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【166】

寿命を買い取ってもらった その74  評価

綺華 (2014年11月21日 20時41分)



(その1は、【88】)



「一枚ずつ配って歩いた」と俺は答えた。

 
「一枚ずつ?」と男はいぶかしげに言った。

 
「ああ。一万円を三十枚、三十人に一枚ずつ。

 本当は人にあげるつもりだったが、考えが変わった」

 
すると男はタガが外れたように笑い出したんだ。

 
それから、俺にこんな質問をしてきたんだよ。
 

「なあ、お前――まさか、本当に自分の寿命が

 三十万だって言われて信じちゃったのか?」



 
 

【165】

寿命を買い取ってもらった その73  評価

綺華 (2014年11月21日 20時40分)



(その1は、【88】)



監視員が男になったことによって、

 俺はかなりリラックスできるようになった。

 
男はそんな俺の様子を見て、言う。

 「女の子が傍にいると落ち着かねえだろ?

 なんかキリっとしたくなるよな。分かるぜ」

 
「そうだな。あんたの傍は落ち着くよ。

 あんたになら、どう思われようと構わないから」

 
俺は『ピーナッツ』を読みながらそう答えた。

 ミヤギの前では恥ずかしくて読む気になれなかった本。

 そう、実を言うと、俺はスヌーピーが大好きなんだ。

 
「そうだろうな。……ああそうだ、ところでお前、

 結局、寿命を売った金は何に使ったんだ?」

 そう言うと、男は一人でくっくっと笑った。

 
 

【164】

寿命を買い取ってもらった その72  評価

綺華 (2014年11月21日 20時39分)



(その1は、【88】)


 
「お前の寿命、最安値だったらしいな?」

 男は露骨に俺をからかうような調子で言う。

 
 「すげえすげえ。そんなやついるんだな」
 
 
「すげえだろ? なり方を教えてやろうか?」


 俺が淡々と返すと、男はちょっと驚いたような顔をした。

 
「……へえ、お前、結構余裕あるみたいだな?」

 
「いや、しっかり今ので傷ついてる。強がりさ」

 
男は俺の発言が気に入ったらしく、

 「お前みたいな奴、嫌いじゃないよ」と笑った。


 
 

【163】

寿命を買い取ってもらった その71  評価

綺華 (2014年11月21日 20時39分)



(その1は、【88】)



ある日、俺が目を覚まして部屋のすみを見ると、

 そこにいつもの子の姿はなくて、代わりに、

 見知らぬ男がかったるそうに座っていた。

 
「……いつもの子は?」と俺はたずねた。

 
「休日だよ」と男は答えた。「今日は、俺が代理だ」

 
そうか、監視員にも休日とかあるんだな。

 「へえ」と俺は言い、あらためて男の姿を眺めた。

 露天商とかにいそうな感じの、うさんくさい男だった。

 すげえ遠慮のない感じで存在感を撒き散らしてたな。


 
 

【162】

寿命を買い取ってもらった その70  評価

綺華 (2014年11月21日 20時38分)



(その1は、【88】)

 

原っぱに腰を下ろして、俺は煙草を吸っていた。

 隣では、ミヤギがスケッチブックに絵を描いていた。

 
「仕事しなくていいのか?」と声をかけると、

 ミヤギは手を止めて俺の方を向いて、

 「今のあなた、悪いことしなさそうですから」と言った。

 
「そうかねえ」と言うと、俺はミヤギのそばに行き、

 彼女が線で画用紙を埋めていく様を眺めた。

 なるほど、絵ってそうやって描くのか、と俺は感心していた。

 
「でも、そんなに上手くないな」と俺がからかうと、

 「だから練習するんです」とミヤギは得意気に言った。

 
「今まで書いた奴、見せてくれ」と頼むと、

 彼女はスケッチブックを閉じて鞄に入れ、

 「さあ、そろそろ次に行きましょう」と俺を急かした。

 
 

【161】

寿命を買い取ってもらった その69  評価

綺華 (2014年11月21日 20時37分)



(その1は、【88】)



そういうわけで、俺の自販機巡りの日々が始まった。
 
原付に乗って、田舎道をとことこ走る。

 自販機を見かけるたびに何か買って、

 ついでに安物の銀塩カメラで撮影する。

 別に現像する気はないんだけど、何となくな。

 
そんな無益な行為を数日間繰り返した。

 こんなくだらない趣味一つをとっても、

 俺よりもっと本格的にやっている人が沢山いて、

 その人たちには敵わないってことも知っている。

 
でも俺は一向に構わなかった。なんか生きてる感じがした。

 
俺のカブ110は幸いタンデム仕様だったので、

 ミヤギを後ろに乗せて、色んなところをまわれた。

 ようやくやりたいことが見つかって、天気にも恵まれて、

 俺の生活は一気にのどかなものに変わった。


 
 

【160】

寿命を買い取ってもらった その68  評価

綺華 (2014年11月21日 20時36分)



(その1は、【88】)




「でも、なんとなく分かる気はします」

 
「自販機になりたい気持ちが?」

 
「いえ、さすがにそこまでは理解不能ですけど。

 自販機って、いつでもそこにいてくれますから。

 金さえ払えば、いつでも温かいものくれますし。

 割り切った関係とか、不変性とか、永遠性とか、

 なんかそういうものを感じさせてくれますよね」

 
俺はちょっと感動さえしてしまった。

 「すげえな。俺の言いたいことを端的に表してるよ」

 
「どうも」と彼女は嬉しくもなさそうに言った。


 
 

【159】

寿命を買い取ってもらった その67  評価

綺華 (2014年11月21日 20時35分)



(その1は、【88】)



「あの、確認ですけど、自動販売機って、

 コーヒーとかコーラとか売ってるあれですよね?」

 
「ああ。それ以外も。焼きおにぎり、たこ焼き、

 アイスクリーム、ハンバーガー、アメリカンドッグ、

 フライドポテト、コンビーフサンド、カップヌードル……

 自販機は実に様々なものを提供してくれる。

 日本は自販機大国なんだよ。発祥も日本なんだ」

 
「んーと……個性的な趣味ですね」

 なんとかミヤギはフォローを入れてくれる。

 
実際、くだらない趣味だ。見方によっては、

 鉄道マニアを更に地味にしたような趣味。

 くだらねー人生の象徴だよなあ、と自分で思う。
 

 
 

【158】

寿命を買い取ってもらった その66  評価

綺華 (2014年11月21日 20時35分)



(その1は、【88】)



「どうしました?」

 
「……いや、実にくだらない事なんだけどさ。

 好きなもの、一つだけあったことを思いだした」

 
「言ってみてください」

 
「俺、自動販売機が大好きなんだよ」

 
「はあ。……どこら辺が好きなんですか?」

 
「なんだろな。具体的には自分でも分からないんだが、

 子供の頃、俺は自動販売機になりたかったんだ」

 
きょとんとした顔でミヤギは俺の顔を見つめる。


 
 

【157】

寿命を買い取ってもらった その65  評価

綺華 (2014年11月21日 20時34分)



(その1は、【88】)



さらにミヤギは、こう言った。

 「考える時は、外に出て歩くのが一番です。

 お気に入りの服に着替えて、外に出ましょう」

 
いいこと言うじゃないか、と俺は思った。

 段々とこの子は、俺に優しくなってきているように見える。

 
もしかすると、監視員は監視対象との接し方が決まっていて、

 彼女はそれに従っているだけなのかもしれないが。

 
俺はミヤギのアドバイスに従って外を歩いた。

 ものすごい日差しが強い日だったな。髪が焦げそうだった。

 すぐに喉が渇いてきて、俺は自販機でコーラを買った。

 
「あ」、と俺は小さく声を漏らした。


 
 

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