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【15】

思わず涙が出ちゃうおはなし。(2)

たいちょ。 (2006年11月23日 09時52分)
 昼間は彼女の母親が居るので、
私は病室に入れてもらえませんでした。

そして週末には父親も面会に来るので、
もちろん病室に近寄ることも許してもらえませんでした。

ですので昼間や週末はコンビニでバイトして、
平日の夕方彼女の母親や父親が帰った後、残された僅かな
面会時間に会いに行くという日々を送っていました。

 そうする間にも、彼女は目に見えて衰弱して行きました。
柔らかかった手は骨が浮き出て、頬はこけ、足はすっかり
衰えてしまい、ベッドから起きあがるのも難しいくらいでした。

 彼女は私が会いに行くとよく泣いていました。



元気じゃなくてごめんなさい。


ちゃんと両親に認めてもらえなくて、ごめんなさいと。



私は、そんな事気にしたことはありませんでした。
ほとんど食欲がなく、もっぱら点滴と、管で栄養をとる
彼女でしたが、時々大好物のリンゴを持って行き、
すり下ろして絞って作ったリンゴジュースをなめさせたり
しました。
そのときに見せる笑顔で私は十分幸せでした。

 私に出来ることは、そうやって彼女を元気づけることだけでした。
短い面会時間だったので、あまり話も出来ず、
ただ彼女の手を握り、帰り際にキスするくらいしか
出来ませんでしたが、私は十分幸せでした。


 去年の3月の末くらいだったと思いますが、
いつもの様に彼女に会いに行きましたが、彼女は眠っていました。
病室に響く規則正しい電子音に私も睡魔を感じ、
つい1時間程眠り込んでしまいました。
目が覚めるととっくに面会時間は過ぎており、
あわてて病室を後にしました。

 すると、エレベータの前のベンチに誰かが座っていました。
別に気にせずエレベータのボタンを押そうとした私に、
その人が話しかけてきました。



   「話がある。」



 その人は彼女の父親でした。



   「何でしょうか?」

   「君はどうしてここにいる?」

   「あの娘のお見舞いに来ているのです。」

   「そんな事を聞いているのではない。」

   「と言いますと?」

   「会社を辞めて、フリーターになってまで、
    どうして帰ってきたんだ?」

   「ご存じでしたか。」

   「どうしてそこまで出来るんだ?」

   「どうして?好きな相手の側にいるのに、
    何か理由が必要ですか?」

   「・・・・。」

   「私の事を認めてくれとは言いません。
    ですから、せめてご迷惑をおかけしない様にと・・・。」

   「分かった。今度からは私たちに気兼ねすることなく、    あの子に顔を見せてやってくれ。」

   「え?」

   「それではこれで失礼する。」

 たしかこんな会話だったと思います。
それからは毎日彼女に会えるようになりました。
彼女の母親も面会時間の終わる1時間前に病院を出て、
私が彼女と会える時間には席をはずしてくれるようになりました。

 彼女の話によると、父親が母親にそうするように言ったそうです。
そして、私とのことは彼女の好きにするようにとも言ったそうです。


〜つづく〜

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【17】

思わず涙が出ちゃうおはなし。(3)  評価

たいちょ。 (2006年11月23日 12時56分)

 でも、それから1週間ほどのことでした。
 
夜自分の部屋で寝ていると、彼女の父親から電話が
かかってきました。

低く落ち着いた声で、今から会いに来てやってくれ、
そのかわり覚悟して来てくれと、彼女の父親ははっきりと
した口調でそう言いました。

私は、大急ぎで彼女の病室に行きました。
看護婦や医師に囲まれたベッドの中で、うつろな目をした
彼女が居ました。薬の影響ですっかり髪の毛は抜け落ち、
頬はこけ、青白い手を医師が掴み、脈を取っている様子でした。

 夕方彼女と会った時、確かに衰弱は進んでいましたが、
それでも話ができる程度の元気があったはずでした。
その変わり果てた彼女の様子に、私は身動きも出来ませんでした。

一歩下がった所で、目を真っ赤に腫らして立っている
彼女の両親が居ました。
私を見た彼女の父親は、黙って母親を促しました。
彼女の母親は私の手を取ると、この子の手を握ってあげて、
と言いながら、彼女のやせ細った手を取り私に握らせました。

そのとき、うつろだった彼女の目に一瞬光が見えた気がしました。

そして、彼女はゆっくり口を動かしました。
ほんの僅かでしたが、はっきり動かしていました。
私は急いで彼女の口元に耳をあてがいました。

微かでしたが、彼女は、ごめんなさい、と繰り返して
言っていました。

私は涙が止まらず、そして何もいえず、
ただその子の手を握り返し、その子の言葉を聞き逃すまい
と必死で彼女の口に耳を当てていました。

とにかく、頭が真っ白で、どうして良いのか分からず、
ただ手を握り返す事しかできませんでした。



 突然私は肩をたたかれ、我に返りました。
振り向くと彼女の父親が私の肩を掴んでいました。
そして彼女を真っ赤に腫れた目で見つめていました。

私はその手を取り、彼女の手を握らせようとしましたが、
彼女の父親は首を横に振り、君が握ってやってくれ、
私はここで良い、と言いました。

それからどれくらいの時間がたったのか、私には分かりません。
しかし、それまで僅かにごめんなさいとつぶやき続けて
いた彼女が、一言、別の言葉をつぶやきました。


 「○○ちゃん(私の名前)ありがとね。
  すごくしあわせだったよ。」


確かにそう私には聞こえました。
それが彼女の最後の言葉でした。
私はあわてて彼女の両親の手を取り、彼女の手を握らせました。
気丈だったご両親でしたが、彼女の手を握った途端、
涙を流されました。



 それからどのくらいの時間がたったのか分かりませんでしたが、
突然それまで不規則に響いていた電子音が、連続音に変わりました。
医師が彼女の目に懐中電灯を当て、ゆっくり、
ご臨終です、と言いました。
その言葉を聞いて、彼女の母親が声を上げて泣き始めました。

気がつくと私も、そして彼女の父親も声を上げて泣いていました。
握りしめていた彼女の手が、ゆっくり確実に冷たくなって
いくのを感じました。


〜つづく〜

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