が何のために?停職中の刑事である幹也は単独で事件を追うが・・・ 誰が名付けたか知らないが、超Z級でもなんでもない、ただのB級ホラーである。さらにスプラッターというほどでもない。取り立てて残酷描写があるわけでもないし、殺戮の方法が異様で、その結果とんでもない惨状を呈しているに過ぎない。なので、その意味ではかなり期待外れではあるが、登場人物が全員どこかイカレている人間ばかりで、特異な雰囲気を出すのには成功している。 当然、本サイトの由緒正しい読者諸氏が読むような作品ではない、お下劣な表現も多々含まれており、超下世話で、下品なある意味最低の作品に仕上がっている。 犯人はかなり分かりやすく、中盤で既にミエミエなのだが、なぜその人物がこのような残虐な行為を繰り返すのか、その辺りが読みどころとなっている。散々貶したが、出来としてはそれほど悪くはないと思う、ただ明らかに読者を選ぶというだけで。だから、賢明なる良い子のみんなは読んじゃダメ。 |
|||
© P-WORLD