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【15】

社長 7

SBX (2006年05月12日 15時10分)
 『社長 vol.7』

社長が魔法のカードを手に入れたのは,2年目の春のことであった。
「先輩先輩,実は魔法のカードを手に入れたんですよ。いっひっひっひ」
「このカードはですね,10万分物を貰えたり,10万円お金を引き出せる優れものの魔法のカードなんですよ」

まあ,要するにショッピングが10万,キャッシングが10万できるクレジットカードのことである。
『SE○BU』の『SA○SONカード』である。
彼は,借りたものは返さなければならないという民事の基本的事項を全く無視しているのである。
知ってはいるのである。
あえて,もう一度言うが,あえて無視しているのである。
そんな彼であるから,行く末は見えていた。

確か,後期の授業料の納期の頃だったと思う。
社長は仕送りをしてもらった金を全て飲み食いやお風呂に費やした。
そこで登場なのが,魔法のカードである。
「N2先輩,2万円貸してくださいよ。その2万円をSE○BUに返すとまた,新たに10万円が借りられるんですよ。いっひっひっひ。そうしたら,先輩には寿司を奢りますんで」
N2は言われるままに2万円を貸した。
当時の2万円は今の価値では,5万くらいになるだろうか?
そして,無人キャッシングの機械の前である。
「じゃ,借りた2万円をこうやって返してと・・・」
「するとですね,今までの借金がチャラになって,新たに10万円が借りられるんですよ」
「このボタンと暗証番号を押してと・・・」
「あれ,おかしいな。『貸し出しできません』と表示されてる・・・」
「もう一度やってみますね」

何べんやってもおんなじである。
借りられるわけ無いのである。
すでにキャッシングの限度まで行ってるのだから・・・
いまさら2万ぽっちで10万を新たに借りられるわけは無いのである。
しかし,魔法のカードと信じて疑わない社長は,何回もキャッシングのボタンと暗証番号のボタンを連打するのである。
哀れだ・・・
あまりにも哀れだ・・・
納得の行かない社長を連れて,寿司を奢ったのはN2であった。
そして,授業料の納期が目前に迫った社長は,ゼミの教授に頭を下げて授業料を借りたのだった。
教授への言い訳は,『親の生活が苦しくて仕送りしてもらえない』だった。

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【16】

社長 8  評価

SBX (2006年05月12日 15時12分)

 『社長 vol.8』

 「あ,あ,あ,エ,エ,S君(社長の本名)は,な,な,な,何をやっているんだい?」
 Y教授が怒りに打ち震えたのは,社長のせいだった。

 時は大学2年目の夏休み。
 場所は北海道の南に位置するK町だった。
 我々学生は,臨海実習を行うため,この地に集合した。
 海洋生物の生態調査が実習内容であった。
 特に,ウニが成長する過程の観察及びスケッチをするのが実習の主な内容であった。

 実験の1日目は,海洋生物の捕獲を行った。
 貝やら甲殻類やら軟体動物やら海草を捕獲した。
 特に我々は,棘皮動物であるウニを多く捕獲した。
 もちろん実験に使用するためである。
夜になって,一杯引っ掛けるときの肴にも使用するためでもある。
我々は,学術的目的を遂行するため,ウニの乱獲を行った。
 我々が実力を存分に発揮したため,実験はもとより夜の肴にも困ることは無かった。

 1日目は順調であった。
 夜にはY教授も交え,アルコールの摂取により,親交を深めた。

 問題が起きたのは3日目の夜である。
 夜も11時を過ぎた頃だろうか。
 皆,連日の徹夜のため,体力の限界を迎えていた。
 時々視点がずれるのを感じつつ,ウニの卵子の分割の様子を観察し,黙々とスケッチしていた。
 ウニの卵子を保護するため,容器を真水で冷やしていたのだが,社長がミスをして(本当にミスか?)容器の中に真水を入れてしまったのだ。
 ウニは海水の中で育つ体内システムを持っている。真水に対応できない。真水を入れられた結果,浸透圧の関係で卵殻は破壊された。
 簡単に言うと,ウニの卵は死んじゃった。

 社長,GJ !!!

 我々は,連日の徹夜の観察及びスケッチから解放された。
 学生からは褒め称えられた社長であるが,Y教授にはそれが通用すべくも無い。
 全員の前でねちねちと嫌味を言われる社長。
 太った体が小さく見える。
 彼がこんなに小さく見えたのは,初めてだった。
 Y教授も初めて,Sのことを『社長』と呼ばずに,本名で叱った。
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