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【3545】 | RE:駄小説 『オレンジ色をした花びら』 あちちち (2009年08月18日 12時06分) |
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≪5≫ 僕は講堂を閉ざす、重い引き戸に手をかけ 力を入れて両腕を左右に広げた ガラガラガラ… そして右奥にあるいつもの場所に目をやると、彼女の背中がそこにはあった 彼女の名前はエリ 付き合っていた頃は「エリツィン」と呼んでいた エリは少しの間 振り向かずに壁の方向を見ているようだったが 僕が近付くと ゆっくりとこちらを向いた 僕とエリが交際することになったのは、まだ高校1年のときで その日もいつも連れ添って遊んでいる男女仲良しグループでのカラオケの後、 バス停にいた僕に唐突な言葉を浴びせたことがキッカケだった 「え、 今 なんて?」 僕は半分聞こえたような、耳を疑うようなその言葉に 女性に対して二度も恥をかかせてしまう 「だからね、 好きだから付き合ってくれない?って言ったの」 エリは下を俯きながら 時折僕の表情を確認するように言った 僕の半径2m以内には、もちろん数人の男女がいる 「え、え? おい 何言ってんだよ」 そうはぐらかそうとした刹那 「いいじゃん いいじゃん! お前らけっこう仲良いしさ! お似合いなんじゃねーの?」 「そうよ〜 きっと藤沢君をエリちゃんならいい感じになるわよ!」 どことなく違和感のある囃したてをする渥美と小林さん 彼らもこの仲良しグループの中で芽生えたカップルだ 時に小林さんは学年でもトップ10に入るだろうクラスのマドンナだった それをいつもの押せ押せ攻撃で小林さんを射止めた渥美 僕も一時はそのマドンナに恋心を抱いていた一人なのは、別に珍しいものではない 特に好きな女性という存在を作っていなかった3学期のある日 僕の心の隙間にエリは飛び込んできた 「いや・・・ 急な話しだしさ、 答えは明日っていうことで」 明らかに狼狽しているのは僕も自分でわかっていたが なんとか今この“付き合っちゃえ”的な空気は逃れたい そう思って返答をとりあえず先延ばししようとすると 「え〜〜 なんで〜 エリのどこが不満なのよ」 小林さんは僕の逃げ道を閉ざそうとしてきた 後からエリに聞いたことだが、この作戦を成功させるべく 一連の成り行きは、すべてエリがこのカップルに頼んだものだったらしい 僕はまるでフラっと入った電気屋で、何の必要もない家電を買わされる客のように 「うん、 そうだな 断る理由もないし」 そう即決してしまった まぁ 未熟な高校生の交際なんて、こんなことで始まることはゴマンとあるだろう 「よかった♪」 すかさず僕の右腕に腕をからませてくるエリ それが僕らの始まりだったんだ |
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【3758】 |
あちちち (2009年08月25日 19時42分) |
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これは 【3545】 に対する返信です。 | |||
≪6≫ 「…来てくれたんだぁ」 エリは半分作ったような笑顔でそう口を開いた 「うん で、話しあるんだろ? 何?」 「…早いね。 もっと”最近元気してるか”とか言ってくれてもいいのになぁ」 エリは口を尖らせている だいたいこういう態度をするときは、決まって本心とは反対なことを考えている 付き合っていた頃も、『街に買い物に行きたい』と言い出したことがあった 僕が部活があるから週末は行けない、と断ると口を尖らせ 「嘘ウソ! ちょっと言ってみただけだよ!」 と勝ち気なところも見せているつもりでも 僕にはエリの心情がよくわかっていた 「別に〜 こうして改まって言うことじゃないんだけど〜・・・」 「・・・だけど、 何?」 「・・・だけど〜 あたしね? 彼氏できたんだ」 「…ふぅ〜ん、 良かったっしょ 相手は何組のヤツ?」 「うぅん うちのガッコじゃないの」 「・・・・・そ、そっか」 「だからね、藤沢君も 早く磯里さんに告白したら?」 エリは唐突に、今一番僕が意識するその名前を切り出してきた 「な、何言ってんだよっ 僕は僕のタイミングで図ってるんだから」 僕は少しうろたえながらそう答える その仕草を見てエリの悪戯心に火が点いたのか、 「いっそのこと、あたしが取り入ってみようか?」 そう畳み掛けてくきた 「いいってば! 話しは終わりだろ? じゃあ僕 体育館行きたいから!」 踵を返そうとする僕に、エリは僕の右手を掴んでくる 「待ってよ、 あたしが呼び出したんだから そっちから先に行っちゃわないでよ あたしはあたしで楽しくやってくから、藤沢君はちゃんと頑張ってね!」 エリは珍しく真顔でまっすぐ僕を見つめて言った そして 「じゃね・・・」と言うと 顔を両手で覆って講堂から出て行ってしまった 「なんだよ 手紙まで忍ばせといて、彼氏ができただけの報告かよ」 僕はしばらく講堂の真ん中で突っ立って 今あったことを思い直していたが、いつもの早い気持ちの方向転換をして 何事もなかったように教室へと戻った 時刻はもう昼休みの終わりを告げている 「よぉ 今日はバスケに来なかったな」 そう田澤に声をかけられたが、僕は窓から見える新緑を眺めていた |
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