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【3】 | RE:笑え (%) (2010年02月07日 00時25分) |
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今まで、どの象も、自分の子供のように可愛がってきた象係の人は、 「可哀相に。可愛そうに。」と、 檻の前を行ったり来たりして、うろうろするばかりでした。 すると、トンキーと、ワンリーは、ひょろひょろと身体を起して、 象係の前に進み出たのでした。 お互いにぐったりとした身体を、背中で凭れ合って、芸当を始めたのです。 後ろ足で立ち上がりました。 前足を折り曲げました。 鼻を高く上げて、万歳をしました。 萎び切った身体中の力を振り絞って、芸当を見せるのでした。 芸当をすれば、昔のように、餌がもらえると思ったのです。 トンキーも、ワンリーも、よろけながら一生懸命です。 象係の人は、もう我慢できません。 「ああ、ワンリーや、トンキーや。」 と、餌のある小屋へ飛び込みました。そこから走り出て、水を運びました。 餌を抱えて、象の脚に抱きすがりました。 動物園の人たちは、みんなこれを見て見ない振りをしていました。 園長さんも、唇を噛み締めて、じっと机の上ばかり見つめていました。 象に餌をやってはいけないのです。水を飲ませてはならないのです。 どうしても、この二頭の象を殺さなければならないのです。 けれども、こうして、一日でも長く生かしておけば、戦争も終わって、 助かるのではないかと、どの人も心の中で、神様にお願いをしていました。 けれども、トンキーも、ワンリーも、ついに動けなくなってしまいました。 じっと身体を横にしたまま、動物園の空に流れる雲を見つめているのがやっとでした。 |
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【4】 |
(%) (2010年02月07日 00時25分) |
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これは 【3】 に対する返信です。 | |||
こうなると、象係の人も、もう胸が張り裂けるほどつらくなって、象を見に行く元気がありません。 他の人も苦しくなって、象の檻から遠く離れていました。 ついに、ワンリーは十幾日目に、トンキーは二十幾日目に、どちらも、 鉄の檻にもたれながら、やせこけた鼻を高く伸ばして、 万歳の芸当をしたまま死んでしまいました。 「象が死んだあ。象が死んだあ。」 象係の人が、叫びながら、事務所に飛び込んできました。 拳骨で机を叩いて、泣き伏しました。 動物園の人たちは、象の檻に駆け集まって、みんなどっと檻の中へ転がり込みました。 象の身体にとりすがりました。象の身体を揺さぶりました。 みんな、おいおいと声をあげて泣き出しました。その頭の上を、 またも爆弾を積んだ敵の飛行機が、ごうごうと東京の空に攻め寄せてきました。 どの人も、象に抱きついたまま、拳を振り上げて叫びました。 「戦争をやめろ。」 「戦争をやめてくれえ。やめてくれえ。」 後で調べますと、盥位もある大きな象の胃袋には、 一滴の水さえも入っていなかったのです。 その三頭の象も、今は、このお墓の下に、静かに眠っているのです。 動物園の人は、目を潤ませて、私にこの話をしてくれました。 そして、吹雪のように、桜の花びらが散り掛かってくる石のお墓を、 いつまでも撫でていました。 |
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