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【9689】 |
メルカトル (2017年03月12日 22時05分) |
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『悪夢の観覧車』 木下半太 異様に読みやすく、半端なく薄っぺらな誘拐サスペンス。 主人公の大二郎は、大阪天保山の観覧車を身代金目的の誘拐のために停止させ、ある整形外科医に6億円の身代金を要求する。また、各観覧車内にはそれぞれの家族や仲間と一緒の、怪しげな客が搭乗していた。 ストーリーとしてはまあ面白いが、描写が浅いため、スピード感は感じられても物語の深みは残念ながらないと言わざるを得ない。だが、終盤の展開はなかなかのもので、一気読みできるのは間違いない。どうやって身代金を受け取るのか、衆人環視の中どう脱出するのか、登場人物の意外な関係とは。それぞれ興味が尽きないが、あくまで軽く、そして笑いがあるいは苦笑いか、がふんだんに盛り込まれているので、どうしても作品としては軽んじられるのもやむを得ないだろう。 |
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【9688】 |
メルカトル (2017年03月12日 22時03分) |
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『約束の森』 沢木冬吾 妻を亡くした、元公安刑事が渋く、アクションは派手に活躍するハードボイルド。 主人公の元公安、奥野侑也はかつての上司から潜入捜査を依頼される。依頼の内容は海岸沿いのモウテルで、見知らぬ男女と三人で疑似家族を演じるという不可解なものだったが、のちにとんでもない災厄に見舞われることになる。 主役は奥野と、疑似家族を演じる若い男女の隼人とふみの三人だが、なんといっても目立つのが、警備犬(警察犬をレベルアップしたもの)になり損ねて、人間不信に陥っているドーベルマン、マクナイトだ。物語は、奥野とマクナイトの時に暖かく、時に泣ける交流を中心に進む。この元警備犬候補が周りの人間や、ふみが飼っているオウムのどんちゃんに、次第に心を開いていく過程は読んでいても心が和むが、肝心の謎の組織であるNや謎の人物スカベンジャーに関しての記述が、もやがかかっているような不透明感を感じる。はっきり言って分かりづらい。 帯には「一生手元に置いておきたい作品」と謳っているが、それは大げさすぎる。まずまずの出来だとは思うが、そこまでの傑作ではないだろう。誇大広告はやめていただきたい。 |
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【9687】 |
メルカトル (2017年03月12日 22時01分) |
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『アトポス』 島田荘司 長尺な割に、解決篇があっさりし過ぎている印象。だが、これだけの大作を冗長さを感じさせず、最後まで読ませる手腕はさすがだ。読者にもよるだろうが、無駄な描写は個人的にはあまりなかったと思う。 初読の際に印象深かったのは、冒頭のエリザベートのくだりと途中の魔都のエピソードだったが、やはりその二つの物語は今回読んでみてもインパクトという点において図抜けている気がする。 謎が強烈なだけに、その真相はやや拍子抜けというか、現実離れしている感が否めないが、それでも真実の「連鎖」は驚くべきものがある。いくつもの要素が偶然のように重なって奇跡的な様相を呈しているのに、いとも簡単に謎解きをしてしまう御手洗は、ちょっと人間離れしており、数多の読者を置き去りにしているような感が無きにしも非ずである。それでも本作は島荘ならではの傑作であり、しっかりとツボを押さえたシリーズの白眉と言えなくもない。 |
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【9686】 |
メルカトル (2017年03月12日 22時00分) |
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『バスジャック』 三崎亜紀 普通の感覚では絶対に書けない類の、ファンタジー短編集。ファンタジーと言っても決して壮大なものではなく、よくある日常の中に突如姿を現した異常や不可解を描いた、一種異様な物語の数々である。 例えば、町内に回ってきた回覧板の内容は、二階に扉を取り付けるようにとの指示。町内で自分の家だけまだ取り付けていないことを知った主人公は早速業者に依頼するが、その作業がまた一筋縄ではいかない。 或いは、マネキンとも人形ともつかない者と同居する人たちが共同生活をしているアパートに、母を訪ねてきた少女。彼女と「その人たち」の行く末とは。 といった、意味不明とも取れるストーリーが次々と展開する。だが、それぞれが決して絵空事ではなく、しっかりとしたリアルさを伴っているところがまた厄介だ。読者の想像の斜め上をいく奇想を持った短編集は、力強く我々の心をえぐるように食い込んでくる。 |
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【9685】 |
メルカトル (2017年03月12日 21時59分) |
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『虹の歯ブラシ』 早坂吝 下ネタに特化し、そこにトリックを絡めるという、新ジャンルを開拓した功績は大きい。本格ミステリではこれまであまり下ネタに触れることがなかったため、付け入る隙は小さくないだろう。そこに目を付けた作者の着眼の良さは褒められるべきだと思う。 しかも、下品と取られる前に本格として十分に機能しているため、品格を重んじるプロはだしの評論家たちにすら有無を言わせぬだけのポテンシャルを保持しているのは素晴らしいことであろう。 だが、最終話は賛否が分かれるところではないか。度重なるどんでん返しに驚嘆し、もろ手を挙げて賛辞を捧げる人も多いだろうが、その反面安易なメタに逃げているとの誹りを浴びせる読者も少なくないと感じる。私はどちらかと言うと後者だが、それでも本作の評価を著しく下げるわけではない。ただ、それまでの展開とあまりにかけ離れているため、違和感を覚えるのは確かである。 最後に、前作の書評で氏は一発屋の可能性が高いと私は述べたが、どうやら私の見解が間違っていたようだ。早坂氏とファンの方々にお詫びしたい。 |
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【9684】 |
メルカトル (2017年03月12日 21時57分) |
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『スープ屋しずくの謎解き朝ご飯』 友井羊 スープ屋しずくのマスター麻井が、朝訪れる女性客の、ささやかな日常の謎を解き明かす連作短編集。 なんとなくソフトタッチで、読み心地は悪くないのだが、ミステリとしていささか弱すぎる。友井氏の前二作を私は買っているが、これはいけません。特に最終話は過去と現在が交錯するのだが、正直何がどうなっているのか理解するのに苦労した。端的に言うと読みづらいのだ。 ただ食事、特にスープに関する描写はそそられる。素材にこだわって、いかにも身体に優しく、滋味深い感じのするスープやポトフなどは、一度でいいから食べてみたい衝動に駆られる。しかし、いくらこういった作風が現在のトレンドだと言っても、肝心のミステリの部分がないがしろにされているようでは、それこそ本末転倒なのではないだろうか。もういい加減、似たようなシチュエーションの日常の謎を扱った作品はいいんじゃないかな。そろそろ、本格に戻る時期が来ていると思うのだが。 |
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【9683】 |
メルカトル (2017年03月12日 21時55分) |
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『天久鷹央の推理カルテII』 知念実希人 前作に続き、天医会総合病院副院長にして、統括診断部部長天久鷹央が活躍する、連作中短編集。二短編と一中編という構成だが、いずれも舞台は天医会病院であり、事件は殺人事件というわけではない。どれも医療が関係した、不可解なものだ。 鷹央のキャラは相変わらず際立っているが、残念ながら今回は他の人物の影が薄い。それはいいが、本作の最大の欠点は医学に関する専門知識がないと、いずれの謎も解けないことだろう。医者や看護師でなければ、謎解きに参加できないのは、ややフェアさに欠けるとの意見も上がるかもしれない。 だが、そんな欠点を補うだけの面白さを持った作品集ではないかと私は思う。特に最終話はかなり切ない。そんな要素がミステリに不可欠とは言わないが、一篇の小説として魅力的だとは言えると思う。 |
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【9682】 |
メルカトル (2017年03月12日 21時52分) |
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『さよなら神様』 麻耶雄嵩 麻耶雄嵩としては大人しめな感じがする。正直期待通りかと問われれば、否と答えざるを得ない。 主人公の周辺で次々と起こる殺人事件、とても小学生とは思えない大人びた会話、相変わらず現実味をシャットアウトしたプロットは、本領発揮と言えよう。アリバイ崩しも、動機なども一筋縄ではいかない辺りはらしさが出ている。 一方、途中で明かされるある仕掛けは、予想通りであった。実は1ページ目から怪しいと思っていたが、まさか的中しているとはね。ちょっとみえみえな気もするが。 ラストはやや意外な展開ではあったが、麻耶氏くらいになれば当然とも言えるだろう。 それにしても最近、連作短編ばかり読んでいる気がする。これも時代ゆえなのか。 |
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【9681】 |
メルカトル (2017年03月12日 21時50分) |
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『体育館の殺人』 青崎有吾 平成のクイーンの名は伊達ではない。面白味には欠けるものの、端正なロジックを積み重ねて真相に迫る作風は、現在の軽いミステリが蔓延しているシーンに一石を投じる意味で貴重と言える。 一本の傘から、これだけの推理を展開させて一人の女生徒を救い、密室を打ち破る手法は見事の一言に尽きる。そればかりか、久しぶりの「読者への挑戦」を挿入している辺りは作者の自信と意気込みを感じる。 ただし、登場人物が多すぎて頭の中で整理が十分つかないのはマイナス要素か。これは読者にもよると思うが。私のような頭の弱い者にはちょっと辛かった。 さして勉強もしないのに群を抜く成績を上げ、天才的な探偵能力を発揮する一方、アニメオタクで自堕落な生活を送る高校生探偵は、魅力的とは思うが、やや双方向に極端すぎる気もする。 いずれにしても、これだけらしい本格ミステリを今読めるというのは、幸せと言えるだろう。 |
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【9680】 |
メルカトル (2017年03月11日 21時52分) |
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『映画篇』 金城一紀 さまざまな映画にまつわるエピソードを絡めた、青春、恋愛、アクションなどの短編集。 ミステリではないので、本来書評は差し控えるべきところだが、なぜか登録されていたので少しだけ書こうと思う。 なんと言っても最終話『愛の泉』が素晴らしい。祖父の一周忌を迎えるにあたって、落ち込んでいる祖母を何とか励まそうと、孫の「僕」が祖母の思い出の映画をどこかの劇場で上映しようと奮闘する姿を生き生きと描いている。「僕」のいとこも個性豊かな面々で、それぞれが非常によく描き分けられている。 また、映画がテーマになっているだけに、どの短編にも少しずつだが数多くの映画が紹介されており、例えば『愛の泉』ではいとこのリカが一番好きな映画は『天空の城ラピュタ』と言っていたり、主人公の映画オタクの友人に『ローリングサンダー』のDVDを26回観たとか言わせたりしている。私もこの二作はかなり好きだが、26回は多すぎるだろうと思わず苦笑してしまった。 まあとにかく、この中編『愛の泉』だけでも読む価値は十分あると思う。他はそれなりの出来だろうか。 |
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