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【34】

10年後のクレ●ンしんちゃん(6)

たいちょ。 (2006年09月10日 10時47分)

39 :◆たいちょ。:2006/04/07(金) 01:58:12.06 ID:60VRmiQN0



僕は夢を見る。
何度目になるかはわからない夢。
でも、それは今までとはちがう夢。


僕は段ボール箱に入っていて、そのはじをしんちゃんが
ヒモで三輪車に結びつけている。
三輪車がいきおいよく走る。

箱ががたがたゆれて、ちょっときもちが悪い。
ふいに、その箱から引っぱり出され、僕は自転車のかごに乗せられた。

小さな自転車。運転しているのはしんちゃん。
せなかにはまっ黒なランドセル。
シロに一番に見せてやるぞって、嬉しそうにしょって
見せてくれたランドセル。

まだまだ運転は下手だったけど、とってもあたたかかった、春。



自転車のかごが一回り大きくなる。
くるりとまわると、しんちゃんが今度は、まっ白なシャツを着ていた。

自転車も、新しくなっている。もうよたよたしていない。スピードも、速い。
そういえば、よくお母さんに怒られたとき、
ナイショだぞって僕を、こっそりフトンの中に入れてくれたよね。

もちろん次の日には、お母さんに怒られるんだけど、
それでもやめなかった。
二人だけのヒミツがあった、きらきらしてまぶしい、夏。



ぼんやりしていたら、ひょいっとかごから下ろされた。
代わりに自転車を押しているしんちゃんのとなりに並んで歩く。
しんちゃんはずいぶん背が伸びて、お父さんと変わらないくらいになった。
お母さんといっしょに使っている自転車が、ぎしぎしと音を立てる。

でも、どんなに大きくなっても、きれいな女の人に
目がいくのは変わらない。
こまったくせだなあと思いながらも、どこか安心してる僕がいる。
いつまでも変わらないでいて欲しかった、
少しだけ乾いた風が吹く、秋。



寒い冬。
あんまり話してくれなくなった。
おさんぽも、少なくなって、こっちを見てくれることも少なくなった。

見えるのは横顔だけ。
楽しそうな、悲しそうな。ぼんやりした、困った。
怒っているような、悩んでいるような。
そんな、横顔だけ。

寒い冬。小屋の中で、ひとりで丸くなっていた、冬。



寒かった冬。でも、冬は春への始まり。
あたたかな春への始まり。

僕は丸まって、わたあめのようになって、
あったかいうでの中で。春の始まりをまっている。

たとえそれがほんのいっしゅんのものでも。

  〜〜 つづく 〜〜

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【35】

10年後のクレ●ンしんちゃん(7)  評価

たいちょ。 (2006年09月10日 18時15分)


48 :たいちょ。◆TmK8dn3Gxg :2006/04/07(金) 02:02:11.66 ID:60VRmiQN0



かしゃん、という、なにかがたおれる音がして、僕は目を開けた。
電灯がぽつりぽつりとついた、暗い道の真ん中で、
見なれた自転車が横になっている。

のろのろと首を上げると、しんちゃんの前髪が顔に当たった。
道のはじっこのカベに、もたれかかるようにして
しゃがみ込むしんちゃん。

その体はひっきりなしにふるえていて、とても寒そうだった。
僕を抱きしめたまま、動こうとしないしんちゃん。
しんちゃんに抱きしめられたまま、動くことができない僕。

ああだれか僕の代わりに、しんちゃんを抱きしめてあげて。



「ごめんな、ごめんなシロ。オラ、何にも出来なかった。」

ぽつりぽつりと、しんちゃんが話しかけてくれる。

「いっぱい病院回ったんだ、でも、どこも空いて無くて。
 空いてるトコもあったんだけど、大抵シロを一目見ただ けで…何も。
 あいつらきっとおばかなんだぞ。おばかだから、何にも 出来ないんだぞ!ぜったいそうだぞ!!1!」


しんちゃん、泣いてるの? ねえ、泣かないで。

「でも、ホントにおばかなのは……オラだ。」

しんちゃんなかないで。

「オラっ……シロがこんなになってるの、気付かなくて…!!
 ずっと、一緒にいたのに…親友だって……思ってたのに、なのに!!!」

なかないで、もういいから。

「シロっ…………。」




50 :たいちょ。◆TmK8dn3Gxg :2006/04/07(金) 02:03:01.37 ID:60VRmiQN0



しんちゃんが泣いている。僕はなにもできない。
せめて元気なところを見せようと思って、
僕はしんちゃんのほっぺたをなめた。
しんちゃんのほっぺたは、少しだけ早い春の味。


僕がメスだったら、しんちゃんのために子供を作っただろう。
僕が居なくなっても、寂しくないように。

僕がわたあめだったら、
しんちゃんのためにせいいっぱい甘くなっただろう。
僕が食べられても、甘さが少しでも長く口にのこるように。

僕が人間の手を持っていたら、しんちゃんを抱きしめただろう。
僕がしんちゃんにもらった、温もりを返すために。


僕が人間の言葉をしゃべれたら。

きっと、いっぱいいっぱいのありがとうとだいすきを、君に。


ひっきりなしにこぼれるナミダをなめながら、
僕はあることに気が付いた。
僕はここを、今しんちゃんがすわりこんでいるここを、知っている。

ここは、僕と君が初めて会ったところ。
僕と君との、始まりの場所。

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