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【12】

思わず涙が出ちゃうおはなし。(1)

たいちょ。 (2006年11月22日 18時56分)
まだ1年ほど前の事なのですが・・・。
彼女がこの世を去りました。病死です。

その彼女と出会ったのは7年程前でした。
相手はその頃大学1年生でした。

持病があり、あと5年生きられるかどうか?
と寂しく笑っていました。
それを承知で私たちはつきあい始めました。

つきあい始めたのは良いのですが、私の仕事の関係で
遠距離(関西−東北)になってしまいました。
それでも、彼女は笑いながら逢えるついでに旅行も
出来ると言い、月に1度のペースで会いに来てくれました。

相手は実家に住んでいて、私は貧乏サラリーマン。
それを察して、相手が私の所に会いに来てくれていたのです。


 最初の3年は、その様な感じで普段は寂しいながらも、
お互い幸せに過ごすことが出来ました。

 そして相手は卒業。しかしこの就職難の折り、
東北から関西に就職するのは無理でした。
そこで彼女は地元で就職し、お金を貯めて関西に来ると言いました。
私も彼女を迎えるため、必死で貯金を始めました。

 相手が就職して1年が過ぎたころ、相手の遊びに来る
頻度が、それまで毎月だったのが、だんだん2ヶ月3ヶ月
と間延びし始めました。

 毎晩電話で話をしていましたが、丁度1年半ごろ
前から、たまに彼女が電話に出ないことがありました。
そのころから、ふと私に嫌な予感がわき起こっていました。


 私には両親がいません。物心ついた時には、父親は蒸発。
そして私が高校の時に母親が病死しました。
そのため、彼女の両親には嫌われていました。

彼女はそれなりに良いところのお嬢様だったので、
どこの馬の骨とも分からない私は、最初から相手にされていませんでした。


 ある日、そんな彼女の父親から私の元に電話がありました。
 彼女の持病が重くなり、来週から入院することになる。
だからもう電話はかけてくるな、もうほっておいてくれ
とだけ言われ、一方的に電話を切られました。

 私は来るべき時が来たと思い、しばらく悩みましたが、
思い切って上司に掛け合ってみました。
東北に転勤させてくれと。答えはNOでした。

しばらく会社と話し合いをしましたが、
結局私は会社を退職し、故郷に戻りました。

荷物も売れる物は売り、出来る限り身軽にして
彼女が入院した病院の近くに、小さな部屋を借りました。
離職票が出る前に契約したので、
なんとか部屋を借りることが出来ました。


 そして、彼女に会いに行きました。


 彼女はかなり驚いていました。
そしてひたすら「ごめんなさい」と謝っていました。

私は会社をリストラされたから故郷に戻ってきたと言い、
新しい勤め先も近くだから、仕事が終わったら会いに来るよ、
とだけ伝えました。



〜つづく〜

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【15】

思わず涙が出ちゃうおはなし。(2)  評価

たいちょ。 (2006年11月23日 09時52分)

 昼間は彼女の母親が居るので、
私は病室に入れてもらえませんでした。

そして週末には父親も面会に来るので、
もちろん病室に近寄ることも許してもらえませんでした。

ですので昼間や週末はコンビニでバイトして、
平日の夕方彼女の母親や父親が帰った後、残された僅かな
面会時間に会いに行くという日々を送っていました。

 そうする間にも、彼女は目に見えて衰弱して行きました。
柔らかかった手は骨が浮き出て、頬はこけ、足はすっかり
衰えてしまい、ベッドから起きあがるのも難しいくらいでした。

 彼女は私が会いに行くとよく泣いていました。



元気じゃなくてごめんなさい。


ちゃんと両親に認めてもらえなくて、ごめんなさいと。



私は、そんな事気にしたことはありませんでした。
ほとんど食欲がなく、もっぱら点滴と、管で栄養をとる
彼女でしたが、時々大好物のリンゴを持って行き、
すり下ろして絞って作ったリンゴジュースをなめさせたり
しました。
そのときに見せる笑顔で私は十分幸せでした。

 私に出来ることは、そうやって彼女を元気づけることだけでした。
短い面会時間だったので、あまり話も出来ず、
ただ彼女の手を握り、帰り際にキスするくらいしか
出来ませんでしたが、私は十分幸せでした。


 去年の3月の末くらいだったと思いますが、
いつもの様に彼女に会いに行きましたが、彼女は眠っていました。
病室に響く規則正しい電子音に私も睡魔を感じ、
つい1時間程眠り込んでしまいました。
目が覚めるととっくに面会時間は過ぎており、
あわてて病室を後にしました。

 すると、エレベータの前のベンチに誰かが座っていました。
別に気にせずエレベータのボタンを押そうとした私に、
その人が話しかけてきました。



   「話がある。」



 その人は彼女の父親でした。



   「何でしょうか?」

   「君はどうしてここにいる?」

   「あの娘のお見舞いに来ているのです。」

   「そんな事を聞いているのではない。」

   「と言いますと?」

   「会社を辞めて、フリーターになってまで、
    どうして帰ってきたんだ?」

   「ご存じでしたか。」

   「どうしてそこまで出来るんだ?」

   「どうして?好きな相手の側にいるのに、
    何か理由が必要ですか?」

   「・・・・。」

   「私の事を認めてくれとは言いません。
    ですから、せめてご迷惑をおかけしない様にと・・・。」

   「分かった。今度からは私たちに気兼ねすることなく、    あの子に顔を見せてやってくれ。」

   「え?」

   「それではこれで失礼する。」

 たしかこんな会話だったと思います。
それからは毎日彼女に会えるようになりました。
彼女の母親も面会時間の終わる1時間前に病院を出て、
私が彼女と会える時間には席をはずしてくれるようになりました。

 彼女の話によると、父親が母親にそうするように言ったそうです。
そして、私とのことは彼女の好きにするようにとも言ったそうです。


〜つづく〜

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