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【196】 |
綺華 (2014年11月21日 23時40分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) 日曜になった。ミヤギは二週に一度の休日だった。 「よう、ひさしぶり」と代理の監視員が言った。 本来なら、余命はあと三十三日だった。 明日になれば、ミヤギはまた俺のところにきてくれるはずだった。 だが俺は、再び、例のビルへ向かったんだ。。 そう、俺がミヤギと初めて顔を合わせた場所だ。 そこで俺は、残りの三十日分の寿命を売り払ったんだ。 査定結果をみて、監視員の男は驚いてたな。 「あんた、これが分かってて、ここに来たのか?」 「そうだよ」と俺は言った。「すげえだろ?」 査定を担当した三十台の女は、困惑した様子で俺に言った。 「……正直、おすすめしないわ。あなた、残りの三十三日間、 きちんとした画材やら何やらを用意して描き続けるだけで、 将来、美術の教科書にちらっと載ることになるのよ?」 (わたい:!!!!!!!!!!!!!) |
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【195】 |
綺華 (2014年11月21日 23時37分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) 俺はミヤギを連れて花火を見に行った。 近所の小学校の校庭が会場の花火大会で、 それなりに手の込んだ打ち上げ花火が見れた。 屋台もたくさん出ていて、思ったより本格的だったな。 俺がミヤギと手を繋いで歩いているのを見ると、 すれちがう子供たちが「クスノキさんだー」と楽しそうに笑った。 変人ってのは子供に人気があるんだよ。 お好み焼きの屋台の列に並んでいると、 俺のことを噂で聞いたことがあるらしい 高校生くらいの男たちが近づいてきて、 「恋人さん、素敵っすね」とからかうように言った。 「いいだろ? 渡さないぞ」と言って俺はミヤギの肩を抱いた。 なんか嬉しかったな。たとえ信じてないにせよ、 「ミヤギがそこにいる」っていう俺のたわごとを、 皆、楽しんでくれてるみたいだった。 会場からの帰り道も、俺たちはずっと手を繋いでた。 それが最後の日になると知っているのは、俺だけだった。 ( わたい: 本日ここまでにしたら、、、 もんもんとして、寝れないかな。 アハハハ では、最後のフィナーレを。 お楽しみください。 ) |
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【194】 |
綺華 (2014年11月21日 23時36分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) その違和感を見逃すのは、簡単だった。 ちょっと他のことに考えを移せば、 すぐにでも消えてしまうような、小さな違和感だった。 でも、俺の頭の中にはあの言葉があったんだ。 『限界まで、耳を澄ますんですよ』。 俺は集中力を全開にした。 全神経を研ぎ澄まして、違和感の正体を探った。 そしてふと、理解したんだ。 次の瞬間には、俺は何かに憑りつかれたかのように、 一心不乱にスケッチブックの上で鉛筆を動かしていた。 それは一晩中続いた。 |
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【193】 |
綺華 (2014年11月21日 23時35分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) スケッチブックの中には、色んなものが描かれてたな。 俺の部屋にある電話や壊れたテレビや酒瓶、 レストランやカフェや駅やスーパーの風景、 あひるボートや遊園地や噴水や観覧車、 カブ、ポカリスエットの空き缶、スヌーピー。 で、俺の寝顔。 俺はスケッチブックを一枚めくり、 仕返しにミヤギの寝顔を描きはじめた。 しょっちゅうミヤギが絵を描くのを横で見ているうちに、 絵の描き方ってのが大体わかるようになってたんだな。 俺の頭からはすっかり色んなものが削ぎ落とされてたから、 「上手く描こう」とか「あの画家のアプローチを真似よう」とか、 そういうよけいなことは一切考えずに絵に集中できた。 完成した絵を見て、俺は満足感を覚えると同時に、 ほんのちょっぴりだけ、違和感を覚えた。 |
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【192】 |
綺華 (2014年11月21日 23時34分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) おっさんがいなくなった後も、俺はその言葉について考えた。 「限界まで耳を澄ます」。そりゃ、一体どういうことだろう? 本当にただ耳を澄ませってことなんだろうか? あるいは、深い意味のある有名な格言なんだろうか? それとも、特に意味はなく、口から出任せに言ったんだろうか? アパートに着くと、俺はミヤギと一緒にベッドに潜った。 「あの男の人、いい人でしたね」と言って、ミヤギは眠った。 すうすう寝息を立てて、子供みたいに安らかな顔で。 それは何回見ても、慣れないし、飽きないんだ。 俺はミヤギを起こさないようにベッドから降り、 台所でコップ三杯の水を飲んだ後、 部屋のすみに落ちていたスケッチブックを手に取り、 ミヤギが起きていないのを確認すると、そっと開いた。 |
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【191】 |
綺華 (2014年11月21日 23時34分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) おっさんは言う。 「自分語りになってしまいそうですから手短に済ませますが、 クスノキさん、私もあなたと似たような経験があります。 ちょうど私があなたくらいの歳だった頃、三歳上の兄が、 まさにミヤギさんがあなたにそうしてくれたような方法で、 どん底にいた私のことを救ってくれたんです。 やはり、私もあなたと同じように、決意しました。 どうにかして兄に恩返ししてやろう、ってね。 でも、それには時間が足りなかったんです。 兄は消えました。私は何もできないままでした」 そこまで言うと、おっさんはグラスの残りを飲み干した。 「もし私が、当時の自分に何かアドバイスをするとしたら。 私は、”限界まで耳を澄ませ”と言うと思います。 そう、限界まで耳を澄ますんですよ。限界までね。 ――そして、あなたはまだ間に合うところにいるんです。 ぎりぎりですけど、まだきっと間に合うはずなんです」 |
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【190】 |
綺華 (2014年11月21日 23時33分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) 男が去り、俺が帰り支度を始めると、 今度は後ろに座っていたおっさんに声を掛けられた。 「すみません。盗み聞きする気はなかったんですけど、 さっきの話、つい最後まで聞かせてもらっちゃいました」 安物のスーツを着たおっさんは、頭をかきながらそう言った。 「……で、率直に、どう思いました?」と俺は聞いた。 「その子、きっと、そこにいるんでしょう?」 おっさんはミヤギのいるあたりを見ながら言った。 「おお、よく分かりますね。そうなんですよ、かわいいんです」 俺はそう言ってミヤギの頭を撫でた。 ミヤギはくすぐったそうに目をつむっていた。 「やっぱりそうですよね。……あの、申しわけないんせんが、 少々お二人の時間をいただいてもよろしいでしょうか?」 “お二人”の箇所を強調して、おっさんは言った。 |
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【189】 |
綺華 (2014年11月21日 23時32分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) 「だからこそ、三十万を無駄に使ってしまったこと、 そして彼女を疑ってしまったことへの償いがしたいし、 何より、彼女の借金を少しでも減らしてやりたいんです。 あの子には、こんな危ないことを続けさせたくないんですよ」 でも、俺が真面目になればなるほど、世界はしらけるんだ。 男はうさんくさそうな顔をしてたね。 俺の話なんて、ちっとも信じちゃいなかったんだ。 多分こいつは、話でも聞いてやれば、 また俺が金をくれるとでも思ってたんだろうな。 |
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【188】 |
綺華 (2014年11月21日 23時31分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) そんな風に聞いてくれた人は初めてだったな。 俺は彼の手を取って、深く礼を言った。 それから話したんだよ、今までのこと。 貧乏だったこと。寿命を売ったこと。監視員のこと。 親のこと。友人のこと。タイムカプセルのこと。 未来のこと。幼馴染のこと。自販機のこと。 そして、ミヤギのこと。 話の途中、俺はつい口を滑らせて、こんなことを言った。 「本人に直接言ったことはないんですけどね、俺、ミヤギのこと、 自分でもどうしたらいいのか分からないくらい、深く愛してるんですよ」 隣にいた本人は酒をこぼしそうになってたな。 だってその通り、俺が直接ミヤギに対して 「愛してる」なんて言ったことは一度もなかったから。 ミヤギの反応が面白くて、俺は笑い転げたな。 |
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【187】 |
綺華 (2014年11月21日 23時31分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) そうそう、居酒屋で一人乾杯をしてたとき、 俺は隣の席の男に声を掛けられたんだ。 「あのときの人ですよね?」とか言われた。 こっちは向こうに見覚えがなかったんだが、 そのいかにも音大生って感じの男は、どうやら、 あの日俺が一万円を配ったうちの一人らしかった。 「最近、あなたの噂をよく聞きますよ。 まるで隣に恋人がいるかのようにふるまう、 一人で幸せそうにしている男の人の噂」 「そんなやつがいるんですねえ」と俺は言い、 「聞いたことある?」とミヤギにふった。 ミヤギは「知りませんねー」と言って笑った。 男はそんな俺の様子を見て、苦笑いする。 「……あの、僕には何となく分かるんですよ。 あなたの一連の行動には、深いわけがあるんでしょう? よかったら、僕に話してくれませんか?」 |
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