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【2658】 | RE:駄小説 『オレンジ色をした花びら』 あちちち (2009年08月04日 15時02分) |
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≪3≫ ――覆っていた雪から、やっとアスファルトが顔を出し始めた14年前の4月 僕は高校に入って2度目の春を迎えていた 通う学校は自宅から自転車で5分もかからないところにあったので 今日も手離し運転をして、どこまで学校に近付けるか挑戦してみる 途中 信号があるので、必然的に道路を渡れる状況ではないと、この挑戦は また明日へと持ち越しになってしまう だが 今日はツイテいたらしい 信号に差し掛かると同時に 減速していた車が停まった 僕は体重を少し右に寄せながら器用に手離しのまま 自転車を器用に操る 次は学校目の前にある、ほとんど90°の右カーブだ 予め反射板で車が来ていないことを確認した後で、今度は目一杯上半身を傾けた すると、練習していた通り僕を乗せた自転車は鬼門のカーブを弓のような弧を描いて 曲がりきった やった 成功だ 僕はちっぽけな充実感に浸りながら、自転車を置き場に停めた そのとき 「おはよう 手離し運転は危ないよ」 不意に背後から声をかけられた 振り返ってみるとそこには、つい先月まで同じクラスだった 磯里さんが立っていた 「あ、あぁ おはよう」 僕は一瞬合った視線をすぐに落とし、自転車に鍵をかける 「今日は朝練じゃなかったの?」 磯里さんは1歩こちらに近寄ってきて聞いてきた 「あ、 あぁ うん。 昨日の夜にワックスをかけたらしくてさ 今日の放課後までは体育館が使えないんだ」 相変わらず視線の行く先をごまかしながら言葉を返す 「ふ〜〜ん そっか」 彼女はそう言って、黒くて長い絹のようなしなやかな髪を返し、玄関へと向かった (お、おぉ〜〜〜 やっぱり今日はツイてるぜ!) 僕は荒くなった鼻息を落ち着かせ、小さくガッツポーズをした 「どう? 新しいクラスは」 「う〜〜ん やっぱり1年生のときの方がいいよね、ほら私のF組は女子クラスでしょ?」 磯里さんがアシックスの上靴に履き替えながら言った 「その点 藤沢君のところはまた男女クラスで楽しそうだよね」 「…そうでもないよ、なんか文科系って感じの女子が多くて なんか静かなんだよね」 僕も続いて靴箱の扉を開ける ん? 取り出した靴と一緒に何かが落ちてきた どうやらそれに磯里さんも気づいた様子だった 落ちたものを拾ってみると、それは 小さくて白い便箋だった “今日の昼休みにもう一度あそこで話しを聞いてもらえないかな” 便箋にはそう書かれていた 「あ〜〜 何なに? やるね〜〜」 磯里さんが僕の肩口からそれを覗く 「ち、違うよ! 誰かイタズラでゴミでも入れたんだよ!!」 僕は左手に握っていた便箋を咄嗟に手の中でクシャクシャと丸めた その手紙には差出人の名前がなかったが、 僕にはすぐに筆跡で誰が書いたものかは わかっていた |
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【3123】 |
あちちち (2009年08月11日 12時04分) |
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これは 【2658】 に対する返信です。 | |||
≪4≫ チャイムが鳴り、一時限目である簿記の授業が始まった 乗っけからいつものようにオーケストラ紛いの美声を放つ石村先生が、 今日も教室を所狭しと大きな声を轟かせる 「いいか〜 昨日やった為替手形のデルタ関係についてはわかったな〜」 僕もその言葉につられて昨日ノートにまとめた箇所を見返す うんうん クラスの中の何人かが頷いていた 「よぉ〜し じゃあな、今日は社債のところをやるからな おい本間! ちゃんとついて来いよ〜」 僕の後ろに座っている本間が「は、はい!」と言いながら机上をガサガサしている 始業して、もうついて来れてないのだろう それもいつものことだった 僕は隙を見せればすぐに当てられてしまう石村先生に注意を払いながら 今朝見た手紙の内容を思い返していた 『昼休みにいつものところ』 手紙が示す いつもところ とは、体育館に隣接する講堂だった そこは放課後 卓球部の練習場になっていて、 後は使うとすれば、学年毎の集会くらいだった 昼休みになればスポーツで賑わう体育館とは反対に 講堂はピアノをたまに弾きにくる生徒が出入りするくらいで、 特に使われることもない でも、たまにそんな穴場を利用するカップルもいたわけで 僕が使うときは、うまくそいつらと棲み分けして使っていた 講堂の入って右奥の体操マットが置いてあるところ そこが手紙の示す いつものところ だった 僕は相変わらず教室内でこだまする先生の声を半分聞き流しながら ボールペンを鼻と唇で挟んでみる (なんて言おうかな・・・) 昼休みになるまでは そうやっていろいろとシュミレーションしていた |
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