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【709】 |
さオ (2016年03月20日 11時23分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
おばさん「ごめんね、こんなスイカしかなくてさ」 おばさん「夜は、もうちょっとちゃんとするからね」 俺「いや、とんでもないですよ。スイカ、久しぶりに食べました」 俺「こんなに、美味しかったんですね」 俺が感激してそう言うと、 おばさんは少し笑って「それならよかった」と安堵の表情を浮かべた。 そんな風にして、俺はスイカを食べながらテレビで昼過ぎのワイドショーなんかを見て、 まだ始まったばかりのゆったりとした夏の時間を過ごしていた。 すると、ぱたぱたぱた、と慌ただしい音が聴こえてきて、玄関の方から声がした。 奈央「お母さーん!ちょっと、出かけてくるからね」 おばさん「あら、どこ行くの」 奈央「ちょっと友達と勉強しに行ってくる」 おばさん「勉強なんて、家でもできるのに」 奈央「家じゃ集中できないの!」 俺はもう食べきったスイカを眺めながら、ぽかーんとその会話に耳を傾けていた。 |
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【708】 |
さオ (2016年03月20日 11時22分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
遠慮しつつも、炎天下の中を歩いてきてとても疲れていたから、 冷たい麦茶にスイカ、考えただけでワクワクしてしまった。 おばさん「奈央ー!スイカ切ったげるから、1君と一緒に食べたらー!」 おばさんが、階段下から2階に向かって呼びかける。 だけど反応はなく、奈央が下に降りてくる様子はない。 おばさん「うーん、あの調子じゃ、来ないかも」 俺の方を見て申し訳無さそうに苦笑いするおばさんを見て、俺は答える。 俺「いや、それは仕方ないですよ。こっちも突然押しかけて、申し訳ないです」 おばさん「いや、全然そんなことはないんだけどw」 おばさん「あの子、人見知りだから。慣れるまで、ちょーっと時間かかるかもね」 おばさんはそう言い残して、いそいそと台所へと入っていった。 しばらくすると、俺の期待通りのスイカと、氷がごろごろと入ったグラスに麦茶が出てきて、 思わず「うわ、すごい!」と口をついて出てしまった。 「いただきます」と言ってスイカを頬張ると、 まだ少し早い、夏の入り口をかじったような気がして、 受験勉強をしに来たというのに、心が躍った。 |
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【707】 |
さオ (2016年03月20日 11時21分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
自分の荷物を2階の部屋に入れ、1階のリビング(と言っても、畳張りなのだが)へ降りると、 台所から出てきたおばさんにすぐに声をかけられた。 おばさん「悪いじゃんね、奈央がうるさいと思うけど、許してあげて」 俺はすぐにあの子の事だな、と察して、 「いえいえ、全然大丈夫ですよw」と答えた。 俺「奈央ちゃんは、今何年生なんですか?」 おばさん「高3だよ、だから受験なの〜」 俺「え、そうなんですか」 俺は自分と2つしか歳が変わらない事に驚いた。 おばさん「全然勉強する気がないから、困るじゃんねー、1君勉強教えてあげてw」 そう言われて俺は、「それはさすがにw」と苦笑してしまった。 おばさん「ここまで来るの、迷わなかった?」 俺「あ、それが。案外すんんり来れましたね」 俺がそう言うと、おばさんは「わ、それはすごい」と驚いた様子だった。 おばさん「そうそう、スイカがあるんだった。切ってあげるから、1君食べなよ」 俺「え、そんな、悪いですよ」 おばさん「いいのいいの。暑い中歩いてきて、喉も渇いたでしょう」 おばさん「今、冷たい麦茶とスイカ出すからね。待ってて」 ぱたぱたと支度を始めるおばさんを前に、俺も言葉に甘えてしまう。 |
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【706】 |
さオ (2016年03月20日 11時20分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
そのまま家の横の水道の近くに自転車を置くと、ぱたぱたと家の中に入って行き、 「お母さん、来てるよー!」と声を上げた。 俺は瞬時に、「行かなきゃ」と思って、続けざますぐに家に入った。 家の中にはおばさんがいて、 「はじめまして、1君来てたんだね」と俺に挨拶してくれた。 「聞いてはいたけど、やっぱり背が大きいね」 ちなみにおばさんは義父の弟の嫁さんに当たる。 俺も初対面で緊張していたが、ここに来るまでに何度か電話で話した事はあった。 俺が、「お世話になります」と言うと、優しく笑って 「1君の部屋は2階のあいてるとこだから。荷物、入れちゃってね」と言ってくれた。 そのあとすぐに、おばさんが 「奈央!ローファーのかかと踏んじゃダメだっていつも言ってるでしょ!」 と声をあげると、2階から 「うるさいなぁ!分かったよ!」という女の子の声が返ってきた。 そこには確かに、かかとを踏み潰されたローファーが転がっていて、 俺はそのやりとりが微笑ましくて、思わず笑ってしまった。 |
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【705】 |
さオ (2016年03月20日 11時19分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
「○○書道教室」と小さな看板が掲げられていて、入り口が二つあった。 「書道教室ってことはここだな…」と思いつつ、 なかなか家に入れずその場で立っていた。 わきにまた木の杭の打たれた畑があって、 「ここにもあるよ」と思ってまじまじと眺めた。 やっぱり実っているのはぶどうで、この家でもぶどう作ってるのかな、 なんて余計な事を考えていた。 そんな風にして数分家の前で立っていると、 ガシャン、と自転車を降りる音が聞こえた。 振り返ると、大きなエナメルのバッグを背負った制服の女の子が立っていて、 そわそわした様子で俺を見ていた。 俺は焦ってすぐさま「こんにちは、」と言うと、 女の子も「どうも…」と小さく会釈をした。 炎天下の中自転車をずっと漕いできたのか、顔は真っ赤だった。 |
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【704】 |
さオ (2016年03月19日 08時56分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
今日は一旦ここまでとします。 続きはたぶんまた明日書きに来ます それでは〜 あっし: 何も予告なしで、続きを楽しみにしてください。 |
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【703】 |
さオ (2016年03月19日 08時55分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
山側を振り返ると、畑のようなものが斜面にいくつも広がっていて、 これが教科書で見た「扇状地」ってやつなのかも、って思った。 そこら中を沢山の緑や畑が埋め尽くしていて、 「ああ、これは田舎だわな」とすぐに思った。 一体なんの畑なのか、木の棒が打ち付けられた畑が沢山並んでいる。 よく見れば房のようなものがぶら下がっていて、ぶどう畑か何かなのかな、と思った。 駅に面した道はそれなりの大きさだけど、 ぐらぐらと陽炎で揺れていて、滅多に車が通る様子もない。 道沿いには軽トラが止められていて、 近所のおばさんたちが世間話をしている。 なんてのんきな所なのか。 生まれてからずっと東京で過ごしてきた俺にとっては、 「本当にこんなところもあるんだな」と太陽の熱射線に朦朧としながら思った。 義父からもらった地図を頼りに、駅前の道を右に進んで、 線路沿いの坂道をずっと登って行く。 坂道には木漏れ日がちらちらと差し込み、蝉しぐれが降り注いだ。 暑くて暑くて、もうダメだ、なんて思っていると突き当りにタバコ屋があって、 そこを右にまがって線路を越えると、義父の実家があった。 |
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【702】 |
さオ (2016年03月19日 08時54分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
そんなわけで、簡単な着替え一式と勉強道具を担いで 一路義父の故郷へと向かうことになった。 季節は7月も中盤。まさに、夏の始まりの頃だった。 新宿から慣れない特急列車に乗った。 高1の時、Vリーグの試合観戦のために一度だけ乗ったことのある特急だった。 そして揺られること1時間以上、幾つものトンネルを抜けて、 山あいの田舎に辿り着いた。 電車から降りると、けたたましいほどの蝉の声が俺を包んで、むわっと熱気を感じた。 でもそれは東京とは違って嫌な熱気ではなく、 どこか溌剌とした、爽やかな暑さだった。 小さな駅舎の古びた改札を抜けると、 目の前には信じられないほどひらけた景色が広がっていた。 少しだけ標高が高く、視界を遮るものが何もないから、遠くの山がよく見える。 山と青空の境目がくっきりと浮き立っていて、遠くには麓の市街地が見えた。 |
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【701】 |
さオ (2016年03月19日 08時53分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
義父「お前は東京にいるから、勉強に散漫になるんだ」 義父「夏の間、田舎に行って勉強に集中してこい。俺の実家に泊まれるから」 それはまったく予期せぬことで、 俺はこの提案に驚いたが、自分でもちょうど東京から少し離れたいと思っていた。 全然知らないところに行って、少し何も考えない時間が欲しかった。 勉強するかは、別として。 俺は義父の提案を受け入れて、2浪目の夏、 義父の故郷の田舎に行くこととなった。 |
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【700】 |
さオ (2016年03月19日 08時51分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
義父も何かを感じ取ったのか、 さすがに新宿の予備校は負担が大きいだろうと言って、 2浪目からは、家の近所の予備校に通うこととなった。 だが俺の腐り加減は凄まじく、予備校に通うフリをして、 毎日公園に行ってぼーっとしたり、ゲーセンに一日中篭っていたりした。 時には、夜も友達の家に泊まると偽り、 秋葉のアニクラに行って朝まで騒いでいる、なんてこともあった。 バレーに夢中だった頃の自分なんてすっかり影を潜め、 もう本当に、ただの「ダメ人間」でしかなくなっていた。 それを自覚する度、昔の自分や、昔の仲間、美香のあの一言、そして、 春高のオレンジコートで羽ばたいていた、あの小さなエースの事を思い出した。 もう俺には何も出来ない。 あんな風に輝けることは、一生ない。 そんな気持ちだけが、いつも心にあった。 夏前になって、予備校に連絡を入れた義父によって、 俺が予備校をすっかりさぼっていることがバレて、本当にひどく怒られた。 そこで、義父から思いもよらない提案を受けた。 |
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