| トップページ | P-WORLDとは | ご利用案内 | 会社案内 |
■ 989件の投稿があります。
<  99  98  97  96  95  94  93  92  91  90  89  88  87  86  85  84  83  82  81  80  79  78  77  76  75  74  73  【72】  71  70  69  68  67  66  65  64  63  62  61  60  59  58  57  56  55  54  53  52  51  50  49  48  47  46  45  44  43  42  41  40  39  38  37  36  35  34  33  32  31  30  29  28  27  26  25  24  23  22  21  20  19  18  17  16  15  14  13  12  11  10  9  8  7  6  5  4  3  2  1  >
【719】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 36  評価

さオ (2016年03月20日 11時32分)




俺「この黄色い花、なんていうの?」 

奈央「えっと……確か、マリーゴールド、だったかな」 

俺「そうなんだ。綺麗だね、なんか夏っぽくて」 


奈央「確かに、この燃えてるみたいな色、いいですね」 

奈央「個人的には、ひまわりのが好きだけど…」 

俺「あ、そうなんだw」 

夏の明るい夕日を浴びて、花壇の花達は元気に揺られていた。 




そんなやりとりをして、また少し沈黙になりそうな時だった。 

奈央「はーあ、もう少しで部活も終わっちゃうなぁ…」 

奈央がため息を漏らすように、口にした。 


俺「あー、確かに。でも、もう総体とかは終わった時期…だよね?」 

奈央「そうですね…総体は負けちゃいました」 

俺「大会って言ってたけど、何の大会?」 


奈央「地区の、夏季大会です。ちっちゃいですけど…どうしても勝ちたくて」 

奈央「最後に、みんなで何かを成し遂げたいなって……」 


座り込んで、愛おしそうにボールを眺める奈央に、俺ははっとさせられた。 



 

【718】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 35  評価

さオ (2016年03月20日 11時31分)




奈央「あの、少し休憩しませんか」 

奈央はそう言うと、家の表の方へと駆けて行った。 


玄関の脇に水道があって、勢い良く蛇口をひねって水を飲み始めた。 

水道の下にはバケツに入ったキュウリの束が置かれていた。 

奈央「おばあちゃんかな、こんなとこにおいて」 

奈央「いいや、水入れといちゃえ」 




そう言って、バケツにじゃばじゃばと水を入れていく。 

青々としたキュウリの群れが、気持ちよさそうに、 

ぷかぷかと水の中に浸っていく。 


奈央「どうせだから、水もあげちゃうか」 

続けざまに、近くにあったひなびたジョウロに水を入れていく。 


そして玄関付近の花壇に、ばーっと、何というか大雑把に、水を蒔いていく。 

奈央「うん、これでいいかな」 

そう言うと、奈央は少しだけ笑みを見せた。 

俺はその様子を見て、少し感心して聞いてみた。 




 

【717】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 34  評価

さオ (2016年03月20日 11時30分)




奈央「…あの」 

奈央がボールを追いかけながら、俺に質問してくる。 

俺「…うん、何?」 

奈央「ポジションはどこだったんですか」 

俺「俺は、レフト。一応、エースだったんだよね…」 


奈央は「へー…」と言いながら夢中でボールを追いかけていた。 

俺「じゃあ、奈央…さんは?」 

奈央「私も…レフトで、一応エース…」 

俺「お、すごいね!」 

奈央「いや、全然そんなんじゃないです…」 


俺の言葉を聞いて、奈央は表情を曇らせた。 

何か、まずいことでも言ったんだろうか。 

こうして、しばらく二人で対人を続けた。 



 

【716】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 33  評価

さオ (2016年03月20日 11時29分)




奈央が、「はい!」と言ってレシーブをする。 

ふわりと浮かんできたボールを、俺は両の手でキャッチし優しくトスを返す。 

瞬間、少しだけ陰っていた空からにわかに光が溢れて、構える奈央を照らした。 

俺は動揺して、打ち込まれたボールのレシーブを失敗した。 


奈央「あ、ごめんなさい…」 

俺「いや、今のは捕れた…こっちがごめん」 

夏の夕暮れに、こうして対人をする… 

俺は、大事な事を思い出していた。 



 
中学の頃、体育館が満足に使えず、こうしてよく外で対人をすることがあった。 

バレーを始めたばかりで、上手くなっていくのが本当に楽しかった。 

夕暮れから、真っ暗になってボールが見えなくなるまで、仲間と無心にボールを追いかけまわした。 

あれは、なんだっけ。夏の総体の前で、みんな燃えていたんだっけ。 


奈央「どうかしました…?」 

俺「あ、ごめん。なんでもない」 

考え事にふけってしまったせいで、奈央が心配そうにこちらを見ていた。 





奈央「たまに、上手く打てないことがあるんですよね…」 

俺「ああ、強く打ち込もうとか、叩きつけるとか考えないほうがいいよ」 

奈央「あ、はい!」 

俺「手のひらでボールをしっかり捉えれば、力む必要はないから」 


奈央「…なるほど。もう一回いいですか?」 

俺「うん、全然いいよ」 


この子、案外一生懸命なんだなぁって、 

俺は思わず笑ってしまいそうだった。 


 

【715】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 32  評価

さオ (2016年03月20日 11時29分)




時たま吹き抜ける風が、木々のさざめきと共に少しだけ涼しさを運んでくれた。 

家の表の方から、書道の帰りなのか子供たちのはしゃぐ声が聞こえた。 

奈央「あの…」 

俺「どうしたの?」 


奈央「もし良かったら…ちょっとだけ対人、付き合ってもらえませんか」 

奈央「壁打ちだけだと…やっぱりあれで」 

俺「ああ…いいよ、全然オッケ」 


対人というのは、バレーの基礎練の一つだ。 

二人で向い合って、ボールをパスしあう。 





奈央「いきます」 

俺「よし、来い!」 

奈央がボールを掲げ、俺の方に打ち込んでくる。 

俺「お、なかなかイイ球打つね」 

俺がレシーブを上げると、そのまま奈央からトスが返ってくる。 


俺は「いくよ」と言ってそのままボールを打ち放つ。 

バシン、と手のひらにミートして、気持よく奈央の元にボールが向かう。 

久々にボールに触ったけれど、そこまで感覚は鈍っていないようだった。 



 

【714】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 31  評価

さオ (2016年03月20日 11時28分)




ジワジワジワ…という蝉の声が俺たちを包んで、少しだけ空間が間延びした。 

奈央は、一心に壁打ちを続けた。 


奈央「じゃあ…その、けっこう本気でやってたんですか」 

俺「ん…まあね。春高出場とか、もっと言えば優勝とか…考えてたな」 

奈央「すごい…え、でも。もうバレーは…?」 



奈央の質問にちょっとだけドキッとしたものの、俺は続けた。 

俺「まあ、色々あって…やめちゃったんだよね」 

奈央「そうなんですか…」 

俺「ん、まあね」 



 

【713】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 30  評価

さオ (2016年03月20日 11時27分)




俺「練習…かな?バレーするんだね」 

奈央「ええ…まあ」 

奈央はそう言うと、軽く頷いて再び壁打ちを始めた。 


俺「3年生って聞いたけど、部活はまだ引退じゃないんだ」 

奈央「…はい。最後の試合がまだあるんで」 

練習の邪魔をされたくない、とでも言わんばかりに、 

奈央は俺の質問に淡々と答えた。 



俺「バレーって、楽しいよね」 

俺のその一言にはっとしたように、奈央はこちらを見た。 

奈央「え、バレーやってたんですか?」 


俺「うん、ずっとやってたよ。すっごい好きだった」 

奈央「そうなんですか…!そういえば、東京って…どんな高校だったんですか?」 

先ほどまでの平板な顔色が一変して、奈央の表情が笑顔に変わっていた。 


俺はそれに気付いて少し嬉しくなりながら、会話を続けた。 

俺「うーん…まあまあ強かったかなぁ…○○高校っていう…」 

奈央「あ、なんか聞いたことあります」 

俺「そっか、それは嬉しいな」 



 

【712】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 29  評価

さオ (2016年03月20日 11時26分)



 
「なんだなんだ」と不思議に思って、窓から外を眺めてみても、 

その音の正体は掴めなかった。 


俺は仕方なく、起き抜けの怠い体で1階に降りていき、玄関から外へ出た。 

夕方とはいえ、外に出ると熱気が一気に押し寄せてきて、心が折れそうだった。 

とても近くで、ジワジワジワジワ…と蝉が鳴く声が聞こえた。 


家のもう一つのドア(書道教室側)の前には沢山の自転車が止まっていて、 

どうやら書道教室の時間になっていたらしい。 

おばあちゃん、義父の母にあたる人がここで書道教室をしている、 

というのは話に聞いていた。 




もしかしたら、さっきの音はこの教室からだったのか?なんて思ったけど、 

家の裏の方から「ばん!」とボールを叩く音が聞こえて、 

俺はすぐに家の裏へと回った。 


俺「あ……」 

奈央「あ、どうも…」 


そこには、家の裏手の斜面に向かって壁打ちをしている奈央がいた。 

しかも、持っているボールは紛れもなくバレーボールだった。 

俺はそれに気付いて、瞬時にドキッとしてしまった。 



 

【711】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 28  評価

さオ (2016年03月20日 11時25分)




あんまりに気持ちいいものだから、 

俺はそのまま畳まれていた布団にもたれかかって横になった。 

でも、こんな状況になっても浮かんでくるのはやっぱりバレーのことだった。 


半分眠りに落ちていくフワフワとした頭のなかで、 

コートを駆け巡ったあの日の光景とか、美香に言われたあの一言とか、 

春高の決勝で羽ばたいていたあのエースのこととか、 


色んな記憶が頭をよぎった。 





そんな事を考えているうちに、俺はすっかり眠ってしまって、 

目が覚めるとすっかり外は夕方の光景に様変わりしていた。 


さっきまでの真っ白な陽の光ではなく、景色は若干オレンジがかっていた。 

体中汗だくになっていて、俺はリュックに入っていた生ぬるい水を飲んだ。 

そんな風にしてぼーっとしていると、窓から風が入ってきて風鈴が音を立てる。 


ああ、やっぱり夢じゃなかったのか、なんてぼんやりと考えていると、 

何やら「バン、バン」とボールを弾く音が外から聴こえた。 




【710】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 27  評価

さオ (2016年03月20日 11時24分)




奈央「じゃあね!」 

おばさん「ちょっと奈央、夕飯はどうするの」 

奈央「多分夕方には帰ってくるから、食べる!」 

おばさん「気をつけて行くのよ!」 


そして、バタン!と音がすると、窓の外でガシャ、と自転車を出す音が聞こえて、 

奈央は勢い良く出かけていった。 

俺は一連のその様子を見て、このクソ暑いのに元気だなーなんて思っていた。 


「ごちそうさまでした」と言いながらスイカの器を台所まで運んでいき、 

「あら、そのままで良かったのに」なんて言われながら「いえ」と会釈して、 

再び自室である2階の部屋に戻った。 




畳六畳ほどはあろうかという部屋に、整然とたたまれた布団が置いてあって、 

その脇には小さな机が置かれていた。 

扇風機なんかもおいてあって、窓からは山あいの緑の景色と青空が広がっていた。 


扇風機のスイッチを入れて、心地良い風を浴びながらその景色を眺めると、 

「夢みたいなところに来ちゃったなぁ」と思った。 


おまけに、窓際に吊るされたくすんだ風鈴の「チリン」という音が、 

その夢見心地になおさら拍車をかけるようだった。 


 

<  99  98  97  96  95  94  93  92  91  90  89  88  87  86  85  84  83  82  81  80  79  78  77  76  75  74  73  【72】  71  70  69  68  67  66  65  64  63  62  61  60  59  58  57  56  55  54  53  52  51  50  49  48  47  46  45  44  43  42  41  40  39  38  37  36  35  34  33  32  31  30  29  28  27  26  25  24  23  22  21  20  19  18  17  16  15  14  13  12  11  10  9  8  7  6  5  4  3  2  1  >
メンバー登録 | プロフィール編集 | 利用規約 | 違反投稿を見付けたら