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【94】

夜桜銀次・伝  評価

野歩the犬 (2014年04月09日 17時12分)

【殲 滅〜後編】

警察との交渉が終わったのは午前五時直前だった。

時計の針が五時を告げると加茂田重政は
「解散!」と叫んだ。

これがブロックサインであった。

襲撃隊は四班に分かれて
警戒線の内側で分散配置されていた。

第一次襲撃隊、十二人が車五台に分乗してスタートした。

この十二人は丸腰だった。
下手に武器を懐にしのばせていようものなら
どこで、警戒網にひっかかるかわからない。

彼らはミナミのキャバレー「キング」の飯場に寄り、
武器を補給した。

時間差でスタートした二次、三次、四次襲撃隊も
あちこちで武装すると
有楽荘へフルスピードで突っ走った。

午前六時。

木造二階建てアパート「有楽荘」に到着したのは
五人だった。

鍵穴に拳銃が撃ち込まれ、
抜刀した二人が室内になだれこんだ。

狭い四畳半一間の室内には
明友会の五人がひそんでいた。

逃げ場を失ってひしめきあう真っ只中に
斬りこみ隊の白刃がうなりをあげた。

芋刺しにされた男たちの鮮血は天井板を染め、
ふとんも畳も血の海となった。

一人が窓枠に足をかけて踏み出そうとした。

「逃がさん!」

拳銃が火を噴き、
拝み斬りに日本刀がうちおろされた。

襲撃はわずか三分たらずで終わった。

「引け!みんなバラバラになって引き揚げろ!」

目指す宗福泰、韓建造の二人の姿は
発見できなかったが、この電撃的な襲撃は
明友会の息の根を止めるに十分な効果があった。

八月二十三日、
大阪で孤立無援となった明友会会長・姜昌興は
夜桜銀次の兄貴分である別府・石井組に窓口を求め、
改めて山口組若頭・地道行雄に全面降伏を申し入れた。

「青い城事件」発生から二週間で明友会は壊滅した。

姜昌興会長以下、明友会最高幹部七人は
有馬温泉・御所坊旅館の会場に桐箱を持って訪れた。

箱の中には七人の小指の第一関節から切断した
断指を入れた七個のガラスびんが入っていた。

山口組は明友会を全面降伏に追い込み、
ついに大阪を制圧した。

しかし、この事件での山口組系組織の逮捕者は
加茂田重政以下、百二十人。

最高刑十二年、服役年数は延べ、
計二百年以上となる出血をともなった。

石井組からの客分として
戦闘に参加していた夜桜銀次は
殺人未遂で指名手配を受けた。

この世界では、戦闘に参加した客分は
安全に逃がしてやる責任がある。

昭和三十六年十月

銀次は福岡市の山口組舎弟、
伊豆健児の許に預けられた。
【93】

夜桜銀次・伝  評価

野歩the犬 (2014年04月10日 12時57分)

【殲 滅〜前編】

姜昌興は配下の説得さえできず、
自ら和睦の機会を放棄せざるを得なかった。

八月十八日、
それまで完全に姿を消していた明友会の組員たちが続々とミナミに集結した。

「このシマはわいらのもんや」

明友会の本拠、キャバレー「ユニバース」の前で彼らは怒号をあげた。

夜桜銀次ら襲撃班が警察の追及をうけている間隙をついて反転攻勢にでようという算段であった。

これに立ち上がったのが西成区の
山口組直系・加茂田組だった。

加茂田組の本拠は神戸であったが
「明友会逆襲」の報に組長・加茂田重政は
数十人の組員を引き連れ、大阪に乗り込んだ。

西成区に情報網を張り巡らしていた加茂田組は
大阪入りするや、数日で明友会幹部、
宗福泰、韓建造のアジトを割り出した。

この二人こそ「青い城事件」の現場にいた張本人であり、西成区でにらみ合っている
加茂田組としては、ふだんからの仇敵であった。

加茂田重政は二人のアジト、
東大阪市布施のアパート「有楽荘」襲撃を即断した。

二十日午前二時

事態が急迫していることを察知した西成署は
加茂田組事務所周辺に非常線を張り、包囲した。

午前四時

西成署は加茂田組に対し解散命令を出し
「集結を続けると凶器準備集合罪を適用する」と通告してきた。

「親分、これではどうしようもないやないか」

早く襲撃をかけないとせっかく突き止めた明友会幹部が逃走する怖れもある。

加茂田重政は意を決した。

「わしが加茂田や。ケンカの態勢は解こう。
だからそっちも警戒を解いてもらいたい」

時刻はすでに四時半を回っていた。

真夏の空は白々と明け染めていた。
【92】

夜桜銀次・伝  評価

野歩the犬 (2014年04月07日 17時11分)

【人間狩り】

明友会襲撃班は鎖を解き放たれた猟犬のように、一斉に街へ飛び出していった。

千日前。道頓堀。

大劇裏。河原町。

明友会の出入りしていたところはもちろん、
大阪市内、いたるところに眼を光らせて歩いた。

明友会側も事前に情報をキャッチしいたとみえ、
いちはやく盛り場から姿を消している。

襲撃班は一般の民家や路地裏もくまなく探索した。

朝鮮人らしい男とみれば、
通行人だろうが構わずいきなり取り囲み、
ワイシャツを引き破る。

胸や背中に生首やドクロの刺青があれば、
明友会の証しだ。

刺青があれば「幹部はどこや!」と
耳や鼻をそぐ、凄絶なリンチを仕掛ける。
抵抗すればドスが脇腹を切り裂いた。

友誼団体から続々と集まってくる情報をもとに
襲撃班は西に東に飛び回った。

明友会幹部のアジトは容赦なく襲撃された。

八月十三日早朝、明友会幹部、潜伏先の情報がもたらされた。

中川組組員と夜桜銀次が西成区のアパートへ飛んだ。

「出てこい!」

中川組組員が拳銃を入り口に構え、
部屋の前で怒鳴った。

返事がない。

ドアは鍵がかけられ、
部屋の中にはバリケードが築かれていた。

体当たりしたぐらいではドアは開きそうもない。

「手をかけんから、出てこい!」

「出ていったらハチの巣やろ」

初めて、部屋の中からわめき声がした。

「出てこんのか!」

「・・・・・・・」

「そんなら、出るようにしてやるで!」

中川組組員は侵入を強行しようとドアの鍵穴に
銃口を向けて、一発撃ちこんだ。

破壊した鍵穴から内部を覗こうとした瞬間、
「バーン」と音がしてドアの上部のすりガラスが破られ、そこからヌッと竹ぼうきの柄が突き出された。

一瞬、猟銃の銃身に見えた中川組組員が身を伏せると、
夜桜銀次がほうきの柄をつかんで抜き取り、
破れた窓から二、三発室内にむけて
威嚇発砲した。

とたんに室内が騒然として窓側から激しい物音がした。

「裏の班に連絡しろ!」

アパート裏に待機していた別の一班がすかさず包囲する

銀次は中川組組員の肩に足をかけ、
高窓から室内の様子をさぐった。

逃げ遅れた男が一人、
ドアの内側にピタリとへばりついている。
パジャマ姿で、肩で息をしていた。

窓が高いので相手からは死角になっている。

銀次はその破れ窓からコルト38口径を差し込むと
間髪入れず二発の弾丸を撃ちこんだ。

「ギャッ!」という悲鳴とともに
ドタリと鈍く倒れこむ音が聞こえた。

襲撃班が行動を開始してわずか四日目。

明友会会長・姜昌興は山口組直系、柳川組に
「身柄の保護を条件に全面的に謝罪したい」と申し入れしてきた。

山口組・地道行雄はこの時期を待っていた。

「よし、わかった。詫びを入れるというなら至急、神戸へ連れてこい。
 話のつごうによっては他の者には指一本ふれさせぬよう、身柄は保証しよう。
 若頭の職責にかけても、わいが話をつけてやる」

解決の機運は高まったかにみえた。

しかし、追い込まれた明友会では、
すでに姜昌興一人の力では抑えがきかなくなっていた。

一部の幹部が猛然と反発した。

「そら、全面降伏やないか。
 なんぼ、会長の言葉とはいえ、
 わいらは承服できまへんで。
 殺された連中はどうなりますねん」

 「そうや、明友会はまだ、潰されてはおらんのや」

配下は続々と立ち上がり徹底抗戦を主張した。

姜昌興は肩を落し、困惑しきった。

そこには配下、千人の大部隊を率いて大阪を制圧していた栄光の面影はなかった。
【91】

夜桜銀次・伝  評価

野歩the犬 (2014年04月07日 01時04分)

【宣戦布告】

明友会会長姜昌興は、配下の若者が暴発して起こした「青い城事件」に苦りきっていた。

姜は全国の地方で展開されている山口組の行動力を熟知していた。

「ひとたび、三代目、田岡一雄の号令が下れば、山口組は疾風迅雷の戦争を仕掛けてくる」

姜昌興はただちに仲裁人を通じ、中川組に対し謝罪を申し入れた。

「明友会が誠意をみせるというなら、話に乗ってもよい」

中川猪三郎の答えで事態は収拾に向かうと思われた。

八月十一日、仲裁人・諏訪組組長、諏訪健治は中川組事務所を訪ねた。

応対したのは中川組幹部・市川芳正である。

まず、諏訪が口をきった。

「すでに明友会の意向はお宅の組長にも伝えてある。どや、ここはひとつ
 仲裁をわしに任せてくれんか」

悠長な物言いに市川が硬い口調で答えた。

「明友会がうちに謝罪をしたいそうですが、諏訪さん、それはどういう謝罪ですか」

謝罪といってもヤクザの社会ではいろんな方法がある。
口頭での詫びか指を詰めるのか、いったいどうなのだ、という反問である。

諏訪は一瞬、たじろいだがすぐに平静を装って言った。

「明友会会長が頭を下げて中川組に謝罪するということだ」

「それだけの謝罪で?」

「じゃあ、どうしろというんだ」

諏訪は気色ばんだ。

市川がひざを乗り出した。

「諏訪さん、あんたはなんら謝罪の方法も講じないでこの仲裁を引き受けてきたのか」

頭を下げられてすむことなら、中川組はそれでもいい。
しかし、山口組本家に対する中川組の面目はどうしてくれるのだ、
という言外の含みがある。

「なんやと!」

同席していた諏訪の若者がいきりたって叫んだ

「そんなにこの仲裁が不服ならその場で相手をやってしまえばよかったやないか!」

市川は諏訪の若者を睨みつけて一喝した

「三ン下!お前の出る幕やないわい!」

「諏訪さん、この返事は改めていたします。お引取りください」

仲裁を蹴った中川組は明友会に対し事実上の宣戦布告をした。

こうなった以上、在阪の山口組友誼団体はもはや、
黙ってみているわけにはいかなくなった。

その夜、南区「山水苑旅館」二階の大部屋で戦闘部隊が密かに結成された。

ヤクザ抗争史上で名高い明友会襲撃部隊。
それは巧妙な采配のもとに仕組まれた恐るべき戦闘班であった。

構成人員は約四十人。中川組と富士会を核弾頭として
一班、三〜四人からなる混成襲撃班が十数組、編成された。

各班はいずれも初対面同士、名も知らぬ者同士が組み合わされた。
こうしておけば、たとえ誰かが検挙されたとしても、共犯は曖昧模糊となる

「ええか!明友会のやつらは一人残らず生かしておくな!
特に会長の姜昌興、幹部の宗福泰、韓建造は草の根を分けても捜しだせ!」

壁に貼られた三人の顔写真をうっすらと笑みを浮かべて見つめる男がいた。

「チャンギ」と呼ばれた男・・・あの、夜桜銀次であった。
【90】

★☆〜ブレイクタイム〜☆★  評価

野歩the犬 (2014年04月07日 00時50分)


おお!  こりゃ意外なお客さま
 
 虹ん子ちゃんではねーの!


   見事な「夜桜」のAAありがとう

          ございます♪


  リアルISOにて、今年はとうとう、
       花見もいけなんだ。


  つーかさ。こっちは咲いたと思ったら

    すーぐ、寒さがもどって雨風強くなり

    あっというまに散った気がするんだけど。


  今夜は虹ちゃんのAA見ながら

        寝酒を一杯あおるとします

  のほ
【89】

夜桜  評価

虹ん子 (2014年04月06日 22時54分)




 +     ゜  . +            . . .゜ .゜。゜ 。 ,゜.。゜. ゜.
   . .   ゜  . o    ゜  。  .  , . .o 。 * .゜ + 。☆ ゜。。.
             .  。          。  *。,   。. o ゜, 。*,
  ゜  o   .  。   .  .   ,  . , o 。゜. ,゜ 。 + 。 。
 ゜ ,   , 。 .   +     ゜   。  。゜ . ゜。, ☆ * 。゜. o.゜
    (⌒)                . 。 ゜  ゜ , 。. o 。 。 . 。 .
   (⌒※⌒)   (⌒)        。  . .゜o 。   . 。 .. ☆ . 
   /(_人_)⌒) (⌒※⌒)      .  。 ゜         。 ゜ ,。 .。
___//(⌒(⌒※⌒)⌒)人_)         +。     ゞゞノヾ   ゜
__三(⌒※(_人_) ※⌒)     ⌒ヾ⌒        ゞヾゞ;ゞ;    。,゜
  ( (_人_(⌒)(_人_)(⌒)   (ヾゞヾゞ)      ゞ:,ヾゞヾ;ゞ
  (⌒※ (⌒※⌒) )(⌒※⌒)  (ヾゞYノ       ゞヾゞヾソ
  (_人_)(_人_)※⌒)_人_)   ヽYソ         ヾY;/
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幹事長〜〜〜、執筆、お疲れさま☆



執筆途中にお邪魔かもしれませんが、挿絵の差し入れに来ました〜(・∀・)


続きを楽しみにしています!



ミッツさんはお元気でしょうか。幹事長もISO全開と思いますが、ご自愛のほどを。



それでは失礼いたします♪


 
【88】

夜桜銀次・伝  評価

野歩the犬 (2014年04月04日 17時14分)

【戦争の構図】

駐車場に車を入れ「青い城」の店内に入った田岡一雄の秘書・織田譲二は、一瞬にして
色を失った。

織田はたまたま、客として来ていた顔見知りに
「うちの親分を頼む」と叫ぶや争いの渦に飛び込んだ。

とにかく、こいつらを連れ出さねばならない。

衣服をズタズタにされながら、織田は明友会の連中を店の外へと押しまくった。

五分後、騒ぎを聞きつけた山口組系の若衆が助っ人に駆けつけてきた。
ほとんど同じく、五台のパトカーが「青い城」に到着した。

けたたましいサイレン音に、一瞬、両者の争いはとまった。

すかさず、織田は田岡一雄と田端義雄を店外へ連れ出し、近くの料亭へ待避させた。
現場にいた明友会、山口組の応援部隊は警察によって一斉検挙された。

「青い城事件」はその夜のうちに山口組系列組織に衝撃として伝播した。

とくに組長・中川猪三郎が明友会の連中に殴打された中川組では組員たちがいきりたった。

中川組に事件の第一報が入ったのは午前一時ごろであった。

当直の組員が駆けつけると、中川猪三郎は「青い城」からキャバレー「キング」に運ばれ
濡れタオルを額にあてソファに体を横たえ、うめき声をあげていた。

「―――親分!」

組員たちは無念の表情でこぶしをふるわせた。

このままでは、中川組はヤクザ社会の笑いものになる。
深夜から早朝にかけて「キング」には在阪の山口組系団体が続々と見舞いに参集してきた。

中川組同様、怒り心頭だったのは開店祝いに三代目・田岡らを招いた富士会だった。

「明友会撃つべし!」

両派幹部の意思は決定した。

これに対し他の在阪支援団体は山口組の出方を待っていた。

当時の山口組若衆頭は地道行雄であった。

地道は三代目・田岡一雄から全幅の信頼を寄せられていた。

数々の抗争の指揮をとり、その都度、精鋭の戦闘部隊で地方を征圧
山口組の全国制覇を着々と進める策謀家でもあった。

「青い城事件」の翌日、田岡一雄は横浜で開催される全国港湾振興会議に出席するため
上京したが、その際、地道に対し「あまり、ことを荒立てぬように」と言い残していた。

地道には三代目の深謀が読めていた。

明友会はいまだ、山口組が制圧していない大阪にあっては脅威の暴力団であった。

明友会は昭和二十八年、在日朝鮮人の居住区であった鶴橋の国際マーケットを根城に
結成された。

首領は甲山五郎こと姜昌興。彼らは次第に勢力を拡大し、
昭和三十二年には大阪一の歓楽街、ミナミにその凶暴な姿を見せ始めた。

姜昌興の直系の部下は六十人ほどだったが、三十五年には群小愚連隊を吸収して
「明友連合会」を組織。
在日ヤクザとして配下、千人の大部隊となった。
彼らはドクロや生首の異様な刺青をした胸をはだけ、
ミナミの歓楽街を我が物顔でのし歩いた。

山口組も大阪には直系の中川組、富士会、柳川組、安原会、
加茂田組など二千人を擁していたが、ことミナミに関しては明友会の勢力が優勢であった。

明友会は特にキタから進出してきた富士会、柳川組に対抗意識を燃やしていた。
「青い城事件」は偶発的とはいえ、こうした背景が引き金となっていた。

山口組の地道行雄は柳川組・柳川次郎組長に
「今回の事件には深入りするな」とクギを刺した。

正面衝突を避け、明友会が早く詫びを入れてくるのを待つということで
和解の時期を模索していた。

端的にいうと直接行動は中川組と富士会にメンツをもたせて戦わせ
本家・山口組は機会をみて、有利な和解に乗り出そうという、
いかにも策士・地道らしい作戦だった。
【87】

夜桜銀次・伝  評価

野歩the犬 (2014年04月03日 22時14分)

【青い城事件】

昭和三十四年、別府抗争による殺人未遂で指名手配を受けていた
夜桜銀次は石井一郎の兄弟分である
山口組、山本健一預かりの「客分」として神戸に流れてきた。

ヤクザとしては珍しく妻と幼い娘を連れての「凶状旅」であった。

銀次は妻子を神戸市内のアパートに居住させ、
大阪の賭場へ遊びに出かける毎日を過ごしていた。

山口組の組員は銀次のことを「銀ちゃん」を転倒させ「チャンギ」と呼んだ。

銀次は賭場に出かけても関西バクチの「手本引」の張り方が分からず
よく、負けた。負けると、自分がタビの者でカモにされていると思い込み
賭場の貸元に「金を貸せ」と要求し、断られるといきなり、二丁拳銃を発射
「賭場荒らし」の評判が立っていた。

そんな銀次を待ちかねていたように、大阪で山口組抗争史に残る一大事件が勃発する。

昭和三十五年八月、大阪。
山口組三代目・田岡一雄は歌手の田端義雄を伴って
友誼団体・富士会が経営するキャバレーの開店祝いに顔を出した。
日付も変わろうとしていたころ、田岡は田端義雄をねぎらうべく
「みんなで、めしでも食おうか」と誘った。
深夜でもあり、一般の飲食店は閉店時刻をまわっていた。

「ミナミのサパークラブにしよか」。

田岡ら一行は二台の車に分乗してミナミの「青い城」へとむかった。

深夜にもかかわらず、店内はにぎわっていた。
田岡らが入り口でためらっていると、支配人が最前列に席を作って案内した。

入り口付近では気づかなかったが、奥へと進むと店内の異様な空気が伝わってきた。
そこには地元「明友会」幹部六、七人が声高に騒がしく飲み
周囲のひんしゅくを買っていたのだった。

彼らは「青い城」に十時ごろからやって来て、大騒ぎをしていた。
「他の客の迷惑になる」と店側が南署に連絡して刑事四人がきたが、
結局、騒がしいだけで事件として連行するほどの理由もなく、
注意して引き揚げた直後だった。

田岡一雄、舎弟の中川組組長・中川猪三郎、田端義雄の三人が席に着くや
明友会の連中は不敵な笑みを浮かべてテーブルに近寄ってきた。

明らかに喧嘩を売る顔つきであった。

「よう、バタやん(田端義雄)やないか。一曲、歌ってくれんか」

「わいら、バタやんのファンや。どや、歌ってくれへんか」

ねっとりと絡む口調である。

中川がとりなすように仲に割って入った

「田端はんは、今夜は遊びにきてはるんや。勘弁してやってくれんか。な」

「引っ込んどれい!」
中川はいきなり、明友会の一人によって弾き飛ばされた。

「引っ込んでろ、とはなんや!おまえら、誰にものいうとるんや!
 こちらのお方は山口組の・・・」
語気鋭い中川の返事をみなまで聞かず、明友会の連中はわめきたてた

「田端がなんや!山口組がなんぼのもんじゃ!」

興奮した明友会の連中はいきなり中川の顔面を殴りつけ、強烈な頭突きをくらわせた。

店内は騒然となった。

山口組・三代目、田岡一雄は素早く田端義雄を背中にかばい、
大手を広げて立ちふさがった。
【86】

夜桜銀次・伝  評価

野歩the犬 (2014年04月02日 17時23分)

【別府抗争】

夜桜銀次こと本名、平尾国人は昭和四年(一九二九年)  大分県庄内町に生まれた。

昭和二十七年、二十三歳にして、別府・石井組の石井一郎の舎弟となる。

石井は元々、「山川」姓の在日朝鮮人である。

夜桜銀次の素性や、極道の世界に足を踏み入れた経過については不明である。

銀次の名前がその世界で知れ渡ったのは昭和三十二年の「別府抗争」であった。

まず「別府抗争」に至る経過を説明しておこう。

戦前〜終戦直後まで、永く別府に君臨していたのは
井田栄作を組長とする井田組であった。

井田は観光温泉地・別府で興行によって財を成し、別府露天商組合理事長
大分県興行組合理事長を経て、別府商工会議所議員、さらには別府市議会議員となった。

いわば、別府の裏の首領(ドン)であった。

別府は関西汽船による神戸や四国・松山、八幡浜、宇和島などの
瀬戸内海航路の起点でもあった。

戦後まもなく神戸・小西豊勝はこの航路船内で船員、乗客を相手に賭場を開き
勢力を伸ばし、別府に上陸、小西組を結成した。

昭和二十四年十一月、小西組の特攻隊四人は井田栄作を襲撃、重傷を負わせた。

小西組が別府の覇権を奪ったかにみえた矢先、当時の団体等規制令の適用にあい
一時、神戸への撤退を余儀なくされる。

しかし、昭和二十七年、小西組特攻隊の一人だった石井一郎が出所すると
石井は九州のテキヤの頭領であった村上義一の盃を受け石井組を結成。

再度、別府の覇権を奪うべく、井田組に挑戦した。

大分県内の愚連隊を糾合した石井組は昭和三十一年夏、
それまで井田組が独占してきた興行界に介入、
大相撲・玉の海一行の地方巡業の勧進元を引き受けた。

翌、昭和三十二年、別府温泉観光産業博覧会の興行権を巡り
市議・井田栄作率いる井田組と石井組は全面戦争に突入する。

先制の一撃は井田組から放たれた。

二月二十七日、井田組の刺客が石井一郎を拳銃で襲撃、重傷を負わせる。
石井組は直ちに報復を開始、この襲撃事件に関与した市議・堀泰二郎を刺殺した。

この襲撃隊に加わっていたのが、夜桜銀次であった。

四月八日早朝、石井組組員十六人が井田組長宅を強襲、
井田は事前に情報をキャッチし不在であったが、
石井組組員は拳銃、猟銃を乱射した。

別府市内には石井、井田両陣営を応援するヤクザが三百人近く集結
市内のあちこちで、流血の衝突を繰り返し、市民を震え上がらせた。


四日後、別府署に保護を願い出た井田栄作は市議会議員等の公職全てを辞任。

ここに井田組王国であった別府は石井一郎の手に簒奪される。

ちなみに、この「別府抗争」をきっかけとして刑法に「凶器準備集合罪」が追加された。
この抗争以前にヤクザの動員集結を取り締まる条文はなかった。

「別府抗争」がいかに血で血を洗う激しいものであったかが、想像できる。

昭和三十三年、石井一郎は三十二歳の若さで
神戸・山口組の田岡一雄から直(じき)盃を受け舎弟となる。

全国制覇を目論む山口組は九州への橋頭堡をつかんだ。
【85】

夜桜銀次・伝  評価

野歩the犬 (2014年04月01日 22時27分)

拳銃(チャカ)で通れば

       拳銃(チャカ)で死ぬ ―――


 
   あいつの名はたしか・・・・

            ・・・・夜桜銀次


【プロローグ】


玄界灘を渡る風は冷たい。

九州・博多に冬の訪れを告げる北風は
舗道に枯れ葉をまき、路地裏へと吹き寄せる。

昭和三十六年
(一九六一年) 十一月。

一人の若い殺し屋が夜ごと、
歓楽街・中洲の路地をさすらっていた。

身長一七〇センチ
長めの五分刈り
青白い頬。あごのラインが剃刀のように尖っていた。

通り名を「夜桜銀次」という。

手首から背中、足首に至る全身を
「夜桜」の彫り物で飾り
黒のスーツにトレンチコートの襟を立て
路地裏のバーのドアを開ける。

必ず入り口に面したカウンターの奥に用心深く腰をおろす。

蓮っ葉な女が近づいてくる。

それを撥ね付けるように、刺すような一瞥で女を立ち去らせ
黙って「ウィンストン」をくわえる。
差し出されたライターの火にも反応せず、
一人ゆっくりと紫煙をくゆらせる。

バーテンにジョニ赤の瓶を封印のまま、運ばせ
最初の一杯を一気にあおる。

咽喉を焼くアルコールの痛みに、ちょっと顔をしかめ
それが銀次の男っぷりを、一層引き立てた。

女とだべったり、抱き寄せたりすることはおろか
笑顔さえも見せない。

いつもカウンターの片隅で、死に神のように
ウイスキーグラスの琥珀色を見つめ、
ものの、三十分と座ってはいなかった。

黙って立ち上がると、ピンと真新しい一万円札を無造作に置いて
釣り銭も受け取らずに立ち去った。

「だれね、いまん、客」

「よう、わからんとよ。ばってん、あたい、あん男に惚れたばい」

「あたしも一回で、よかぁ。あげん男にしてほしかぁ」

金は切れる。男前もいい。
硬質で無口なところが、かえって頼りがいがありそうに見える。

銀次はたちまちにして、中洲の蝶たちの噂となる。

十日もたたぬうちに銀次は自分のアパートに二人の女を交替で通わせた。

夜はネオン街を飲み歩き、
払暁から夕方にかけて、銀次は鍵をかけたアパートにこもったまま
女を抱いていた。

情事の間も銀次は愛用のコルト38口径を枕の下にひそませ
決して自分からは熱い坩堝にとびこむことはなかった。

いつも冷酷なほど冴えた眼で女を見つめ
周囲の物音に鋭く耳をとがらせながら、女の肌をいたぶる。

銀次の全身を彩る夜桜の彫り物が、女をより放縦にさせた。

不機嫌なときは容赦なく女の横っつらを張り、
欲しいときは、いきなり衣服を引き裂くように丸裸にして転がした。

全身の夜桜に象徴される粟立つ戦慄が、いつか快楽のうめきとなって
女はすれかわっていくのだった。
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