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【24】

涙の夜明け編 〜tear drops〜  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月06日 22時17分)

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  涙の夜明け編 〜tear drops〜


    “THE INDEX”  




  檸檬のKISS(red)   第11話 「生きる」

  檸檬のKISS(red)   第12話 「大学ノート」

  檸檬のKISS(blue)  第13話 「笑顔」

  檸檬のKISS(blue)  第14話 「会話」

  檸檬のKISS(blue)  第15話 「心から笑う」

  檸檬のKISS(red)   第16話 「手紙」

  檸檬のKISS(red)   第17話 「魂」

  檸檬のKISS(red)   第18話 「蝶となり」

  檸檬のKISS(red)   第19話 「軋轢」

  檸檬のKISS(red)   第20話 「自己」







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【23】

檸檬のKISS  RED 第二十話 自己  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月05日 02時29分)

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 海外で仕事をして初めて気づいたのであるが、「YES」「NO」の境目が
 ハッキリしていた。



 現地で一番指摘をされたのが、
 「understand/理解したのか?」「doing/行動」の二つだった。




 厳しい研修を受けて来たはずなのに、最初の頃、何故その指摘を受けるのかを
 まったく理解できなかった。



 それほど、日本では「ファジー」で「曖昧」な意識でも通用してきたことが
 多かったのだ。外に出るまで一度も意識したことがないことだった。


 
 海外ではモロッコ、ケニアにそれぞれ3ヶ月ずつ派遣された。
 言語の壁はあったが、それより上記のマインドの違い、慣習の違いで
 精神的にハードな時を過ごした。



 考え方が180度変わったのは、この国際ボランティアに参加してからが
 最も大きなきっかけだった。





 「八方美人」が大嫌いな理由。

 ―――――――それは、かつて若かりし頃、
 私自身が八方美人だったからだった。



 誰からも愛されることが良いことであると思っていた。
 ぽっかり穴が開いた、その心を埋めるものは、
 誰からも「愛されること」だった。



 クラブで勤めていても。
 また、病院で働き始めたときも。
 まず「敵を作らないこと」を念頭においていた。





 相手の気持ちに沿うことを優先した。
 その結果、今となっては何かとてつもなく
 “大切なもの”を失った気がするのではある――。



 それは確固たる「自分」というもの。


 「自分の意思」



 私は自分の意思を押し通すことよりも、
 常に周りに合せている、自分に気がついた。



 私はあの日。魂を失い、自分を見失ったのか。
 いつしか、八方美人になり、
 いつしか、敵を作らないように努力している自分に気づく。



 主張。


 主張って...なんだっけ。


 自分は...どこにあるの?


 ――もう遅いのかもしれない。




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【22】

檸檬のKISS  RED 第十九話 軋轢  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月06日 22時19分)

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 彼を追いかけ、一緒に旅立とうと何度想ったか。



 しかし、私はいつしか夢中でアルバイトで働く時間の中で、
 この魂を誰かの為に費やしたいと考えるようになった。
 私は医療の路を目指すと決めた。



 少しずつではあったが、大学時代の接客業のおかげで、
 必死で尽くせば“誰かが喜んでくださる”と、体感し、
 知ることとなった。




 “置かれた環境が人の人生の礎を作る”


 ...とはまさにこのことだと知った。



 そんな繁忙な大学生活を終えての国家試験。
 勉強嫌いだった私は不安があったが、何とか
 初年度で合格した。



 就職した病院の国際ボランティアのインターンシップ制度を利用し、
 半年間という短い期間ではあるが海外に単身で渡航した。



 その病院の医療法人が、海外に資金を注入し、設立した病院が
 世界各国の所謂“途上国”と言われる国に存在していた。



 当時は無我夢中だったが本当に良い経験をさせてもらった。
 それがご縁で、今でも数年に一度、海外でお仕事をさせてもらうこともある。

 医療は治療方針は違えど、全世界共通である。


 薬についても成分さえ分かっていれば、薬名が分からなくても添付文書を
 見れば大体網羅できた。

 大変だったのは、「マインド」の違いだった。


 海外旅行でしか国外に出たことが無かった私にとって、
 まさにカルチャーショックだった。



 「文化の違い」「言語の壁」...いや、それよりも、日本人独特の「曖昧力」が
 業務を遂行する上で大きな軋轢となった。




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【21】

檸檬のKISS  RED 第十八話 蝶となり  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月05日 02時53分)

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 あれから6年後、私は気付けばケニアの小さな病院にいた。



 **


 その後、抜け殻となった私は、
 心は完全に折れたまま、何かにしがみつくように生きた。


 いや、生かされていたという方が正確だろう。



 看護師、そして保健師両方の国家試験受験資格を取得できる
 大学の医療系学部に進み、
 大学時代の4年間はとにかく働いて...働き続けた。




 母の友人が新地にクラブを経営しているからと、
 スカウトしたことがきっかけで、美咲は学生時代、
 接客業というアルバイトについた。


 どうせ一度は無くなりかけた命。
 何でもやってみようと思うようになった。



 そしてどうせやるなら、命を焦がすほど
 必死でやってみようと思った。


 「死に物狂い」


 その言葉を探求し、体感してやろうと。


 **



 勤めだしてまず驚いたのは、客層・客筋のグレードの高さだった。
 市会議員・官僚は勿論、芸能人も多く通うお店で、マナーや接客の教育は
 それはそれは厳しきものであった。


 BOX席、当時おひとり50,000円を下らなかった。
 とにかく座るだけで50,000円。勿論、ここにボトルキープ代・ミネラルに
 フルーツ代などが乗るので、平均客単価は80,000〜100,000円程度だった。


 時給はここでは伏せるが、恐らく月に20日稼働すると、今の大手企業の
 常務クラスの月給に相当したであろう。



 しかし、出て行く金額も相当なものだった。
 「真のものを身につけなさい』というオーナーの教えどおり、
 身につけるものにはこだわった。



 ドレス代、セット代は勿論、アクセサリーや時計、靴、バッグ、
 お客様へのプレゼントは全て自腹だった。
 お給料の『約半分』は軽く消えていった。


 
 接客マナーについては専任のマナーコーチがいた。
 毎日読む新聞、株価を始め、経済のこと、教養のこと、毎日のニュース、
 言葉遣い、話し方、お手紙の書き方、贈り物の仕方など
 全てを厳しく叩き込まれた。
 


 ▽


 学業との両立で、毎日がいっぱいいっぱいだった。
 しかしそんな繁忙な毎日で、辛かった過去の日の気持ちを
 少しずつ、また少しずつ紛らせるようになっていた。



 
 そうして気付けば私は、ただただ

 「誰からも愛されること」



 を念頭に、生きていた。
 自分の意思なんてどうでもいい。
 愛されればそれで満たされるとさえ。
 それが間違いだとも気づかぬまま――。


 
 私を愛してくださる人に寄り添うこと。
 その方が望むように振舞うこと。
 それが幸せだと思い込み、信じ込むようにした。



 もう、真実の愛とか純愛だとか存在しない単語となっていた。
 そんなこと、私にとっては、もうどうでも良かった。
 人のことなんて、二度と愛せないと思っていた。




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【20】

檸檬のKISS  RED 第十七話 魂  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月05日 02時10分)

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 20年前のあの日。



 阪神淡路大震災が起こる。



 命より大切にさえ想っていた初恋の人を失った。
 心はまだ未熟な時に。





 私をとても可愛がってくださっていた叔母や、
 幼馴染だった一番の大親友さえも...。




 私の中で何かが壊れ、私はもう生きて行けないと思った。
 生きていきたくないと。
 なぜ...?




 
 なぜ私だけが
 生き続けなければならないの...?
 神様は、どうしてそんなに冷酷なの...??





 私は、もう二度と、誰も愛さない、と決めた。
 私の魂は、あの日に彼と一緒に死んだのだ。




 たとえ誰かに身を預ける夜があっても、
 心を預けたりはしない。
 預ける心なんて、もう、どこにも存在しない。




 あんなに心が傷ついたなら。
 これ以上、傷つく出来事は起こりえないと。




 操なんて必要ない。




 自分がたとえ愛していない人に抱かれようとも、 
 誰に咎められようか。



 生きろ、というなら、生きてやる...




 ただし、誰にも私の生き方を
 指図させない。



 傷つくことはもう二度と無い。



 ――――だって、もう誰も愛さないのだから。


 ――――もう――――、誰も愛せない。


 いっそのこと、地の果てまで堕ちて生きたい。




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【19】

檸檬のKISS  RED 第十六話 手紙  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月06日 22時22分)

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 ――柔らかなオレンジの光。
 冬空の下、暖炉の温かさを感じた空気は
 思わず、眠気をも誘う。


 ふと私は――手に持った重みでハッと我に返った。
 そのときだった。


 ひらひらり...と零れた茶封筒。
 無記名ではあったが、糊付けのあとが施された封筒。


 功輔のお母さんと目が合うと同時に、
 小さく、「うん」と頷いたかのように見えた。


 ――美咲は息もつかず、糊をほどき、ゆっくりとしなびた封筒に
 手をかけ、ぴり、ぴりり、と音を少し立てて親指を差込み、
 開けた。




 「美咲へ



 美咲、今こうして手紙を読んでいるということは
 僕はもうこの世にいないということだと思う。


 君と一緒に居れなくなった事を最初に詫びておきたい。
 本当に――本当に、すまない。


 君は今、元気なのか。
 君は今、もう誰か好きな人と一緒になっているんだろうか。

 
 僕は、恋をした。
 そして僕は、人生で初めて人を心から愛し、
 その人を命をかけて守り抜きたいと思った。


 何も生きがいが無かった僕に生きがいを与えてくれたのは、
 美咲、君だったよ。


 貧乏で、ろくなデートも連れて行ってあげれなかったのに
 いつも笑ってくれた君。


 僕の買えない様な高いもの 
 何も君は 欲しがらなかったけど
 本当は 何か一つぐらいは 買ってあげたかったんだよ。



 僕の胸の中には、いつでも君の姿があったよ。
 僕の脳裏には、いつでも君の笑顔があった。

 
 どうしてこんなことになったんだろう...
 それは僕にだって分らないんだ。

 
 今から書くことは、
 どうしても君に話せなかったことだ。


 僕は、あの日。君に伝えたいことがあったんだ。


 
 ただ、君には生きて欲しい。



 生きて、生きて、生き抜いて欲しい――――。」



 その先、幾重にも連なっていた古びた、湿った便箋。
 私は、涙で気を失うほど泣きじゃくれてしまった。



 ただ、その日は、その場に蹲(うずくま)り、
 もう、あとは気を失ったかでもしたように、
 なにも覚えていなかった。

 

 「 功輔... おかしいよ... おかし過ぎるよ...

  なぜ... 今なのよ... 今手紙で、なのよ...」




 私の頭には、誰の声とも分らぬ声が
 響き渡るかのような音を立て、
 幹が割れるように、しきりに木霊(こだま)していた。 




 ――それはいつまでも。



 ――まるで、永遠に――。



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【18】

檸檬のKISS  BLUE 第十五話 心から笑う  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月05日 01時52分)

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 ――そうだ。


 社長に話せといわれたのは、
 本題の家庭教師に纏わる話の方じゃなかったのか?
 僕は彼女の成績、実力を知らない。


 よくある、謙遜で「うちの子は全然駄目で〜」のような話かもしれないし
 簡単なテストをしてみようか。


 当時、僕はコミュニケーションの取り方というものをほとんど知らなかった。
 特に年頃の若い女の子にどう接したらいいか分らなかった。
 要するに――所謂――ど真面目人間だった。


 僕は、持ってきた大学ノートを引きちぎり、幾つかの図形を描いた。
 面積を求める問題、
 それと立体的な図形を当てはめる問題だった。


 今から選択肢を書こうか、という頃、彼女が上から覗き込んできた。
 本来は近い数字を4択か5択にして選んでもらうつもりだった。


 彼女は、ものの3分もしないうちに

 「先生♪ この長辺を何cmにするか早く決めて!」


 参った。
 もう答えは出ているようだ。



 もう一問の方も、問題を書いてる途中に、
 「う〜ん。この形なら ここにぴったり当てはまるよね」


 ...と指で形を作って、言って来た。
 完全に読まれている。



 ▽



 僕は数字を入れ、さらには二問目の図形の選択肢を描いた。
 彼女はすかさず指を差し、正解を当てた。



 レベルが低かったか...?



 いや、問題は確か1学年上の問題だったはずだ。
 数学は問題ないようだった。



 出来が悪いと社長が言うのは、他の教科かもしれない。


 しかし――




 僕はなんだか難しく考えていた自分自身になのか、何に対してかよく
 分らないが、兎に角、至極拍子抜けしてしまい、


 彼女と... 顔と顔を見合わせ、
 思わず、手を叩くほど、笑って、笑って、
 大笑いしてしまったのだった。



 テレビを観ても、映画を観ても、
 「作られた世界」はまるで、
 僕には全てが白黒の映像にしか見えなかった。



 なのに、彼女とは、腹の底から、大声を出して
 笑いが止まらなかったのだ。



 ――あんなに大きな声を出して笑ったのは
 生まれて初めてかもしれない。




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【17】

檸檬のKISS  BLUE 第十四話 会話  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月05日 01時43分)

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 しかし、会話をしろと言われても、思いつく話題が無い。
 何を話せと...???


 そうこう考えていたら、彼女の方から、そぉっと顔を覗きこんで
 話しかけてきた。


 「ねぇ... せ〜んせ。 大学に好きな人はいるの?彼女は?」


 な、なんてストライクな。
 ど直球じゃないか。


 僕は思わず飲んでいた珈琲を溢しそうになった。
 今時の中学生は、こんなにおませなのか?


 それとも、この娘は、なにげなく聞いてきただけなのか?
 どちらにしても、侮れない。


 侮れない、今時の中学生。


 僕は思わず口を開き、べらべらと話し始める。
 
 
 部活のこと、苦学生であること、今まで好きになった女性は
 ほぼいなかったこと、
 去年もらったチョコレートの数、
 高校卒業のときに、他校生からせがまれた制服のボタンの数。



 なんでこんなにべらべら喋ってるんだ・・・僕は。



 彼女に乗せられているのか、
 それとも僕は、いつか、誰かに話を聞いてもらいたかったのか。


 いずれにせよ、自分がこんなに喋る人間だと初めて気づいた。



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【16】

檸檬のKISS  BLUE 第十三話 笑顔  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月05日 01時41分)

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 僕は年頃の女性を、年頃らしい女性というものを 
 あまりよく知らなかった。


 彼女は中学生ではあるが、時に子供で、時に大人びた
 表情をした。


 しかし笑っているときは、全くの子供であった。
 僕は今はやりのアイドルというものには全く興味が湧かなかったが、
 何故か、彼女に興味が湧いてしまった。


 彼女は元気よく挨拶をする。
 人見知りをしない。
 人を疑う表情をしなかった。


 どんな人生を歩み、どんな人に囲まれたのか
 その育ちのよさから安易に想像が出来た。


 僕とは全く育ってきた環境、畑、土や水が違うことだけは。


 彼女の屈託の無い笑顔を見ていると、
 幾ばくか腹だたしくも感じたのだった。


 僕は、なんて嫌な奴なんだ。



 自分の苦労、貧乏を恨んだ。
 今から世話になる、しかもバイト先の社長の娘さんに。



 でも、仕方が無かった。
 環境は人格をも変える。



 僕は自分の育った環境を今さら変えることはできなかった。




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【15】

檸檬のKISS  RED 第十二話 大学ノート  評価

咲(サキ)SAKI (2016年03月04日 19時38分)

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 功輔のお母さんは、私の手をギュっと握り、
 小雪で少し白くなった私の髪から雪を払ったかと思うと
 か細い体で、私を抱き寄せてくれた。




 母のでもなく、姉のでもない。
 カモミールの香りがした。




 私はその香りでハッとした。

 功輔と一緒に贈った、お母さんへの誕生日祝い。
 功輔は私がカモミール好きなのを知って
 私に小苗を買ってくれたことがあった。



 私はそれらを鉢三つに分けて育て、
 うち一つをお母さんへ贈ったのだった。



 功輔のお母さんに恐る恐る尋ねてみた。
 季節はカモミールの季節から外れていたので
 生苗はあるはずも無かった。




 すると、

 「美咲さんに頂いたカモミール、全て乾燥させて

  今、お部屋いっぱいに飾ってあるわよ。」と。

   あれからずっと育てて増やしてくれてたんだ… 


 
 聞くと、ハーブティーのお店とプリザーブドアレンジの教室を
 細々だけど経営しているらしい。
   お店には天井一面にカモミールが吊るしてあった。 




 「丁度良かった。美咲さんに渡したいものがあったの。」



 私の手を引くと、直ぐ近くだからと
 功輔のお母さんに連れられ、そのショップにと向かった。





 ****





 店内はカモミールとラベンダーの香り、それに少し
 檸檬グラスの香りがする薔薇園のようなとても素敵なお店だった。




  

  お母さんは、今ハーブティーを入れるからと、 
 座ってこれを見ていて欲しいと私に太い1冊のアルバムと、
 20冊はあったであろうか、古びた大学ノートにしたためられた
 記録のような、メモ書きの様な、なにやら分からなかったが
 そのノートの束を渡してくれた。





 それは紛れも無い、功輔が私の家庭教師をしていたときの
 どこまで教えて、どこまでを理解してもらったかの詳細な記録と、
 そして毎日の日記帳だった。




 「 こんなに... 」




 知らなかった...
 功輔...




 あんなに時間が無い中で。




 いつ?
 こんなに沢山...

 いつ書いていたの??




 ****




 ――そのとき
 私はまた、不思議な感覚を感じた。
 



 “あの日 あの時 功輔が私に伝えたかったこと”
 




 文字で、確認する前に
 はっきりと背中に感じた気がした。

 



 既に年月を重ねて、
 痛みの酷かったその大学ノートは
 ふいに落とされた 生温かい檸檬の雫で、
 更に滲んで柔らかくなっていった。





 部屋には暖炉の暖かいオレンジの光が差し込んでいた。



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