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【33】

社長 29

ゑびす4 (2006年09月22日 14時15分)
 『社長 vol.29』

 この話も夏休み中の野外実習中の出来事である。
 夕食前のことであった。
 我々は風呂に入っていた。
 大雪山にあるその研究所には風呂が一つしかなかった。
 何せ,研究所とは言っても山小屋に毛の生えた程度のものだったので当たり前であろう。
 
 我々男子が夕食前に入り,夕食後に女子が入るのが慣例であった。
 そして,その時も我々男子は夕食前に,湯船に浸かったり,頭を洗ったり,体を洗っていた。

 「い〜ひっひっひっひ」
 社長のいつもの甲高い笑い声が風呂場の中に響き渡った。
 甲高い笑い声を風呂場中に響き渡せながら,社長は数箇所ある洗い場を行ったり来たりしている。

 社長はあることを企てていたのである。
 それは・・・

 ありとあらゆる石鹸に,自分のお毛毛をくっつけているのである。

 そう,我々の後に入浴するのは女子である。女子たちに対する社長ならではのセクハラである。
 我々は言葉を失った。

 「夕食後に風呂に入るOさんやYさんの驚く顔が目に浮かびますよ。いっひっひっひっひ」
 「私たちが女子の後に風呂に入るんだったら,浴槽の中のお毛毛を掬い取るんですけど。いっひっひっひっひ」
 「それも出来ませんから,せめてこのくらいのことはしないと。いっひっひっひっひ」

 さすがは社長である。
 就寝前の女子のひそひそ話はきっと「お毛毛付き石鹸」だったに違いない・・・

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【34】

社長 30  評価

ゑびす4 (2006年09月22日 14時17分)

 『社長 vol.30』

 それは真夏のある夜の出来事だった。
 我々は強かに酔っていた。
 そして,大学に向かう道を徘徊していた。
 この通りはあまり大きくはないが,バス路線の通りで,ちょっとした街並であった。

 突然,いつもの「いっひっひっひっひ」という奇声が後方から聞こえてきた。
 我々は,いつもの不安を隠しきれなかった。
 この時間にこの場所での笑い声はまずい。
 誰もがそう思っていた。
 後ろを振り向くと,社長が電柱に立ててあった看板に蹴りを入れていた。
 「この店の看板は弱いですね。すぐに折れちゃいましたよ。いっひっひっひ」
 「ああ,たいした悪いことはしていなかったんだ」と我々は安堵の表情を浮かべた。
 「どうですか。先輩。先輩達もこの違法な広告に蹴りを入れてやりましょうよ」
 「いっひっひっひっひ」
 
 我々はちょっと躊躇した。
 が,真夜中である。
 酒の勢いもある。
 もう,全員がいたるところにある立て看板に蹴りを入れた。

 その時である。
 後方からスピーカーを通した声が響いた。
 「そこの酔っ払い! 何をしている!」
 「やばい。警察だ」
 我々は誰もがそう思った。
 全員が一目散に逃げようとした。
 しかし,後ろを振り向くと・・・

 不遜にも社長はその車に立ちはだかっていたのである。
 さすがは社長。
 警察権力ごときに恐れを抱かないのである。
 しかし,その車は警察ではなかった。
 我々のゼミの先輩だったのである。
 我々は警察のご厄介になることは避けられた。
 その先輩は車にマイク・スピーカーを付けていて,我々をからかったのである。
 
 凛々しい社長の姿を見た我々は,ほんの少しだけ社長を見直した。
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