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【9579】 |
メルカトル (2017年03月01日 22時26分) |
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『おやすみ人面瘡』 白井智之 白井智之の新作と聞いて黙っていられない私は、さっそく書店に出向き本書をゲットしたのである。 読んでみると相変わらずの白井ワールド全開で、二十万人規模の人瘤病患者が日本中に蔓延しているという舞台設定となっている。 前二作に比べて、今回は纏まりとメリハリに欠けるきらいがあり、全体的にだらだらとした印象を受ける。だが、特殊な状況下における事件や解決にはそれなりの必然性があるので、その意味では体のいたるところに複数の人面蒼ができる病気を持つ人物が複数登場するが、その特異設定は生かされていると思う。 まあしかし、よくもこれだけ異常な物語を考えられるものだと感心させられる。さらに細かい部分まで神経が行き届いており、目立った瑕疵や矛盾は感じられない。ただ一部バカミス的な個所もあり読者を翻弄する辺りは、ご愛嬌といったところか。 エピローグではアッと驚く仕掛けも用意されていて、タイトルの意味も大いに納得できるものであった。尚、グロさは幾分抑え気味となっている。 |
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【9578】 |
メルカトル (2017年03月01日 22時20分) |
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『泣き童子 三嶋屋変調百物語参之続』 宮部みゆき さすがは宮部女史。流れるような筆運びとどこか温かみのある文体に乗せて語られる変調百物語の数々。謎というほど大げさではないものの、風変わりで不可思議な怪異はどれも結果的に腑に落ちるものばかりで、納得の連作短編集に仕上がっている。 第二話まで読んで、これは百物語というより何気に人情味のある不思議体験なのだろうと思っていたら、それ以降本物の恐ろしい物語に移り変わるので油断ならない。特に『まぐる笛』の圧倒的な迫力とスケールの大きさは、しばし他の物語を忘れさせるほどの衝撃を私に与えるのであった。 畢竟この作品は、時代小説というカテゴリーや百物語というジャンルを超えた、現代でも十分通用するホラーの傑作であると思う。 |
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【9577】 |
メルカトル (2017年03月01日 22時17分) |
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『秘密』 東野圭吾 バスの転落事故で母娘が共に危険な状態。結局母親が亡くなり娘は生き残るが、娘の肉体には母の魂が宿っていたという、安っぽい設定。だが東野圭吾が描くとそれなりに品格のようなものが備わってしまうから不思議である。 主人公は生き残った娘の父親平介で、妻の直子が乗り移った娘藻奈美との日常生活が微に入り細に入り描かれているが、それでも退屈しないのは彼の心理描写にいちいち説得力があるせいだろうか。 確かにミステリではないが、一流のエンターテインメントに仕上がっており、小説としての魅力は間違いなく持っている。ただ、事故の賠償責任問題や事故を起こした運転手の妻とのやり取りなど、若干もたついて中途半端な印象を受けた。しかしそれも後々ストーリーに影響しては来るのだが。 ラストは衝撃の事実が判明し、タイトルの意味が痛いほど理解できる仕掛けになっている。目立たないが東野圭吾の隠れた名作なのかもしれない。いや、別に隠れてはいないか。 |
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【9576】 |
メルカトル (2017年02月28日 21時38分) |
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『大誘拐』 天藤真 これは数ある誘拐物の中でも傑作の部類じゃないですか。 全体に緊迫感は感じられないものの、程よいユーモアにおおわれており、各キャラクターも個性的に描かれているのは好感度が高い。中でもやはり主人公のとし刀自は別格である。温かみがありながらも鋭い感性と頭脳の持ち主で、県警本部長の井狩とともに物語を引き締めながら引っ張っていく。 誘拐の過程そのものもマスコミを巻き込んで繰り広げられ、まさに「大誘拐」といった趣はタイトルに偽りなしと言えるだろう。その規模の大きさは前代未聞である。 またなんと言っても印象深いのは終章で、ストーリーに見合った爽やかさを残す、後味の良い締めくくりとなっている。誘拐犯たちも刀自もどこか前向きになれるような、それぞれの身の丈に合った生き方を予感させるラストが、何とも言えない救いを見いだせるのである。 |
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【9575】 |
メルカトル (2017年02月28日 21時36分) |
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『極限トランク』 木下半太 私こと耳原(みのはら)敏夫は走行中の車のトランクに全裸で閉じ込められていた。口にガムテープ、手足を拘束されて。さらに傍らにはハイヒールを履いただけの半裸の女が横たわっており、彼女は冷たくなっていた。こうした人生最大のピンチともいえる究極の状況から物語は始まる。 なぜ彼がこのような苦境に立たされなければならないのか、それはネタバレになる恐れがあるので詳しくは書けないが、彼の妻と娘が関係しているらしいのだ。 ストーリーは息苦しくなるようなトランクの中と、その原因を引き起こした彼の行動、妻との冷えた関係や二人の過去が目まぐるしく入れ替わり、濃密なサスペンスを生み出している。 さらに物語が進行するにつれ、意外な事件の全容が明らかになってくるという仕掛けである。 面白いのだが、あっさりし過ぎていて、粘着質な描写などは期待してはいけない。サラリと読んで、さっさと忘れるような軽い作品なので、過度の期待は禁物である。終盤にはどんでん返しとも呼べないほどの、ちょっとしたオチが現出するが、予測の範囲内であろう。 |
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【9574】 |
メルカトル (2017年02月28日 21時34分) |
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『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん5 欲望の支柱は絆』 入間人間 〈僕の脳波と波長を合わせたように、思考が湯女の声と言葉に肉付けされて表に出る。救援と攻撃からかけ離れた、愉悦の落水はどこまでも中立だった。〉本文より抜粋したが、この文章をどれほどの人が理解し、作者の真意をくみ取れるのだろうか。この作品、いやおそらくこのシリーズにはこうした湾曲した、或いは迂遠な言い回しが多分にみられる故、初読の際には十分気を付けられたい。 さて、いよいよ事件も佳境に入り、探偵が真相を明らかにするが、「そんな馬鹿な・・・」というのが正直なところだ。しかし、そう思わせた時点で半分は作者の勝ちだというのは初めから決まっているようなもので、少なくとも私はしてやられたのだと感じた。 この動機の詩的さ、無意味さは『虚無への供物』以来の衝撃なのかもしれない。だからこれは、三大奇書に並ばせるわけにはいかないが、ある意味ではそれらに匹敵する怪作といえるのではないだろうか。 |
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【9573】 |
メルカトル (2017年02月28日 21時32分) |
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『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん4 絆の支柱は欲望』 入間人間 シリーズの途中から読み始めるという罰当たりなことをしたせいもあってか、面白いのか面白くないのかが判然としなかった。ただ、ある人に『1』のあらすじを教えていただき、そのおかげで何とか違和感なく読めたのは幸いであった。 なるほど、ラノベ作家がクローズド・サークルものを書くとこうなるという、良い見本がこの作品なのかもしれないなと思う。しかしながら文体はかなり取っ付きにくいものである。その原因は地の文が比喩的表現に満ちており、一瞬頭の中で?が湧きおこることが多々あったためである。この辺りラノベに慣れない読者の不利さが痛いのだ。ラノベはもっと軽いものではなかったのか、いや軽いのは軽いのだが、そのライトさが他の作家と一線を画する形になっていることは間違いないだろう。 事件は当然起こる、連続殺人事件である。しかし、いわゆる素人探偵による捜査も、生き残った者が全員集まってのディスカッションもほぼカットされている。これで果たしてミステリとして成立するのか、回答は続編に委ねられる。というわけで、次巻完結編でまたお会いしましょう。 |
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【9572】 |
メルカトル (2017年02月28日 21時29分) |
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『緋い猫』 浦賀和宏 昭和二十四年の東京。プロレタリア文学好きの女子高生洋子は、学生や工員たちの集う喫茶店で、共産主義寄りのリーダー的存在である青年佐久間に惹かれていく。ところが、周りに恋人同士と認められた頃、彼は突如失踪する。洋子は青森にある彼の実家を訪ねるが、それが彼女の運命を狂わせることになるのだった。 というわけで、本格として登録されているが、サスペンスなので読もうと思っている方は(多分いない)、注意されたい。 まあ何となく既視感を覚えるストーリーだし、実際よくあるパターンの物語だが、それなりに新味があるのかと問われれば否と答えるしかない。帯には「息を呑む、衝撃的な結末!」と謳っているが、読者が期待している種類のものとは違い・・・おっとこれ以上はネタバレになるから書けない。 浦賀らしいと言えばそれまでだが、中身が希薄なのはお約束のようなものだ。主人公の洋子と共に過酷な運命を追体験すればそれで十分な作品だと思う。 |
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【9571】 |
メルカトル (2017年02月28日 21時26分) |
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『あやし−怪』 宮部みゆき 江戸の怪談話(勿論フィクション)を集めた短編集。全体的に暗い。怪談だから当然かもしれないが、その分雰囲気としては最高。ところが人間が生きている。生き生きしているわけではないのだが、ほとんどの登場人物に存在感があり、それはほんの端役に関しても言える。 江戸時代だからと言って、妖怪や幽霊の類はほぼ出てこない。やはり怖いのは人間そのものということだろう。 個人的にベストは『女の首』。この作品が最もミステリ的趣向が盛り込まれているからである。ホラーだけど話が理路整然としており、起承転結もしっかりしているので、読んでいて一番気持ちがよかった。主人公の太郎にもなんとなく感情移入できるところもお気に入り。 |
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【9570】 |
メルカトル (2017年02月28日 21時24分) |
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『おそろし 三島屋変調百物語事始』 宮部みゆき 第一話はかなり怖い、オチが素晴らしい。しかし残念ながら次第にトーンダウンしていく気がする。どれも今一つ捻りが足りないというか、ストーリーをすんなり落としすぎという感じがしてならない。 とは言え、文章の流麗さ、情感あふれる描写力、臨場感、どれをとっても一流と言って差し支えないだろうと思う。 ホラーとしては第一話を除いて、それほど怖さを感じないが、このシリーズはそういう問題ではないのだろう。人間の業の深さを鋭く抉り、その存在の儚さを幾度となく繰り返し指摘しているところを見る限り、宮部の怪談はその名の通り変調、変わり百物語だと言えるのではないか。 |
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