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【9709】 |
メルカトル (2017年03月14日 22時28分) |
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『失はれる物語』 乙一 なかなか乙一らしい作品が揃えられているなという印象だ。出来にばらつきはあるものの、平均すればそれなりに評価できると思う。 表題作は起伏とオチがないので、いまいち。ダークさは好きなタイプなんだが、もっと生々しさが欲しかった気がする。『しあわせは子猫のかたち』が最もミステリ色が濃く、個人的には頭一つ抜きん出ていた。繰り返し短編集に掲載されているのも納得の出来だ。次点は『マリアの指』で、これもミステリ的要素が強い作品だが、犯人を断定する決め手に欠けている。よくよく考えてみれば非常にドライな主人公だと思うが、これもまた乙一の持ち味なのだろうか。他についてはまずまずではあるが、ファンにとってはこれぞ粒揃いと言ってもよい作品が並んでいるのではないかという気がする。 乙一は本格ミステリを書こうと思えば書けるし、しかもかなり優れた作品をものにすることも十分可能なはずなので、出来ることならば短編集でも連作でもいいのでもっとミステリに挑戦してほしいと私は強く願っている。 |
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【9708】 |
メルカトル (2017年03月14日 22時26分) |
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『仮面病棟』 知念実希人 元精神病院である田所病院に、コンビニ強盗が傷ついた人質とともに押し入った。主人公である当直バイト医師の速水と田所医院長、そして看護師二人、人質の若い女性とピエロの仮面をかぶった強盗の、閉鎖状況での恐怖の一夜が始まる・・・。 帯に「怒涛のどんでん返し!一気読み注意!!」との謳い文句が堂々と載せられているが、これは過大広告というものだろう。どんでん返しを期待すると拍子抜けするので注意が必要。ただ、一気読みできるだけのリーダビリティは確かに備えていると思う。 細かい点に誤謬があるのが気になるところだが、まあそれほど傷にはなっていない。内容的にはそこそこ面白いが、あまり新味はなくあっと驚くような意外性もない。どう贔屓目に見てもまずまずとしか言えない。 勘のいい読者はどことなく違和感のある、芝居じみたやり取りの中にヒントを見出し、真相を看破することも十分可能と思われる。ただし、たとえ真相を見破ったとしても、大したカタルシスは得られない気がする。見破れなかった人もあまり騙された感は覚えないだろう。 |
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【9707】 |
メルカトル (2017年03月14日 22時23分) |
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『楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史』 牧野修 若干の面白さと大部分のわけの分からなさに溢れた短編集。 様々なジャンルが入り混じったような作品が目立つが、暗めのファンタジーとSFが主体になっているだろうか。多少エログロも見られるが、さして気にはならない程度にとどめている。 個人的に牧野氏は嫌いではないが、これはコアなファン以外は受け付けないかもしれない。なんと言うか、独特の美学のようなものは肌で感じるが、それよりも意味不明さのほうが上回ってしまって、残念な感じに終わっている。おそらく私だけではなく、多くの一般的な読者にとっても同様な印象を受けるのではなかろうか。しかしながら、これが牧野氏本来の姿なのだろう。真っ当なホラーやSFも書ける人だが、ファンに言わせればそれでは"らしさ”が出ないということなのだと思う。 |
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【9706】 |
メルカトル (2017年03月14日 22時21分) |
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『大正二十九年の乙女たち』 牧野修 時は大正二十九年、舞台は逢坂女子美術専門学校。逢坂は勿論大阪のことである。心斎橋、松虫など実際の地名がはっきりと描かれているにもかかわらず、なぜか大阪だけが逢坂となっている。いずれにしても、時も大正二十九年という架空の時代となっているので、逢坂でも違和感はないが。 主人公は専門学校に通う四人の女学生たちで、それぞれ個性と特徴を持った彼女たちのリアルな青春模様と、彼女たちを襲う猟奇事件を描いた時代青春ミステリである。 青春小説としてはまずまずの出来だとは思うし、牧野氏がこんな小説も書けるのだという意外な一面を見せた貴重な作品とも言える。一方ミステリとしては決して褒められた出来とは言えない。フーダニットとかトリックとかとは無縁のいかにも表層的な形ばかりのミステリだ。だから、猟奇事件もひっくるめての青春小説ととらえるのが正しいのかもしれない。そう考えれば、それなりに楽しめるのではないかと思う。 陽子が見つけて飼っている炭鉱馬のクルミが可愛らしく、時に重要な役割を果たしているのが、好ましい。偉丈夫の逸子は強すぎて、真式道の試合がいまいち盛り上がらないのが残念。 |
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【9705】 |
メルカトル (2017年03月14日 22時19分) |
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『出版禁止』 長江俊和 以前から気になっていた一冊。行きつけの二軒の書店双方に平積みされているのを横目で見ながら、なかなか踏ん切りがつかなかったが、ついに購読に至った。なんと言っても、そのいかがわしそうなタイトルに惹かれての読了だったが、面白かった。 読者を選ぶのかもしれないが、読んでいてとても引きつけられるものを感じた、その吸引力は本物と言ってもよいだろう。 ストーリーの本筋はいたってシンプルで、ルポライターの私こと若橋呉成(仮名)がある有名人男性とその不倫相手の心中事件に疑問を抱き、死にきれなかった不倫相手に取材を行っていく。それを原稿化しまとめ上げたものがルポルタージュとして丸ごと作品に取り込まれている。そのルポが本作の大部分を占めているのである。言わば作中作の形式を取っているわけだ。 前半はすんなり読める代わりに、それほどの盛り上がりはない。終盤に至って本編の真骨頂とも呼べるような、いかがわしく不気味な本性を現す。これ以上はこれから読もうとする方のために控えるが、読者によっては怖いとか気持ち悪いとかの感想を抱くことだろう。その辺りが許容できる人にとっては、至福のひと時を過ごせるのではないかと思う。 後味はよくないが、問題作なのは間違いないだろう。年間ベスト10入りしてもおかしくないような充実した内容の傑作だと、個人的には感じる。 |
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【9704】 |
メルカトル (2017年03月14日 22時18分) |
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『郵便配達人 花木瞳子が盗み見る』 二宮敦人 二宮敦人の新たな代表作と言ってもいいだろう。かなりの力作なのだが、細かいところで疑問点が若干気になるのでこの点数にした。しかし、内容的には7点でもよかった。 引きこもりの男性が毎日自分宛に手紙を出す謎、三人の佐藤さんに同じ文面の意味不明の手紙が届く謎と、序盤から中盤にかけては日常の謎的な作品なのかと思わせるが、やがてこれらの二つの不可解な出来事が繋がってきて、とんでもない惨劇を引き起こす。最初はこれらの二つの謎が独立したものなのだと勘違いしていたが、有機的につながりを持ってくるストーリー展開はなかなかのお手並みである。 男っぽい郵便配達の花木瞳子と先輩の持丸の掛け合いは軽妙で、陰惨な事件を扱った本作を、陰気なものになりそうなのをうまく中和している。 さらに、過去のモノローグのエピソードが所々に挿入されているのが、ささやかな感動を呼び、後味の良さに一役買っている。 |
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【9703】 |
メルカトル (2017年03月14日 22時16分) |
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『ゴーストハント1 旧校舎怪談』 小野不由美 ある高校の旧校舎、これを取り壊そうとするたびに事故が起こる。それを良しとしない学校側はゴーストハンターと呼ばれる、超常現象などを科学的に解析する調査事務所の若き所長を招聘する。さらにそれだけでは飽き足らず、巫女、僧侶、霊媒、エクソシストら霊能力者を呼び寄せ、除霊を行い工事を進めようとする。そこに、自称霊感少女がからんで、ドタバタ劇を繰り広げるというストーリー。 語るのは主人公で、ひょんなことから所長の渋谷の助手を務める麻衣だが、口語体が頻出する一人称の文章が安っぽさを助長している。本来怪談なので、雰囲気を出すためにそれなりの堅い文体を用いるのが常套手段のはずだが、若年層をターゲットにしているためか、語り口調を崩しすぎではないか。 ほぼすべての超常現象は理論的に証明されるわけで、その意味ではミステリとも言える。ホラーとしてもミステリとしてもなかなか光るものはあるが、せっかっくの逸材がコメディタッチの書きっぷりで台無しである。Amazonでは支持されているようだが、もともとのファンのレビューがほとんどで、そのため平均点が高くなっているように思う。正直期待外れだった。 |
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【9702】 |
メルカトル (2017年03月14日 22時12分) |
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『その女アレックス』 ピエール・ルメートル 正直、それほど傑作とは思えなかった。世間的には、というか世界標準的にはサスペンス+警察小説+イヤミスの合わせ技一本といったところだろう。確かにそれぞれのジャンルで秀でているものがあると思うが、衝撃度或は、サプライズ感という点ではやや物足りなかった。 しかしながら、アレックスや捜査班の面々は十分に個性的でよく描かれているし、意外な展開という意味ではなかなかの出来だと思う。また個人的には本筋とは全然関係ないが、班長カミーユの飼い猫ドゥドゥーシュが癒し系でいい感じである。 ストーリーには触れない。これから読む人に恨まれたくないからね。また、Amazonのレビューも読まないほうが身のためであろう。本書を十分に楽しむためには、予備知識はいらない。まっさらな状態で挑んでいただきたいと思う。 |
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【9701】 |
メルカトル (2017年03月14日 22時10分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『切り裂きジャックの告白』 中山七里 事前に予想していたが、本家切り裂きジャックとはあまり深い関わりはない。序盤で明らかになるが、それよりも臓器移植の問題に真正面から取り組んでいるところから、社会派ミステリとも取れるような作風である。私見ではどちらかと言うと本格寄りだと思うが、いろいろ考えさせられる辺りは、単なる本格ミステリではない。 主役は犬養警部補だが、登場人物が多く、誰に感情移入するかは人それぞれだろう。私の場合は涼子の気持ちが最も心に響いてきた。自分の息子の各臓器が、レシピエントの体の一部としてその機能を果たしているというのは、ある意味息子が生きているとも解釈できるわけで、それがストーリーの一部分を支えてもいるし、エピローグで生きてくるのである。 また、犬養とコンビを組むのは『カエル男』の古手川で、彼は以前に比べてずいぶん成長しているように感じられる。ややぶっきらぼうな態度は相変わらずだが、刑事としての資質がうまい具合に開花しているのが、本作に花を添えていると思う。 まあとにかく、ミステリとしては勿論だが、臓器移植問題を考える上でも一読の価値があるだろう。 |
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【9700】 |
メルカトル (2017年03月13日 21時47分) |
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『気分は名探偵 犯人当てアンソロジー』 表紙の猫がかわいいね。黒猫がカメラ目線でじっとこちらを見ているよね。 さて、この犯人当てアンソロジーだが、なかなか良質の短編が並んでいる。いずれ劣らぬパズラーが目白押しと言いたいところだが、出来不出来の差は見られるのはやむを得ないだろう。と言うか、ここまで来ると好みの問題なのかもしれない。個人的には、貫井徳郎の『蝶番の問題』が圧倒的に面白かった。投稿による正解率がわずか1%だというのだから、その難解さは群を抜いている。しかし、その割には実に明快で意外すぎる真相が光る逸品となっている。 他は安孫子武丸、法月綸太郎あたりが良かったかな。 巻末の筆者による座談会も興味深く読ませてもらった。やはり、こうした誌上掲載のキッチリした締め切りの犯人当てという企画ものには、様々な苦労が付きまとうものだということがよく分かる。 それにしても、当時も、そして今でもこのメンバーは豪華すぎる。これだけの執筆陣が揃っているのだから、期待しないほうがどうかしている。多くの読者にとっては、その期待を裏切らないだけのポテンシャルを持った作品集と言えるかもしれない。 |
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