| トップページ | P-WORLDとは | ご利用案内 | 会社案内 |
返信元の記事
【17】

思わず涙が出ちゃうおはなし。(3)

たいちょ。 (2006年11月23日 12時56分)
 でも、それから1週間ほどのことでした。
 
夜自分の部屋で寝ていると、彼女の父親から電話が
かかってきました。

低く落ち着いた声で、今から会いに来てやってくれ、
そのかわり覚悟して来てくれと、彼女の父親ははっきりと
した口調でそう言いました。

私は、大急ぎで彼女の病室に行きました。
看護婦や医師に囲まれたベッドの中で、うつろな目をした
彼女が居ました。薬の影響ですっかり髪の毛は抜け落ち、
頬はこけ、青白い手を医師が掴み、脈を取っている様子でした。

 夕方彼女と会った時、確かに衰弱は進んでいましたが、
それでも話ができる程度の元気があったはずでした。
その変わり果てた彼女の様子に、私は身動きも出来ませんでした。

一歩下がった所で、目を真っ赤に腫らして立っている
彼女の両親が居ました。
私を見た彼女の父親は、黙って母親を促しました。
彼女の母親は私の手を取ると、この子の手を握ってあげて、
と言いながら、彼女のやせ細った手を取り私に握らせました。

そのとき、うつろだった彼女の目に一瞬光が見えた気がしました。

そして、彼女はゆっくり口を動かしました。
ほんの僅かでしたが、はっきり動かしていました。
私は急いで彼女の口元に耳をあてがいました。

微かでしたが、彼女は、ごめんなさい、と繰り返して
言っていました。

私は涙が止まらず、そして何もいえず、
ただその子の手を握り返し、その子の言葉を聞き逃すまい
と必死で彼女の口に耳を当てていました。

とにかく、頭が真っ白で、どうして良いのか分からず、
ただ手を握り返す事しかできませんでした。



 突然私は肩をたたかれ、我に返りました。
振り向くと彼女の父親が私の肩を掴んでいました。
そして彼女を真っ赤に腫れた目で見つめていました。

私はその手を取り、彼女の手を握らせようとしましたが、
彼女の父親は首を横に振り、君が握ってやってくれ、
私はここで良い、と言いました。

それからどれくらいの時間がたったのか、私には分かりません。
しかし、それまで僅かにごめんなさいとつぶやき続けて
いた彼女が、一言、別の言葉をつぶやきました。


 「○○ちゃん(私の名前)ありがとね。
  すごくしあわせだったよ。」


確かにそう私には聞こえました。
それが彼女の最後の言葉でした。
私はあわてて彼女の両親の手を取り、彼女の手を握らせました。
気丈だったご両親でしたが、彼女の手を握った途端、
涙を流されました。



 それからどのくらいの時間がたったのか分かりませんでしたが、
突然それまで不規則に響いていた電子音が、連続音に変わりました。
医師が彼女の目に懐中電灯を当て、ゆっくり、
ご臨終です、と言いました。
その言葉を聞いて、彼女の母親が声を上げて泣き始めました。

気がつくと私も、そして彼女の父親も声を上げて泣いていました。
握りしめていた彼女の手が、ゆっくり確実に冷たくなって
いくのを感じました。


〜つづく〜

.

■ 390件の投稿があります。
39  38  37  36  35  34  33  32  31  30  29  28  27  26  25  24  23  22  21  20  19  18  17  16  15  14  13  12  11  10  9  8  7  6  5  4  3  2  1 
【18】

思わず涙が出ちゃうおはなし。(4)  評価

たいちょ。 (2006年11月23日 16時49分)

 次の日、彼女の父親から喪服を渡されました。
そして、二通の手紙を手渡され、今夜は君もあの子の
そばにいてやってくれと言われました。

私はひとまず部屋に戻りました。
部屋に入った私はしばらく力無く部屋に座り込んでいました。
ふと手に握らされた手紙を思い出し、二通の手紙を見ました。
一通は彼女の父親からでした。
中を見ると一枚の便せんにしっかりとした字で、

すまなかった、そしてありがとう、
その二言が書いてありました。

もう一通は彼女の字で、私に当てた手紙でした。
中には、私と出会った頃から彼女が入院するまでの事が、
びっしり書き込まれていました。

そしてその内容一つ一つに、自分がどれだけ幸せだったか、
どれだけ救われたかが書かれていました。
その手紙を読みながら、私はまた声を上げて泣きました。

その手紙の最後には、こう書かれていました。


 私が居なくなっても、○○ちゃんは元気でいてね。
私のすごくすごく大切な人だから、沢山幸せになってね。
新しい彼女見つけなきゃだめだよ。
私のこと好きなら、○○ちゃん、絶対に幸せになってね。約束。



私はシャワーを浴びながら、声を上げて泣きました。
いつまでもシャワーを浴びながら泣き続けていました。

シャワーを出た私は、彼女の父親から受け取った喪服を着ました。
なぜか私にぴったりのサイズでした。

まだ涙は乾いていませんでしたが、喪服に着替えた私は、
彼女の家に行きました。
彼女の家には少しずつ親類や知り合いの方々が集まって
来ている様でした。

私は彼女の両親に連れられ、彼女の安置されている部屋に通され、
彼女のすぐ側に席をあてがっていただけました。

彼女の両親は、親類縁者の方々に私を彼女と付き合っていた青年
だと紹介されました。

通夜と葬式にも出席させてもらえました。
そして常に私があてがってもらえた席は、彼女に一番近い席でした。
彼女の両親よりも近い席でした。

私はその席を辞退しようとしましたが、彼女の父親に諫められました。
君がその席に座らなくてどうする。
私たちに気遣うならその席に座ってくれと。



今は彼女の父親に紹介された会社で働いています。
いったんは断りましたが、彼女の父親と直接関係のある
会社ではない事、そして仕事が気に入らなければ自由に
辞めて良いと説得され、その好意を受けることにしました。


 彼女の思い出はまだ鮮明に心に残っています。


〜あとがきへつづく〜

.
39  38  37  36  35  34  33  32  31  30  29  28  27  26  25  24  23  22  21  20  19  18  17  16  15  14  13  12  11  10  9  8  7  6  5  4  3  2  1 
メンバー登録 | プロフィール編集 | 利用規約 | 違反投稿を見付けたら