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【9799】 |
メルカトル (2017年03月24日 22時05分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『猫の時間』 柄刀一 猫好きのために編まれた短編集には違いありませんが、そこはミステリ作家が書いた作品のこと、日常の謎として広義のミステリと捉えることは決して間違いではないと思います。勿論、ミステリと断言するわけではありません。一般読者の方の多くは文芸作品として読まれると思います、それはそれで問題ないですね。 本作品集は、人間と猫が一生懸命繋がろうとする、触れ合おうとする、心を通わせようとする、そんな心温まる物語の数々です。大げさに言えば、その一つひとつに謎解きの要素が多少なりとも含まれています。 自分は犬派だから関係ないと思っている方もちょっと待っていただきたい、中には忠犬が活躍するお話もありますので、敬遠する必要はありません。 個人的には『ネコの時間』『旅するトパーズ』が好きです。また、ネタバレになりそうなので詳しくは書けませんが、最終話には作者の粋な計らいが見られ、心洗われる気分のまま読み終われると思います。 |
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【9798】 |
メルカトル (2017年03月24日 21時50分) |
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『八ケ岳「雪密室」の謎』 アンソロジー スキー好きのミステリ作家と編集者を集い、作家の笠井潔が主宰する第4回スキーツアーで遭遇した密室(殺人ではない)事件。 手記によると1998年1月17日、この日は記録的な大雪で都内でも20cm以上積もったそうだ。車3台と列車に分かれて八ケ岳に向かった一行だが、道中ちょっとしたアクシデントに見舞われながらも、何とかロッジに到着。その後鍵を部屋に置いたまま施錠せずに買い物に出かけ、帰ってきたら鍵がかかっていたという。勿論、鍵は部屋に置かれたままだった・・・。 問題編となるメインの手記は笠井潔、二階堂黎人、編集者の布施謙一が、それを補う形で、我孫子武丸、桐野夏生、貫井徳郎がそれぞれの立場で手記を載せている。また回答編に挑んでいるのは、鯨統一郎、柄刀一、霞流一(一が多いな)、斎藤肇、喜国雅彦(漫画家)の錚々たる面々。喜国以外の解答者は、ツアーとは関係ない人々である。 しかし、この問題編がどこまでがノンフィクションで、どこからがフィクションなのか全く分からないのである。上手く読者を煙に巻いている感じだが、それぞれの手記に矛盾はなく、キッチリと整合性は取れている。おそらくは大半が実際に起こったことを元に話は綴られているのだとは思うので、妙にリアリティがある。しかも、ご丁寧に何枚もの現場の写真を掲載しており、とても作り話とは思えない。 気になったのは、回答編の密室トリックが同じようなパターンに偏ってしまったこと。致し方ないとは言え、もう少しいろんなバリエーションがあっても良かったのでは、と思った。って言うか、誰かこれ読んでる?埋もれちゃって。 |
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【9797】 |
メルカトル (2017年03月24日 21時48分) |
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『公開処刑人 森のくまさん』 堀内公太郎 ふざけたタイトルに多くの方は「どうせロクなもんじゃないだろう」と思われているか、或いは無関心かのどちらかだろう。しかし、これが案外悪くない。私自身も、怖いもの見たさで読んでみただけだが、意外な拾い物をした気分である。 ストーリーはB級の匂いがプンプンする、どこか勘違いした正義の味方を気取った殺人鬼が、ネットを通じて「処刑」の対象を選び、次々と残虐な方法で殺害していくというもの。ありがちなパターンで、これといって新味はないものの、まずまずツボを押さえた力作に仕上がっているのではないだろうか。 無論、問題点もある。最も気になるのは、ところどころ三人称の文章なのに、視点が一人称になっている部分である。どちらとも取れる文体は、ややもすればミステリの作法に則っていないとのそしりを免れないのではあるまいか。これが本作最大の瑕疵だと思う。読者によってはルール違反であるとか、アンフェアと言われかねない。他にも、イマイチ登場人物に魅力がないとか、描写が足りないとか、背景などがほとんど無視されている、文章が素人っぽくプロの域に達していないなどが挙げられる。 だが、そんな欠点を考慮しても、一読の価値はあると思う。B級サスペンスがお好きな方は読んで損はないのではないだろうか。 |
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【9796】 |
メルカトル (2017年03月24日 21時46分) |
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『火蛾』 古泉迦十 難解な言語、イスラム世界の宗教観、貧しい修行者の連続殺人、これは激しく読者を選ぶ作品である。また、これほど書評が難しいものも珍しいのではないだろうか。とても気軽に読めるミステリではない、本作を読もうとする者はかなりの覚悟が必要になってくるだろう。 とは言うものの、文体はむしろ明快であり、なんら引っ掛かるような表現はないと思う。ただ、見たことも聞いたこともない単語が散見されるのみである。これがちょっとだけ厄介だが。 まあいずれにしても、これまで誰も読んだことのない類の超異色作ということが言えるのではないだろうか。謎も不可思議だが、謎解きがまた圧巻である。最終章も余韻を残しながら、良い雰囲気で締めくくられている。 |
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【9795】 |
メルカトル (2017年03月24日 21時44分) |
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『愛国殺人』 アガサ・クリスティー 翻訳物独特のしゃちほこばった文体が自分にはやはり合わないと、再認識させられた。とは言うものの、こなれた文章ではないにしても、決して読み難いわけではないと思う。ただ、なんとなく上滑りして、内容が頭の中にすんなりと入ってこない感覚を覚える。相当昔に翻訳されたというのも一つにはあるだろう。これを面白がって、感心しながら読んだ幼少期の自分を褒めてやりたい。既に私の灰色の脳細胞も老化現象が始まっていると思われる。 さて、事件は自殺か他殺か判然としない歯科医師の死体に始まり、かなり複雑な人間模様が繰り広げられる。途中まではさすがのポアロもお手上げ状態だが、ふとしたことから天啓を受け、そこからは一気に事件解決へとなだれ込む。途中顔を潰された死体も登場し、一見単純な入れ替わりかと思わせて実は・・・という、ミステリ読みの達人をも唸らせるようなさすがのトリックを弄したりして、クリスティの名に恥じない作品に仕上がっているとは思う。 やや真相が複雑なだけに、あまりインパクトがなくカタルシスも生まれてこなかったのは心残りだが、犯人の「愛国」心とポアロの信念がもたらす、表裏の心理を上手く表現するラストは印象深いものがある。 |
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【9794】 |
メルカトル (2017年03月24日 21時42分) |
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『砂漠の薔薇』 飛鳥部勝則 これは面白い。登場する人物が皆ネジが一本緩んでいるか、足らないか、それぞれ特異な性格をしているため、なかなか一筋縄では行かない変態的ミステリとなっている。 最初の事件は、二人の体型や顔立ちが似た少女が、一方は首なし死体となって発見され、片方は失踪するという、まるで横溝ワールドのような筋書きである。勿論、アプローチは横溝とは大きくかけ離れたものになっているが、骨組みは意外としっかりとしたミステリと言えそうである。しかしながら、妻が一瞬のうちに消えたり現れたりするなどの経験をする、精神病院に入院歴のある男の挿話が盛り込まれたり、或いは異端的な絵画の薀蓄が語られる等、独自の世界観を表出させる異色の作品でもある。 ラストの二転三転する展開は、個人的に好ましく読ませてもらった。ただ、最初の事件の頭部切断の理由が私にはいま一つ理解できなかったのが気になると言えなくもない。いや、理解できないというより、納得がいかないのであろうか。そんな理由で?って感じでね。だが、違和感を覚えた個所がほとんどが伏線となっている点や、紆余曲折するストーリーも、全体の雰囲気も決して悪くない。なかなかの作品だと思う。 |
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【9793】 |
メルカトル (2017年03月24日 21時41分) |
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『貸しボート十三号』 横溝正史 『湖泥』『貸しボート十三号』『堕ちたる天女』の中編からなる作品集。 『湖泥』は岡山が舞台で、二つの旧家が対立する中、それぞれの家の息子が一人の女性を巡っての諍いを繰り広げ、遂にはその女性の殺害という悲劇を迎える。横溝ワールド全開とまではいかないが、それに近いものが味わえる。また、女性の左目がくり抜かれているという猟奇的な一面も見られ、読者サービスにも余念がない。 個人的に最も気に入っている表題作は、貸しボートの中で男女の死体が発見されるのだが、それぞれ中途半端に首がのこぎり様のもので切られているという、一見意味不明な事件がメインとなっている。しかも男性のほうは下着一枚といういでたちなのだが、それぞれにちゃんとした意味があり、半端な首切りとほぼ全裸状態の理由が犯人を特定する手がかりとなっている。奇妙な事件の割には後味がよく、意外な展開を見せる佳作となっているのではないだろうか。 『堕ちたる天女』はトラックから落下した、石膏の中に塗り込められた女性の死体から端を発して、複雑なストーリーを展開する。ちょっとややこし過ぎて、全体像が掴みにくいのが難点で、多分すぐに忘れてしまうのではないかと思われる。 |
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【9792】 |
メルカトル (2017年03月24日 21時39分) |
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『親指さがし』 山田悠介 7年前の「親指さがし」というゲームの最中に突然失踪した由美、20年前山梨で起こったバラバラ殺人事件、この二件の出来事に果たして関係はあるのか、二十歳の武はかつてゲームを一緒に行った3人の仲間と共に山梨の別荘に向かい、事件の真相を探るが・・・というストーリー。 無駄を排した、読みやすい文章はいいが、まるで子供向けのような噛んで含めるような文体は、やや稚拙な感じを与えてしまうので、かなり損をしている気がする。それも手伝ってか、いかにも内容が空疎でスカスカな印象を受ける。プロットやストーリー自体は決して悪くないと思うのだが、何と言うか、濃密さに欠けるため、ホラーなのにあまりにサラッとしすぎていて、怖さが伝わってこないのが残念である。それが作者の持ち味と言ってしまえばそれまでだが。もし書き手がもっと熟練した作家であれば、かなりの傑作になったのかもしれない、そんな素材の良さは伺える。 まあしかし、ホラーやミステリ読みの手練れには受けないだろうが、一般の読者にとってはこれくらいの低刺激が程よくていいのかもしれないとも思う。 |
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【9791】 |
メルカトル (2017年03月24日 21時38分) |
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『そして扉が閉ざされた』 岡嶋二人 男女4人が核シェルターに閉じ込められるというシチュエーションには、どうしても緊迫した状況や差し迫った人間のむき出しの感情など、生臭いシーンが期待されるが、そうした要素はこの作品には無関係であった。だからこその本格ミステリということになるのかもしれないが、個人的にはいま一つ臨場感や圧迫感がなく物足りなさを覚えてしまった。 全体的に評価が高いが、私はそれ程までとは思えない。むしろ他にも岡嶋氏の代表作と言える作品はあるので、本作に関してはあまり思い入れとかはないのである。ただ、男女の微妙な恋愛感情やデリケートな言葉の遣り取りに関しては、非常に上手いと感心した。その部分についてはとても共感できるし、特に女性のセリフ回しなど、実際に使われていそうで、なるほどなと感嘆しきりである。そんなところばかりに目が行って、肝心のミステリとしての観点からはあまり感心出来なかったのが自分の情けないところなのかもしれない。 謎解きの論理的な点は評価されるべきだとは思うが、かなり絶望的な閉鎖状況なのに、4人とも比較的平静を保っているのは、私としてはちょっと違うんじゃないかと感じてしまった。だから、みなさんの評価よりは低くせざるを得ないのが、私の偽わざる現実なのである。 |
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【9790】 |
メルカトル (2017年03月22日 21時57分) |
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『編集長連続殺人』 吉村達也 雑誌『週刊A』の編集長が、就任13日目に事故死するという事件が立て続けに起こる。当然次の編集長は気が気ではない。そこで彼はサイコ・セラピストの氷室想介に助けを求め、一方、動き出した警視庁も氷室と共に捜査に乗り出すのだが・・・というストーリー。 比較的登場人物が多く、やや複雑になりそうな人間関係を上手く整理し、プロットの妙でスッキリとした流れを作り出しているのは相変わらずの手練ぶりである。それに対してトリックのほうは、かなり偶然に頼り過ぎの感が強く、そんなにうまくいくのか、という疑問が持たれるのはやむを得ないのではないだろうか。 ラストの氷室による謎解きのシーンは、本作最大の見せ場で、なかなか盛り上がりを見せており、それなりに読み応えもある。 しかし、個人的には推理を披露する氷室よりも、本職のサイコ・セラピストとして活躍するエピソードのほうにより惹かれる。作者としてはそちらはあくまで読者サービスなのかもしれないが、結構力が入っている気がしてならない。 まあ取り敢えず、本作は吉村氏の軽妙さと程々のトリックという持ち味を遺憾なく発揮した作品だと思う。 |
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