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【9719】 |
メルカトル (2017年03月15日 22時04分) |
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『Another』 綾辻行人 少なくともあとがきにあるような、新たな代表作とは言えないだろう。さらには、本作は本格ミステリではなくホラーだと私は思う。確かにミステリ的な要素もあるにはあるが、体裁としては完全なホラーだ。 全体的にどうもテンポが悪く、特に前半はもたもたしてややイラッとくるシーンもあったりする。それと、文末が・・・でや・・・てで終わる文章が目立ち、据わりが悪い感じがしてならない。読みやすいので忘れられがちかもしれないが、何か氏らしからぬ印象を受けるのである。 唯一ミステリらしさを発揮しているのがメインとなるトリックで、これは綾辻氏らしいと言えるだろう。ただ、伏線があからさま過ぎて見抜かれやすいという意見もあるようだが、私は騙された。まあそれで良かったのだと思っているけれど。 色々難癖をつける感じになってしまったが、ミステリではなく読み物として面白かったとは思う。しかし期待を上回ったかと問われると否と答えざるを得ない。 |
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【9718】 |
メルカトル (2017年03月15日 22時02分) |
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『人間の顔は食べずらい』 白井智之 疫病のため肉食が不可能となった日本で、公に人のクローンを工場で培養し、首を切断し出荷するという産業が興された。無論、食用である。当然他人のそれではなく、購入した本人のクローンだ。 そんな荒唐無稽な舞台設定のなか、その計画を押し進めた国会議員のもとに、本来梱包されないはずの生首が紛れ込むという事件が発生した・・・ 本作は、第34回横溝正史ミステリ大賞最終候補作であり、白井氏のデビュー作である。多少荒削りで全体的にまとまりに欠ける面もあるが、個人的には大変気に入った。なぜこれが大賞に選出されなかったのか、それは他にもっと相応しい作品が応募された、受賞作としての品位というか品格に欠ける、或いはその両方が挙げられる。おそらく二番目の理由だと思うが、大賞を受賞しても決しておかしくない傑作だと私は考える。 これは大変な大型新人が現れたものである。次回作も大いに期待したいところだし、本作を上回るような作品に出会えることを願ってやまない。 |
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【9717】 |
メルカトル (2017年03月15日 22時00分) |
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『ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』 内藤了 過去に猟奇犯罪を犯した犯人が次々と同じ手口で自殺する。しかも二件目は死刑囚で、独居房の中。果たして本当に自死なのか、殺人だとすると一体どんな方法で行われたのか。そんな中、幼女の猟奇殺人事件が浮かび上がる・・・ ある意味での真犯人も、トリックも目を瞠るようなものではない。よって、本格物を読み慣れた読者には物足りないだろう。なのにAmazonでのレビューが高評価なのは、おそらく個性的なキャラが目白押しなのと、主人公の比奈子に感情移入しやすいという理由が挙げられると思う。個人的には、ところどころ落涙ポイントが散りばめられているのが嬉しい点であった。他にはこれといって美点は見られないが、全体を通してまずまずうまく纏められている感じで、新人としては合格なのではないだろうか。 本作はシリーズ化される予定らしいので、次回作では期待を上回るような、斬新なトリックやさらなる猟奇的な殺人事件に真正面から取り組んでもらいたいと心から思う。 |
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【9716】 |
メルカトル (2017年03月15日 21時57分) |
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『拝み屋郷内 花嫁の家』 郷内心瞳 拝み屋とは一体どんな職業なのだろう。家内安全、交通安全、合格祈願、安産祈願、地鎮祭、屋敷祓い、先祖供養、ペット供養などを行うらしい。だが、その中のごく稀にとんでもない、およそ彼らの手に負えない代物が混じっていることがあるそうだ。この作品に収められている中編二作は、現役の拝み屋である作者が経験した、とてつもないまるで怪談のような実話である。 だが、これらは本当に実話なのであろうか。だとしたら、あまりにも非現実的すぎる。かといって、まるっきりのフィクションならば、これまた荒唐無稽すぎてわざわざ小説にはしないと思われるのである。いずれにしても、この二つの物語は怪談というより、ジャパニーズ・ホラーと呼ぶ方が相応しい。 最初の『母様の家 あるいは罪作りの家』のほうが私の好みである。ただし、物語のスケールが大きすぎて、人間関係が複雑なので、すべてを把握するのは一読しただけでは難しいと思われる。 中身に関しては読んでいただくしかない。とてもここで紹介できるものではないし、あまり書きたくないのである。なぜなら本気で障りがあるのではないかと心配するゆえだ。はっきり言えるのは、実話であるかないかに拘わらず、大変しっかりした小説であり、感動の物語であり、恐ろしい話でもあるということである。 |
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【9715】 |
メルカトル (2017年03月15日 21時56分) |
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『四段式狂気』 二宮敦人 「必ず4度ダマされる」と謳っているが、最初だけだった。あとはもうミエミエでほとんどの読者が想像している通りなんじゃないかな。意外な展開とは程遠い、完全なる予定調和的四段。それと、帯にはホラーミステリーとあるが、これはサスペンスだろう。視点が目まぐるしく変わることもあり、心理サスペンスと言えるのではないか。 今や、「狂気」を描かせれば当代髄一の作家である二宮氏なので、その観点からすれば確かに心理描写は優れていると思うが、最終的に破綻してしまうのはいつもの悪いクセのようだ。 ストーカーから始まる物語はいかにも安易で、安っぽいB級の匂いが漂う。ストーリーもいたって単純で、登場人物も少なく、ミステリ中毒者としてはかなり物足りない。やや辛めの採点でこの点数に落ち着いた。 |
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【9714】 |
メルカトル (2017年03月15日 21時54分) |
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『探偵の探偵』 松岡圭祐 硬質な文章、乾いた筆致、容赦ない描写、どれを取ってもハードボイルド以外の何物でもない。この手のミステリが好きな読者には堪らない小説だろう。 高校を出たばかりの玲奈はスマPIスクールという、探偵養成学校に入学するが、彼女は普通の探偵になりたいわけではなく、探偵そのもの、すべてを知りたいのだった。常に冷静だが、我が強く時に語気荒く目上の者にも意見する。というより、文句をつける。笑わないヒロイン、望まず孤独な立場に居座り続ける彼女。新たな女性探偵像の登場である。 一見魅力的なヒロインのようだが、どうにも感情移入しづらいきらいがある。他のキャラもそれぞれ個性的だし、よく描きこまれているが、どれも人間味に欠けるので、乾いた印象しか受けない。 ストーリーとしては、対探偵課という部署に新人の琴葉とともに所属し、悪徳探偵と命を懸けて戦うというものである。相手も相手だが、ちょっとやりすぎじゃないかと思うくらい、暴力的な探偵ではある。 ハードボイルド好きな読者は一度読んでみる価値はあるだろう。続編も来月に刊行予定だし、玲奈の活躍に乞うご期待といったところか。 |
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【9713】 |
メルカトル (2017年03月15日 21時52分) |
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『拝み屋郷内 怪談始末』 郷内心瞳 現役の拝み屋郷内氏が見聞きした怪談を、これでもかと詰め込んだ短編集。ショートショート的なものが多いが、結構な長尺もあり、それは自身の体験した物語がほとんどである。視えてしまう者の辛さ、拝み屋という職業の苦しみがよく伝わってくる。私は霊感というものが全くないので半信半疑だが、やはり霊とか魂など視える人には視えるらしい。 タイトルに「始末」とあるが、怪談を自らが始末する、つまり切って捨てるように終結させるわけではなく、あらゆる怪異を読者に開示することによって、供養になるという想いからこのデビュー作を書き始めたらしい。だから、我々読者がこの一つ一つの短編を読むことによって、初めて始末がなされると解釈するわけである。 肝心の中身はありとあらゆる怪異を集めた実話なので、巷に溢れる怪談集と何ら変わりはない。だが、その独特の語り口調は一読に値するものであろう。世間の評価が高いのも頷けるはなしではある。 |
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【9712】 |
メルカトル (2017年03月15日 21時49分) |
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『〔少女帝国〕』 矢部嵩 内容はともかく、まず非常に読みづらい。難読漢字にはふりがなをうつべき。例えば、肉刺をなんと読むか、フォークと読める人は多くないのでは。ところが本書にはただの一つもかなを振っていない。こんな小説読んだことがない。それと、会話文はともかく、地の文に読点が欠損しすぎており、一瞬どう読んでよいのかわからない文章がかなりある。これも不親切ではないだろうか。 前半は若干面白い部分もあったが、後半はまるでつまらない。どれほどつまらないかと言うと、『経済原論』と肩を並べるくらいつまらない。後者はとりあえずためにはなるが、この小説はためにもならないし。 SF的な展開なのは別に文句はないが、説明されていない事柄が多すぎるだろう。石でできた部屋に少女が一人ずつ閉じ込められて、それがドアを通じて延々と続いている、特別問題ない。さらに開拓が進められて一つの国が出来上がる、それもいいだろう。だが、自転車はどうやって作られたのだろう、或は種は誰かのポケットに入っていたとしても、畑の土はどこから調達したのだろう。何より、閉じ込められた目的は?誰が?どうやって?SFとはそういった様々な疑問点を無視して、投げ出してもいいものなのか。奇想だ奇書だと称賛する声もあるようだが、私には理解できない。 ミステリなら1点だよね。 |
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【9711】 |
メルカトル (2017年03月15日 21時46分) |
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『読みだしたら止まらない!国内ミステリーマストリード100』 書評家、千街晶之氏が選ぶ国内ミステリの必読書100冊。とは言え、いくつかの縛りを設けているため、各作家の代表作とは限らない、いわば裏ベストと言っても良いような作品が並んでいる。その並びを見ると、やはりいまいちピンとこない感は否めない。例えば島田荘司氏の『摩天楼の怪人』、京極夏彦氏の『嗤う伊右衛門』、麻耶雄嵩氏の『メルカトルかく語りき』など、選出に首を傾げざるを得ないのもかなり含まれている。それと、安孫子武丸氏が選出されていないのも疑問だ。 しかしながら、千街氏なりに吟味を尽くして精選しているのも、その苦心の末の選択もその心情は何となく理解できる。本格ばかりでなく、ハードボイルド、ホラー、SF、サスペンス、警察小説からイヤミスに至るまで、およそ考えうるすべてのジャンルを網羅しながら、選別しまとめ上げられた第二部では、ほとんどのミステリ関係の作家が挙げられているのには感心させられる。よくこれだけの作品を読破しているものである。 書評家として個人的に好きな千街氏のガイド本でもあるし、私としては好みの範疇から取りこぼしている作品を発見できただけでも購入した価値があったと思う。 |
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【9710】 |
メルカトル (2017年03月14日 22時31分) |
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『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』 桜庭一樹 これはミステリというより文学やね。うん、ラノベっぽいけど、やっぱり文芸作品だと思う。 それにしても票が割れてるねえ、まあ確かに好き嫌いがはっきりしやすい作品かもしれない。ミステリ性を求める読者にはかなり物足りないだろうし、一方そうではなく青春小説と割り切っての評価が許容できる読者には、むしろ好感度は高いと考えられる。 冒頭、いきなり二人のヒロインのうちの一人の末路が詳らかにされるが、これはどうなんだろうか。ミステリ的流儀では「なし」だね。だから、作者は最初からミステリを書くつもりはなかったのだろう。よって私はこれを文学作品と判じることになるわけだ。 ひとつ気になったのは、中学で飼っているウサギが惨殺された理由が推測でしか書かれていないこと。これがはっきりしていればもう1点評価が上がったかもしれないのに。全体の流れを損なってはいないと思うが、どうにも犯人の心情が掴めないのは気持ち悪い。 しかし、そうした瑕疵を些細なものにする美点が本作には息づいている。それはそこはかとない抒情性であろう。全編を覆う美しい抒情を読み取れるかどうかによって、評価は分かれることになるはずだ。強烈な印象はないものの、相当な佳作であるのは間違いないと感じる。決して少年少女向けのジュブナイルではない。 |
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