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【9599】 |
メルカトル (2017年03月03日 21時54分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『一八八八切り裂きジャック』 服部まゆみ 読んでも読んでも終わらない。文庫で770ページの大作、しかも文字が新聞のように細かいので、一般の文庫本なら軽く800ページは超えているだろう。だが、決して時間の無駄ではなかったとだけは言っておこう。 これだけ長尺なのだから、切り裂きジャックに関する考察や人物像の構築がふんだんに見られるのかといえば、そうでもない。ストーリーは主に主人公の柏木が霧のロンドンで体験する冒険譚を中心に進行し、切り裂きジャックによる犯行そのものにはあまり触れられていない。だが、当時の世相やかの地の生活ぶりなどが事細かに描かれており、なかなか面白い。さらにはエレファント・マンやバーナード・ショウ、森鴎外などなど実在の人物が多数登場し、その意味でも読みごたえがある。 印象深いのはエピローグで、芳しい文学の香りがそこはかとなく漂って、物語の締めくくりにふさわしいものになっていて好感が持てる。 |
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【9598】 |
メルカトル (2017年03月03日 21時52分) |
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『クリーピー』 前川裕 怪しい隣人をはじめ、主人公の周囲に様々な事件が起こりすぎて、全体的にまとまりがなく、どこを主題としてストーリーを進めていくのかが不透明に。それぞれの事件はさして複雑ではないが、構成が巧妙とは言えずどう展開していくのか予測がつかないため、読んでいて不安定な気分になってくる。そこが作者の狙いなのかもしれないが、心地よいとはあまり思えない。これはマイナス要素ではないだろうか。 結末は意外性があって面白い。個人的には好みではあるが、そこに至るまでがやや煩雑で明快さに欠けるため、万人受けする作品とは言い難い。 |
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【9597】 |
メルカトル (2017年03月03日 21時51分) |
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『ヒポクラテスの誓い』 中山七里 法医学教室での人間模様と、一見事件性がないように見える遺体を司法解剖し、そこから見えてくる真実を緻密なタッチで描いた連作短編集。佳作である。 主役は単位不足のため法医学教室に送り込まれた真琴、傲慢で我が道を行く解剖の天才光崎教授、外国人なのに日本語が堪能なキャシー准教授の三人。そこにおなじみの古手川刑事が絡んでくる。 どの短編もレベルが高く、単純に思える事件が司法解剖を行うことにより意外な事実が浮かび上がってくるところは共通している。専門用語が散見されるが、医学に詳しくない一般の読者にも比較的理解しやすいように書かれており、しかもその結末は様々な意味でのカタルシスを生み出すのだ。さらに、解剖に反対する遺族をいかに説得するかも、読みどころであり、サスペンスフルな展開となっている。 中には涙を誘うシーンなどもあり、物語は意外に起伏に富んだものが多く、読者を惹きつけて離さない魅力に溢れている。この辺りはさすがに中山氏の本領を発揮していると思われる。 |
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【9596】 |
メルカトル (2017年03月03日 21時49分) |
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『桟敷童の誕』 佐々木禎子 物語は天城という青年が関口に弟子入りしたいと、関口邸に押しかけ、それを京極堂に相談するところから始まる。天城の一族は劇場をいくつも経営しており、そこには度々桟敷童という妖怪が現れると言う。「その人形は僕が祓うようなものではない」と京極堂は言うのだが・・・ 正直、妖怪云々はまやかしだし、一応殺人事件は起こるのだが、これがまた地味で妖しくもなければ謎めいてもいない。真相がわかってみれば脱力感は拭えない。 では何が面白いのかといえば、京極堂、榎木津、関口、木場のそれぞれのキャラが際立っているのと、彼らの絡みが「いかにも」な感じがして懐かしさを覚えるのである。残念ながら京極堂は脇役みたいなもので、主役は榎木津であり、どちらかというと百鬼夜行シリーズよりも百器徒然袋に近いかなと思う。それにしても、こうしたパスティッシュを読むたびに本家の新作を読めない一抹の寂しさに襲われる。 |
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【9595】 |
メルカトル (2017年03月03日 21時47分) |
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『屋上の道化たち』 島田荘司 さすが島田先生、群を抜くリーダビリティで一気に読ませます。 全編を覆うコミカルな雰囲気と連続墜落死という不可思議な謎の対比、それに並行するように寄り添うしがないサンタクロースのティッシュ配りの思いがけない展開、何かとついていない男の苦行。これらが混然一体となって一つの収束に向かうプロットは、島荘の本領を発揮していると私は思う。 ただ、トリックには確かに無理があるし、あまりに偶然が重なりすぎており、さすがに手放しで称賛するわけにはいかない点も多い。それも含めてのこの点数である。甘すぎるかもしれないが、往時の重厚な雰囲気の欠片も感じられないが、それでも本作にはどこか憎めないところがある気がしてならない。 作風はずいぶん変わってしまったが、御手洗だけはあの頃と変わらないのが嬉しいのである。 |
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【9594】 |
メルカトル (2017年03月03日 21時45分) |
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『鈴木ごっこ』 木下半太 厳密にはミステリと呼べるかどうかわからないが、骨格はそれに近い。これがとにかく面白い。 それぞれ2500万の借金を抱えた4人の男女。彼らは半強制的に一年間鈴木として生きることで、借金を帳消しにしてくれるという話に乗る。37歳の主婦、小梅(仮名)は仮の家族のために一生懸命美味しくバランスの取れた食事を作る。男たちは何をするわけでもなく、家族ごっこを続けるのだが、どういうからくりで借金が消えるのかが分からない。そこに借主からある指令が下る。 それぞれのやむにやまれぬ事情を背負った彼ら、ややもすると暗い話になりそうなところを、ユーモアやくだらないギャグで相殺している。なので、読んでいて肩が凝らない。 しかし、結末はかなりブラックである。しかも最後の最後で叙述トリックが仕掛けられていることが明かされ、二度びっくりすることになるのであった。 |
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【9593】 |
メルカトル (2017年03月03日 21時44分) |
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『死の命題』 門前典之 雪で閉ざされた山荘というクローズド・サークルものにありがちな、前半はやや退屈で殺人が起こるまでが長い。探偵の蜘蛛手が登場するあたりから、俄然面白くなるのでそれまでは我慢が必要か。 かなり以前の作品とは言え、携帯電話はすでに普及しているはずだが、6人のうちだれも携帯していないのはやや不自然な気がする。他にも探せば不自然な描写がみられるかもしれないが、極力整合性を保とうとする姿勢などに苦心が感じられる力作だとは思う。 バカミスとの声が多いが、私は意外とそうでもないように感じる。確かに真相はそんな無茶なと思うが、それを言い出したらキリがないので。それにしても巨大カブトムシの亡霊の正体には戦慄を覚える。これほど意外な奇想はそうはお目にかかれない。よって、それだけで高得点を与えられる資格を持つものと、個人的には信じたい。 |
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【9592】 |
メルカトル (2017年03月03日 21時42分) |
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『犬は書店で謎を解く』 牧野修 さて本作、冒頭でいきなり飼い犬とその主人の中身が入れ替わってしまう。そして悪かった性格が一変し、すこぶる素直で真面目に変身してしまう主人公の萩兎(中身は犬)は書店に雇われ、犬のハギト(中身は人間)とともに謎を解いていく。 タイトルから受ける印象は日常の謎以外何物でもないが、違った。事件は放火、盗撮、誘拐など多岐に亘るが、その割にとても薄味である。一応ミステリとして形にはなっているが、どこか物足りないというか、食い足りないのである。 一つなるほどと思ったのは、忠犬が人間になるとこんな感じなのか、確かに犬は人間の持つ醜さとは無縁なので、無垢で勘ぐることを知らない人間になるんだなあと。 この手の作品は最後にはまた入れ替わりが起こり、元に戻るのがお約束だが、本作はその方法もストーリーの中で自然に成され、違和感がない。後味も悪くはなかったが、まあ毒にも薬にもならない感じだったのがやや心残りだった。 |
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【9591】 |
メルカトル (2017年03月03日 21時40分) |
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『ブラッド・アンド・チョコレート』 菅原和也 結論から言うと、面白かったし特にトリックに関して新味と感じられる部分があり、高得点は必至かと思う。また、青春ミステリとしても見るべきところが多く、その意味でも一読の価値はあるのではないかと思われる。 前半部分で殺人は起こるが、それまで退屈することはなく、怪しげな超能力者たちが現れ、彼らは果たして本物なのかという興味を惹かれることに。その超能力研究機関という舞台がトリックを可能にする一種の装置となり、また新興宗教に近い団体として作品そのものの雰囲気づくりに一役買っているのも計算づくであろう。 ただ、全体としてストーリー展開が何となく読めてしまうので、意外性という意味では若干物足りないというか、いわゆる予定調和的になってしまっているのがややマイナス点だろうか。 |
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【9590】 |
メルカトル (2017年03月02日 22時04分) |
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『陽だまりの偽り』 長岡弘樹 これこそ良作揃いの短編集だと思う。スケールの大きさはないが、それぞれの主人公の心の揺れが手に取るように分かり、気の利いたささやかな反転も味わえる。 ただ、あまりにあからさまな伏線がいくつか見られ、ミエミエの展開は少々うざかったりもした。でも、丁寧な文章と救いのあるオチは心温まる印象が残る。 また、この作者は様々なハンディを背負った人物を描くのが上手いようで、憐れみを誘うのではなく、ありのままを付かず離れず描写することにより、逆に読者の関心をとらえて離さない魅力を控えめに主張しているように思う。 |
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