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【4889】 | RE:駄小説 『オレンジ色をした花びら』 あちちち (2009年09月15日 11時56分) |
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≪11≫ 「ごめん! 5分過ぎちゃったねっ 掃除がなかなか終わらなくてさ」 A組教室の外で待っていた磯里さんに、僕は頭を掻きながらそう近づいた 「ちゃんとキレイに掃除できたの? 藤沢君ったら誤魔化しそうだからね」 彼女は僕を試すように言った 「ちゃんとやってきたよ! 女子がうるさいしさぁ」 きっと僕の目はこの時、斜め上の方向を見ていただろう いつも人に対して誤魔化したり、冗談を言ったときに出る悪い癖の一つだ 彼女はクスっと笑って「じゃ 帰ろ」と僕の右腕に絡んできた 「まぁ その足じゃあ 掃除が遅くなってもしょうがないよね」 そう付け加えて言うと、またクスっとした笑いがこぼれた あれは僕がタカに告白をした週末の出来事だった 春季リーグ戦の会場に来ていた僕は、下馬評通り接戦になっていた 対 東高校との試合に手に汗を握る 前半を終え、スコアは42−39でかろうじてウチの高校が勝っていた いつもクールで確実なプレイで定評のある小山内先輩が、その日5本目となる 3Pシュートを外したときに 僕の出番は訪れた 「よし、行ってこい!!」 監督である南場先生の手が、僕の尻を勢いよく叩く ウォームアップもしていなかったが、出場して間もなくボールが回ってきた 3Pラインより少し離れたところから、 相手のマークが付くのを少し遅れたことを瞬時に悟った僕は リングに向かってシュートを放った シュパ! 「いいぞ いいぞ!藤沢! いいぞ いいぞ!藤沢! 」 チームのベンチから、僕の名前が連呼される バスケットボールはスポーツの中でも特に攻守の切り替えが早い種目なので 得点を決めた余韻に浸れることは少ない 僕もすぐさま小山内先輩がマークしていた背番号6番に密着しようと 相手に近づいた その時・・・・ サイドステップをしていた左足の足首から下を捻ってしまった グニャリ 正にこの言葉通りの感覚 捻挫は何度も経験したことはあったが、今までにない痛みが僕を襲う 僕がコートに突っ伏せたままでいると、審判が笛を鳴らしながら近寄ってきた 「レフェリータイム!!」 グレーの制服を着た審判がそう言うと、ベンチに向かって即座に交代を促した 出場して わずか1分後出来事だった その後、病院に行くと 「足首の靭帯損傷ですね、松葉杖が必要でしょう」 医者はレントゲンの写真を見ながら、そっけなく言った 磯里さんは靴を履き替えるときも ドアを開けるときも 僕を気遣って手を貸してくれていた 「すぐ良くなるといいね」 彼女はそう言ってニッコリ微笑む 一旦斜め上を見た後、僕も笑顔で答えた |
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【5393】 |
あちちち (2009年09月29日 21時21分) |
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これは 【4889】 に対する返信です。 | |||
外に出てみると、さっきまで降っていた雨が止んでいる 「あ〜〜 良かったね これだと公園に寄れるね」 二人の間では通学に交通機関を使わない僕と、片道2時間くらいかかる彼女との 時間をどうにか共有すべく、駅までの通り道にある小さな公園に寄るのが 一つの決まりごとになっていた 本当だったら彼女一人で駅まで高校専用バスに乗るはずのところを 歩いても30分 自転車で二人乗りすると15分くらいで着く距離だったので 一緒に帰るということで、うまく二人の時間を作ることができていた 公園に着くと、いつものように二人はベンチに腰を掛ける 「どう? 足の具合は」 磯里さんの言葉に僕は自分の足をさすりながら 「うん、順調に回復してると思うよ でも今の時期調子に乗って 動かしちゃ元も子もないからね」と答える その後は定番の今日お互いのクラスであったことなどを交換日記のように話し 「あ、もうこんな時間だね」 僕が言うと二人は同じタイミングでベンチから立ち上がった 公園と歩道の境には色鮮やかな花々が咲き並んでいた 「これ…すっごいキレイな色じゃない?」 磯里さんがそう言いながら一輪の花の匂いを嗅いでいる その花は恐らくユリの一種なのだろうか、数枚の花びらを大きく広げ オレンジ色の輝きを放っていた 「ホントだ キレイだねぇ」 僕は花もそうだけど そうやって磯里さんが花を見つめている姿にも目を奪われた 「でも無暗に採ったりしちゃダメよ?藤沢君ならしそうだから」 彼女はクスっと笑った 左足は相変わらず白いギブスが覆われていたが、自転車を使えるくらいに回復していた 松葉杖を抱える僕と、それの横に添いながら歩く彼女 二人はやがて駅に着いた 「じゃあ」 「うん、じゃあね」 このやり取りも定番になっていきている ほとんど毎日同じようなことの繰り返しだったが、僕は部活にしか精を出していなかったので 毎日が充実していた 彼女を駅まで送った後は家までは下り坂だったので、 自転車の運転に苦労することはない この時間がずーっと流れていてくれたらなぁ、思った瞬間 同じ部活の田澤が言った言葉が脳裏に蘇ってきた “彼女ができてすぐにケガだなんて、まったく幸か不幸かわからないな” 何度も何度も蘇ってきては その言葉を消す 左足が完治するのは、そう先のことではないことを僕はわかっていた |
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