■ 989件の投稿があります。 |
< 99 98 97 96 95 94 93 92 91 90 89 88 87 86 85 84 83 82 81 80 【79】 78 77 76 75 74 73 72 71 70 69 68 67 66 65 64 63 62 61 60 59 58 57 56 55 54 53 52 51 50 49 48 47 46 45 44 43 42 41 40 39 38 37 36 35 34 33 32 31 30 29 28 27 26 25 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 > |
【789】 |
さオ (2016年03月28日 18時09分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
次第に何もなかった山道から、少々車通りの多い道が増えてきた。 いくつもの坂を下って、抜けた先に大きな川があって、 その河川敷の横には、ひまわり畑が広がっていた。 そして、その向こうには奈央の高校があった。 こりゃ、帰り道は一段と大変そうだな、と思った。 奈央のあとを追って校内に入ると、世界が一変するようだった。 不意に、空気と雰囲気が変わった気がしたのだ。 驚いて振り返ると、校門からは来た道が続いていた。 こんな事ってあるもんなのかと思ったが、 遠くで「こっち!」と呼ぶ奈央の方を向き直って、 俺は自転車のペダルを踏み直した。 何もかもが懐かしく感じた。 そんなに遠い昔のことでもないのに、高校ってこんな感じだったよなぁと、 目に映るもの全てに親しみを覚えた。 どこで吹いてるのかも分からない、遠くから聞こえる吹部の「プア〜」という音。 朝練なのだろうか。熱心な生徒が練習前に来て吹いているのだろうか。 |
|||
【788】 |
さオ (2016年03月28日 18時08分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
なにせずっと下り坂で、風を思い切り浴びるので、 暑さはそこまでじゃなかった。 奈央が飲み物買うのを忘れたと言って、途中自販機の前で立ち止まった。 俺「ねえ、そこまで急がなくてもいいんじゃない?」 奈央「そうかな。まあ、それなら普通に行ってもいいけど」 俺「何をそんなに焦ってるの?」 俺は自販機の影に入るようにして、奈央の表情を窺った。 奈央「別に、焦ってなんていないけどさぁ」 奈央は怪訝な表情でこちらに視線を向けた。 奈央「早く行って、準備したかっただけだよ」 奈央「…ごめんね」 俺は一瞬「ん?」と思って状況を理解できなかったが、 奈央が謝っているんだと気付いてすぐにフォローを入れた。 俺「や、やめて。謝ることないよ。いいんだ別に」 そう言うと奈央は「ううん」と首を横に振って、 「行こっか」と言ってペダルを踏んだ。 夏の朝の陽射しが揺れる中を、奈央が少し前を走っている。 「学校ちょっと遠いんだぁ」などと言って、時々こちらを振り返った。 俺はずっと、長い髪の結ばれた奈央の後ろ姿を見ていたから、 奈央が振り返るたびに目が合って、ちょっと困った。 |
|||
【787】 |
さオ (2016年03月28日 18時07分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
次の日、奈央は8時前には支度が終わったようで、やたらと俺を急かした。 シューズを持っていないことを話すと、渋々自分の体育館履きを貸してくれた。 俺は自前のコルセットを準備したり、 タオルやTシャツを準備するのに手間取った。 結局8:30前に家を飛び出して、俺は寝ぼけた頭を覚ますのに必死だった。 奈央「早く!」 奈央は庭先の道で自転車に乗って俺を促した。 夏の朝の真っ白な光が、俺たち二人を包み込んだ。 自転車に乗るなんて久しぶりのことで、なんだか不思議な気がした。 「急ぐから、私のあと付いてきてね!」そう言う奈央の背中を追いかける。 風を切って坂道をどんどん下っていく。 前を行く奈央の後ろ姿が小さくなっていく。 いくつものぶどう畑が横目に通り過ぎていく。 あの駅前の道も通り過ぎた。遠くに、麓の街が小さく見えた。 太陽の光を浴びて、キラキラと光っていた。 |
|||
【786】 |
さオ (2016年03月28日 16時36分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
俺は、変わり始めていたのかもしれない。 全てに自暴自棄になって、過去の記憶の亡霊に取り憑かれて流れ着いたこの場所で、 俺は何か大事なものを見つけかけていた。 その日、初めて奈央からLINEが来た。 「明日は8:30には家出るからね」 とだけ書かれた、簡素なものだった。 気合を入れて返事を返すのもアレなので、 俺は「りょーかい」とだけ打ち込んで、返事とした。 同じ家にいるというのに、LINEをするというのも妙な感覚だった。 自分の部屋にいるのも、少しだけソワソワした。 灯りは豆電球だけにして、しばらくスマホを眺めていた。 窓の外からは相変わらず虫の声が聞こえていた。 その日は、なんだか不思議な夜だった。 今更ながら、自分が全然知らない世界に来たような、そんな不思議な気持ちになった。 |
|||
【785】 |
さオ (2016年03月28日 16時35分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
俺「明日の部活なんですけど」 俺「俺、ここ何年かずっと、やりたいことが何もなかったんです」 俺「したくもない勉強を毎日毎日ずーっとやって、そんな風に過ごしてきて」 俺「でも今、本当にやりたいと思えることが、目の前にできたんです。もう、何年もなかったのに」 俺「だから明日、俺は奈央さんの部活に行って来ます」 俺は無我夢中で、今自分の心にあることを吐き出した。 まるで小さい子供のように、心に燃える想いを躊躇なく吐き出していた。 おじさん「1君、どうしたで」 俺「はい?」 おじさん「なんか今、すごい楽しそうじゃん」 俺はおじさんのその言葉を聞いて驚いた。 俺「え、そうですか?」 おじさん「なんか、いい顔してたよ」 自分でも気づいていなかった。俺はそんな風に見えていたのか。 というか、そんな風になっていたのか。 おじさん「まあ、好きにしたらいい。早起きして部活に行くのも一興だ」 おじさんはそう言うと、笑みを浮かべて煙草をくわえた。 俺も、「そうかもですね」と笑って相槌を打った。 |
|||
【784】 |
さオ (2016年03月28日 16時34分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
おじさん「奈央の部活でも、見に行くのけ」 俺「あ、そうです。ちょっと頼まれたので」 おじさんは、ふうっと煙を吐いて続けた。 おじさん「そんなこんやってないで、勉強しなくていいだか?」 俺は突然の言葉にドキッとし、一気に体温が上がる気がした。 俺「いや…もちろん勉強も…」 おじさん「勉強に集中するためにこっちに来たって聞いたけど」 おじさん「なんで部活に行くなんて話になってるだ」 俺「…すいません」 蒸し暑い夏の夜に、場が凍りついたようだった。 まさか怒られるとは思っていなかった俺は、 握りしめた拳に嫌な汗をかいた。 おじさん「…なんて、いつもこんなん言われてた?」 俺「…はい?」 おじさん「1君、本当は勉強好きじゃないら?」 おじさんの態度がくるっと変わったので、俺は何て言ったらいいか分からずにいた。 おじさん「というか、他にやりたいことがあるらに」 おじさん「聞いたよ、畑も手伝ってくれたらしいじゃん」 おじさん「庭でよく奈央とバレーもしてるんだってね」 おじさん「でも俺は、それでもいいと思うんだよ」 おじさん「勉強ばっかりやってたら、人間頭がおかしくなっちまうよ」 リーンという夏の虫の声に揺られて、おじさんの横顔が暗闇にぽっかりと浮かび上がっていた。 |
|||
【783】 |
さオ (2016年03月28日 16時33分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
奈央「明日、早いからね。寝坊はダメだよ」 俺「分かった。奈央も寝坊すんなよ」 奈央「うっさい」 皿洗いが終わった後、俺は真っ暗になった庭に出た。 使ってない自転車があるらしく、明日俺が使うために出してこようと思った。 家の居間からの灯りと、まばらな街灯の灯りだけが頼りだった。 ぶどう畑の脇の、物置のような所から自転車を引っ張り出してきて、 水道の横に止めると、縁側にいたおじさんに声をかけられた。 おじさん「自転車なんか出して、どうするで」 俺「あ、いえ。ちょっと明日使わせてもらおうかと」 おじさん「明日どっか行くの?」 そう言われて少し戸惑ったが、すぐに「部活です」と自信たっぷりに答えた。 おじさんは「はは!」と高笑いし、「1君は高校生だったっけ」と笑っていた。 おじさん「ちょっとここ座れし」 そう言われて、俺はおじさんの横に座った。 |
|||
【782】 |
さオ (2016年03月28日 16時31分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(し、しまったw chk外すの忘れてageてしまった。戻らない? ダメ? ギャハハハ) 奈央「LINEだよ。部活のグループ」 俺「ああ、そういうこと」 奈央「みんな結構期待してるよ。良かったね」 俺「え、マジ。なんか緊張すんだけど」 そう言うと奈央は「なんでw」と言って笑った。 奈央「今日みたいな感じで教えてくれたらいいよ」 俺「ん、分かったよ」 奈央「あとで、LINEも教えて」 俺「ああ、いいよ」 奈央「手伝おうか、それ」 俺「いや、いいよ。これは居候の俺の仕事」 手伝いは断ったものの、俺が皿洗いをしている間、奈央は俺の横に立っていた。 その時、奈央がどんな表情をしていたのか、俺は見ていなかった。 蚊取り線香の匂いがした。 おばあちゃんとおじいちゃんがテレビを見て笑う声がした。 おじさんは相変わらず網戸外の縁側で一服つけているようだった。 夏の夜の、いつも通りの穏やかな時間が流れていた。 その中で、俺の皿を洗う水の音が響いていた。 |
|||
【781】 |
さオ (2016年03月28日 16時29分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
俺「俺なんかで良ければ、力になるけど」 俺「コーチなんてやった事ないから、上手くできるか分かんないけどさ…」 俺がそう言うと、奈央はくすっといたずらっぽく笑った。 奈央「ほら、やっぱり」 俺「何が?」 奈央「1はまだ、バレーやりたいんだよ。そうに決まってる」 奈央が力のない笑顔で俺に語りかけてくる。 奈央「1は、自分の大好きな事を勝手に終わらせようとしてない?」 奈央「夢だった…って何?夢なら、また追いかければいいじゃん」 奈央「少なくとも、私だったらそうするんだけど」 そう言うと、奈央は口元だけで笑って首を傾げた。 俺は、けがをしてバレーと関わることを意識的に避けてきた。 でも、それは間違っていたのかもしれない。 そのせいで、いつまでたってもバレーを忘れられず、 そのしがらみに足をとられ続けてきた。 俺の本当にやりたい事は…いつまでも経っても変わらない夢は…… その日の夕飯のあと、台所で皿洗いをしていると奈央に声をかけられた。 奈央「明日臨時コーチに来てもらうって、みんなに言っといたから」 俺「みんなに?どういうこと?」 奈央はぽかんとして、スマホを指差した。 |
|||
【780】 |
さオ (2016年03月28日 16時28分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
奈央は、凛とした目で俺を見た。 そんな目で見つめられるのは初めてのことだった。 俺「そう言われても、そんないきなり部外者が…」 奈央「…やっぱり勉強忙しい?」 俺がここに来た目的―それはもちろん勉強だが― でもそんな事ばっかりやっていて、意味があるんだろうか? その先には夢も目的もない、何もないのに勉強だけしている。 奈央たちと頑張ったら、その先には何かあるんだろうか― 何か、見えるんだろうか? 奈央「大会まで、あと一週間だけ…部活に来てくれない?」 奈央「お願い…!」 奈央のまっすぐな瞳が俺を見つめた。 奈央の言葉は、不思議な力を持っているようだった。 いつもの俺なら、間違いなく断っていただろう。 バレーを思い出すと辛いから、 バレーを避けて、バレーの事を忘れようとして生きてきた。 なのに、奈央とはなぜか一緒にバレーがしたいと思えた。 もう一度やれるかもしれない、そう感じた。 |
|||
< 99 98 97 96 95 94 93 92 91 90 89 88 87 86 85 84 83 82 81 80 【79】 78 77 76 75 74 73 72 71 70 69 68 67 66 65 64 63 62 61 60 59 58 57 56 55 54 53 52 51 50 49 48 47 46 45 44 43 42 41 40 39 38 37 36 35 34 33 32 31 30 29 28 27 26 25 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 > |
© P-WORLD