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【12】

社長 4

SBX (2006年05月12日 15時04分)
 『社長 vol.4』

 社長はあまり酒が好きではなかった。
 酒よりもコーラが大好きだった。
 でもコンパでは,誰よりも飲んだ。
 彼の得意技は,『カポ』である。
 『カポ』というのは,一気飲みのことである。
 ごくごくと飲むのではない。
 一気に,本当に一気に胃に流し込むのである。一瞬でコップが空になる。
 だから,毎年の学園祭での早飲み競争では,圧倒的強さでチャンピオンに輝いていた。

 『カポ』を見るのは楽しかった。
 そう,その日までは。

 その日は,ゼミでのコンパが行われた。
 学園祭の打ち上げである。
 その日も社長は酒を飲むというより,流し込んでいた。
 酒に飲まれていた。

 彼がすっかり出来上がった時,彼を連れて帰るのは俺の必然の義務になっていた。
 俺だって好き好んで,100kgの荷物を運びたくない。

 俺が100kgの脂肪を肩に掛け,タクシー乗り場まで運び,狭いタクシーに無理やり詰め込み,タクシーの中では吐かないように気を配り,寮に着いた時には小さなタクシーから100kgの肉体を取り出し,約100mもあろうかと思われる長い寮への道を100kgの肉を担ぎ,寮の二階へ100kgの煩悩を担ぎ上げ,狭く,とてつもなく汚い部屋に転がり込んだのは,午前2時を過ぎていた。

 部屋の床に散らばる臭い靴下や,エロ本をどけ,新聞紙をくまなく敷き詰めた。
 そして,ゴミ箱に新聞紙を入れ社長を諭した。
 「おい,S。吐きそうになったら枕元にゴミ箱があるからな。そこに吐けよ。一応床にも新聞紙敷いたからな」
 「先輩,すみませんね」
 と言った直後である。
 彼は,床に敷き詰めた新聞紙をわざわざどけて,グリーンの絨毯に色とりどりの雪を巻き散らかした。
 彼からの素敵なクリスマスプレゼントである。
 俺は,そのプレゼントを靴下に詰めてやろうかと思ったが,流石に止めた。

 次の日,大学の講義を休んだけど,キリスト様ならきっと寛容の心で許してくれたはずだ。
 当然,社長は2日後に会った時には,そんなことは微塵も覚えていなかったのは言うまでもない。

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【13】

社長 5  評価

SBX (2006年05月12日 15時05分)

 『社長 vol.5』

 クリスマスをゼミの新入生でお祝いしようとなったのは,必然だった。
 ただ,困ることがあった。
 N2とM(両方♂)が,「女が来るなら俺は行かねえ」とほざきやがったのである。
 女が来ないコンパに何の意味があるんだ?
 俺たちはそう思っていた。
 社長は特に危機感を募らせたようだった。
 「N2先輩,みんなでキリスト様の誕生日をお祝いしましょうよ。女がいたっていいじゃないですか。い〜ひっひっひっひ・・・」

 社長の努力によってクリスマス会は行われることになった。
 N2は出席することになったがMは欠席した。
 Mは,寺の息子で共産党員というかなり変人だった。
 まあ,Mがいなくたって盛り上がれる。
 ♂は少ないほうが確率が高くなる。

 いよいよクリスマスイブである。何とか今年中に彼女を作ろうと♂達は,張り切って買出しに行った。
 そうである。女共は優雅に飲み食いするための存在なのである。今日限りは。
 買出しで何もしなかったのは社長であるのは,明白であろう。
 N2を説得したことで,責任は果たしたと社長は思ってるのだ。

 俺達が買出しに行って,Nの部屋に行くと,そこにはトドが寝ていた。
 轟々といびきをかいていた。
 そうなのだ。
 社長は寝て10秒後にはいびきをかいて,他の人を眠らせないという必殺技の持ち主なのである。

 仕方なく,俺達はパーティーの準備をした。
 しかし邪魔である。100kgの肉体が。
 それでも何とかクリスマスらしい飾り付けをすることができた。

 そして,宴もたけなわ,酒もディナーもたらふく食った後,いよいよケーキを食おうとしていた。
 ケーキを配り終わると,Nが気づいた。
 フォークが無い。
 すると社長は無言で割り箸を取り出し,むしゃむしゃと旨そうにケーキを食べた。
 一瞬の出来事である。
 誰も何も言えなかった。

 そして,その後,漬物をポリポリと食い始め,クリスマスの聖なる雰囲気をぶち壊してくれたのは言うまでも無い。
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