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【146】

寿命を買い取ってもらった その54  評価

綺華 (2014年11月21日 20時25分)



(その1は、【88】)

 
 
夜だったら会える、と幼馴染は言ってくれた。
 
 好都合だった。こちらも色々と準備があるからな。
 
 
俺はミヤギの手を取って、ぶんぶん振りながら歩いた。
 
 道行く人には一人でそうやってるように見えただろうけど、
 
 俺は気分がハイになってたから、どうでもよかった。
 
 ミヤギは困ったような顔で俺に引っ張られるままにしてたな。
 
 
まず美容室へ向かい、二時間後に予約を入れた俺は、
 
 ショップに行って服と靴を買い、その場で着替えた。
 
 新品の服を買うのなんて数年ぶりだった。
 
 
新しい服に着替えて髪を切った俺の姿は、
 
 なんだか俺じゃない誰かみたいだった。
 
 
ミヤギもまったく同じ感想をくれた。
 
 「なんか、まるで別の人みたいですね」
 
 正直言って嬉しかったな。俺、悪くないじゃん!
 
 
 
 
【145】

寿命を買い取ってもらった その53  評価

綺華 (2014年11月21日 20時24分)



(その1は、【88】)



「それで、どうしようっていうんですか?」

 
「最後に一度だけ、彼女に会って話がしたい。

 そしてさ、俺に人生を与えてくれた恩返しに、

 俺の寿命を売って得た三十万を、彼女に渡したいんだ。

 多分あんたは反対するだろうけど、別にいいだろ、

 俺の寿命を売って稼いだ俺の金なんだから」

 
「……そこまで言うなら、別に反対しませんよ。

 でも電車内で話すのは、もうやめましょう。

 見てるこっちが恥ずかしいですよ」

 とは言いつつも、ミヤギは妙に楽しそうだった。

 
家には帰らず、俺はそのまま街へ向かった。

 トーストとゆで卵をコーヒーで胃に流し込むと、

 俺は深呼吸して、幼馴染に電話をかけた。


 
 
【144】

寿命を買い取ってもらった その52  評価

綺華 (2014年11月21日 20時24分)



(その1は、【88】)
 
 
 
始発電車に乗り、スーツや制服に囲まれた中、
 
 俺は周りの目も気にせずミヤギに話しかけた。
 
 
「タイムカプセルの中でさ、『一番のお友達』に
 
 俺を選んでくれてる人はいなかったけど、
 
 それでもやっぱり幼馴染のあの子だけは、
 
 俺の名前を手紙の中で出してくれてたんだよ」
 
 
もちろん、周りにはミヤギの姿が見えていないから、
 
 ひとりごとを言っているように見える。完全に不審者だ。
 
 
ミヤギは心配そうな顔で言う。
 
 「あの、皆見てますよ。変な人だと思われてますよ」
 
 
「いいよ。思わせとけよ。実際、変な人なんだから。
 
 ……それでさ、あらためて駅で考えたんだけど、
 
 やっぱり俺にとっては、たとえどんなに変わり果てようと、
 
 幼馴染のあの子は、俺の人生そのものなんだよ」
 
 
 
 
 
 
【143】

寿命を買い取ってもらった その51  評価

綺華 (2014年11月21日 20時22分)



(その1は、【88】)


 
「そんな人生、全部売っちまえばいいじゃねえか。

 五十まで生き残れる保証なんてないんだろ?」

 俺がそう言うと、彼女は少し困ったような顔をした。

 
「たしかに、実際、監視員の仕事をしてる中で

 監視対象に殺されてる人も、たくさんいますね。

 でも……ほら、簡単には割り切れませんよ。

 いつかいいことあるかもしれないじゃないですか」

 
「そう言ってて、五十年間何一つ得られないまま

 死んでいった男のことを、俺は一人知ってるぜ」

 
「それ、私も知ってます」とミヤギはちょっとだけ微笑んだ。

 なんだか嬉しかったな。俺の冗談で彼女が笑ってくれたことが。





( あっし: ココいいねぇ )

 
 

【142】

寿命を買い取ってもらった その50  評価

綺華 (2014年11月21日 20時22分)



(その1は、【88】)
 
 
 
「借金ですが、私の寿命を全部売って、
 
 ようやく返しきれるかどうかって額なんです。
 
 あとちょっとで勝手に寿命を売られるところだったんですが、
 
 諦めかけた時、この監視員の仕事を紹介されたんですよ。
 
 
この仕事、大変ですが、稼ぎはすごくいいんです。
 
 このまま続けていれば、私が五十歳になる頃には、
 
 全額返しきれてるんじゃないかと思います」
 
 
“五十歳になる頃には”、か。
 
 これもまた、げんなりさせられる話だった。
 
彼女はまるでそれを救いのように話してたが、
 
 自分が何かしたわけでもないのに、あと数十年、
 
 俺みたいなやつの相手をし続けなきゃいけないわけだろ?
 
 
 

【141】

寿命を買い取ってもらった その49  評価

綺華 (2014年11月21日 20時21分)



(その1は、【88】)



「……何で、そんな危ない仕事を、

 あんたみたいな若い子がやってるんだ?」

 
俺がそう聞くと、ミヤギはぽつぽつと話し始めた。

 
話によると、彼女には借金があるらしかった。

 原因は彼女の母親にあるのだという。

 
なんでも、たいした人生でもないくせに、

 借金までして寿命を買いあさったらしい。

 それなのに病気であっさり死んでしまって、

 そのツケをこの子が払うことになったんだとか。

 清々しいくらい胸糞悪い話だったな。


 
 

【140】

寿命を買い取ってもらった その48  評価

綺華 (2014年11月21日 20時20分)



(その1は、【88】)



「……危険な仕事なんだな」

 そう言って、俺はミヤギの二つ隣に座った。

 
彼女は俺から目を逸らしたまま、

 「ご理解いただけたようで何よりです」と言った。

 
俺の神経の昂りはすっかり収まっていた。

 ミヤギの諦めきったような目を見ていたら、

 こっちまで悲しくなってきたんだよ。

 
「俺みたいなやつ、少なくないんだろう?

 死を前にして頭をおかしくしちまって、

 監視員に怒りの矛先を向けるようなやつ」

 
ミヤギは首をゆっくり振った。

 「あなたは、どちらかと言えば楽なケースですよ。

 もっと極端な行動に出る人、たくさんいましたから」


 
 

【139】

寿命を買い取ってもらった その47  評価

綺華 (2014年11月21日 20時19分)



(その1は、【88】)


 
ミヤギに詰め寄って、俺は聞いた。「なあ監視員さん」

 
「なんでしょうか」とミヤギは顔をあげた。

 
「たとえば今ここで、俺があんたに乱暴なんかしたら、

 本部とやらが俺を殺すまで、どれくらいかかる?」

 
彼女は特に驚かなかった。さめた目で俺を見て、

 「一時間もかからないでしょうね」とだけ答えた。

 
「じゃあ、数十分は自由にできるってわけか?」

 
そう俺が聞くと、彼女は俺から目を逸らして、

 「誰もそんなこと言ってませんよ」と言った。

 
しばらく沈黙が続いた。

 
不思議なことに、ミヤギは逃げ出そうとはしなかった。

 ただじーっと、自分を膝を見つめてた。


 
 

【138】

寿命を買い取ってもらった その46  評価

綺華 (2014年11月21日 20時19分)



(その1は、【88】)


 
感心ついでに、俺の中に、妙な感情が芽生えた。

 
余命三ヶ月っていう状況のせいかもしれない。

 たび重なる失望のせいかもしれないし、

 連続した緊張、疲労や痛みのせいかもしれない。

 
起きたばかりで寝ぼけてたのかもしれないし、

 単にミヤギという子が好みだったからかもしれない。

 
まあ何でもいい。とにかくその時、不意に俺は、

 ミヤギに「酷いこと」をしてやりたくなったんだ。

 自暴自棄の手本って感じだよな。どうしようもない。

 
 

【137】

寿命を買い取ってもらった その45  評価

綺華 (2014年11月21日 20時18分)



(その1は、【88】)
 
 
 
終電は数時間前に駅を通過していた。
 
 俺は駅の硬い椅子に寝そべって始発を待った。
 
 異様に明るいし虫も多くて、寝るには最悪の環境だったな。
 

一方、ミヤギは全然平気そうでさ。

 スケッチブックを取りだして、構内の様子を描いていた。

 仕事の一環かな、と考えながら俺は眠りについた。

 
始発の数時間前に目を覚ました俺は、

 外に出て自販機でアイスコーヒーを買った。

 変な場所で寝たせいで、体中があちこち痛んだ。

 
まだ辺りは薄暗かった。

 構内に戻ると、ミヤギが伸びをしていた。

 なんか、人間らしい一面をようやく見た気がしたな。

 ああ、この子も伸びとかするんだ、って感心した。


 
 

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