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【9839】 |
メルカトル (2017年03月29日 22時03分) |
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『『ギロチン城』殺人事件』 北山猛邦 プロローグは確かに惹かれるというか、のめり込める、いい雰囲気を持っている。が、約100ページくらいまで殺人が起こらず、正直ダレる。そこからは一転急展開が始まるのだが、どうにもその文体に馴染めなかった。 メイントリックはなかなか良く考えられているとは思うし、犯人の行動に矛盾はなさそうである。しかし、現実的にはまず成立しえないだろう、どう考えてもトリックに気づかれてしまうはずだ。まあしかし、そんなものかもしれないね、物理トリックというのは。 一方、真犯人の正体は、少しだけ読み返したが、はっきり言ってアンフェア。ノベルズの72ページは私の読みが足りないのかもしれないが、地の文の記述におかしな点がある。これには、いくら温厚な私でも一言言わずにはいられない。ここに関してだけは破綻していると思う。だが、それで評価が低くなったわけではない。 |
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【9838】 |
メルカトル (2017年03月29日 22時01分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『『瑠璃城』殺人事件』 北山猛邦 本格ミステリなのかファンタジーなのか判然としない、まさに怪作。だが、有栖川の言うような快作ではないと思う。 物語は3つの時代に生きる、生まれ変わりの3人がそれぞれの時代で奇怪な事件に巻き込まれるという、やや複雑な構成となっている。しかも主人公の二人はそれぞれがどちらかを殺し合う運命にあるらしい。勿論そのくだりの論理的な解説はなされていないので、その辺りは完全なファンタジーである。一方、相変わらずの物理的トリックを用いた、不可能犯罪の数々は本格ファンをも唸らせるものであろうかと思われる。 だが、トリックそのものはどれもさして目を見張るものはない。唯一、図書館での密室殺人のクレセント錠を利用したトリックは、明快で分かりやすく、作者の本領を発揮している。 しかしどうだろう、プロットは面白いのだが、それを上手く料理しきれていないきらいがあるのが残念な気がする。まあデビュー二作目だから仕方ないのだろうか。 |
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【9837】 |
メルカトル (2017年03月29日 21時59分) |
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『成吉思汗の秘密』 高木彬光 蒲柳の質と言われながら、意外とタフな東大医学部助教授の天才神津恭介が珍しく急性盲腸炎で入院している時の、ベッド・ディテクティブ。 私は歴史には全く疎い方だが、それでも面白く読めたのは、義経=成吉思汗という昔からある仮説を単なる検証としてだけではなく、あくまでミステリとして読者を引き付けることに成功しているからに他ならないと思う。 膨大な資料や書物から、義経が衣川の戦いで落ち延びて、大陸に渡ってジンギスカンとして復活したという大胆な論説を抽出し、独自の仮説として完成させた、神津の鋭い推理には思わず引き付けられるものがあるし、歴史のロマンを感じ取ることができる。 本作はおそらく日本を代表する歴史ミステリの一つとして数え上げられるべき作品ではないだろうか。 ラストの「なすよしもがな」のくだりは後付けらしいが、ややこじつけめいた感じも受けるのだけれど、個人的にはそれこそ後頭部を殴られたような衝撃を受けた懐かしい記憶がある。 |
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【9836】 |
メルカトル (2017年03月29日 21時57分) |
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『放課後』 東野圭吾 プロット、ストーリー、トリックなどは決して悪くない。いやむしろ、デビュー作にしては上出来の部類じゃないだろうか。でもねえ、ちょっとテンポが悪くないですかね。読んでいて、飽きるとまでは言わないけれど、なんだか淡々と進行していく感じで、波というか変化に乏しい気がする。まあしかし、乱歩賞を受賞したのもなんとなく理解できるし、新鮮味はなくても女子高生の生々しい会話などはよく描けていると思う。本当はもっと乱暴なんだろうけど。 伏線の張り方はちょっとあからさま過ぎて、そこだけ浮いた感じというか違和感があるのですぐに気付いてしまう。その辺りはやはり若書きということなのだろうか。 だが、全体としてはよく書けているのではないかと思う。現在の人気作家ぶりを予感させるには十分な出来じゃないのかな。 終盤まで、眠気を催すような文章もあるにはあるが、謎解きの場面から突然覚醒したように、俄然面白くなるというか、作者の本領を発揮するので油断ならない。 |
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【9835】 |
メルカトル (2017年03月29日 21時56分) |
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『まほろ市の殺人 春』 倉知淳 つくづく倉知氏は読み手に優しいミステリを書く人だなと思う。『壺中の天国』のような実験的な作品は例外として、ほとんどが極悪人と呼べるような人間は出てこないし、軽妙なタッチで普段あまりミステリを読まないような人でも、割合すんなりと読めてしまう作品ばかりだ。しかも、登場人物の造形もしっかりしているし、どのキャラも憎めないところがあって好感が持てる。 さて本作であるが、おそらく途中までは魅力的な謎が提示されていて、読者は物語に引き込まれることは間違いないだろう。問題は解決編。この脱力感漂う暫定的な真相は多くの人が不満の声を上げることだろう。だが私は、たとえご都合主義とか偶然が過ぎると言われようが、この結末は好きである。作者が自ら書いているような、幻想的で悪夢のような光景は豪く映像的で、強烈な印象を与えてくれる。 ただ一つの疑問を除いては、個人的にとても気に入っている。だがやはり本格ミステリとして、出来る限り公平を期するためこの点数とした。 |
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【9834】 |
メルカトル (2017年03月29日 21時55分) |
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『まほろ市の殺人 夏』 安孫子武丸 なんだか全体的にトーンが暗いねえ。 私は恋愛小説も嫌いではないし、こういった雰囲気の作品も悪いとは思わないが、やや私には合わなかった気がする。 出だしは折原一の世界を彷彿とさせるものがあり、良い感じでスタートするも、最後までそのままうまくゴールできなかったきらいがあるのが残念である。 このトリックというか仕掛けは、多くの読者が驚愕の声を上げたのかもしれないが、私にとってはなるほど程度にしか感じられなかったし、それほど驚かなかった。まあよく考えられてはいるし、決して記述に矛盾点はないので、フェアプレイの精神は大いに買えるとは思うけどね。 だけど、こんなに多くの人が高得点を与えるような作品ではないと私は考えている。それはやはり私がミステリファンとして、色んな意味でマイノリティに属しているせいなのかもしれない。 |
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【9833】 |
メルカトル (2017年03月29日 21時53分) |
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『まほろ市の殺人 冬』 有栖川有栖 栖川有栖ともあろう者がこの体たらくではねえ、何とかならなかったものでしょうか。まあ途中までは普通の出来ですよ。季節が冬だけに暗くじめじめした感触が残るのは仕方ないだろうし、ストーリーがこんなんだから、ある程度サスペンスは効いている。その辺りに関しては文句はないけれど、やはり問題は死んだはずの双子の兄がなぜか生き返ったかのように自分の目の前に現れ、しかも他の人間にはなぜか見えないという謎に対しての真相。これはさすがにいただけない。 色々制約等もあったのだとは思うが、この解決編はある意味禁じ手とも言えそうなもので、本格ミステリ的な謎解きとしてはかなり程度の低いものだろう。それはないでしょ?って感じかな。 まあね、中編だから許されるかもしれないが、これが大長編だったりしたら、それこそ大顰蹙だったと思うよ。 それと、本作品は本格ではないんじゃないかねえ、サスペンスでしょう。 |
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【9832】 |
メルカトル (2017年03月29日 21時51分) |
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『恍惚病棟』 山田正紀 舞台は聖テレサ医大病院精神神経科老人病棟。主人公の女子大生美穂は担当の7人の痴呆性老人、今で言う認知症の老人たちにおもちゃの電話を与え、テレフォンクラブと呼んで症状の軽減を図っていた。 ところが、その患者たちが次々と不審な事故死を遂げる。美穂はそれらの事故を研修医の新谷らと調査に乗り出すのだが・・・ といったストーリーで、本作は社会派の一面を覗かせながらも、しっかりとした本格ミステリとしての精神を貫いた、異色の意欲作である。 冒頭からラストまで、様々な大技小技の仕掛けが施されており、最後の最後まで息を抜けない。およそ世間での知名度は無きに等しいが、これは山田正紀の隠れた代表作なのかもしれない。 まだ看護師が看護婦と呼ばれていた時代の作品なので、若干古さを感じさせるが、今読んでも新鮮さは変わらないと素直に思った。 |
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【9831】 |
メルカトル (2017年03月29日 21時49分) |
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『京極夏彦の謎』 ガイドブック 中禅寺秋彦 「覚醒者の憂鬱」、関口巽 「夢幻の淵を彷徨う」、木場修太郎 「美学と現実の背理」、榎木津礼次郎(まま) 「哄笑する神」 といった百鬼夜行シリーズの主なキャストは各章に分けて分析されている。「」内はそれぞれのキャラのキャッチコピー的なものらしい。本書は『姑獲鳥の夏』から『絡新婦の理』までの各登場人物を解析することにより、京極夏彦という作家のあり様を探ろうという目論見のもとに著されたガイドブックのようである。 だが、内容は各作品からそれぞれの特徴が描写されている部分を抜粋し、それを元にごく表層的な解析を試みているに過ぎない。だから、京極作品の本質に迫ろうとかの、いわゆる論説とは事を異にしているので注意が必要である。 例えば、中禅寺秋彦の場合、猫が欠伸をしただけで目を覚ます眠りの浅い男、とか、「京極堂」の屋号は妻の千鶴子の実家が営む和菓子屋から拝借した、など、要するにファンなら誰もが知っている豆知識の復習のようなものなのだ。 京極作品を広く浅く知りたい、もう一度その京極ワールドに浸りたいという人向けのガイドである。ただし、目から鱗が落ちるごとき謎解きは出てこないので、その辺りはご承知置きいただきたい。 蛇足だが冒頭に既述したように、榎木津の名前を「礼次郎」と一貫して誤認しているようなので、せめて出版社で訂正すべきだったと思う。まあその程度の書籍だということではあるが。 |
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【9830】 |
メルカトル (2017年03月28日 21時56分) |
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『僕の殺人』 太田忠司 上質の食材を用意したのに、調理が下手なため台無しになったような作品、だと思う。 第一に、記述者が記憶喪失で正体不明のため、物語全体に紗がかかったようにどことなく漠然とした印象を受ける。さらに、メリハリがないので、情景が浮かんでこないし、今一つ頭に入ってこない。つまりインパクトに欠けるわけである。 太田氏の作品は10冊ほど読んでいるが、決して文章が下手なわけではないのに、本作ではその手腕が発揮されているとは言い難い。と言うよりむしろ、わざと下手に書いているとさえ感じられる。この作品に高評価を与えている諸氏には申し訳ないが、私にはお世辞にも面白いとは思えなかった。 主人公の僕は、被害者、加害者、証人、探偵、トリック、記述者の6役をこなしている?が、それはあくまで「ある意味」ではという注釈つきであり、未読の方の期待に応えるようなアクロバティックなものではない。 二転三転するラストの急展開は、多少読み応えがあるものの、私にとっては全体的にイマイチな印象だった。点数は甘めにして5点がせいぜいである。 |
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