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【29】

放浪記・第1話

元パチプロK (2003年10月29日 23時55分)
放浪記(第1話) C店の思い出

話は、1999年夏から始まる。
その頃の僕は、それまで通っていたN店の店長が代わり釘が急激に渋くなったせいで、新しく通えるを探していた。
そして、見つけたのが新装開店後ちょうど1年たっていたC店であった。
この店が気にいった理由は釘が甘い台が数多くあったことと、気のあった仲間がたくさんいたからである。

どういうわけか、当時のC店にはとんでもなくパチンコ好きな人たち(つまりパチンコキチガイ)が集まってきていた。
彼らは平日も休日も区別なく、朝から夜までパチンコをして飽きることがなかった。しかも彼らの多くは釘を見る目を持っており、ボーダーラインや千円あたりの回転数などの理論も熟知していた。
C店に通いはじめてすぐ、僕は彼らと友達になった。

トウリョウ(実際に大工の棟梁をしていたらしい)は釘読みの達人だった。
彼は0.25ミリ単位の釘の違いが識別できたし、釘の開け閉めの情報はとにかく的確だった。
彼の話は大変役に立ったが、釘の見方でよく議論をふっかけたり、長々と釘の講釈をよくしたものだった。
ある日、僕が釘が開けられたと思われる台で苦戦している時、トウリョウがやって来た。
「おまえはさ、ヘソのでかい台ばかり選んでいるからダメなんだ。」
「んじゃ、どんな台を?」
「全体の流れを見るんだよ。釘と対話しなけりゃダメなんだ。」
「対話ですか?でも釘はしゃべらないし。」
「馬鹿か、お前は。釘がしゃべるわけないだろう。この釘をたたいた店長の意図を察してみろってことだよ。釘を見れば今日この台を出したいのか、出したくないのかわかるってもんだよ。だいたいお前はさあ……」
トウリョウの話は延々と長く続くのが欠点だった。

一番親しくしていただいたEさん夫妻は美男美女のカップルだった。
愛くるしい顔立ちの奥さんは大変なヒキ強だった。とにかく朝一がめっぽう強く、あっという間にドル箱を山積みにした。
これとは対照的に旦那さんの方はめっぽうヒキが弱く、午前中に大当たりをひくことはめったになかった。
午後になると、さすがに旦那さんの方も大当たりをひくようになったが、それでも奥さんより出玉を多く持っていたのを見たことがなかった。
「あたしがいくら稼いでもさ、この人がみんな無くしちゃうんだよね。」
奥さんはよくそんな風にこぼしていたが、言葉とは裏腹になにやら楽しそうだった。

ヤマさんは元開店プロだそうで、パンチパーマにしていたので一見して怖そうだったが、実は話好きの純粋な人だった。
ヤマさんは確率やボーダー理論などはもちろん熟知していたが、どんな場合でも大当たりを真剣に願う情熱をもっていた。
例えば、予告も何もないノーマルリーチでさえ、彼は真剣に大当たりを祈った。そして、それが外れると心底がっかりしていた。
ある日開店待ちをしているとき、ヤマさんは突然、僕に向かってこう言った。
「おまえはよう、何のために生きているんだい。」
「はあ?」
突然だったので僕は口ごもるだけで、何も答えることが出来なかった。すると、彼は胸をはってさらに言った。
「俺はよう、パチンコするために生きているんだぜ。」
うーむ。人生の目的をこうも簡潔に断言できるなんて……。
あんたって人は実に筋金入りのロクデナシだ。
僕はヤマさんをますます好きになったのは言うまでも無い。

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【30】

RE:放浪記・第2話  評価

元パチプロK (2003年10月30日 00時05分)

(第2話)

バクさんはその名の通り爆裂させるのが得意だった。
午前中に出玉3万発獲得なんて芸当をあっさりやってのけていた。
CR海物語で確変20連チャンをやってのけたのもバクさんである。
バクさんのような人を見ていると、世の中には生まれながらにして運の強い人がいると思わざるを得なかった。
また、ハマリも強烈だった。1000回とか2000回とかのハマリをくらっても平然としてパチンコを楽しんでいた。
後日、バクさんはハマリに苦しんでいる僕のところにやってきて、こう言った。
「俺はハマリに関しては誰にも負けない自信があったが、Kさんには負けたよ。Kさんこそハマリの帝王だよ」
バクさん、あのね、それちっともほめていないよ。ハマリの帝王だなんて、お願いだからやめてくれよ。

彼らから学んだことは多い。その一つに他人の出玉をうらやんだり、ねたんだりは決してしないことがあった。
例えば現金投資でかなりハマっていたとする。そのとき、隣りに見知らぬ人が座ってすぐに連チャンを始めたとしよう。そんなとき僕は平静を装っていても内心ではけっこう面白くないという気持ちを捨てきれない。自分とは関係ないことだとわかっていても、つい自分の運のなさを他人と比較してしまったりするのだ。これは人間がまだ小さいということなんだろうか。
このあたりの疑問を彼らにぶつけてみた。ヤマさんは言った。
「それはさあ、お前の経験が浅いからだよなあ。」
ずいぶんなことを言うなあ、と思ったが、その理由をさらにきいた。
「それはだねえ、要するにパチンコで負けるのは簡単で、勝つのは難しいってことよ。10万勝とうが20万勝とうが、次の日は10万くらい負けるかもしれないだろ。だからそんな目先のことにいちいちかかわり合ってはいられねえってことよ。もっと長い目でものごとを見なきゃいけねえよ。」
バクさんはさらに言った。
「それにさあ、みんな仲間なんだから、出した人におめでとうと言うのは当然のことだよ。」
しかし、僕は反論した。
「仲間なら確かにそうだけど、なかには嫌いな奴とかいるでしょ。」
「俺はいねえ。パチンコ好きな奴はみんな仲間だよ。」
頭をなぐられたような衝撃があった。パチンコ好きな奴はみんな仲間、ですか。そういう心境には僕はなれそうにない。
負けたよ。あんたたちはそこまでパチンコが好きなんだな。僕はまだ修行が足りないってことか。それにまだまだパチンコに対する愛がかけているということなんだな。

彼らと一緒になってやるパチンコは実に楽しかった。僕たちは連チャンしたといっては喜び、ハマったといっては笑い飛ばし、スーパーリーチがはずれたといってはゲラゲラ笑った。
このような生活がずっと続いたら、どんなに幸せなことか。このままここで食っていけたらいいのにな。
それは甘美な誘惑だった。
それは一生に一度だけ見ることが許される甘い甘い夢、一瞬の幻だった。

C店に通い始めてから約半年経ったころ、一本の電話がかかってきた。それは急な仕事の依頼であった。
(当時の僕はパチプロ専業ではなく、コンピューター関係の下請け仕事もときどき請け負っていた。それは、創造的な仕事ではなく、他人の作ったプログラムを検証するといったいわばゴミのような仕事であった。)
いつもなら喜んで引き受けるところだが、今回は違った。
はっきり言って断りたかった。
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