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【699】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 17  評価

さオ (2016年03月19日 08時50分)




俺もあんな風に飛んでみたかった。 

どうして俺は…こんな腰にならなければ! 

そんなことを思ってしまった。 


憧れの舞台で輝いていた彼らを見て、キラキラした感情が込み上げた裏で、 

何もできない自分に対する絶望の念が、心にずっしりとのしかかった。 


高く高く舞い上がって躍動していたO高校のエースの姿が、 

俺の心に刻み込まれて、離れなくなった。 




 
そして俺は、そんなバレーへの情念を忘れられないまま、 

一週間後のセンター試験を迎え、案の定、失敗した。 

その後の本試験も、そのまま上手くいかなかった。 


自分でもバカだなって思う。 

バレーを諦めて勉強に専念しているのに、その勉強すらおぼつかない。 

俺は何にもなれない、なんて半端者なんだろうって、自分でも馬鹿らしかった。 


そのまま義父に強く叱責を受けて、俺はそのまま2浪した。 


自分の行く先も、将来も、何もかもが不透明なまま、 

失った夢の幻影だけが心にずっしりと残って、 

俺は再び浪人の一年を迎えたのだった。 






 

【698】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 16  評価

さオ (2016年03月19日 08時49分)



 
それはまるで俺に、 


「できないことなんて何もない。諦めなければ誰だって輝ける」 


と言っているかのようだった。 


試合も終盤に差し掛かれば、 

1プレー1プレーに悲鳴のような歓声が湧き起こる。 


最後はやっぱり、S高の大エースのサーブで決まり、S高校は優勝した。 



 
オレンジコートの真ん中で、感極まって抱き合うS高校に、 

がっくりとうなだれ、コートの外に並んでそれを見つめるO高校。 


まさに明と暗。しかし、負けてもなお表情を崩さず、凛と相手の栄誉を称えるように、 

コートの外に佇むその姿は、美しささえあった。 



俺は、強く憧れた。 

優勝したS高校にも、散ってしまったがコートに沢山の風を吹かせたO高校にも。 

俺は強く憧れ、もう戻れないバレーの日々を思い出した。 





【697】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 15  評価

さオ (2016年03月19日 08時48分)


 
 
試合はやはりS高有利に進んでいく。 


両者の高校も、バシン!と決めて一点入るたびに、 

ワッ!と歓声が起きて、「ドドドドドン!」と応援の地響きが湧き上がる。 


俺も一緒に「オッケーー!」と叫んでしまう。 

大エースを率いるS高に世間の注目が集まる中、俺は近くにいた高校生の会話が耳に入った。 


「O高のレフトエース、身長175ないらしいよ」 


「らしいねー。ほんと、どんだけ飛ぶんだって感じ」 


「しかも2年生って、すごいよなぁ」 




俺はこの会話に耳を疑った。 


確かにコートを見てみれば、 

オレンジコートで躍動するその姿は、どの選手よりも小柄に見えた。 


でも、誰よりも高く飛んで、その小柄な体で大きなブロックを打ち抜いていく。 

それも、春高バレーの決勝の舞台で。 


彼が決めるたびに、チームが沸き立つ。風が吹く。走り回る。 


俺は、この時見たO高校のエースの姿が、目に焼き付いて離れない。 






【696】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 14  評価

さオ (2016年03月19日 08時46分)




センター試験は一週間後。 

世間の受験生は今頃死ぬほど追い込みをかけている… 

それまで受験のために、バレー関係の事は全て意図的に避けていたのだが… 


もう、自分の気持ちに嘘はつけなかった。 

俺の見れなかった夢舞台、見に行こうじゃないか! 


内心、罪悪感や焦る気持ちもあったが、 

久しぶりに「あの空気」を感じられると思うと、嘘のようにワクワクしている自分がいた。 



 
体育館に着いてみると、中は満員だった。 

中学の時にも一度春高の決勝は見に行ったことがあったが、 

その時以上に混んでいた。 


注目の対戦カードは、S高校-O高校。 

注目の大エース擁する優勝候補のSと、変幻自在のOがどんな戦いをするのか。 


俺はこの決勝に、本当にワクワクしていた。 

応援の歓声も、会場の熱気も、とても真冬とは思えない。 

ああ、これだ!この感覚!と笑顔になるのを抑えきれなかった。 





 

【695】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 13  評価

さオ (2016年03月19日 08時45分)




中学生の時からずっと思い描いていた夢。理想の自分。 

その夢と現実とのギャップは、19歳の俺を苦しめるには、十分すぎるものだった。 


今思えば、少し甘えていたような気もするが、 

夢を失うっていうのは、本当に「つらい」の一言では片付けられない。 


浪人して、夏が過ぎ、秋が終わり、あっという間に冬が来た。 

さすがの俺も「今度こそは」と思っていた1月のこと。 

センター試験を一週間後に控え、世の中は受験に関係ない人達でさえも、 

なんとなく「受験ムード」に包まれ始める。 





そんな折、俺の家の近所の体育館で「あれ」をやっているという事を耳にする。 

春高バレーの決勝だった。 

俺がずっとずっと追い求めていた、夢の舞台。 


その年は、なぜだか知らないが埼玉の片田舎の体育館で春高の決勝が行われており、 

俺の家からすぐに行ける場所だった。 

俺は行こうか行かまいか、心底悩んだ。 




 

【694】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 12  評価

さオ (2016年03月19日 08時44分)




ただ、結果は残酷なもので、志望校に合格することはできなかった。 

色んなものを犠牲にして臨んだ受験だったはずなのに、俺の努力は実らなかった。 

義父は考える間もなく、「浪人にしろ」と俺にすすめた。 


何もかも上手くいかない現実に、俺は本当に荒れそうになったが、 

「車の免許だけはとらせて欲しい」という俺の希望を義父が飲んでくれたので、 

俺はなんとか浪人して勉強しようという気になれたのだった。 



 
義父のすすめで、俺は新宿の某予備校に通うこととなった。 

浪人中は、本当に辛かった。 

どうして俺はこんなところで、やりたくもない勉強をしているんだろうか? 

何のために?自分のため?将来のため? 


本当は俺は、今頃大学で大好きだったバレーをやっているはずだった… 

浪人しても、バレーへの未練はまったく消えていなかった。 


 

【693】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 11  評価

さオ (2016年03月19日 08時43分)



3年になった頃、元々部活には消極的で、 

難関大への進学を望んでいた義父の影響もあり、 

俺は大学進学を目指して、身を粉にして受験勉強に向かった。 


母さんも「きっとそれがいい」と言っていた。 




いざ受験勉強を始めてみると、 

俺が今までずっとバレーボールを続けてきたことなんて嘘のようで、 

何もかも最初からなかったんじゃないのか、と感じた。 


初めて綺麗にサーブカットを上げられたあの時の達成感も、 

先輩たちに囲まれて初めて公式戦に出たあの時の緊張感も、 

みんなで組んだ円陣も、スクイズボトルの冷たさも、負けて流した悔し涙も、 


全部全部、夢だったんじゃないのか? 

と、そんな風に感じてしまった。 




 
そんな時俺は、部屋の片隅にあった煤けたバレーボールを見ては、 

「俺は確かにあそこにいたんだ。大丈夫」と自分を鼓舞した。 

「バレーがしたい」「仲間と一緒に飛び跳ねたい」 


そんな想いと必死に闘いながら、俺は1年間受験勉強に食らいついた。 


 

【692】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 10  評価

さオ (2016年03月19日 08時41分)




美香「え、1ってケガしてバレーできなくなっちゃったの」 

美香「残念だなぁ。私は、バレーをやっている1がかっこよくて好きだったのに」 

美香「…ごめんね」 


俺は、好きだった子に、あっけなくふられたのだった。 


俺は、バレーボールができなければなんなんだろう? 

バレーのない俺なんて、一体何のためにここにいるんだろう? 

美香のこの言葉に俺は深く傷ついて、もうどうしてかいいか分からなくなってしまった。 




それからは毎日夢で見てうなされるほどになった。 

白光がふりそそぐ体育館のオレンジコートの中で、セッターのイイダ(チームメイトだった)が 

いい感じにふわっと浮かせたボールを、 

誰よりも高く飛んで、打ち下ろす。 


瞬間、一際大きな歓声を一身に浴びて、コートの中を走り回って… 

そんな夢だ。 

目が覚めるととてつもない虚無感に襲われ、泣きそうになった。 

 

【691】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 09  評価

さオ (2016年03月19日 08時40分)



 
それからの日々は、毎日頭にちらつくバレーボールの事を忘れるのに必死だった。 

監督やチームメイトも、俺を強く引き止めることはなかった。 

俺の落ち込みようが本当に凄まじかったからだと思う。 


ただ、ひどく残念がっていた。 

お前がプレーできなくなるなんて、1がいなくなるなんて、とただ悲しんでくれていた。 




そんな目的を失って絶望していた俺は、 

想いを寄せていた女の子に気持ちを伝えようと考えた。 

1年のバレーをやっていた頃からずっと好きだった、美香という同級生だ。 


俺の事をいつも応援してくれていて、事あるごとに放課後体育館に来ては 

バレー部の部活の様子を見ていた。 

周囲からは「両想いなんだぞ!」と囃し立てられたこともあった。 


バレーを失ってからっぽだった俺には、美香という好きな女の子への気持ちだけが残っていた。 

だから俺は寂しさや悔しさを紛らわすために、美香と一緒にいたい、と強く願った。 

けど、美香から返ってきた言葉は俺の想像とは違うものだった。 



 

【690】

夢を捨てた俺に忘れない夏が来た 08  評価

さオ (2016年03月19日 08時39分)




こういう状況になった時、 

「俺はそれでも好きだから、マネージャーになって影で支えるぜ」 

なんて行動に出る人もいるんだろうが、俺は全然違った。 



腰を痛めたあと、俺は硬いコルセットを巻いて部活の手伝いをしたんだが、 

コートの中で力いっぱいに躍動するチームメイトたちを見ているのは、 

本当に辛かった。 



 
本当は、俺もあのコートの中にいるはずだった。 

見るだけで、何も出来ない自分。 


俺は、バレーを見ていたいんじゃない。あのコートの中で、誰よりも高く飛んで、 

俺の視界を塞ぐ3枚ブロックを突き破りたいんだ! 

自分勝手かもしれないが、俺には本当にそんな風にしか思えなかった。 


そして俺は仲間たちの春高予選を見届け、バレーボール部を退部した。 





 

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