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【3123】 | RE:駄小説 『オレンジ色をした花びら』 あちちち (2009年08月11日 12時04分) |
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≪4≫ チャイムが鳴り、一時限目である簿記の授業が始まった 乗っけからいつものようにオーケストラ紛いの美声を放つ石村先生が、 今日も教室を所狭しと大きな声を轟かせる 「いいか〜 昨日やった為替手形のデルタ関係についてはわかったな〜」 僕もその言葉につられて昨日ノートにまとめた箇所を見返す うんうん クラスの中の何人かが頷いていた 「よぉ〜し じゃあな、今日は社債のところをやるからな おい本間! ちゃんとついて来いよ〜」 僕の後ろに座っている本間が「は、はい!」と言いながら机上をガサガサしている 始業して、もうついて来れてないのだろう それもいつものことだった 僕は隙を見せればすぐに当てられてしまう石村先生に注意を払いながら 今朝見た手紙の内容を思い返していた 『昼休みにいつものところ』 手紙が示す いつもところ とは、体育館に隣接する講堂だった そこは放課後 卓球部の練習場になっていて、 後は使うとすれば、学年毎の集会くらいだった 昼休みになればスポーツで賑わう体育館とは反対に 講堂はピアノをたまに弾きにくる生徒が出入りするくらいで、 特に使われることもない でも、たまにそんな穴場を利用するカップルもいたわけで 僕が使うときは、うまくそいつらと棲み分けして使っていた 講堂の入って右奥の体操マットが置いてあるところ そこが手紙の示す いつものところ だった 僕は相変わらず教室内でこだまする先生の声を半分聞き流しながら ボールペンを鼻と唇で挟んでみる (なんて言おうかな・・・) 昼休みになるまでは そうやっていろいろとシュミレーションしていた |
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【3545】 |
あちちち (2009年08月18日 12時06分) |
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これは 【3123】 に対する返信です。 | |||
≪5≫ 僕は講堂を閉ざす、重い引き戸に手をかけ 力を入れて両腕を左右に広げた ガラガラガラ… そして右奥にあるいつもの場所に目をやると、彼女の背中がそこにはあった 彼女の名前はエリ 付き合っていた頃は「エリツィン」と呼んでいた エリは少しの間 振り向かずに壁の方向を見ているようだったが 僕が近付くと ゆっくりとこちらを向いた 僕とエリが交際することになったのは、まだ高校1年のときで その日もいつも連れ添って遊んでいる男女仲良しグループでのカラオケの後、 バス停にいた僕に唐突な言葉を浴びせたことがキッカケだった 「え、 今 なんて?」 僕は半分聞こえたような、耳を疑うようなその言葉に 女性に対して二度も恥をかかせてしまう 「だからね、 好きだから付き合ってくれない?って言ったの」 エリは下を俯きながら 時折僕の表情を確認するように言った 僕の半径2m以内には、もちろん数人の男女がいる 「え、え? おい 何言ってんだよ」 そうはぐらかそうとした刹那 「いいじゃん いいじゃん! お前らけっこう仲良いしさ! お似合いなんじゃねーの?」 「そうよ〜 きっと藤沢君をエリちゃんならいい感じになるわよ!」 どことなく違和感のある囃したてをする渥美と小林さん 彼らもこの仲良しグループの中で芽生えたカップルだ 時に小林さんは学年でもトップ10に入るだろうクラスのマドンナだった それをいつもの押せ押せ攻撃で小林さんを射止めた渥美 僕も一時はそのマドンナに恋心を抱いていた一人なのは、別に珍しいものではない 特に好きな女性という存在を作っていなかった3学期のある日 僕の心の隙間にエリは飛び込んできた 「いや・・・ 急な話しだしさ、 答えは明日っていうことで」 明らかに狼狽しているのは僕も自分でわかっていたが なんとか今この“付き合っちゃえ”的な空気は逃れたい そう思って返答をとりあえず先延ばししようとすると 「え〜〜 なんで〜 エリのどこが不満なのよ」 小林さんは僕の逃げ道を閉ざそうとしてきた 後からエリに聞いたことだが、この作戦を成功させるべく 一連の成り行きは、すべてエリがこのカップルに頼んだものだったらしい 僕はまるでフラっと入った電気屋で、何の必要もない家電を買わされる客のように 「うん、 そうだな 断る理由もないし」 そう即決してしまった まぁ 未熟な高校生の交際なんて、こんなことで始まることはゴマンとあるだろう 「よかった♪」 すかさず僕の右腕に腕をからませてくるエリ それが僕らの始まりだったんだ |
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