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【211】

RE:T字路の行方

もみあげブランコ (2009年05月19日 23時12分)
≪5≫


 僕は講堂を閉ざす、重い引き戸に手をかけ

 力を入れて両腕を左右に広げた




 ガラガラガラ


 そして右奥にあるいつもの場所に目をやると彼女の背中がそこにはあった


 
 彼女の名前はエリ

 付き合っていた頃は「エリツィン」と呼んでいた



 エリは少しの間 振り向かずに壁の方向を見ているようだったが
 僕が近付くと ゆっくりとこちらを向いた

















 僕とエリが交際することなったのは、まだ高校1年のときで

 その日もいつも連れ添って遊んでいる男女仲良しグループでのカラオケの後、


 バス停にいた僕に唐突な言葉を浴びせたことがきっかけだった



 「え、  今 なんて?」


 僕は半分聞こえたような、聞こえてないような耳を疑うその言葉に面を喰らった



 



 「だからね、  好きだから付き合ってくれない?って言ったの」


 エリは下を俯きながら 時折僕の表情を確認するように言った



 僕の半径2m以内にはもちろん数人の男女がいる


 「え、え?  おい 何言ってんだよ」


 そうはぐらかそうとした刹那


 「いいじゃん いいじゃん!
  お前らけっこう仲良いしさ!   お似合いなんじゃねーの?」


 「そうよ〜  きっと藤沢君をエリちゃんならいい感じになるわよ!」



 どことなく違和感のある囃し立てをする渥美と小林さん


 彼らもこの仲良しグループの中で芽生えたカップルだ


 時に小林さんは学年でもトップ10に入るだろうクラスのマドンナで

 それをいつもの押せ押せ攻撃で小林さんを射止めた渥美



 僕も一時はマドンナに恋心を抱いていた一人なのは別に珍しいものではなかった



 特に好きな女性という存在を作っていなかった3学期のある日



 僕の心の隙間にエリは飛び込んできた



 「いや・・・ 急な話しだしさ、 答えは明日っていうことで」



 明らかに狼狽しているのは僕も自分でわかっていたが


 なんとか今この“付き合っちゃえ”的な空気は逃れたい


 そう思って返答をとりあえず先延ばししようとすると



 「え〜〜 なんで〜 エリのどこが不満なのよ」


 小林さんは僕の逃げ道を閉ざそうとしてくる







 後からエリに聞いたことだが、この作戦を成功させるべく

 一連の成り行きはすべてエリがこのカップルに頼んだものだったらしい



 僕はまるでフラっと入った電器屋で、何の必要もない家電を買わされる客のように


 「うん、 そうだな 断る理由もないし」


 そう即決してしまう




 まぁ 未熟な高校生の交際なんて、こんなきっかけはゴマンとあるだろう



 「よかった♪」

 そう言って僕の右腕に腕をからませてくるエリ




 それが僕らの始まりだった

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【213】

RE:T字路の行方  評価

もみあげブランコ (2009年06月02日 21時24分)

≪6≫


 「…来てくれたんだぁ」


 エリは半分作ったような笑顔でそう口を開いた


 「うん…   で、話しあるんだろ?  何?」


 「早いね。  もっと”最近元気してるか”とか言ってくれてもいいなのになぁ」



 エリは口を尖らせている


 だいたいこういう態度をするときは、決まって本心とは反対なことを考えている



 付き合っていた頃も、『街に買い物に行きたい』と言い出したことがあった


 僕が部活があるから週末は行けない、と断ると口を尖らせ


 「嘘ウソ!  ちょっと言ってみただけだよ!」


 と勝ち気なところも見せているつもりでも 僕にはエリの心情がよくわかっていた






 「別に〜 こうして改まって言うことじゃないんだけど〜・・・」



 「・・・だけど、何?」



 「・・・だけど〜  あたしね? 彼氏できたんだ」



 「ふぅ〜〜ん 良かったっしょ  相手は何組?」



 「うぅん   うちのガッコじゃないの」



 「・・・・・そう」



 「だからね、藤沢君も 早く磯里さんに告白したら?」


 エリは唐突に、僕が今一番意識する

 その名前を切り出した



 「な、何言ってんだよっ  僕は僕のタイミングで量ってるんだから」


 僕は少し狼狽しながらそう答えた


 その仕草を見てエリの悪戯心に火が点いたのか、



 「いっそのこと、あたしが取り入ってみようか?」


 そう畳み掛けてくる



 「いいってば!   話しは終わりだろ? じゃあ僕 体育館行きたいから」



 僕が踵を返そうとするとエリは 僕の右手を掴んだ



 「待って、  あたしが呼び出したんだから

  そっちから先に行っちゃわないでよ

  あたしはあたしで楽しくやってくから、藤沢君はちゃんと頑張ってね!」


 エリは珍しく真顔でまっすぐ僕を見つめて言った


 そして
 「じゃね・・・」と言うと 顔を覆って講堂から出て行ってしまった


 


 「なんだよ 手紙まで忍ばせといて、彼氏ができただけの報告かよ」


 僕はしばらく講堂の真ん中で突っ立って


 今あったことを思い直していたが、いつもの早い気持ちの方向転換をして


 何事もなかったように教室へと戻った



 時刻はもう昼休みの終わりを告げている


 「よぉ  今日はバスケに来なかったな」


 そう田澤に声をかけられたが、僕は窓から見える新緑を眺めていた
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