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【14】

檸檬のKISS  RED 第十一話 生きる  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月04日 19時35分)

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 私は20年間、その苦しみと共存してきた気さえしていた。
 時には、その悪夢から全身をシャワーで浴びたような汗と涙と共に
 目が醒める事もあった。




 しかし悪いことばかりではなかった。




 虫の知らせとよく言うが、
 それに近い“胸騒ぎ”“何か感じる悪い予感”で
 大きな事故から自分が守られたことも多かった。



 勝負を行う際にも、何か嫌な予感がして台をやめたり
 自然と引き寄せられたりして恩恵を授かることが多かった気がした。
 そういう“見えない何か”を感じることが数え切れないほどあった。



 違うかもしれないが、そうかもしれない。



 私は震災で大切な親戚の叔母、親友、そして功輔を亡くし
 それからというもの、ことあることに彼らに自分を守ってもらって
 生きている気さえしていた。




 例えそうでなくとも、
 私は精一杯生きていくことしか出来ない。
 彼らのために。
 彼らの分まで。




 それが残された私たちに出来る最大の供養であると
 自分に言い聞かせ、生きてきた気がする。



 

 ――――――――――――


 もう、いつ死んだっていい。
 

 ――――――――――――




 そう思いながら生きてきた。
 だって、私、生かされてるんだもん。




 生きているだけで幸せ。
 生きていたら、なんだって出来る。




 生きなきゃ。
 生きて、生きて、生きなきゃ。




 あぁ――。
 胸が痛い。




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【13】

檸檬のKISS  RED 第十話 雫の刹那  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月04日 19時33分)

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 それはあの日から丁度20年経った、
 小雪が舞い散る1月のことだった。




    私の頬には、今も尚、
 気がつけば冷たい雫が流れていた。
 最近、こういうことが多かった。




 ****




 不思議な感覚が残っていた。 
 功輔が亡くなって20年も経つのに、
    過去の思い出になかなかならない。
 いや、なってくれないのだ。
 リアルに甦る感覚。
 刹那。




 それは恋とか愛とかという恋愛感情ではもはやなかった。



 喪失感。



 他に例える言葉が無いので、色々説明する言葉を考えてみたが、

 “喪失感”

 これが一番近い感覚のような気がした。




 そしてもう一つ。


 頬を伝う涙を感じるとき、
 必ずと言っていいほど、不思議な感覚に捉われていた。



 この20年、一度もその感覚から解放されたことが無かった。



 それがいいのか悪いのかさえ分からない。
 例えるなら、時間旅行。タイムマシン。



 そんな感覚だった。
 頬を涙が濡らす度、あの頃の感覚、思い出が甦る。
 思い出すとかという感覚ではない。



 自分があの頃の自分に立ち戻る感覚だった。
 その都度、拷問のような激しい吐き気さえ覚えた。





 ――胸が痛む。





 ――忘れたい。


 

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【12】

檸檬のKISS  BLUE 第九話 美咲の部屋  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月04日 19時31分)

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 『 功輔くん。ちょっと美咲と二人で話してみてくれないか。』




 僕は唐突にこの父親は何を言い出すのだろうと思った。
 ...僕の男の部分が一瞬、顔を覗かせた気がした。




 何でも、僕が女性苦手なことをパートの従業員さんに聞いていて
 知っていたらしい。




 社長の配慮がありがたかった。
 正直、僕の両手は、暑さのせいではなく、
 冷たい、脂の混じった冷や汗でびっしょり濡れていた。




 僕は階段を上り、彼女の部屋へと案内された。




 木目の壁に、真っ白い机と真っ白いベッドカバー。
 カーテンは薄いベージュで、いかにも品が良い大人の階段を上りかけた
 清潔で大人っぽい香りがした。





 『 カモミール...?? 』





 彼女はにっこり笑って、


 「 先生、どうして分かっちゃったの? すごい♪」


 ...と答えてくれた。




 僕の緊張の太い糸は、いつしか根元からぷっつりと
 彼女の笑顔にやられていた。
 自然といったらいいのか、何も考えず、何も構えない会話。

 


 こんなに年下の女性に僕が初対面からリラックスできるだなど、
 全くもって、とても意外なことだった。




 家庭教師の約束は、
 僕の部活が早く終わる水曜日と土曜日でいいかい?と
 社長の承諾も無く、進めている僕が居た。




 僕は毎週水曜日と土曜日に
 彼女に会えるのが楽しみになっていた。





 心を洗われるとはこういう気持ちだと、
 生まれて初めてこういう気持ちになったのだった。


 


 

 彼女の笑顔は屈託無く、
 純真無垢で、とてもチャーミングに見えた。



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【11】

檸檬のKISS  BLUE 第八話 ワンピース  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月04日 19時28分)

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 「こんにちは。」





 彼女が着替えて、社長さんの隣に座った。
 やはり14-15歳だろうか。



 しかし、制服を着ている姿とは全く違い、
 真っ白いコットンのワンピースを着た彼女の第一印象は、
 清潔感のある清楚な女子学生といった感じだった。



 少し日に焼けているが、元は肌が白いのだろう。
 首元やノースリーブのワンピースから見えた、
 ほっそりした腕はうっすらピンク色に焼けていた。




 社長が、中学1年から2年の夏までの
 彼女の成績表を見せてくれた。




 可もなく不可もなく、
 生徒数400名くらいの進学校の中等部で
 彼女の学力テストの成績は100番台後半だった。





 『...で、彼女には何を教えたら?』





 そういうと、社長、つまり彼女の父親は
 彼女を理数系に進ませたいので、兎に角、成績の極端に悪い
 英語を教えて欲しいということだった。





 『1科目でいいんですか?』




 社長は、あと出来れば1〜2科目を教えて欲しいがと言ったので
 彼女にどの科目が好きかを尋ねた。



 彼女は数学が好きだといった。
 なるほど、数学だけはずっと90点台をキープして
 学内でも一桁成績だった。




 しかし、高校受験となると
 問題は受験用の問題となる。頭が良いだけでは、
 ましてや勘では解けなくなる。




 彼女は通期での数学の成績はさほど良くないのに、
 学力テストや、県内での模擬試験の成績はズバ抜けて良かったのだ。





 おそらく、彼女は勉強嫌いなのだろう。
 数学のノートを見せてもらったが、
 殆ど何も筆記していない。




 授業中はあまり聞いていないのに
   全国レベルでの模擬試験問題は解けている。
 頭は良いのに、試験慣れしていないだけだと感じた。




 僕は、じゃぁ、数学を教えましょう。
 と一瞬も迷うことなく矢継ぎ早に答えていた。




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【10】

檸檬のKISS  BLUE 第七話 制服  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月04日 19時26分)

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 彼女がきっと。生徒なのだろう。
 



 ****




 僕は女性が苦手だった。
 特に若い年頃の今風の女性。女子学生。
 女性と名前のつくものに拒否反応さえ示していた。




 高校生の頃に父親を亡くした僕は
 母や兄の手で育てられた。




 気がつけばいつも生活は困窮し、
 生活が苦しいことを分かっていたので
 大学への進学を半ば諦めていた僕は、
 バイトに明け暮れ、ろくに勉強もしなかった。




 本来なら、予備校に通い、
 国公立大学の受験に勤(いそ)しむ時期、
 僕は毎日高校の部活を終えたその足で
 バイト先に向かった。




 バイト先では、自分の贅沢品を買うためなのか、
 金を貯める年頃女子を嫌と言うほど見てきた。



 モテナイワケではなかった。
 いや。自分で言うのも気恥ずかしいが、非常にモテた方なのだろう。


 しかし何度か数え切れないデートをして、
 女性はこれほどまでに金が掛かるのか...と正直幻滅した。


 食事代は勿論、映画代や遊園地、
 ショッピングに行けば洋服やアクセサリーを強請(ねだ)られる。




 自分で働いて買えばいい。
 その1万円でどれだけのことが出来るか、この娘(こ)たちは
 知っているのだろうか?




 世の中には、パン一つ買えず、
 腹を空かせて餓死してゆく沢山の子供たちがいるのに。


 
 僕は、いつも洒落たイタリアンレストランを予約する女子の隣の席で
 腹の中で悶々とそんなことを考えていた。


 


 大事な思春期をバイトに明け暮れ、
 家計をやりくりするために少しでも節約したかった僕は
 大学に入る前に、

 “自分は女性と付き合う男には、まだ早い”

 と、人生を諦めるかのように
 たかを括った。




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【9】

檸檬のKISS  RED 第六話 頬の涙  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月04日 19時24分)

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 『 やっぱり美咲さんだったのね。

   綺麗になって。いいお嬢さんになったのね... 』





 私は頬をつたう冷たい雫を無意識にハンカチで拭い、
 振り返り、じっと瞳を見つめた。





 微笑みたかったが、なぜか微笑むことが出来ず
 無表情に近い顔で、じっと見つめていた。





 続けて功輔のお母さんは言った。








 『 もう いいのよ。

   早く幸せになって欲しいの。

   毎年、欠かさず送ってくれているお花も。




   もう十分だから。功輔のことは早く忘れて、

   ううん。忘れることはできないわよね。

   美咲さんは情の厚い人ね...

   でも、早く前をお向きなさい。


   功輔の分まで、幸せにおなりなさいね。  』








 なんて言ったらいいのだろう...
 ずっとその言葉を...




 直接その言葉を、誰かに言って欲しかった。









 それはあの日から丁度20年経った、
 小雪が舞い散る1月のことだった。




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【8】

檸檬のKISS  RED 第五話 追憶  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月04日 19時23分)

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 『 美咲...さん...??』




 気のせいなのか、その時、私を呼ぶ女性の声がした。
 優しく、懐かしい声のような気がした。



 御影の土地で、しかも墓前...
 呼びかけられるはずが無い。




 功輔のことは、親にも、家族にも、殆ど話した事が無い。 







 ****






  私の頬には、気がつけば冷たい雫が流れていた。
 最近、こういうことが多かった。




 ****




  人の気配を感じたかと思うと、
 隣から献花をしようとする、
 少し皺のある、しかし真っ白く品の良い手が伸びてきた。
 ...とともに
 生まれ、暮らした田舎町の山花の香りが突然臭覚を刺激した。




 私は『 はっ 』とした。
 どこか異国から急に引き戻された気がしたと同時に、
 その女性と目が合った。




 最後の追悼――あの日からおよそ15年ぶりに会う
 功輔のお母さんだった。



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【7】

檸檬のKISS  RED 第四話 追悼  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月04日 19時19分)

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 あれから早いもので丁度今年で20年が経った。
 今年の冬、私は久々に功輔に逢いに行った。



 毎年欠かさず献花用のお花を郵送していたが、今年はどうしても
 自分に節目をつけたかった。



 




 ...笑う人もいるだろう。




 何年前の話だよ?と。







 「 いい加減、忘れなよ。 」

 功輔が頭をぽんぽんっと叩いて
 言ってくれそうだ。





 ***





 いったい、あれから何人の男が私と出逢い、
 通り過ぎただろう。






 それぞれの出逢った男の人たちに、
 私が心を突き動かされなかったといえば嘘になる。




 まぁ。『 い い わ け 。』
 言い訳に過ぎないのかもしれない。




 
 私はいつもそれを後回しにしてきたかもしれない。
 それの優先順位。 



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【6】

檸檬のKISS  BLUE 第三話 家庭教師  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月04日 19時14分)

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 僕は早く社会に出たかった。
 早く社会に出て、母を、家計を助けたい。




 今の大学生活も、それなりに楽しい。
 しかし、周りの連中が騒ぐような合コンにも全く興味が無く、
 飲み会やサークルの誘いも全て断っていた。




 アルバイトもようやく馴れて、毎月一定の収入が出来たことで
 家計も安定した。




 奨学金の申請も、高校から続けてきた部活の成績を評価され、
 また母子家庭ということで、すんなり通ったから、今はそれだけで
 毎日が楽になり、
 病弱気味だった母の仕事も軽くしてあげられるようになったからだ。







 ***






 「はい、どうぞ。功輔くん。」


 品の良い、明るく気さくそうな女性が出てきて
 僕に三笠とジョアヨーグルトを出してくれた。


 (あれ?僕の名前を知っているってことは...やはり社長の奥さんなのだろうか?)



 社長は奥に入っていったと思ったら、
 先ほどの女性とひそひそ話をしだした。



 下から階段を駆け上がる音が聞こえてきた。


 セーラー服を来たお嬢さんが帰宅したようだ。




 「ただいま!お母さん、あ!お客さん?こんにちは。」



 あどけなさが残る、年齢で言うと14-15歳くらいだろうか?
 僕はずっと男子校だったので、この年代の女の子とあまり話す機会が無い。
 

 バイト先も今の社長の倉庫は男子学生は僕一人で、
 あとはかなり歳の離れた目上の女性と社員の方たちだったからだ。


 同世代の女の人とは最近ようやく話せるようになった。



 そんなことをボ〜っと考えてたら、社長がお嬢さんに

 「美咲、制服を着替えたらこっちに来なさい。」と言った。


 僕は凡その展開が読めてきた気がした。



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【5】

檸檬のKISS  BLUE 第二話 家庭教師  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月05日 02時37分)

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 面接に来てくれと言われた場所は、いつも働いている美容商品の卸し倉庫だった。
 そこからどこかに移動するか案内されるのだろう。
 


 お世話になっている社長が、僕に「やぁ。」と言って目配せをした。
 凛凛しく、仕事には厳格な少しシルバーグレイの髪が似合う背の高い社長だった。
 父が亡くなったとき、随分世話になったと母や兄から聞かされていた。



 そういう僕も、受験を控えた高校生だった頃から進学の件で悩み、
 色々相談に乗ってもらった。
 


 所属高校からエスカレーターで受験し、なんとか無事合格した。
 大学に入ってからというものは、高校から続けてきたラグビーに明け暮れた。
 ラグビーに力を入れている高校、大学だったから部活に割く時間も相当で、
 やはり時間の無い中でのアルバイトは難しい。




 だから今回の割のいいアルバイトの紹介は本当に有難かった。




 社長が目配せをして少し離れた家に連れて行ってもらい、
 3階に通された。



 「普通の家じゃないか。会社じゃないのか…」



 一応僕は書いてきた履歴書を手渡した。
 今の会社のアルバイトで面接に来たのは高校生の頃だったからだ。



 今は大学生となった。
 写真も新しいものを撮って来た。



 馴れないポロシャツ。



 一応面接だと“襟付きシャツ”と書いてある。
 夏はくたびれた白のへインズのTシャツにリーバイスしか持っていない。




 そういえば就職活動も数年後には開始しないといけない。
 スーツ・・・
 金が掛かる世の中だ。



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