| トップページ | P-WORLDとは | ご利用案内 | 会社案内 |
■ 266件の投稿があります。
<  27  26  25  24  23  22  21  【20】  19  18  17  16  15  14  13  12  11  10  9  8  7  6  5  4  3  2  1  >
【196】

寿命を買い取ってもらった その103  評価

綺華 (2014年11月21日 23時40分)



(その1は、【88】)


 
日曜になった。ミヤギは二週に一度の休日だった。


 「よう、ひさしぶり」と代理の監視員が言った。

 
本来なら、余命はあと三十三日だった。

 明日になれば、ミヤギはまた俺のところにきてくれるはずだった。

 
だが俺は、再び、例のビルへ向かったんだ。。


 そう、俺がミヤギと初めて顔を合わせた場所だ。

 
そこで俺は、残りの三十日分の寿命を売り払ったんだ。

 
査定結果をみて、監視員の男は驚いてたな。


 「あんた、これが分かってて、ここに来たのか?」

 
「そうだよ」と俺は言った。「すげえだろ?」

 
査定を担当した三十台の女は、困惑した様子で俺に言った。


 「……正直、おすすめしないわ。あなた、残りの三十三日間、
 
 きちんとした画材やら何やらを用意して描き続けるだけで、

 将来、美術の教科書にちらっと載ることになるのよ?」




(わたい:!!!!!!!!!!!!!)


 
 

【195】

寿命を買い取ってもらった その102  評価

綺華 (2014年11月21日 23時37分)



(その1は、【88】)



俺はミヤギを連れて花火を見に行った。


 近所の小学校の校庭が会場の花火大会で、
 
 それなりに手の込んだ打ち上げ花火が見れた。
 
 屋台もたくさん出ていて、思ったより本格的だったな。
 
 
俺がミヤギと手を繋いで歩いているのを見ると、

 すれちがう子供たちが「クスノキさんだー」と楽しそうに笑った。
 
 変人ってのは子供に人気があるんだよ。
 
 
お好み焼きの屋台の列に並んでいると、

 俺のことを噂で聞いたことがあるらしい
 
 
 高校生くらいの男たちが近づいてきて、
 
 「恋人さん、素敵っすね」とからかうように言った。
 
 
 「いいだろ? 渡さないぞ」と言って俺はミヤギの肩を抱いた。
 
 
なんか嬉しかったな。たとえ信じてないにせよ、

 「ミヤギがそこにいる」っていう俺のたわごとを、
 
 皆、楽しんでくれてるみたいだった。
 
 
会場からの帰り道も、俺たちはずっと手を繋いでた。

 それが最後の日になると知っているのは、俺だけだった。



( わたい:

  本日ここまでにしたら、、、


  もんもんとして、寝れないかな。 アハハハ 


  では、最後のフィナーレを。 お楽しみください。 )



 

【194】

寿命を買い取ってもらった その101  評価

綺華 (2014年11月21日 23時36分)



(その1は、【88】)


 
その違和感を見逃すのは、簡単だった。

 ちょっと他のことに考えを移せば、
 
 すぐにでも消えてしまうような、小さな違和感だった。
 
 
 でも、俺の頭の中にはあの言葉があったんだ。

    『限界まで、耳を澄ますんですよ』。
 

俺は集中力を全開にした。

 全神経を研ぎ澄まして、違和感の正体を探った。
 

そしてふと、理解したんだ。

 次の瞬間には、俺は何かに憑りつかれたかのように、

 一心不乱にスケッチブックの上で鉛筆を動かしていた。

 
それは一晩中続いた。



 
 

【193】

寿命を買い取ってもらった その100  評価

綺華 (2014年11月21日 23時35分)



(その1は、【88】)



スケッチブックの中には、色んなものが描かれてたな。

 
俺の部屋にある電話や壊れたテレビや酒瓶、

 レストランやカフェや駅やスーパーの風景、

 あひるボートや遊園地や噴水や観覧車、

 カブ、ポカリスエットの空き缶、スヌーピー。

 で、俺の寝顔。

 
俺はスケッチブックを一枚めくり、

 仕返しにミヤギの寝顔を描きはじめた。

 
しょっちゅうミヤギが絵を描くのを横で見ているうちに、

 絵の描き方ってのが大体わかるようになってたんだな。

 俺の頭からはすっかり色んなものが削ぎ落とされてたから、

 「上手く描こう」とか「あの画家のアプローチを真似よう」とか、

 そういうよけいなことは一切考えずに絵に集中できた。

 
完成した絵を見て、俺は満足感を覚えると同時に、

 ほんのちょっぴりだけ、違和感を覚えた。


 
 

【192】

寿命を買い取ってもらった その99  評価

綺華 (2014年11月21日 23時34分)



(その1は、【88】)
 
 
 
おっさんがいなくなった後も、俺はその言葉について考えた。
 
「限界まで耳を澄ます」。そりゃ、一体どういうことだろう?
 
 本当にただ耳を澄ませってことなんだろうか?

 あるいは、深い意味のある有名な格言なんだろうか?

 それとも、特に意味はなく、口から出任せに言ったんだろうか?

 
アパートに着くと、俺はミヤギと一緒にベッドに潜った。

 「あの男の人、いい人でしたね」と言って、ミヤギは眠った。


 すうすう寝息を立てて、子供みたいに安らかな顔で。

 それは何回見ても、慣れないし、飽きないんだ。

 
俺はミヤギを起こさないようにベッドから降り、

 台所でコップ三杯の水を飲んだ後、

 部屋のすみに落ちていたスケッチブックを手に取り、

 ミヤギが起きていないのを確認すると、そっと開いた。



 
 

【191】

寿命を買い取ってもらった その98  評価

綺華 (2014年11月21日 23時34分)



(その1は、【88】)



おっさんは言う。

 「自分語りになってしまいそうですから手短に済ませますが、

 クスノキさん、私もあなたと似たような経験があります。

 
ちょうど私があなたくらいの歳だった頃、三歳上の兄が、

 まさにミヤギさんがあなたにそうしてくれたような方法で、

 どん底にいた私のことを救ってくれたんです。

 
やはり、私もあなたと同じように、決意しました。

 どうにかして兄に恩返ししてやろう、ってね。

 でも、それには時間が足りなかったんです。

 兄は消えました。私は何もできないままでした」

 
そこまで言うと、おっさんはグラスの残りを飲み干した。

 
「もし私が、当時の自分に何かアドバイスをするとしたら。

 私は、”限界まで耳を澄ませ”と言うと思います。

 そう、限界まで耳を澄ますんですよ。限界までね。

 ――そして、あなたはまだ間に合うところにいるんです。

 ぎりぎりですけど、まだきっと間に合うはずなんです」


 
 

【190】

寿命を買い取ってもらった その97  評価

綺華 (2014年11月21日 23時33分)



(その1は、【88】)



男が去り、俺が帰り支度を始めると、

 今度は後ろに座っていたおっさんに声を掛けられた。

 
「すみません。盗み聞きする気はなかったんですけど、

 さっきの話、つい最後まで聞かせてもらっちゃいました」

 安物のスーツを着たおっさんは、頭をかきながらそう言った。

 
「……で、率直に、どう思いました?」と俺は聞いた。

 
「その子、きっと、そこにいるんでしょう?」

 おっさんはミヤギのいるあたりを見ながら言った。

 
「おお、よく分かりますね。そうなんですよ、かわいいんです」

 俺はそう言ってミヤギの頭を撫でた。

 ミヤギはくすぐったそうに目をつむっていた。

 
「やっぱりそうですよね。……あの、申しわけないんせんが、

 少々お二人の時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 
“お二人”の箇所を強調して、おっさんは言った。


 
 

【189】

寿命を買い取ってもらった その96  評価

綺華 (2014年11月21日 23時32分)



(その1は、【88】)




「だからこそ、三十万を無駄に使ってしまったこと、

 そして彼女を疑ってしまったことへの償いがしたいし、

 何より、彼女の借金を少しでも減らしてやりたいんです。

 あの子には、こんな危ないことを続けさせたくないんですよ」

 
でも、俺が真面目になればなるほど、世界はしらけるんだ。

 
男はうさんくさそうな顔をしてたね。

 俺の話なんて、ちっとも信じちゃいなかったんだ。

 多分こいつは、話でも聞いてやれば、

 また俺が金をくれるとでも思ってたんだろうな。

 
 

【188】

寿命を買い取ってもらった その95  評価

綺華 (2014年11月21日 23時31分)



(その1は、【88】)



そんな風に聞いてくれた人は初めてだったな。


 俺は彼の手を取って、深く礼を言った。

 
それから話したんだよ、今までのこと。

 貧乏だったこと。寿命を売ったこと。監視員のこと。

 親のこと。友人のこと。タイムカプセルのこと。

 未来のこと。幼馴染のこと。自販機のこと。

 そして、ミヤギのこと。

 
話の途中、俺はつい口を滑らせて、こんなことを言った。

 「本人に直接言ったことはないんですけどね、俺、ミヤギのこと、

 自分でもどうしたらいいのか分からないくらい、深く愛してるんですよ」

 
隣にいた本人は酒をこぼしそうになってたな。

 だってその通り、俺が直接ミヤギに対して

 「愛してる」なんて言ったことは一度もなかったから。


 ミヤギの反応が面白くて、俺は笑い転げたな。




 

【187】

寿命を買い取ってもらった その94  評価

綺華 (2014年11月21日 23時31分)



(その1は、【88】)
 
 
 
そうそう、居酒屋で一人乾杯をしてたとき、
 
 俺は隣の席の男に声を掛けられたんだ。
 
 「あのときの人ですよね?」とか言われた。
 
 
こっちは向こうに見覚えがなかったんだが、
 
 そのいかにも音大生って感じの男は、どうやら、
 
 あの日俺が一万円を配ったうちの一人らしかった。
 
 
「最近、あなたの噂をよく聞きますよ。
 
 まるで隣に恋人がいるかのようにふるまう、
 
 一人で幸せそうにしている男の人の噂」
 
 
「そんなやつがいるんですねえ」と俺は言い、
 
 「聞いたことある?」とミヤギにふった。
 
 ミヤギは「知りませんねー」と言って笑った。
 
 
男はそんな俺の様子を見て、苦笑いする。
 
 
 「……あの、僕には何となく分かるんですよ。
 
 あなたの一連の行動には、深いわけがあるんでしょう?
 
 よかったら、僕に話してくれませんか?」
 
 
 

<  27  26  25  24  23  22  21  【20】  19  18  17  16  15  14  13  12  11  10  9  8  7  6  5  4  3  2  1  >
メンバー登録 | プロフィール編集 | 利用規約 | 違反投稿を見付けたら