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【9429】

次は侍ジャパンですね  評価

mixtra (2016年10月31日 02時41分)

 メルカトルさん、今晩は。
 みーまーあらすじ、ラスト(計10) 
 これにて終了しましたので投函します。
 長らくお待たせしました事、お詫び申しあげます。始め〜中盤の抜粋、それに伴い4・5巻の欠けたアンフェアな部分を補完しました。

>投手の替え時

 そうですね、特に中継ぎですね。
 片や1イニング固定で固執した緒方監督、片や調子の悪い投手は先発であろうとさっさと見切りをつけた栗山監督。大谷投手を最後に無理に投げさせなかったのも、却って良かったと思います。
 緒方監督は半ばドサクサに紛れて栗山監督と合意の上で『完全予告先発(日本シリーズはルール適用外)』を成立させましたが、あれは緒方監督会心の『対大谷投手対策』発動の機会を確定させる策略で、物の見事に1戦、更に余勢をかって2戦と勝利しています。…まあ、無くても僅差で勝利していたと思いますが。
 ただ、策略はここまでの様でした。

>『みなさんのおかげでした』とかのバラエティ

 そこまで低迷していますか。
 27時間テレビの深夜枠だけ好きなので毎年録画していた為、SMAPの話はタイムリーに知りましたが…。『とんねるず』も低迷となると、視聴者の求める番組自体何なんだ?という話にもなりそうで。フジの民放側の作り方がおかしいのでしょうか。深夜枠はたまに面白い番組が転がっていたりします。

>ハムカツ
>しかもうどんとごはんを一緒に食べていた

 アレ?ハムカツは関西文化と聞いていましたが、そうでも無いのですか。
 うどんとごはん、は自分もカルチャーショックでした。炭水化物をオカズに炭水化物を食べる不思議さです。うすくち醤油ならイケるのでしょうか。

>ミスの多いシリーズ

 日ハムはバッテリーエラー、広島は攻撃と継投ですか。ただ、回数の割に試合自体が崩れなかったのが、今回のシリーズの不思議さを象徴していたかと思います。

>大食いの秘訣
>食べる量は減らしているのに一向に痩せない

 大食いについては小林尊さんの例を出してみます。
 小林尊さんは全米ホットドック大食いチャンピオンで、パフォーマーとしても活躍されている方です。体型は筋肉質ながら細身な方ですが、咀嚼力を上げる為に顎を、代謝を良くする為にボディービルを行いました。そして当時の記録を2倍(25個→50個)に更新して大人気になり、更にメジャーリーグの始球式に呼ばれた際に137kmを計時しています。
 又、胃腸は遺伝的なものもありますが、食生活(欧米の食生活だとタル型になってしまいやすい)や食べ方(良く噛むなど)が大事と言われています。

 痩せるには代謝ですかね。体脂肪を測れるものがあれば良いのですが、代謝はアンチエイジングも兼ねますから、とりあえずラジオ体操から始めるのが一番良いと思います。

 結局、当たり前な事しか言ってないのですが、女性のダイエット文化が長年進化しないのは、基礎が大事だという事に相違ないのでしょうね。

>ケンカの原因

 ウチは姉弟喧嘩については歳が離れていたのであしらわれていたのが現状でした。親父が諸悪の根元なのと、途中で従兄弟(巨人ファン姉弟)と暮らして度々、寺内貫太郎一家な事があった位です。

 歳が近いと服のお下がりやらおやつの量やらチャンネル権やら遊び方やら部屋の所有権やらでぶつかる機会は多くなりそうですよね。
 もしかしたら、こんな話で幾つか懐かしい思い出エピソードが甦れば良いのですが。…悪い方思い出されると困ってしまう(笑)

続きます
【9428】

みーまーあらすじ、ラスト(終)10  評価

mixtra (2016年10月31日 00時03分)

 そして、御園マユは、人を殺した。
 かつての誘拐事件を、犯人その他を殺人事件して解決したのがマユだ。
 最初は、自分の両親。
 誘拐犯のオヤジはどうしてあんな行いに出たのか。いや、それは誘拐という狂行に踏み切ったところから、本人以外には理解不能なんだろう。ただ、僕は1つだけ、そんな犯人を見て理解したことがある。
 人間が最高に物事を楽しんでいるときの笑顔は、醜悪の一言に尽きるものだと。
 1年近く監禁が続いていれば、人を傷つけることが前提の遊戯なんて一通りやり尽くしてしまう。飽きていたのかもしれない。で、皮肉にも犯人とマユのご両親は仲良しさんだった。感情が壊死寸前のマユをもっと遊び尽くすのに、丁度良い刺激剤になると、犯人は思ったんじゃないだろうか。
 人の良いご両親を自宅に招き入れ、身柄を確保。そして、誘拐犯はマユに両親を殺すように強制した。そうしなければ、僕とマユの両方を殺すと脅して。久方ぶりに感情の高まったマユは当然の様に泣いて嫌がった。その期待通りの反応に犯人は大層興奮していた。けど10秒で鬱陶しくなったのか、マユの腫れ上がった顔面を思いきり蹴飛ばした挙げ句、用意した肉切り包丁で太股を赤く切り裂いた。マユ本人より、両親の悲鳴の方が僕の耳には響いた。
 復活してしまった感情は痛みの意味を思いだし、マユには犯人の指示を全うするしか保身の方法が無かった。そして、そのあたりで僕は目を覆い隠された。誘拐犯の妻の両親に基づいて。見ちゃ駄目だって。だけどその覆いは不完全で、指の隙間からその光景がうっすらと覗けてしまった。それを指摘する唇と歯は震えて、使い物にならなかった。
 誘拐犯が、身体の部位を下劣な声で呼ぶ。そうすると、一拍置いて悲鳴と、鈍い音が重なって聞こえてくる。そして、目を覆わなければ心がどうにかなってしまいそうな、非現実な包丁の使われ方。それから目を逸らすことも、瞑る余裕さえも僕からは失せていた。
 僕まで叫びだしそうなぐらいに恐怖にかられて、だけどうるさかったらこっちも殺されてしまうかと思って、必死に堪えた。下唇が千切れそうなほど前歯を食い込ませて、両手で耳を塞いだ。それでも、響きが減っただけで音を完全に遮断することは出来なかった。唇から流れてくる血の味にも恐れを抱いた。
 そして、複数の悲鳴と、最後に聞き慣れた醜く野太い声がして、音が一端止んだ。
 全ての音が止んだとき、効果を果たせていない目の覆いが取れた先にあったものは、床に倒れ伏した誘拐犯共、原形を留めていないマユの両親、そして液体を身体と包丁から滴らせた猫背のマユ、計5名の姿だった。
 どうしてこんな景色が広がっているのか、僕は目で見て耳で聞き取っていたのに、理解することを心が頑なに拒否した。
 マユが、殺人という手段で事件を終わらせた。
 それをマユは覚えていない。
 僕に刃を向けたことも。
 僕は反則で生き残った。庇い、助けて貰ったのだ。
 誘拐犯の妻に、だ。
 
 
 以上、
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』
 1巻序章〜中章、約50頁より
【9427】

みーまーあらすじ、ラスト  9  評価

mixtra (2016年10月31日 00時00分)


 回想が自動的に起動された。
 ごくごく平凡な家庭に生まれた。家は田舎の土地持ちで無駄に敷地が広い。酔っ払った父親が良く一緒に飲んでいた良いどれ爺を泊まらせに連れてきていたが部屋はいつだって余裕があった。二階建てでB1まである。そんな家での五人家族の暮らし。兄は2つ年上で子供の頃から髪を金色に染めていた。派手な外見ながら外では遊ばず本の虫で蔵書を収めた部屋に布団をおいていた。彼が食卓で本の内容以外の話をしたことはない。妹は4つ年下で僕たちとは母親が異なる。癇癪が酷かった為に家族内でいつも煙たがられていた。お守りは殆ど僕がこなしてその返事は暴力が大半だった。彼女に一度も笑顔を向けられたことはない。母親は2人。最初の母は僕を産んで3年後に死んだ。理由は覚えていない。ただ顔が背中を向いて横たわっていた母親の姿を朧気に記憶している。腕と足の間接も不自然に追加されていた筈だ。それから2年後にお腹を大きくした女性が家で暮らすようになった。式も挙げずに婚姻だけした女性は3か月後に妹を産んだ。兄は妹と妹の母親には一言も口を利かず段々と孤立していった。そして夏休みを控えた終業式の最中に体育館の天井から飛び降り自殺を果たした。葬式には僕と父しか参加しなかった。妹と妹の母親は気兼ね無く家で暮らし始めた。兄が死んだ時に5歳を迎えた妹は毎日外へ遊びに行って泥と土と擦り傷にまみれて帰って来た。妹は山の動物を殺す遊びに熱中していた。そしてある日を境に帰ってこなかった。僕と妹の母親だけで供養した。そうして家には僕と父親と妹の母親だけになり、
 8年後には、僕だけが残った。
【9426】

みーまーあらすじ、ラスト  8  評価

mixtra (2016年10月30日 23時57分)


 僕の全てが見合わせたように停止した。
 黒い傘、黒のセーター、黒のスカート、黒の厚底靴、黒い帽子、黒髪。
 際立ち人目を惹く格好、そして蒼白の肌。
 御園マユが立っていた。
 僕かマユのどちらかが歩み寄り、距離を30センチ程度に詰めた。
 僕とマユのどちらかが口を開き、言葉を発した。
 嘘つきと、どちらかが言った。
 そう、僕は嘘つきだ。
 スイッチが入った。
 逆方向に、無理矢理。
 「尾行してたの?」
 何かが復旧した。これは僕の言葉だ。
 マユは無言で、腕を振り上げる。平手ではなく、握り拳。殴るのだろう、と理解できるほど緩慢な動作。僕に避ける気が無いとでも思っているのか。口の中の物を噛まずに喉を鳴らして飲み込む。
 「まーちゃんは嘘つきだねえ」
 殴られた。握り拳は僕の頬から前歯に当たり、皮膚を破った。
 御園マユの手に、また傷が1つ増えた。
 「探偵ごっこは楽しかった?」
 再度殴られた。目深に被った帽子の奥の瞳は石みたいだった。
 マユの握り拳には、赤色の血と、紅色のルージュ。消してはいけないものは、描き、命じた本人の手によって消去された。
 「なに、あれ」
 「あれ呼ばわりは駄目だよ目上の人を」
 こめかみを傘で殴られた。
 違うんだよまーちゃん、あれは君の罪を暴く人だよ。
 だから浮気とかそんなもの関係ないんだよくだらねえ。
 「なんで笑うの」
 人間にそんな質問するなよ。
 「私といるときは笑わないのに」
 「…………………………」
 ああそうか。
 嫉妬、してるのか。
 そう嫉妬。僕が嫌いな感情。
 懐かしいなあ。
 あははははは。
 笑ってみた。
 殴られた。
 抱き締めた。
 突き飛ばすように僕の二の腕を押して、マユが距離をとった。
 「あの女の臭いがする」
 上社奈月の匂いを嗅いだことがあるっていうのか。
 ああ、あるかもね。
 「こんなのみーくんじゃない」
 「…………そう」
 それだけで、
 僕は、みーくんじゃないんですか。
 優しくなければみーくんじゃなくて、
 いつでもまーちゃんの相手をしていなければみーくんじゃなくて、
 他の誰かと触れ合えばみーくんじゃなくて、
 みーくんじゃなければ、僕じゃないってか。
 「なるほど」
 ぐるっと見渡す。
 金網。
 金網か。
 低いなあ。
 きっと前例がないから、対策のたてようがないんだ。
 ぐるっと首を捻ってマユを見た。
 「これは君のためだったんだよ。君のためだから、やむを得なかったんだよ」
 うそだけど。
 うそだけど うそだけど うそだけど うそだけど
 嘘だけど。
 「バー力」
 その通りだ。
 「嘘つき」
 その通りだ。
 「死んじゃえ」
 
 その通りだ
 
 「えっ?」
 
 金網に片足と手をかけ、それを軸にして跳び跳ねる。フェンスの最上段を掴み、身体を引っ張りあげた。
 足を上部にかけると、世界は安定性を放棄した。
 「ばいばい」
 誰かが何かを口にする前に、僕は境界を飛び越えた。
 人生で最も枷の外れた時間のはじまり。
 頭から落下していく。
 血の気が引いて、
 空の音を聴いて、
 それから、
 
 あ、紐つけ忘れた。
 
 僕は死んだ。
 

断章
 10人目『トイカケルサツジン』
 今回は犯人の都合によりお休みします。
【9425】

みーまーあらすじ、ラスト  7  評価

mixtra (2016年10月30日 23時54分)

 「勿論、空いた時間に行っているから偏りが見られる……それはつまり、二件を起こした1ヶ月間に、生活の状況が変わったということですよね?」
 「質問系の語尾で締め括られても返答に窮します」
 失礼、と口の端に薄ら笑いを浮かべる対面の相手。
 「こんな時期に新しい生活環境を迎えるなんて変わってますね、犯人」
 まるで僕の名前が犯人であるような言い方だな。
 奈月さんが文字紡ぎのための口を休める。店員が注文のココアを運輸してきたことに配慮しているらしい。自分の注文でないに拘わらず店員に会釈をした。
 置かれた白磁のカップを取り、縁に口をつける。
 「ココアがお好きなんですよね」
 店員が離れるのを見届けてから、発生を再開した。
 「恋日先生に聞いたんですか?」
 「いいえ、みーさんの叔母様にです」
 死角から予想外の人名が飛び出した。
 「実はみーさんの叔父様と叔母様には面識があるんですよ。田舎の横社会の繋がりは面白いですね」
 「…………………………」
 「みーさんのお話をよくされますよ。平日は夜勤が多くて、休日はみーさんが外出してることが多いから触れあう機会が少ない、と嘆いていました」
 「それは、僕も反省すべきですね」
 「それと、夜中に家を空けるから深夜外出を止めづらい、ともおっしゃっていましたね」
 奈月さんの台詞が、16ピースの安いパズルを埋めていく。
 示される絵は明白なのに、焦らすように丁寧に。
 「ああでも、一番の心配は彼女さんとの同棲でしょう。お相手の御園マユちゃんとは四六時中ベッタリしているそうで、独り身には羨ましい限りです」
 最後の1ピースを手に取る。
 「そんなマユちゃんの生活サイクルを是非お聞きしたいものです」
 それで詰みですから。
 この人の心は常に明確だ。実に不快だ。
 「聞かなくても、もう十分でしょう」
 「そうですね、カレーが来る前にこの話はおわらせましょう」
 そうして、昼食より優先度の低い話題は終わりを迎えた。
 「学生で、最近行動に制限ができて、深夜徘徊が趣味……そしてみーさんは高校生です」
 「……なるほど」
 なるほど。
 僕が犯人だから、高校生ですか。
 効率的だ。
 「くく……」
 「うっくっくっくくくくく」
 唐突に、そして同時に。
 僕と奈月さんは、声を包み隠さず、きもち悪く笑った。
 僕は長く。
 奈月さんは短く。
 頬がひりつくほど笑い合い、隣のテーブルから客が退避した後に奈月さんが締めた。
 「面白い探偵ごっこでした」
 「ええ。痛くもない腹を探られて、危うく覚えの無い罪を自供するところでしたよ」
 この人との会話は、二人でババ抜きをやっているにも拘わらず、相手の手札だけが減っていくような不条理な感覚に苛まれる。
 慣れない笑い声をあげたからか、喉が乾きを覚えた。少し甘味の強いココアで喉を潤わせ、机上の空論並べの余韻に心を浸した。
 そう、これはあくまで推理ごっこに過ぎない。
 だって証拠無いし。
 あったのなら、今日は私的でなく公的に警察署でご対面だろう。そして机にあるものはココアではなくカツ丼だな、間違いない。
 
 その後、うって変わって和やかな雰囲気となり、二人で屋上を散歩した後、別れた。
 とりあえず、色々あったが帰るか。服は洗濯機に放り込んで風呂に入ろう。
 うん、それが良いそうしよう、と踵を返す。
 マユが立っていた。
【9424】

みーまーあらすじ、ラスト  6  評価

mixtra (2016年10月30日 23時52分)


 「みーさんでしたよね?警察に電話をなさったのは」
 「そうでしたか?時報にかけ間違えた記憶しかありませんね」
 「みーさんは勇敢でした。死体と怪我人が転がるなか、冷静に逃げ出して通報したんですから。あ、そういえばその頃の記憶があやふやだと証言していましたけど……少しぐらいは整理できましたか?」
 「整理しようにも、既に消失した記憶のページもあるみたいで、復元は不可能ですよ」
 「誰がそこで殺害を行ったか、思い出せませんか?」
 「ええ、さっぱり。自責の念に駆られて自害したなんて美しい理由じゃないでしょうか」
 嘘だけど。そんな殊勝な行いと縁のない連中だってことは身に染みて理解している。
 「そうですか……そうですね、無理に思い出させるのはよろしくありません。御園マユちゃんが悪い前例です」
 痛ましさを強調する声調で演技しながら、また嫌味にも程がある名詞を挙げてきた。
 「そういえば、先程の殺人犯についてですけど」
 パッと標準の笑顔に舞い戻り、奈月さんは断言する。
 「犯人は高校生です」
 学生じゃなくて高校生ときたか。
 「どんな根拠に基づいてそれを?」
 「そうですね……まず、学生に括ったのは、定番の時間帯ですよ」
 「ベタですね」
 「9件の事件はいずれも、平日の深夜か休日の朝方、昼間、そして休日の夜です。最も殺害が行われる頻度の高い時間帯は休日の昼過ぎあたりですけど……分かりやすすぎますね」
 「学生を装った無職のおにいさんおねえさんという線は?」
 「そうですね、それも疑うべきでしょう。けれど、そこまで思慮深い犯人なんでしょうか。何件も連続して学生を装って、警戒が厳しくなってきもそれを変えず……装うことを考えるなら、継続する際のデメリットにも思いが行き届いておかしくないはずですけど」
 「それもそうですね」
 どちらに同意しているかは自分でも不明瞭だ。
 「死体損壊の頻度から、犯人に猟奇殺人の傾向があるのは明白です。ただ、全く解体が行われなかった被害者もいます。いい加減な性格なんでしょうか。犯人」
 「さあ、僕には判りかねますよ」
 「思慮も思想もなく、生活の延長線上に殺人を行う異端者。深く物事を考えていないのが明白なこの犯人は、当然時間帯には気を配りません。ただ自身の都合で、空いている時間に、それこそコンビニにいくついでにふとやってみました、という感覚の学生が私の予想する犯人です」
 僕の相づちは何処吹く風、独演会になってきたな。
 しかもコンビニエンスストアを例と挙げますか。
 根掘り葉掘り調べ尽くしたんだろうなあ、この人。男たるものストーカーのひとりやふたりいないとね、といった前向きな態度で受け止めるのが大物なのかな。
 「ニュースは観ますか?新聞でも構いませんけど」
 「詳細って程事細かに知っているわけじゃありませんけど、一応は。8人目は自治会の会長で、最新が受験ノイローゼの中学生でしたっけ」
 「その二人の犠牲者で気になるのは、やっぱり時間帯です。二人が殺害された時刻はどちらも休日の深夜に限定されています。ですがそれまでの7件はすべて平日の深夜か休日の朝方、昼間で、休日の深夜には行われていない」
 名人の一手、四三香車。
 駒を打つ幻聴まで拝聴してしまいそうな、追い詰められた雰囲気。
【9423】

みーまーあらすじ、ラスト  5  評価

mixtra (2016年10月30日 23時50分)


 僕の前に立ち、柔和な笑顔で頭を下げてきた。みーさんの容姿は調査済みらしい。当然か。
 「あ、どうもみーです」
 囚人服に似たお召し物を着用している刑事さんに、とにかく挨拶を返した。
 そして不躾にその容姿を鑑賞する。
 僕の待ち人は格好も異質だけど、何より異様なのは顔立ちだった。
 小鼻とか、目が細く、線になって光沢が希薄とか、そういう細々としたことより、だ。
 若すぎる。
 どう贔屓目を駆使しても僕らと同世代にしか見えない。化粧魔術か、恋日先生が留年の達人か、特殊な呼吸法による細胞の活性化か。
 「顔、何か足りないものでもあります?」
 目に掛かる前髪を直しながら、奈月さんが試すように問い掛けてきた。
 
 その後3階に到着し、待ち合わせ場所に指定した喫茶店へならんで入店した。傘を置き場に差してから、奥の席に向かう。
 「僕はココアを。上社さんは、」
 「カツカレー一人前お願いします」
 あれ?パン屋で暴食していた人といつ入れ替わったんだ?
 奈月さんは水を一息で飲み干し、口許をおしぼりで拭う。
 「みーさんと私は若いもの同士です。それなら、すべきことは1つです」
 「その通りですね」
 30代の女性の日本語は少々理解不能だったけど、知ったかぶって同意した。
 「みーさんのご趣味は」
 「恋の監視カメラを少々」
 「まあ、奥ゆかしい方ですね」
 上品に微笑む奈月さん。
 「それと、深夜徘徊ですか?」
 微笑みを崩さず、奈月さんは余裕のある態度で発言した。口ほどにものをいう筈の眼球は、瞼で覆われて伺い知ることを防いでいる。
 そしてバッグからハッカパイプを取りだし、吸い始めた。
 鳥肌がたつほど、僕にとって不快な臭いが漂う。
 「あ、ハッカお嫌いなんですよね」
 「ええとっても」
 「ではしまいますね」と丁寧に断りを入れて撤去する。
 僕のどうでもいいことまで筒抜けですよ、という遠回しな牽制だろうか。
 臭いが霧散するまで待ってから、口火を切った。
 「深夜に徘徊する理由は、唯1つ。殺人鬼を捕まえる為です」
 「あらあら、みーさんは正義の味方だったんですか?」
 「かけられた嫌疑は自らの手で晴らすのが物語の主人公です」
 主人公じゃないけどな。
 奈月さんの睫毛が、微量、震えた。
 「嫌疑?」
 奈月さんの眉間に皺が寄り、それでも笑む。笑顔以外、表情パターンを用意していないらしい。喜怒哀楽を笑顔だけで表そうとするなら、顔面が年中通り越して筋肉痛になりそうだな。
 「私が…ですか。……あ、嫌ってはいませんので、疑惑にしておきましょう」
 「そりゃどうも。僕も零号さんにお迎えしたい程度の感慨は抱いておきましょう」
 疑惑じゃなくて確信ですよ、と心中で呟いていそうだなんてのは邪推というものか。
 「分からない、ということにしておきましょうか」
 椅子に座り直し、背もたれに自重を預ける。真っ正面の奈月さんは、線目で僕を観察していた。それと見つめ合う形になる。
 「警察をお嫌いなのも重々承知しています。なにせ、8年前の事件も結局、警察は捜索に行き詰まり、みーさんが解決なさったようなものですから」
 胃の中で何かが暴れた。
 コップを取り、唇に水をつけて暴徒鎮圧を試みる。
 8年前ね。
 そこから掘り出し始める気か。
【9422】

みーまーあらすじ、ラスト  4  評価

mixtra (2016年10月30日 23時48分)

 
 日曜日。
 本日は豪雨なり。
 見事などしゃ降りだった。
 昼過ぎからは晴れ模様になると予報していたが、予報者本人も懐疑的な物腰だった。
 「ねえ、今日行かなくてもいいじゃん」
 珍しく9時半前に早起きしたマユは、窓からの景色を一瞥してそう提案してきたが、やんわりと断り身支度を整えた。
 マユは、神妙な表情で佇んでいた。
 指定されたデパートまで徒歩で40分強の移動時間が見込まれる為に、10時を回り始めた頃にはマンションを出る必要があった。マユから黒の折り畳み傘を借り、玄関に向かった。
 「あ、ちょっと待って」
 汚れの目立つ靴を履こうとした僕に、マユが待ったをかけてきた。
 そして握っていた口紅を唇に塗りたくる。
 首を傾げる僕を余所に、ルージュを塗り終えたマユが頬に吸い付いてきた。
 ぎゅうう、と皮膚が剥がれそうなぐらい。
 「ちょ、痛いって」
 マユが唇を離す。そして吸い付いた部分を一瞥し、満足げに微笑む。
 「拭いちゃ駄目だよ」
 「……涎も?」「だーめ」
 僕の手を払い、手鏡を向けた。
 マユの唇よりやや厚めのキスマークが、頬にペイントされていた。
 ついでに、頬肉を伝って顎先に届いた涎も鏡は写している。
 「……行ってきます」
 「はいはーい」
 世間に恥を晒すことを強要されながら、部屋をでた。
 
 駅前にあるデパートには、10時45分過ぎに到着した。道路は水位が測れるほどの水溜まりを形成し、一歩踏み出した時点で靴下の爪先まで浸水していた。
 しかしデパートといっても、田舎の臭いが染み付いた建造物である。都会のビルが横に並べば苛められっ子の様に萎縮してしまう程度の全長でしかない。
 そんなデパートではあるけれど、設置された雨避けの屋根の下には老若男女問わず人がわらわらと棲息し、集っていることに驚いた。
 傘の水切りを行ってから閉じて畳み、自動ドアをくぐり抜ける。陽気な楽曲に、天候と断絶した証明の輝き、それと甘ったるい匂いが出迎えてくれた。
 入り口で傘にビニール袋を被せて、それから案内が記されたボードの前に立った。周囲を見渡す。そこで甘い匂いの発生源を知った。どうやら、一階に食料品売り場が設置されている中のパン屋からだ。
 そして、そのパン屋にいる奇妙な客に、視線が固定された。
 黙々と試食をする、人目を惹くか引く、どちらかに確実に追い込む格好の女性。
 白黒の線が合計5本程度横縞に入ったボーダーの長袖シャツ。下も同様のデザインのスカート。シャツのサイズがかなり大きく、右の肩がはだけて下着の紐がチラっている。それに加えて注視を促す、白にもとれる薄い金髪は後頭部に、時代錯誤にかんざしで纏められていた。
 その女性はホウレン草を練り込んだ緑色のパンがお気に召しているらしい。決してトレイに載せてレジで金銭を消費することなく、試食用の一口パンを次々に消失させていく。その勢いは、商品を誤って口にいれても、誰も意義を挟むことが出来ないほどだった。
 おろおろと周囲の善意者に助けを請う店員に同情しながら目を逸らそうとした刹那、
 ぐわ、とその女性が僕の方へ振り向いた。
 膨らんでいた頬の中身を胃に一方通行させて、シェイプアップを図った。
 その人は、立て掛けてあった黄色の傘を掴み、ハンドバッグを振って軽い足取りで接近してくる。青い運動靴は、雨中間の移動による湿りを苦にせず、床との摩擦音も一切立てない。
 「あ、どうも。上社奈月です。」
【9421】

みーまーあらすじ、ラスト  3  評価

mixtra (2016年10月30日 23時46分)


 そそくさと席を立とうとした。が、杏子ちゃんが飛びかかるように身体を伸ばし、制服の裾を掴んできた。
 「あやしい」
 そう言って、悪戯っぽく笑う。年相応の笑顔は、マユに通ずる雰囲気がある。
 「全然怪しくないっす。妖しくもねえっす。僕はね、自治会の会長の孫の同級生の部活仲間の友達だから、夜な夜な殺人鬼を追い詰めるべく巡回に当たってたんだ、嘘じゃない」
 「……おにいさんの嘘って分かりやすいですね」
 誘拐犯の片割れとじゃれあう杏子ちゃんを微笑ましそうに鑑賞する浩太君。大切な妹に、僕が悪意を伴う行為に及ぶとは微塵も考えが及んでいないのだろうか。心に沈着していた毒気がぬかれそうだった。
 無垢な信頼は、日焼けしすぎた肌に触れられるかのように心を苛む。
 「ねえ、名前は?」
 杏子ちゃんが、興味津々とはまるで縁の無い素面でQしてきた。
 「あー……僕の?」
 「他に誰がいるのよ」
 「誰かいないかなー……」
 「名前いうだけなのに、なにしてんの?」
 Aする人が渋っているので、杏子ちゃんが急かしてくる。『ひ・み・つ』とか、殴られそうだったので、仕方なく正直者になってみた。
 「あまり好きじゃないんだ、名前。似つかわしくないし、呼ぶのも呼ばれるのも恥ずかしいんだ。だからあんまり教えたくない、ごめんね」
 浩太君が「あんず」と呼びかけ、杏子ちゃんは「わかってる」と煙ったそうに返す。「別に、すごく知りたかったわけじゃないし」と未練なく引き下がってくれたので有り難かった。
 一息つく。後ろ手を突き、天井を見上げた。
 「……旅行鞄でも引っ張り出して、準備しないと」
 そういえば、旅行中は、この子達の処置をどうするか。足枷でも外してしまうか。食糧さえ買い込んでおけば、来客にはでないように忠告して好き勝手暮らして……いやだから、ちょっと待て。もう僕は認めているのか。それでいいのか。
 すでに誘拐ではなくホームステイになっている、と。
 「……うーむ」
 全てが思惑から外れる。
 それはそれで愉快なんだけどなあ。
【9420】

みーまーあらすじ、ラスト  2  評価

mixtra (2016年10月30日 23時45分)


 浩太君達の元へ行き、先生から借りてきた漫画を一緒に読みながら物思いに耽った。
 「お姉さんは寝てるんですか?」
 浩太君の声で、頭を切り替える。
 「ああ、担任に抗議してる」
 杏子ちゃんも顔を上げ、首を傾げる。最近は、時おりに無邪気な一面を覗かせてくれる。
 マユは修学旅行の事で理不尽な要求をしていたが、少しワガママが過ぎる。3週間の暮らしで、そんな面が目立ち始めた。
 例えば僕が彼女の意見を聞き入れなければむくれ、彼女以外の人と会話すれば二人きりになった途端激怒して心が尖る。
 マユにとって僕は、隷属の位置づけであることが最も望ましいということ。
 「……まあ、いつまでも一緒って訳にもいかないしね。そのうち警察の御用になるし」
 僕は犯罪者であり、いずれ裁きを受ける事は確定しているのだから、マユには独力で生きることを学び直してもらわないといけない。
 それは技能でも知恵でもなく、ただ享受する覚悟を養うこと。
 「…………………………」
 マユには、それが出来るほど心があるのかな。
 それはそれとして、警察という単語に対して、浩太君は心なしか申し訳なさそうに肩を落としている。杏子ちゃんは所在なく視線をさまよわせている。どうやら、この心根の優しい子達はお門違いの責任を感じているらしい。
 「君達が気にすることじゃないよ。元々は……マユが、悪いんだろうなぁやっぱり」
 そういえば、この誘拐の意義を聴き忘れている。会話内での優先度が低すぎる故の喜劇だ。この疑問が脳を覆うのは常習的だけど、とかく理解に苦しむ誘拐事件だ。いや、誘拐犯の頭の中なんて、理解の余地があるはずもないか。
 「ねぇねぇ」
 杏子ちゃんが、友達に接するように声をかけてきた。
 「昨日の夜、どこにいってたの?」
 眼球が内側より圧迫された。一瞬、視界が濃霧に包まれる。
 「それから、何日か前も外に出てったって、こーたが言ってた」
 ぎぎ、と老朽化の進んだ監視カメラの様にぎこちなく首を振った。浩太君は不可思議ですといった様子に眉根を寄せている。
 「ああ、ちょっと近所のコンビニに」
 虫除けに扇風機が回っているコンビニへ、片道30分かけて。
 「コンビニでね、夜食の弁当を買って食べてた。育ち盛りだから30分に1回は食事するんだ」
 更に誤魔化すために、即興で思い付いた事を口にした。
 「……あー、旅行の準備をしないとね」
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