| トップページ | P-WORLDとは | ご利用案内 | 会社案内 |
返信元の記事
【33】

10年後のクレ●ンしんちゃん(5)

たいちょ。 (2006年09月10日 10時38分)

◆たいちょ。:2006/04/07(金) 01:54:02.21 ID:60VRmiQN0



「母ちゃんの行った病院は、ヤブだったに決まってる!! オラが、他の病院に連れてくぞ!!!」
しんちゃんが、ナミダをぼろぼろこぼしながら、怒っている。
ひまわりちゃんも、うつむいたまま顔を上げようとしない。

   「しんのすけ、落ち着け。仕方ないんだ。」

しんちゃんのお父さんが、ビ−ルの入ったコップを
にぎりしめたまま呟いている。

「仕方ないって、父ちゃんは…
  ホントにそれでいいのか!!!???」


     「良いわけないだろ!!!1!」

しんちゃん以上のその大きな声に、だれもなにも言わなくなった。
その静かな中に、しんちゃんのお父さんの低い声が、ゆっくりひびく。




33 :◆たいちょ。:2006/04/07(金) 01:54:26.96 ID:60VRmiQN0



「しんのすけ、良く聞け。いいか、生き物は何時かは死ぬんだ。
 それは、俺たちも同じだ。……もちろん、ひまやお前の母さんもそうだ。
 それが今。その時が、いま、来ただけなんだよ。解ってたことだろう?」

しんちゃんは、なにも言わない。
しんちゃんのお母さんも、続ける。

「あのね、ママが最初ペットを飼うのに反対したのはね、
そう言う意味もあるの。
 しんちゃんに辛い思いをさせたくなかったから…ううん。
 私自身が、そんな辛いお別れをしたくなかったから。
だから、反対してたの。
 でも、もうこうなっちゃった以上、仕方ないでしょう?
 せめて、最期を看取ってあげることが、私たちに出来る一番良い事じゃないの?」


「最期って!!!」


しんちゃんが泣いている。ぼろぼろ泣いている。
手をぎゅっとにぎりしめて。
僕よりもずっと大きくなってしまった手を、ぎゅっとかたく。




34 :◆たいちょ。:2006/04/07(金) 01:55:04.41 ID:60VRmiQN0



僕の体のことは、たぶんだれよりも僕自身が一番知っていて。
でも、いいと思っていた。
このままでもいいって。
だって夢の中はあんなにもあったかくてあまくって。

だからずっとあそこにいても、かまわないと思ってたんだ。
それじゃだめなの?


しんちゃんがこっちを見た。
しばらく目をきょろきょろさせたあと、
僕を見付けて、顔をくしゃくしゃにさせる。


「シロ。♪」


名前を呼ばれた。本当に、ひさしぶりに。

わん。♪♪

なんとか声が出た。本当に小さくて、ガラスごしじゃあ
聞こえないかと思ったけれど。

でも、たしかにしんちゃんには届いた。
しんちゃんが近付いてくる。
窓を開けて、僕に手をのばして。

「大丈夫、オラが、何とかしてやるぞ。」

やっと抱きしめてくれたしんちゃんの胸は、いっぱい
どくどく言っていて、夢の中の何十倍も、とってもあったかかった。


ねえ、よごれたわたあめでも…

途中で言葉を飲んだ。
このまま、しんちゃんにこうされていたかったから…
そうずっと…

ず〜〜っと。。。

.

■ 41件の投稿があります。
5  4  3  2  1 
【34】

10年後のクレ●ンしんちゃん(6)  評価

たいちょ。 (2006年09月10日 10時47分)


39 :◆たいちょ。:2006/04/07(金) 01:58:12.06 ID:60VRmiQN0



僕は夢を見る。
何度目になるかはわからない夢。
でも、それは今までとはちがう夢。


僕は段ボール箱に入っていて、そのはじをしんちゃんが
ヒモで三輪車に結びつけている。
三輪車がいきおいよく走る。

箱ががたがたゆれて、ちょっときもちが悪い。
ふいに、その箱から引っぱり出され、僕は自転車のかごに乗せられた。

小さな自転車。運転しているのはしんちゃん。
せなかにはまっ黒なランドセル。
シロに一番に見せてやるぞって、嬉しそうにしょって
見せてくれたランドセル。

まだまだ運転は下手だったけど、とってもあたたかかった、春。



自転車のかごが一回り大きくなる。
くるりとまわると、しんちゃんが今度は、まっ白なシャツを着ていた。

自転車も、新しくなっている。もうよたよたしていない。スピードも、速い。
そういえば、よくお母さんに怒られたとき、
ナイショだぞって僕を、こっそりフトンの中に入れてくれたよね。

もちろん次の日には、お母さんに怒られるんだけど、
それでもやめなかった。
二人だけのヒミツがあった、きらきらしてまぶしい、夏。



ぼんやりしていたら、ひょいっとかごから下ろされた。
代わりに自転車を押しているしんちゃんのとなりに並んで歩く。
しんちゃんはずいぶん背が伸びて、お父さんと変わらないくらいになった。
お母さんといっしょに使っている自転車が、ぎしぎしと音を立てる。

でも、どんなに大きくなっても、きれいな女の人に
目がいくのは変わらない。
こまったくせだなあと思いながらも、どこか安心してる僕がいる。
いつまでも変わらないでいて欲しかった、
少しだけ乾いた風が吹く、秋。



寒い冬。
あんまり話してくれなくなった。
おさんぽも、少なくなって、こっちを見てくれることも少なくなった。

見えるのは横顔だけ。
楽しそうな、悲しそうな。ぼんやりした、困った。
怒っているような、悩んでいるような。
そんな、横顔だけ。

寒い冬。小屋の中で、ひとりで丸くなっていた、冬。



寒かった冬。でも、冬は春への始まり。
あたたかな春への始まり。

僕は丸まって、わたあめのようになって、
あったかいうでの中で。春の始まりをまっている。

たとえそれがほんのいっしゅんのものでも。

  〜〜 つづく 〜〜

.
5  4  3  2  1 
メンバー登録 | プロフィール編集 | 利用規約 | 違反投稿を見付けたら